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チャプター1 水地さくら
7項 さくら、初仕事 ~公開オナニー
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「お2人ともお待たせしました」
その時、プロデューサーさんが部屋の中に現れる。どうやらお客さんを連れて戻って来たみたい。
「それでは水池さん。これからお客様をひとりずつご案内しますので、以前説明させていただいたとおり──」
「お客さんの希望する水着を着て、お客さんの前でオナニーをする。ですよね?」
ワタシはプロデューサーさんの説明を遮り、確認するように問う。
「……ええ、そのとおりです。お客さん3名全員を射精させることが今回の仕事になります」
「わかりました、プロデューサーさん。じゃあ、さっそく始めましょう!」
ワタシは自信に満ちた声で言う。
そう、今のワタシは自分でも驚くほどの自信に満ちている。ついさっきまで思い悩んてまいたのがウソのよう。
だって、今のワタシは
姫神アンジェなのだから──
「……わかりました。ひとり目のお客様をお連れします」
プロデューサーさんは無表情のまま、1度部屋を後にする。
すると、ほどなくして部屋の扉をノックする音が聞こえると、
「あ、あのぉ……失礼します!」
20代らしき恰幅の良い男性が、おずおずと扉を開き入室する。
「ようこそいらっしゃいました。水池さくらです。今日はよろしくお願いしますね」
ワタシは最初のお客さんである彼の元へ歩み寄り、その手を取ってあいさつを述べる。
「は、はいぃ、よろしくお願いします!」
緊張しているのか、彼は思わず敬礼を向ける。
「それじゃあお客さん。こっちにある水着の中からさくらちゃんに着て欲しいものを選んでください」
鳴瀬さんがそう言って彼をハンガーラックの所へ案内する。
「ん~。……それじゃあコレを!」
ほぼ迷うことなく彼が選んだのは、紺色のスクール水着だった。
「お客さん、スクール水着がお好きなんですかぁ?」
若干のからかいをこめてワタシが問うと、
「ぼ、ボク、男子校出身だから女の子のスクール水着って生で見たことなくて……」
彼は顔を赤らめながらそれを差し出す。
──なんだ。結構カワイイじゃん。
男性に対する恐怖心も今では完全に消え失せ、そんな風に思えるくらいワタシは落ち着いていた。
「それじゃあ着替えますね」
ワタシはそれを受け取り、部屋を見回す。
──そっか、更衣室なんて無いんだ。
生着替えも仕事の内のひとつなんだと了解したワタシは、その場で服を──スカートを──そして下着をゆっくりと、まるでじらすように脱ぎ捨ててゆく。
──ああ、見られてるんだ、ワタシ……。
後ろを向いているのでその表情まではわからないけど、きっと彼はワタシの着替えている姿を凝視しているんだろう。
「お待たせしました~ぁ!」
スクール水着に着替え終えたワタシは、目一杯の愛嬌を振りまく。
「な、なんかさくらちゃん、紹介動画と結構印象違うよね。もっとこう……大人しくて素朴な感じだと思ってたよ」
彼はそう言ってからすぐにかぶりを振り、
「ああ、もちろん元気でイケイケなさくらちゃんもカワイイよ」
慌ててフォローする。
その言葉に、ワタシの眉がピクリと揺れる。
「見てくださってありがとうございます。ワタシ、あの時はすごく緊張してて心臓がバクバクだったんですよぉ」
ペロリと舌を出してあざといくらいのブリっ子アピールでごまかし、
──そうだ。もうあの時のワタシじゃない……。
心の中でそう言い聞かせる。
「それじゃあお客さん。さくらちゃんに取らせるポーズを言ってください。そこのパラソルの所であたしが写真撮影して、後でデータにしてプレゼントしますので。ただし、水着はつけたままですよ。ヌード写真を個人に譲渡することはコンプライアンス違反だし、『性的搾取禁止法』違反でお客さんも罰せられちゃいますからねぇ」
鳴瀬さんは笑いも交えて説明する。
「はい、わかりました」
彼はコクリとうなずく。そしてワタシと鳴瀬さんは彼をパラソルの方へと案内する。
「それじゃあさくらちゃん。パラソルの下で四つん這いになってくれる?」
「はい。……こうですか?」
ワタシは彼の指示通りの姿勢を取る。
「う~ん。もう少しお尻を突き上げて。猫が伸びをしているみたいに。それと目線は上目遣いで」
「わかりました。これでどうでしょうか?」
彼の細かい指示に従い、ワタシは精一杯の色気を主張する。
「ああ、良いよさくらちゃん!」
彼は興奮気味に叫ぶ。
「じゃあ写真撮るわね」
鳴瀬さんが一眼レフカメラのレンズを向ける。
ワタシはファインダーへ視線を向ける。
パシャリ
シャッター音と共にワタシの艶姿がカメラに収められる。
鳴瀬さんは角度を変えたりして何枚か撮り続いた。
「写真はこんなところかな」
彼女はパソコンなどが置いてある後ろのデスクにカメラを置き、今度は動画撮影用のカメラへと持ち替える。
「……それじゃあさくらちゃん、次にいこうか?」
憂いを帯びた瞳で、彼女はそう促す。
「はい」
大丈夫。もう覚悟は出来ているんだから。
ワタシは砂の上に座り直すと、自分の胸に──アソコに手を伸ばし、ゆっくりと愛撫する。
彼はすぐにズボンのベルトを外してパンツを下げると、すでに雄々しく反り立っているペニスを取り出し、ワタシの前でそれを自分でしごき出す。
最初そのイチモツを目にした時、またもやあの忌まわしい記憶が頭を過りかけたけど、今のワタシは姫神アンジェなのだから大丈夫。
揺るがない──
「はぁ……んぅ……くぁ……」
男が見ている前でオナニーをしている──
そして、その痴態をカメラに収められている──
そんな異様な状況をまるで楽しむように、ワタシの躰はすぐに熱を帯びてゆく。
「あふぅん……あっ! ……ぅん」
ワタシは水着の肩紐を下ろしておっぱいを露出させ、さらに激しくそれを愛撫する。
「ねぇ、見て……。ワタシのおっぱい、キレイでしょ?」
「う、うん! サイコーだよ、さくらちゃんッ!!」
興奮の坩堝に呑まれ、彼の手はさらに速度を早めてゆく。
──姫神アンジェだったら、ここで畳み掛けるように煽情的な行動に出る。
ワタシはPVで見た彼女の仕草を脳内でトレースさせ、会陰を覆っている水着をずらして膣を露出させ、膣口に指をあてがう。
「ほら、ワタシのここ……もう濡れてるの。見られて感じちゃってるの……」
そして指先にまとわりつく粘着質の分泌液を掬い取り、挑発するように彼に見せつける。
「う、うん、スゴいよ! スゴくHだよ、さくらちゃん!!」
彼は快楽に悶えながらその律動をさらに早める。
「もっと……Hなワタシを見て……あぁンッ!!」
ワタシも負けじと指先を荒々しく律動させ、自ら興奮を高めてゆく。
「ふっ、ふっ、ふうッッッ!!」
「あン……イイ……気持ちイイよぉぉぉぉぉ!!!」
まるでお互いの痴態を見せつけ合うように、その行為は続いてゆく。
「ああ、ダメだ、さくらちゃん! ボク……もうイキそうだよォ!」
先に彼の方が情け無い声を上げながら訴える。
「イイよ、イッちゃって。ワタシに……たくさんかけて!」
「うおォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!」
彼はまるで檻から解き放たれた猛獣のような叫びを発しながらワタシの顔の前に異様なまでに充血したペニスを差し出し、最後の力を振り絞ってそれをしごき上げる。
「うッッッッッッッッ!!!!」
ドピュピュピュピュッッッ!!!!
その時、彼のペニスの先端から白濁の液体が洪水のように大量に噴出され、それはワタシの髪を、顔を、胸を、水着を、全身をくまなく白く染め上げてゆく。
「ふぁあ……熱いザーメンが、こんなにたくさん……」
ワタシは恍惚の眼差しで、自身を汚している白いものを見つめる。
「はぁはぁ……。ありがとう、さくらちゃん。気持ち良かったよ」
彼は晴れ晴れとした顔でそう言うと、鳴瀬さんが用意してくれたティッシュとタオルでペニスと手を拭く。
「お疲れ様でした。それでは先ほどの写真データをお持ち帰りください」
最後に鳴瀬さんはメモリーカードを渡し、彼は身支度を整えてからもう1度、ありがとう、と言って部屋を後にした。
「さくらちゃんもお疲れ様。ほら、ここにシャワールームがあるから体を洗っておいで」
彼女はいったんプロジェクションマッピングを解除して部屋の照明を灯し、背後にあるドアを開ける。
「ありがとうございます」
ワタシはそこに足を踏み入れると、
「鳴瀬さん。さっきのワタシ、どうでしたか?」
おもむろに訊ねてみた。
「う、うん……。良い演技だったよ」
彼女は少し口ごもりながら、そう答えた。
──そうだ。ワタシは姫神アンジェを立派に演じてみせたんだ。
自信を得たワタシは、この後に相手をした2人の男性に対しても滞りなく対応して射精に至らせた。
──何だ。ワタシ、ちゃんと出来るじゃない。
初仕事を無事にこなしたワタシは、あんなにも悩んでいたのがバカらしく思え、苦笑を禁じ得なかった。
♢
帰りの車の中──
夕刻の朱は街並みの喧騒も、そこを行き交うヒトたちの営みをも染め上げて包み込んでいる。
ワタシは空気を入れ替えるために窓を開けた。
風が──熱くて埃っぽい風が今では逆に心地よい。
「……初仕事、いかがでしたか?」
バックミラー越しにプロデューサーさんが問う。
「はい、キチンとこなせました。何だかワタシ、自信がついたみたいです」
ワタシは今の充足感を正直に言葉にする。
「そう……ですか」
プロデューサーさんはそれだけ言うと、すぐに視線を戻す。
そして事務所に戻ると、
「今日は本当にお疲れ様でした。ゆっくりと体を休めて明日のレッスンに備えてください」
そう言い残し、プロデューサーさんは帰宅して行った。
ワタシは部屋に戻るなり、すぐに布団に入った。
今日は良く眠れそうだ。
♢
翌日──
久しぶりに快眠を取ることが出来たワタシは、スッキリとした気分で朝を迎え、着替えと食事を済ます。
事務所の方に降りると、すでにプロデューサーさんが出社していて、自分のデスクでパソコンと向き合っていた。
「おはようございます、プロデューサーさん!」
「……ああ、おはようございます、水池さん」
ワタシもあいさつからワンテンポ遅れて、プロデューサーさんがワタシの方を向いてあいさつを返す。
今日もサングラスをかけていてその表情までは読み取れないけれど、声色からもどことなく浮かないように見えた。
「どうかしたんですか?」
「昨日の撮影会の参加者から感想をいただいたのですが……」
そう言ってプロデューサーさんはイスごと少し後ろに下がる。
──見てみろ、ってコトかな?
ワタシは彼のパソコンの前に立ち、画面をのぞく。
『撮影会、とても良かったです! でも、まるで姫神アンジェを見ているみたいで、何か思ってたのと違ったなぁ……』
『たしかに良かったんだけど、姫神アンジェをリスペクトしてる感が丸出しだった』
『そこには姫神アンジェがいた。だけどそれは姫神アンジェじゃない。オレはたしか水池さくらに会いに来たはずなのに不思議だ……』
ワタシは──
それを見た瞬間、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受け、しばらく声が出せなかった。
「……昨日の撮影会の動画、拝見させていただきました」
フリーズしているワタシに、プロデューサーさんは静かに語り出した。
「どんなにうまく演じることが出来たとしても、貴女は姫神アンジェにはなれません。たしかに貴女はお客様を満足させることは出来ました。だけど、それは仕事をこなしたに過ぎません。最初はそれでも良いかも知れませんが、この世界はプロフェッショナルを求められているのです。ごまかしでやっていけるほど甘いものではありません」
それは静かな口調でありながら、とても重く、とても深くワタシの心に突き刺さる。
「……動画を見せていただけますか?」
ワタシの言葉に、プロデューサーさんは無言のままパソコンのトップ画面にあった動画ファイルを起動させる。
そこには──
姫神アンジェでもない、水池さくらでもない、姫神アンジェになり損ねた別の何かが映し出されていた。
「違う! これはワタシじゃ……」
頭の中が真っ白に染まら、ワタシは大きくかぶりを振りながら、フラフラとした足取りで後ずさる。
「そんなつもりじゃ……なかったの!」
ワタシは無意識の内に駆け出した。
「水池さんッ!!」
プロデューサーさんが呼び止める声も振り払い、ワタシは自分の部屋へと駆けこむと、布団の中に飛びこみ、そして泣いた。
「うあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」
悔しくて──
情け無くて──
ワタシは声の限りに泣いて、泣いて、泣きじゃくった。
「水池さん! 水池さん!!」
プロデューサーさんがドアを叩いて何度も呼びかけるけれど、ワタシは彼と向き合う気にはなれなかった。
──ワタシはバカだ! ただ自分自身から逃げてただけだったんだ!!
結局ワタシはその日、部屋から1度も出ることは無かった……。
その時、プロデューサーさんが部屋の中に現れる。どうやらお客さんを連れて戻って来たみたい。
「それでは水池さん。これからお客様をひとりずつご案内しますので、以前説明させていただいたとおり──」
「お客さんの希望する水着を着て、お客さんの前でオナニーをする。ですよね?」
ワタシはプロデューサーさんの説明を遮り、確認するように問う。
「……ええ、そのとおりです。お客さん3名全員を射精させることが今回の仕事になります」
「わかりました、プロデューサーさん。じゃあ、さっそく始めましょう!」
ワタシは自信に満ちた声で言う。
そう、今のワタシは自分でも驚くほどの自信に満ちている。ついさっきまで思い悩んてまいたのがウソのよう。
だって、今のワタシは
姫神アンジェなのだから──
「……わかりました。ひとり目のお客様をお連れします」
プロデューサーさんは無表情のまま、1度部屋を後にする。
すると、ほどなくして部屋の扉をノックする音が聞こえると、
「あ、あのぉ……失礼します!」
20代らしき恰幅の良い男性が、おずおずと扉を開き入室する。
「ようこそいらっしゃいました。水池さくらです。今日はよろしくお願いしますね」
ワタシは最初のお客さんである彼の元へ歩み寄り、その手を取ってあいさつを述べる。
「は、はいぃ、よろしくお願いします!」
緊張しているのか、彼は思わず敬礼を向ける。
「それじゃあお客さん。こっちにある水着の中からさくらちゃんに着て欲しいものを選んでください」
鳴瀬さんがそう言って彼をハンガーラックの所へ案内する。
「ん~。……それじゃあコレを!」
ほぼ迷うことなく彼が選んだのは、紺色のスクール水着だった。
「お客さん、スクール水着がお好きなんですかぁ?」
若干のからかいをこめてワタシが問うと、
「ぼ、ボク、男子校出身だから女の子のスクール水着って生で見たことなくて……」
彼は顔を赤らめながらそれを差し出す。
──なんだ。結構カワイイじゃん。
男性に対する恐怖心も今では完全に消え失せ、そんな風に思えるくらいワタシは落ち着いていた。
「それじゃあ着替えますね」
ワタシはそれを受け取り、部屋を見回す。
──そっか、更衣室なんて無いんだ。
生着替えも仕事の内のひとつなんだと了解したワタシは、その場で服を──スカートを──そして下着をゆっくりと、まるでじらすように脱ぎ捨ててゆく。
──ああ、見られてるんだ、ワタシ……。
後ろを向いているのでその表情まではわからないけど、きっと彼はワタシの着替えている姿を凝視しているんだろう。
「お待たせしました~ぁ!」
スクール水着に着替え終えたワタシは、目一杯の愛嬌を振りまく。
「な、なんかさくらちゃん、紹介動画と結構印象違うよね。もっとこう……大人しくて素朴な感じだと思ってたよ」
彼はそう言ってからすぐにかぶりを振り、
「ああ、もちろん元気でイケイケなさくらちゃんもカワイイよ」
慌ててフォローする。
その言葉に、ワタシの眉がピクリと揺れる。
「見てくださってありがとうございます。ワタシ、あの時はすごく緊張してて心臓がバクバクだったんですよぉ」
ペロリと舌を出してあざといくらいのブリっ子アピールでごまかし、
──そうだ。もうあの時のワタシじゃない……。
心の中でそう言い聞かせる。
「それじゃあお客さん。さくらちゃんに取らせるポーズを言ってください。そこのパラソルの所であたしが写真撮影して、後でデータにしてプレゼントしますので。ただし、水着はつけたままですよ。ヌード写真を個人に譲渡することはコンプライアンス違反だし、『性的搾取禁止法』違反でお客さんも罰せられちゃいますからねぇ」
鳴瀬さんは笑いも交えて説明する。
「はい、わかりました」
彼はコクリとうなずく。そしてワタシと鳴瀬さんは彼をパラソルの方へと案内する。
「それじゃあさくらちゃん。パラソルの下で四つん這いになってくれる?」
「はい。……こうですか?」
ワタシは彼の指示通りの姿勢を取る。
「う~ん。もう少しお尻を突き上げて。猫が伸びをしているみたいに。それと目線は上目遣いで」
「わかりました。これでどうでしょうか?」
彼の細かい指示に従い、ワタシは精一杯の色気を主張する。
「ああ、良いよさくらちゃん!」
彼は興奮気味に叫ぶ。
「じゃあ写真撮るわね」
鳴瀬さんが一眼レフカメラのレンズを向ける。
ワタシはファインダーへ視線を向ける。
パシャリ
シャッター音と共にワタシの艶姿がカメラに収められる。
鳴瀬さんは角度を変えたりして何枚か撮り続いた。
「写真はこんなところかな」
彼女はパソコンなどが置いてある後ろのデスクにカメラを置き、今度は動画撮影用のカメラへと持ち替える。
「……それじゃあさくらちゃん、次にいこうか?」
憂いを帯びた瞳で、彼女はそう促す。
「はい」
大丈夫。もう覚悟は出来ているんだから。
ワタシは砂の上に座り直すと、自分の胸に──アソコに手を伸ばし、ゆっくりと愛撫する。
彼はすぐにズボンのベルトを外してパンツを下げると、すでに雄々しく反り立っているペニスを取り出し、ワタシの前でそれを自分でしごき出す。
最初そのイチモツを目にした時、またもやあの忌まわしい記憶が頭を過りかけたけど、今のワタシは姫神アンジェなのだから大丈夫。
揺るがない──
「はぁ……んぅ……くぁ……」
男が見ている前でオナニーをしている──
そして、その痴態をカメラに収められている──
そんな異様な状況をまるで楽しむように、ワタシの躰はすぐに熱を帯びてゆく。
「あふぅん……あっ! ……ぅん」
ワタシは水着の肩紐を下ろしておっぱいを露出させ、さらに激しくそれを愛撫する。
「ねぇ、見て……。ワタシのおっぱい、キレイでしょ?」
「う、うん! サイコーだよ、さくらちゃんッ!!」
興奮の坩堝に呑まれ、彼の手はさらに速度を早めてゆく。
──姫神アンジェだったら、ここで畳み掛けるように煽情的な行動に出る。
ワタシはPVで見た彼女の仕草を脳内でトレースさせ、会陰を覆っている水着をずらして膣を露出させ、膣口に指をあてがう。
「ほら、ワタシのここ……もう濡れてるの。見られて感じちゃってるの……」
そして指先にまとわりつく粘着質の分泌液を掬い取り、挑発するように彼に見せつける。
「う、うん、スゴいよ! スゴくHだよ、さくらちゃん!!」
彼は快楽に悶えながらその律動をさらに早める。
「もっと……Hなワタシを見て……あぁンッ!!」
ワタシも負けじと指先を荒々しく律動させ、自ら興奮を高めてゆく。
「ふっ、ふっ、ふうッッッ!!」
「あン……イイ……気持ちイイよぉぉぉぉぉ!!!」
まるでお互いの痴態を見せつけ合うように、その行為は続いてゆく。
「ああ、ダメだ、さくらちゃん! ボク……もうイキそうだよォ!」
先に彼の方が情け無い声を上げながら訴える。
「イイよ、イッちゃって。ワタシに……たくさんかけて!」
「うおォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!」
彼はまるで檻から解き放たれた猛獣のような叫びを発しながらワタシの顔の前に異様なまでに充血したペニスを差し出し、最後の力を振り絞ってそれをしごき上げる。
「うッッッッッッッッ!!!!」
ドピュピュピュピュッッッ!!!!
その時、彼のペニスの先端から白濁の液体が洪水のように大量に噴出され、それはワタシの髪を、顔を、胸を、水着を、全身をくまなく白く染め上げてゆく。
「ふぁあ……熱いザーメンが、こんなにたくさん……」
ワタシは恍惚の眼差しで、自身を汚している白いものを見つめる。
「はぁはぁ……。ありがとう、さくらちゃん。気持ち良かったよ」
彼は晴れ晴れとした顔でそう言うと、鳴瀬さんが用意してくれたティッシュとタオルでペニスと手を拭く。
「お疲れ様でした。それでは先ほどの写真データをお持ち帰りください」
最後に鳴瀬さんはメモリーカードを渡し、彼は身支度を整えてからもう1度、ありがとう、と言って部屋を後にした。
「さくらちゃんもお疲れ様。ほら、ここにシャワールームがあるから体を洗っておいで」
彼女はいったんプロジェクションマッピングを解除して部屋の照明を灯し、背後にあるドアを開ける。
「ありがとうございます」
ワタシはそこに足を踏み入れると、
「鳴瀬さん。さっきのワタシ、どうでしたか?」
おもむろに訊ねてみた。
「う、うん……。良い演技だったよ」
彼女は少し口ごもりながら、そう答えた。
──そうだ。ワタシは姫神アンジェを立派に演じてみせたんだ。
自信を得たワタシは、この後に相手をした2人の男性に対しても滞りなく対応して射精に至らせた。
──何だ。ワタシ、ちゃんと出来るじゃない。
初仕事を無事にこなしたワタシは、あんなにも悩んでいたのがバカらしく思え、苦笑を禁じ得なかった。
♢
帰りの車の中──
夕刻の朱は街並みの喧騒も、そこを行き交うヒトたちの営みをも染め上げて包み込んでいる。
ワタシは空気を入れ替えるために窓を開けた。
風が──熱くて埃っぽい風が今では逆に心地よい。
「……初仕事、いかがでしたか?」
バックミラー越しにプロデューサーさんが問う。
「はい、キチンとこなせました。何だかワタシ、自信がついたみたいです」
ワタシは今の充足感を正直に言葉にする。
「そう……ですか」
プロデューサーさんはそれだけ言うと、すぐに視線を戻す。
そして事務所に戻ると、
「今日は本当にお疲れ様でした。ゆっくりと体を休めて明日のレッスンに備えてください」
そう言い残し、プロデューサーさんは帰宅して行った。
ワタシは部屋に戻るなり、すぐに布団に入った。
今日は良く眠れそうだ。
♢
翌日──
久しぶりに快眠を取ることが出来たワタシは、スッキリとした気分で朝を迎え、着替えと食事を済ます。
事務所の方に降りると、すでにプロデューサーさんが出社していて、自分のデスクでパソコンと向き合っていた。
「おはようございます、プロデューサーさん!」
「……ああ、おはようございます、水池さん」
ワタシもあいさつからワンテンポ遅れて、プロデューサーさんがワタシの方を向いてあいさつを返す。
今日もサングラスをかけていてその表情までは読み取れないけれど、声色からもどことなく浮かないように見えた。
「どうかしたんですか?」
「昨日の撮影会の参加者から感想をいただいたのですが……」
そう言ってプロデューサーさんはイスごと少し後ろに下がる。
──見てみろ、ってコトかな?
ワタシは彼のパソコンの前に立ち、画面をのぞく。
『撮影会、とても良かったです! でも、まるで姫神アンジェを見ているみたいで、何か思ってたのと違ったなぁ……』
『たしかに良かったんだけど、姫神アンジェをリスペクトしてる感が丸出しだった』
『そこには姫神アンジェがいた。だけどそれは姫神アンジェじゃない。オレはたしか水池さくらに会いに来たはずなのに不思議だ……』
ワタシは──
それを見た瞬間、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受け、しばらく声が出せなかった。
「……昨日の撮影会の動画、拝見させていただきました」
フリーズしているワタシに、プロデューサーさんは静かに語り出した。
「どんなにうまく演じることが出来たとしても、貴女は姫神アンジェにはなれません。たしかに貴女はお客様を満足させることは出来ました。だけど、それは仕事をこなしたに過ぎません。最初はそれでも良いかも知れませんが、この世界はプロフェッショナルを求められているのです。ごまかしでやっていけるほど甘いものではありません」
それは静かな口調でありながら、とても重く、とても深くワタシの心に突き刺さる。
「……動画を見せていただけますか?」
ワタシの言葉に、プロデューサーさんは無言のままパソコンのトップ画面にあった動画ファイルを起動させる。
そこには──
姫神アンジェでもない、水池さくらでもない、姫神アンジェになり損ねた別の何かが映し出されていた。
「違う! これはワタシじゃ……」
頭の中が真っ白に染まら、ワタシは大きくかぶりを振りながら、フラフラとした足取りで後ずさる。
「そんなつもりじゃ……なかったの!」
ワタシは無意識の内に駆け出した。
「水池さんッ!!」
プロデューサーさんが呼び止める声も振り払い、ワタシは自分の部屋へと駆けこむと、布団の中に飛びこみ、そして泣いた。
「うあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」
悔しくて──
情け無くて──
ワタシは声の限りに泣いて、泣いて、泣きじゃくった。
「水池さん! 水池さん!!」
プロデューサーさんがドアを叩いて何度も呼びかけるけれど、ワタシは彼と向き合う気にはなれなかった。
──ワタシはバカだ! ただ自分自身から逃げてただけだったんだ!!
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