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チャプター1 水地さくら
6項 さくら、雑談 ~Hなし
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そしてついに初仕事の日がやって来た──
結局胸の奥に巣食うモヤモヤを拭えないまま、ワタシは暗い面持ちでプロデューサーさんが運転する車に乗り込んでいた。
あれからも何度か鏡の前で自慰行為を試みたけど、その度に思い出したくもない忌まわしい過去がフラッシュバックし、ワタシは1度も絶頂に達することは出来なかった。
こんなんじゃあ、お客さんを満足させられるようなショーを披露することなんて到底ムリだ。
だけど、今のワタシにはどうすることもできないし、誰にも相談することもできなかった。
ワタシは窓を少し開けて新鮮な空気を取りこむ。
だけど流れこんで来る風はどこか熱っぽさと埃っぽさをはらんでいて、心地よいとはとても言えなかった。
自分で望んで来たはずの東京──
だけど、そこに満ちあふれていた自由で開放的な気風は、ワタシの心を満たしてはくれなかった。
時の流れもヒトの営みも、あまりにも目まぐるしくて──あまりにも儚くて、ワタシはそこに居場所を見いだすことが出来なかった。
「昨夜はよく眠れましたか?」
交差点での信号待ちの最中、バックミラー越しからプロデューサーさんが訊ねてくる。
「……はい」
ワタシは弱々しい笑みを浮かべ、そう答えた。
もちろん、それはウソだ。
目をつむっても不安と焦燥が頭の中をぐるぐると駆け巡り、正直寝ているのか起きているのかわからない不思議な境界線の間を一晩中さまよっていたのだ。
「そうですか……」
彼はそれだけ言うと視線を前に戻し、青信号に変わった交差点を直進する。
今日もサングラスをかけていてその表情までは読み取れないけど、たぶんプロデューサーさんはそれがウソだって気づいてると思う。
気づいていて、あえて触れないでくれているのだろう。
重苦しい沈黙が車内を支配したままそれから10分ほど都内を走り、車はとある閑静な住宅街の一画にある撮影スタジオへと入ってゆく。
「さあ、到着しましたよ」
駐車場に車を停め、プロデューサーさんはエンジンを落としてからそう告げる。
ワタシはシートベルトを外し、ドアを開ける。
そこにあったのは、無機質なコンクリートに囲まれた無骨な建物だった。
「水着グラビアだからプールとか海に行くのかと思ってたんですけど……。ホントにここで撮影するんですか?」
ワタシは半信半疑になって訊ねる。
「本当ならそうしたかったんですけどね。今回は規模の小さな催しなので、そこまで予算が回せなかったんですよ。もしもこれから大きな仕事が取れれば、海でも温泉でもいろいろな場所にも行けますので、今日はこれで我慢して,ください」
プロデューサーさんは苦笑して言った。
「それに、ここは設備が整っているので、海に行かなくても海に行った気分になれますよ」
「?」
まるでなぞなぞかとんちのようなその言葉に、ワタシは首をかしげる。
「では参りましょう」
プロデューサーさんはそう言って建物の方へと歩み出す。
ワタシはその後に続いた。
「ああ、佐土原さん、いらっしゃい。お待ちしてましたよ」
インターホンを鳴らしてすぐに建物の中から現れたのは、黒いメガネをかけた20代前半くらいの快活そうな女性だった。
「今日はお世話になります、鳴瀬さん」
プロデューサーさんがペコリと頭を下げる。
「そっちがオタクの新人ちゃん? カワイイわね」
鳴瀬と呼ばれたその女性は、ワタシの方を見てニコリと微笑む。
「は、はじめまして、水池さくらと申します!」
ワタシは慌てて頭を下げ、自己紹介する。
「私はここのスタジオでカメラマンとか撮影全般の仕事をしている鳴瀬美澄。よろしくね、さくらちゃん」
「よろしくお願いします!」
鳴瀬さんと握手を交わす。
カメラマンが女性と知って、ワタシは少しだけホッとした。
そしてワタシたちは中に案内され、2階にある大きな部屋へと通された。
そこは16畳ほどの広さがあり、四方を白い壁に囲まれた殺風景な場所だった。
床には浜辺と同じ粒子の細かい砂が敷きつめられ、部屋の真ん中辺りには一本のビーチパラソルが立て掛けられ、その側にビーチボールがひとつ転がっていた。
部屋の隅にはハンガーラックがあり、赤いビキニや紺色のスクール水着、ハイレグ競泳水着やほぼほぼ紐みたいなものなど、多種多様の水着がかけられていた。
「たしかに下は砂浜になってますけど……。でもこれじゃ味気なさすぎじゃありませんか?」
「まあ、見ててください。じゃあ鳴瀬さん、お願いします!」
プロデューサーさんがそう言うと、鳴瀬さんは、オッケー、と言って機材を操作する。
すると、部屋の照明が消えてゆくのと同時に、天井に設置された機材から発光された立体映像が壁全面に投影され、そこには波の動きまで再現されたビーチの光景が再現されていた。
「す、スゴい……」
「プロダクションマッピングですね」
そして鳴瀬さんは音響機材を操作して、そこに波の音のSEを流す。
もうここは完全に浜辺だ。
思わず口を開けて惚けてしまうワタシに、プロデューサーさんが言った。
「どうです、それっぽく見えるでしょう?」
ワタシはコクリとうなずいた。
「ではこれからお客さんを駅までお迎えに上がりますので、しばらくお待ちください」
プロデューサーさんはそう言い残し、部屋を後にする。
──ど、どうしよう。
ワタシは今日初めて会ったばかりのヒトとふたり部屋に残され、手持ち無沙汰となってしまう。
「どうぞ、さくらちゃん。アイスコーヒーだよ」
その時、鳴瀬さんがグラスに注がれたアイスコーヒーをワタシの前に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
「ここ、座ろっか?」
そして彼女はその場にレジャーシートを敷き、そう促す。
ワタシたちはシートの上に腰を下ろし、アイスコーヒーを口に含む。
キンキンに冷やされた清涼感と、シロップによってまろやかになった苦味がほどよい喉越しとなって癒やしてくれる。
「……あの、鳴瀬さんは抵抗は無いんですか? その……同じ女性があんなHなことしている姿を撮影することに」
ワタシはおもむろに訊ねる。
それは、セックスアイドルに対して同性がどう感じているのか知りたいという思いからでもあった。
「そうだね……。最初はすっごく軽蔑してたよ、あたし」
鳴瀬さんは上を見上げ、嘲笑とも取れる笑みを浮かべながら語った。
「何でわざわざ男のいいなりになって性欲の捌け口にされるんだろう。結局ただの性奴隷じゃないか、ってずっと思ってた」
やっぱり、セックスアイドルは女性にとっても忌むべき存在なのかも知れない。
『いたいけな女性にいかがわしい行為を強要する不届きな会社が存在します!』
ふと、数日前に駅前で演説をしていた女性議員の言葉が脳裏をよぎり、ワタシは居た堪れない気持ちになる。
「だけど2年前にね、仕事募集用のあたしのメールアドレスにひとりの女の子から一件のメールが届いたの。『今度セックスアイドルとしてデビューするのでPV撮影を依頼します』、ってね」
彼女は視線を前に戻し、続ける。
「もちろんあたしは断ったよ。冗談じゃない。誰があんないかがわしい映像撮影に協力するかっての! ……だけどそのコは何度も何度もメールを送って来てね。最後に送られて来たメールには動画ファイルが添付されてて、こう書いてあったの。『この動画を見てください。それでも無理なら諦めます』って」
「その動画って何だったんですか?」
ワタシはすごく興味をそそられ、思わず身を乗り出す。
「……コンサートとかに使われるような大きなホール。その中央でスポットライトを浴びて立っていた長い金髪の少女。そしてそのコは……全裸だった。ただひとつ、足にトウシューズを履いてるだけ」
「え?」
ワタシは思わず喫驚の声を上げる。
「まだあどけなさを残しながら、魔性の魅力をも備えた顔立ち。ふくよかな肉付きでありながら一寸のムダの無いスタイル。そこにはこの世のありとあらゆる美を集結させた究極の美が体現されていたの……。そして彼女は、他に誰もいないその舞台上で『白鳥の湖』のひと幕を踊りきった。彼女はとても真剣で優雅で、そして恐ろしく蠱惑的だった」
「それで……鳴瀬さんはどうしたんですか?」
ワタシの問いに、鳴瀬さんは少しはにかんで言った。
「情け無い話なんだけどさ……。その動画を見終わった時、あたしのアソコ、濡れてたんだ……。ヘンでしょ? あんななセックスアイドルのこと毛嫌いしてたのに、そのセックスアイドル志望の女の子を見て性的な興奮を感じちゃったんだよ」
鳴瀬さんはそこで、ふぅ、とひと呼吸置いてから、
「んで、結局あたしは引き受けることにしたんだ。あたしならこのコをもっと美しく表現できる。このコの美しさをもっともっと引き出せる。そう思ってさ。そしたらそのコはあっと言う間に大スターになっちゃってさ。それからだよ。セックスアイドルのことを好きになったのは。それからは主にセックスアイドルのコと仕事するようになって、さくらちゃんの先輩たちともたくさん一緒に仕事したよ」
弾むような口調でそう語り、朗らかに笑った。
「そう……だったんですか」
偏見に満ちていたヒトの気持ちを変えてしまうほどの魅力を持った人物なんて、きっと数えるほどもいないはず。
そしてワタシはその人物に心当たりがあった。
「鳴瀬さん。もしかしてその金髪の女の子って、姫神アンジェさんのことですか?」
ワタシがそう問うと、彼女は特に驚いたような素振りも見せず、
「そう、姫神アンジェ。彼女とは今でも一緒に仕事させてもらってるよ」
誇らしげに言うのだった。
──やっぱりそうなんだ。
2年前に彗星の如く現れると瞬く間にセックスアイドル界のカリスマへと登りつめたスーパーガール──姫神アンジェ。
ワタシも彼女のファンであり、CDはすべて購入しているし、PVも穴が空くほど見た。
──そうか、姫神アンジェなら……。
その時、ワタシの中でひとつの考えが思い浮かぶ。
それは、きっと今ワタシの置かれているこの窮地を切り抜けるための切り札になる──
その時のワタシはそう思っていたのだ。
結局胸の奥に巣食うモヤモヤを拭えないまま、ワタシは暗い面持ちでプロデューサーさんが運転する車に乗り込んでいた。
あれからも何度か鏡の前で自慰行為を試みたけど、その度に思い出したくもない忌まわしい過去がフラッシュバックし、ワタシは1度も絶頂に達することは出来なかった。
こんなんじゃあ、お客さんを満足させられるようなショーを披露することなんて到底ムリだ。
だけど、今のワタシにはどうすることもできないし、誰にも相談することもできなかった。
ワタシは窓を少し開けて新鮮な空気を取りこむ。
だけど流れこんで来る風はどこか熱っぽさと埃っぽさをはらんでいて、心地よいとはとても言えなかった。
自分で望んで来たはずの東京──
だけど、そこに満ちあふれていた自由で開放的な気風は、ワタシの心を満たしてはくれなかった。
時の流れもヒトの営みも、あまりにも目まぐるしくて──あまりにも儚くて、ワタシはそこに居場所を見いだすことが出来なかった。
「昨夜はよく眠れましたか?」
交差点での信号待ちの最中、バックミラー越しからプロデューサーさんが訊ねてくる。
「……はい」
ワタシは弱々しい笑みを浮かべ、そう答えた。
もちろん、それはウソだ。
目をつむっても不安と焦燥が頭の中をぐるぐると駆け巡り、正直寝ているのか起きているのかわからない不思議な境界線の間を一晩中さまよっていたのだ。
「そうですか……」
彼はそれだけ言うと視線を前に戻し、青信号に変わった交差点を直進する。
今日もサングラスをかけていてその表情までは読み取れないけど、たぶんプロデューサーさんはそれがウソだって気づいてると思う。
気づいていて、あえて触れないでくれているのだろう。
重苦しい沈黙が車内を支配したままそれから10分ほど都内を走り、車はとある閑静な住宅街の一画にある撮影スタジオへと入ってゆく。
「さあ、到着しましたよ」
駐車場に車を停め、プロデューサーさんはエンジンを落としてからそう告げる。
ワタシはシートベルトを外し、ドアを開ける。
そこにあったのは、無機質なコンクリートに囲まれた無骨な建物だった。
「水着グラビアだからプールとか海に行くのかと思ってたんですけど……。ホントにここで撮影するんですか?」
ワタシは半信半疑になって訊ねる。
「本当ならそうしたかったんですけどね。今回は規模の小さな催しなので、そこまで予算が回せなかったんですよ。もしもこれから大きな仕事が取れれば、海でも温泉でもいろいろな場所にも行けますので、今日はこれで我慢して,ください」
プロデューサーさんは苦笑して言った。
「それに、ここは設備が整っているので、海に行かなくても海に行った気分になれますよ」
「?」
まるでなぞなぞかとんちのようなその言葉に、ワタシは首をかしげる。
「では参りましょう」
プロデューサーさんはそう言って建物の方へと歩み出す。
ワタシはその後に続いた。
「ああ、佐土原さん、いらっしゃい。お待ちしてましたよ」
インターホンを鳴らしてすぐに建物の中から現れたのは、黒いメガネをかけた20代前半くらいの快活そうな女性だった。
「今日はお世話になります、鳴瀬さん」
プロデューサーさんがペコリと頭を下げる。
「そっちがオタクの新人ちゃん? カワイイわね」
鳴瀬と呼ばれたその女性は、ワタシの方を見てニコリと微笑む。
「は、はじめまして、水池さくらと申します!」
ワタシは慌てて頭を下げ、自己紹介する。
「私はここのスタジオでカメラマンとか撮影全般の仕事をしている鳴瀬美澄。よろしくね、さくらちゃん」
「よろしくお願いします!」
鳴瀬さんと握手を交わす。
カメラマンが女性と知って、ワタシは少しだけホッとした。
そしてワタシたちは中に案内され、2階にある大きな部屋へと通された。
そこは16畳ほどの広さがあり、四方を白い壁に囲まれた殺風景な場所だった。
床には浜辺と同じ粒子の細かい砂が敷きつめられ、部屋の真ん中辺りには一本のビーチパラソルが立て掛けられ、その側にビーチボールがひとつ転がっていた。
部屋の隅にはハンガーラックがあり、赤いビキニや紺色のスクール水着、ハイレグ競泳水着やほぼほぼ紐みたいなものなど、多種多様の水着がかけられていた。
「たしかに下は砂浜になってますけど……。でもこれじゃ味気なさすぎじゃありませんか?」
「まあ、見ててください。じゃあ鳴瀬さん、お願いします!」
プロデューサーさんがそう言うと、鳴瀬さんは、オッケー、と言って機材を操作する。
すると、部屋の照明が消えてゆくのと同時に、天井に設置された機材から発光された立体映像が壁全面に投影され、そこには波の動きまで再現されたビーチの光景が再現されていた。
「す、スゴい……」
「プロダクションマッピングですね」
そして鳴瀬さんは音響機材を操作して、そこに波の音のSEを流す。
もうここは完全に浜辺だ。
思わず口を開けて惚けてしまうワタシに、プロデューサーさんが言った。
「どうです、それっぽく見えるでしょう?」
ワタシはコクリとうなずいた。
「ではこれからお客さんを駅までお迎えに上がりますので、しばらくお待ちください」
プロデューサーさんはそう言い残し、部屋を後にする。
──ど、どうしよう。
ワタシは今日初めて会ったばかりのヒトとふたり部屋に残され、手持ち無沙汰となってしまう。
「どうぞ、さくらちゃん。アイスコーヒーだよ」
その時、鳴瀬さんがグラスに注がれたアイスコーヒーをワタシの前に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
「ここ、座ろっか?」
そして彼女はその場にレジャーシートを敷き、そう促す。
ワタシたちはシートの上に腰を下ろし、アイスコーヒーを口に含む。
キンキンに冷やされた清涼感と、シロップによってまろやかになった苦味がほどよい喉越しとなって癒やしてくれる。
「……あの、鳴瀬さんは抵抗は無いんですか? その……同じ女性があんなHなことしている姿を撮影することに」
ワタシはおもむろに訊ねる。
それは、セックスアイドルに対して同性がどう感じているのか知りたいという思いからでもあった。
「そうだね……。最初はすっごく軽蔑してたよ、あたし」
鳴瀬さんは上を見上げ、嘲笑とも取れる笑みを浮かべながら語った。
「何でわざわざ男のいいなりになって性欲の捌け口にされるんだろう。結局ただの性奴隷じゃないか、ってずっと思ってた」
やっぱり、セックスアイドルは女性にとっても忌むべき存在なのかも知れない。
『いたいけな女性にいかがわしい行為を強要する不届きな会社が存在します!』
ふと、数日前に駅前で演説をしていた女性議員の言葉が脳裏をよぎり、ワタシは居た堪れない気持ちになる。
「だけど2年前にね、仕事募集用のあたしのメールアドレスにひとりの女の子から一件のメールが届いたの。『今度セックスアイドルとしてデビューするのでPV撮影を依頼します』、ってね」
彼女は視線を前に戻し、続ける。
「もちろんあたしは断ったよ。冗談じゃない。誰があんないかがわしい映像撮影に協力するかっての! ……だけどそのコは何度も何度もメールを送って来てね。最後に送られて来たメールには動画ファイルが添付されてて、こう書いてあったの。『この動画を見てください。それでも無理なら諦めます』って」
「その動画って何だったんですか?」
ワタシはすごく興味をそそられ、思わず身を乗り出す。
「……コンサートとかに使われるような大きなホール。その中央でスポットライトを浴びて立っていた長い金髪の少女。そしてそのコは……全裸だった。ただひとつ、足にトウシューズを履いてるだけ」
「え?」
ワタシは思わず喫驚の声を上げる。
「まだあどけなさを残しながら、魔性の魅力をも備えた顔立ち。ふくよかな肉付きでありながら一寸のムダの無いスタイル。そこにはこの世のありとあらゆる美を集結させた究極の美が体現されていたの……。そして彼女は、他に誰もいないその舞台上で『白鳥の湖』のひと幕を踊りきった。彼女はとても真剣で優雅で、そして恐ろしく蠱惑的だった」
「それで……鳴瀬さんはどうしたんですか?」
ワタシの問いに、鳴瀬さんは少しはにかんで言った。
「情け無い話なんだけどさ……。その動画を見終わった時、あたしのアソコ、濡れてたんだ……。ヘンでしょ? あんななセックスアイドルのこと毛嫌いしてたのに、そのセックスアイドル志望の女の子を見て性的な興奮を感じちゃったんだよ」
鳴瀬さんはそこで、ふぅ、とひと呼吸置いてから、
「んで、結局あたしは引き受けることにしたんだ。あたしならこのコをもっと美しく表現できる。このコの美しさをもっともっと引き出せる。そう思ってさ。そしたらそのコはあっと言う間に大スターになっちゃってさ。それからだよ。セックスアイドルのことを好きになったのは。それからは主にセックスアイドルのコと仕事するようになって、さくらちゃんの先輩たちともたくさん一緒に仕事したよ」
弾むような口調でそう語り、朗らかに笑った。
「そう……だったんですか」
偏見に満ちていたヒトの気持ちを変えてしまうほどの魅力を持った人物なんて、きっと数えるほどもいないはず。
そしてワタシはその人物に心当たりがあった。
「鳴瀬さん。もしかしてその金髪の女の子って、姫神アンジェさんのことですか?」
ワタシがそう問うと、彼女は特に驚いたような素振りも見せず、
「そう、姫神アンジェ。彼女とは今でも一緒に仕事させてもらってるよ」
誇らしげに言うのだった。
──やっぱりそうなんだ。
2年前に彗星の如く現れると瞬く間にセックスアイドル界のカリスマへと登りつめたスーパーガール──姫神アンジェ。
ワタシも彼女のファンであり、CDはすべて購入しているし、PVも穴が空くほど見た。
──そうか、姫神アンジェなら……。
その時、ワタシの中でひとつの考えが思い浮かぶ。
それは、きっと今ワタシの置かれているこの窮地を切り抜けるための切り札になる──
その時のワタシはそう思っていたのだ。
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