SEXアイドル&DEATHプロデューサー

中原星道

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チャプター2 千本木しほり

3項 しほり、泳ぐ ~Hなし

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 そしてワタシたちは現場であるスポーツジムへと到着し、ワタシとしほりセンパイは更衣室へと通された。

 そこには色鮮やかなビキニ水着や、スポーティーな水着など、さまざまな種類の水着がハンガーラックにかけられた状態で用意されていた。

「カワイイ水着がたくさんあるわね~」

 声を弾ませながら、しほりセンパイは服を脱ぎ始める。
 ワタシも服を脱いで着替えようとするのだけど……。

『私は『これだ』って思った。私のおっぱいにはそれだけの価値があるんだって……。だから私はセックスアイドルになろうって決心したの』

 先ほどの彼女の言葉が頭にこびりついて離れなかった。
 もう少し詳しく聞こうとしたところで現場に着いてしまったので、タイミングを完全に逸してしまった。

 ──どういうことなんだろう?

 ワタシも男たちに凌辱された経験があるけど、どうしても『復讐』したい相手がいたから、こうしてセックスアイドルになった。
 だけど、普通であればそのような悲惨な経験をすれば男を憎んで遠ざけるはずなのに……。

 ふわふわと浮ついた気持ちのまま裸になったワタシは、近くのハンガーラックから白いビキニ水着を手に取ってそれを身につけ……。

「あ、あれ? 全然サイズが合わない??」

 胸にあてがった水着は明らかに大きく、ワタシの控えめな胸では隙間だらけですぐに脱げてしまうのだ。

「さ、さくらちゃん……水着着てみたんだけど、ちょっとおかしくないかしら?」

 しほりセンパイが少し苦しそうな声で言うのでそちらに目をやると、ワタシは思わず目をみはった。
 紺色の競泳水着からバストの大部分がはみ出したり、会陰部分がありえないくらい食い込んでおり、みっちりと密着しているというより、まるで拘束具のように彼女は体を締めつけられていたのだ。

「ちょっとどころじゃないです! 何もかもすべてがおかしいですッ!!」

 ワタシたちは、用意された水着をそれぞれあべこべに着てしまったことにようやく気づいたのだった。

 あらあら、とおっとりした口調で笑いながら、彼女ははち切れそうな競泳水着を脱いでゆく。

 ──それにしても、さっきの水着、ブカブカだった。しほりセンパイの胸ってあんなに大きいんだ……。

 自分用に用意されたビキニ水着はワタシのバストサイズにピッタリとフィットしているのだけど、何だか少し悲しい気分になった……。



 ♢

 プールサイドに出ると、すでにイベント当選者の20名も来場しており、所定の場所で待機していた。

 撮影場所にはすでに照明やマイクなどの機材が用意され、そこにはプロデューサーさんと談笑するデジタルデザイナーの鳴瀬美澄なるせみすみさんの姿があった。

「はぁい、さくらちゃん。しほりさん」

 ワタシたちに気づくと、鳴瀬なるせさんは気さくな笑みで手を振る。

「お久しぶりです、鳴瀬なるせさん」

 デビュー曲のMV撮影以来の再会を喜び、ワタシたちは握手を交わす。

「元気そうで良かった。最近、さくらちゃんの活躍ぶり、よく耳にするんだよねぇ」
「ありがとうございます。ワタシなんてまだまだダメダメですよ。プロデューサーさんがいなかったら何も出来ないし」

 その時、握った手に力がこもる鳴瀬なるせさん。

「いいなぁ、さくらちゃんは。いつも佐土原さどはらさんが側にいてくれて。うらやましいわぁ」

 ワタシも負けじと手を強く握り返し、

鳴瀬なるせさんだって、会う度にプロデューサーさんと仲良さようにしてるじゃないですかぁ。さっきだって、一体何を話していたのやら」

 痛みをこらえて作り笑いを向ける。

 ──ワタシ、知ってるんだから。MV撮影の時に2人でイチャイチャしてたことも、その後でプロデューサーさんが鳴瀬なるせさんと電話で会う約束をしてたことも……。

 ワタシは胸の奥でふつふつとたぎる謎の感情を抑えることが出来なかった。

「「ふふふふふふ」」

 そしてワタシたちは手を握ったまま乾いた笑いを発する。

「お2人とも仲が良いのねぇ」

 しほりさんのおっとりとしたその言葉に、

「「どこがですかッッ!?」」

 ワタシたちはハモって抗議する。

「あらぁ?」

 キョトンとした顔で首をかしげるしほりセンパイ。

「まあまあ、お2人とも落ち着いてください」

 プロデューサーさんがワタシたちの間に入ってなだめる。

 ──あれ? ていうか何でワタシ、こんなにイライラしてたんだろう?

 深呼吸して冷静になった瞬間、不意にそんな疑問に襲われる。
 鳴瀬なるせさんのことはキライじゃない。というか好きだし、とても感謝している。

 さっきまで胸の奥で沸き上がっていた感情も、今ではすっかりと消え失せていた。

「それではまず、写真撮影から始めますか」

 そう言って鳴瀬なるせさんが愛用の一眼レフカメラを取り出す。

「それじゃあ鳴瀬なるせさん。私、ちょっとひと泳ぎしていいかしら? 水を見るとどうしても泳ぎたくなっちゃうの」
「イイですね。しほりさんが真剣に泳いでる姿、最高の素材になりますよ」

 しほりさんはニコリと微笑むと、手にしていたキャップを被り、その上からゴーグルを装着する。
 ずいぶん本格的だ、と思った。

「ごめんね、さくらちゃん。少しだけ待っててね」
「あ、はい!」

 少しだけ、しほりさんの雰囲気が変わった。
 いつものおっとりとした姿ではなく、戦いに臨む姿だ。

「しほりさんは学生時代、水泳部に所属していて、全国大会にも出場したことがあるんですよ」

 プロデューサーさんが小声で説明してくれる。

「そうなんですか……」

 だから競泳水着を選んだのか、とワタシは得心がいった。
 運動は苦手そうだ、と勝手な印象を持っていたワタシは自省するしかなかった。

 20名の観覧者もすでに近くまで通され、みんなしほりさんに目を向けている。

 飛びこみ台の上に立つと、彼女は体を大きく前屈させる。
 一瞬の静寂の後、彼女は台を蹴り上げて跳躍し、プールの中に飛び込んだ。

 ダッパーーーッッン!!

 小さな水飛沫を上げて潜水した彼女は魚のように体をしなやかに動かし、そのままぐんぐんと推進してゆく。

 10秒以上の潜水からようやく水面に姿を見せると、しほりさんはクロールへと切り替える。
 背が高くて手足の長い彼女は、その恵まれた特性を活かして大きく水を掻き、蹴り上げた脚で推進力を高める。

 瞬く間に25mプールの端まで泳いだ彼女は華麗にターンを決めて折り返す。

 ──スゴい……。

 水泳素人のワタシでもその泳ぎの一挙手一投足に完全に目を奪われいた。
 いや、そこにいたみんなが同じように息をするのも忘れるくらい夢中になっていた。

 そして彼女はこちら側の端までの50mを泳ぎきり、プールサイドへと登る。

 肉付きの良い体をしたたる水──
 ゴーグルとキャップを外し、髪を掻き上げる仕草──

 そのすべてが美しくて、ワタシは完全に心を奪われてしまった。

 観覧者たちも拍手と歓声を送り、しほりセンパイはうれしそうに彼らに手を振る。

「お疲れ様です、しほりさん。相変わらず泳ぎこんでるみたいですね?」

 プロデューサーさんが彼女にバスタオルを手渡す。

「ありがとうございます。私にはこれくらいしか特技がありませんから」

 そう言って長い髪を拭うしほりセンパイの姿も、やっぱり美しかった。

「そうだ。さくらちゃんも泳いでみたら?」
「え? ワタシがですか??」

 しほりセンパイからの突然の提案に、ワタシは驚きを隠せなかった。

「おお、写真集用のイイ素材になりそう」

 煽るように鳴瀬なるせさんがカメラをこちらに向ける。

 ──どーしよ……。ワタシ、泳ぎ得意じゃないんだけどなぁ。

 プロデューサーさんも観覧者たちも、期待の目をこちらに向ける。

「わ、わかりました!」

 やるしかない、と決心したワタシは、ひとつ深呼吸を入れてから飛びこみ台へと向かう。

 と、その時だった──

 ワタシの左足が右足の踵に突っかかり、もつれた状態でワタシは大きくバランスを崩してしまう。

「あ、あれ、あれ、あれれ~~!?」

 ワタシはまるで吸い込まれるように水際まで来てしまい、そこで手をばたつかせたりしてどうにかこうにか踏ん張ろうとする。

 が、ダメだった──

「あらら~~~??」

 マヌケなダンスを披露した挙句完全にバランスを崩したワタシは、

 ビッターーーーッッッン!!!!

 痛々しい水音と共に豪快に水しぶきを舞い上げ、水中へと落下してしまうのだった。

「ぶはぁッッ!!」

 無様なダイブで水中をしばらくもがいたわは、ようやくプールサイドに手をつく。

 すると、そこでは爆笑と拍手喝采が沸き起こっていた。

「良かったよ~、さくらちゃん。サイコーの素材ができたよ!」

 カメラを片手にOKマークを送る鳴瀬なるせさん。

「……もう帰りたい」

 恥ずかしさのあまりしばらく上がれずにいたワタシは、本気でそう思うのだった。
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