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チャプター3 虹橋萌火
3項 さくら、訊ねる ~Hなし
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明朗快活な萌火センパイとの出会いから、ワタシのトレーニングの日々が始まった。
陸上競技場での萌火センパイのイベントに対戦相手として参加することが決定した翌日から、ワタシは彼女がいつも日課として行っているトレーニングに帯同することになったのだけど……。
「ぜひぃ……ぜひぃ……」
ワタシは息も絶え絶えに、走っているのか歩いているのかさえもわからない不恰好な姿をさらしていた。
「大丈夫ですか、さくらさん? まだスタートしてから1Kmにも満たないのですが……」
今日だけトレーニングに同行してくれるプロデューサーさんが心配そうに声をかける。
「だ、大丈夫……です」
強がってみせるけど、足はもうガクガクで右に左に蛇行してしまう。
「ははッ、さくらちゃん、ホントに体力無いね~」
萌火センパイがそっとワタシの体を抱き寄せて支えてくれる。
「す、すみません……。ペースが違いすぎるので、お2人は先に行ってください」
「何言ってんの。さくらちゃんを鍛えるために走ってるんだから、わたしたちがさくらちゃんのペースに合わせるよ」
「そうですね。とりあえず1度ここで休憩しましょうか」
「はいぃぃ……」
ワタシは駐車場前の縁石に座りこむ。
今日は昨日と比べてかなり涼しく、走りやすい陽気ではあるのだけれど、それ以前にワタシの体が走れるようになってできていなかった。
「さくらさん、どうぞ。しっかり水分補給してください」
プロデューサーさんがスポーツ飲料水を差し出す。
「ありがとうございます」
ワタシはそれをありがたく受け取ると、それを少しずつ口に含む。
ふぅ、とひと息吐いて2人を見上げる。
今日も陸上競技用のセパレートユニフォームに身を包み、もうすでにかなりの衆目を集めている萌火センパイ。
スラリと伸びた彼女の両脚はとても引き締まっていて、まるでバネのような弾力性を感じさせる。
自ら競技会をやりたいと言うくらいなのだからきっと運動神経の塊なのだろう。
そしてプロデューサーさん。
上下ジャージという貴重な姿を拝むことができたけど、それさえも黒色に統一されているのはもはやポリシーなのだろうか。
まだ走り始めたばかりで何とも言えないけど、以前「大幸ビル」でワタシたちを救出した時に見せた機敏な動きから考えて、彼も運動神経は抜群なのだと思う。
イベント日まであと1ヶ月……。ホントにワタシは萌火センパイの対戦相手が務まるまでに成長できるのか、今のところ不安しかない。
「萌火センパイって何かスポーツやってたんですか?」
何とは無しに訊いてみると、ストレッチをしていた彼女の動きが一瞬ピタリと静止する。
「……うん、ハイジャンプをね」
少しだけ間を置いてから、彼女は答える。
「ハイジャンプって、走り高跳びでしたっけ?」
「そう、走り高跳び。小学生から高校までずっとやっててね。全国大会にも出て結構イイ線までいったこともあるんだ」
「スゴいですね……」
思わず感嘆がもれる。
──ワタシは中、高と吹奏楽部でユーフォを吹いていたけど、発表会では県のコンクールで敗退したんだよなぁ……。
思わず自分の過去を振り返ってしみじみとしてしまう。
とにかく、彼女ワタシは性質がまったく異なるんだということは痛感する。
「センパイはどうしてセックスアイドルになったんですか? 何かきっかけがあったんですか?」
この機会だからワタシはもっといろいろ訊いてみようと思った。
「きっかけ、ねぇ……」
すると萌火センパイはまるで噛み締めるようにつぶやくと、
「そういえばこの辺りだったよね? プロデューサーくんと初めて出会ったのは」
プロデューサーさんに向けて問う。
「え? ええ……そうでしたかね……」
プロデューサーさんはそれに対してなぜかバツが悪そうな魯鈍な口調で答えた。
「それって──」
どういうことなのか訊ねようとしたその時、
「わたしね、変態なんだ」
彼女の口からポツリともらされたその言葉が、まるで突風のようにワタシの言葉を遮るのだった。
♢
「わたしね、変態なんだ」
萌火さんの口からポツリともらされたその言葉はさくらさんに衝撃をもたらしたようで、彼女はしばらくぽかんと開口したまま黙ってしまった。
「さくらちゃんも見たでしょ? わたしが野外でひとりHしてたとこ」
そんなさくらさんを見て萌火さんはフッと笑い、
「わたしっていつもああなの。すべてさらけ出した姿を人に見られたい、見せつけたい。なんなら衆人環視の中でレイプされたい……そんな歪んだ衝動をいつも抱えているの」
さらなる衝撃の言葉をさくらさんに投げかけるのだった。
さくらさんはさらに面食らったように目を剥いてしまっている。
それも仕方ないことだ。
特に、さくらさんのように過去にレイプされた経験を持つ女性ならなおさら理解できないだろう。
だけど、彼女は──虹橋萌火という人は自らを「変態」と称するとおり、常人の理解の及ばぬところにいるのだ。
「わたしがいつもこの格好で走ってるのも衆目を集めるため。たくさんの人にエロい視線で見られてるんだ、って思うとスゴく興奮して体中がたまらなくゾクゾクってするの……」
「……そんなことって、あるんですか?」
さくらさんはいまだに目線を宙に泳がせながら、搾り出すようにつぶやいた。
「そうだよね、ドン引きだよね……。それがフツーなんだよねぇ」
萌火さんはそう言って笑うけれど、そこにはさみしさと儚さが漂っていた。
「わたしね、以前ここでね──」
そして彼女は静かに語り始めた。
今から2年前の春──
俺と彼女が初めて出会った時のことを─
陸上競技場での萌火センパイのイベントに対戦相手として参加することが決定した翌日から、ワタシは彼女がいつも日課として行っているトレーニングに帯同することになったのだけど……。
「ぜひぃ……ぜひぃ……」
ワタシは息も絶え絶えに、走っているのか歩いているのかさえもわからない不恰好な姿をさらしていた。
「大丈夫ですか、さくらさん? まだスタートしてから1Kmにも満たないのですが……」
今日だけトレーニングに同行してくれるプロデューサーさんが心配そうに声をかける。
「だ、大丈夫……です」
強がってみせるけど、足はもうガクガクで右に左に蛇行してしまう。
「ははッ、さくらちゃん、ホントに体力無いね~」
萌火センパイがそっとワタシの体を抱き寄せて支えてくれる。
「す、すみません……。ペースが違いすぎるので、お2人は先に行ってください」
「何言ってんの。さくらちゃんを鍛えるために走ってるんだから、わたしたちがさくらちゃんのペースに合わせるよ」
「そうですね。とりあえず1度ここで休憩しましょうか」
「はいぃぃ……」
ワタシは駐車場前の縁石に座りこむ。
今日は昨日と比べてかなり涼しく、走りやすい陽気ではあるのだけれど、それ以前にワタシの体が走れるようになってできていなかった。
「さくらさん、どうぞ。しっかり水分補給してください」
プロデューサーさんがスポーツ飲料水を差し出す。
「ありがとうございます」
ワタシはそれをありがたく受け取ると、それを少しずつ口に含む。
ふぅ、とひと息吐いて2人を見上げる。
今日も陸上競技用のセパレートユニフォームに身を包み、もうすでにかなりの衆目を集めている萌火センパイ。
スラリと伸びた彼女の両脚はとても引き締まっていて、まるでバネのような弾力性を感じさせる。
自ら競技会をやりたいと言うくらいなのだからきっと運動神経の塊なのだろう。
そしてプロデューサーさん。
上下ジャージという貴重な姿を拝むことができたけど、それさえも黒色に統一されているのはもはやポリシーなのだろうか。
まだ走り始めたばかりで何とも言えないけど、以前「大幸ビル」でワタシたちを救出した時に見せた機敏な動きから考えて、彼も運動神経は抜群なのだと思う。
イベント日まであと1ヶ月……。ホントにワタシは萌火センパイの対戦相手が務まるまでに成長できるのか、今のところ不安しかない。
「萌火センパイって何かスポーツやってたんですか?」
何とは無しに訊いてみると、ストレッチをしていた彼女の動きが一瞬ピタリと静止する。
「……うん、ハイジャンプをね」
少しだけ間を置いてから、彼女は答える。
「ハイジャンプって、走り高跳びでしたっけ?」
「そう、走り高跳び。小学生から高校までずっとやっててね。全国大会にも出て結構イイ線までいったこともあるんだ」
「スゴいですね……」
思わず感嘆がもれる。
──ワタシは中、高と吹奏楽部でユーフォを吹いていたけど、発表会では県のコンクールで敗退したんだよなぁ……。
思わず自分の過去を振り返ってしみじみとしてしまう。
とにかく、彼女ワタシは性質がまったく異なるんだということは痛感する。
「センパイはどうしてセックスアイドルになったんですか? 何かきっかけがあったんですか?」
この機会だからワタシはもっといろいろ訊いてみようと思った。
「きっかけ、ねぇ……」
すると萌火センパイはまるで噛み締めるようにつぶやくと、
「そういえばこの辺りだったよね? プロデューサーくんと初めて出会ったのは」
プロデューサーさんに向けて問う。
「え? ええ……そうでしたかね……」
プロデューサーさんはそれに対してなぜかバツが悪そうな魯鈍な口調で答えた。
「それって──」
どういうことなのか訊ねようとしたその時、
「わたしね、変態なんだ」
彼女の口からポツリともらされたその言葉が、まるで突風のようにワタシの言葉を遮るのだった。
♢
「わたしね、変態なんだ」
萌火さんの口からポツリともらされたその言葉はさくらさんに衝撃をもたらしたようで、彼女はしばらくぽかんと開口したまま黙ってしまった。
「さくらちゃんも見たでしょ? わたしが野外でひとりHしてたとこ」
そんなさくらさんを見て萌火さんはフッと笑い、
「わたしっていつもああなの。すべてさらけ出した姿を人に見られたい、見せつけたい。なんなら衆人環視の中でレイプされたい……そんな歪んだ衝動をいつも抱えているの」
さらなる衝撃の言葉をさくらさんに投げかけるのだった。
さくらさんはさらに面食らったように目を剥いてしまっている。
それも仕方ないことだ。
特に、さくらさんのように過去にレイプされた経験を持つ女性ならなおさら理解できないだろう。
だけど、彼女は──虹橋萌火という人は自らを「変態」と称するとおり、常人の理解の及ばぬところにいるのだ。
「わたしがいつもこの格好で走ってるのも衆目を集めるため。たくさんの人にエロい視線で見られてるんだ、って思うとスゴく興奮して体中がたまらなくゾクゾクってするの……」
「……そんなことって、あるんですか?」
さくらさんはいまだに目線を宙に泳がせながら、搾り出すようにつぶやいた。
「そうだよね、ドン引きだよね……。それがフツーなんだよねぇ」
萌火さんはそう言って笑うけれど、そこにはさみしさと儚さが漂っていた。
「わたしね、以前ここでね──」
そして彼女は静かに語り始めた。
今から2年前の春──
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