SEXアイドル&DEATHプロデューサー

中原星道

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チャプター4 彩金キアラ

5項 さくら、自己嫌悪 ~Hなし

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 クラブハウスでのイベントから数日が経った──

 あの狂乱と退廃の饗宴はあまりにも非日常的過ぎて、あの夜のことは実は夢だったんじゃないか、と今でも時々思ったりもする。

 だけどもちろんそれは紛れもなく現実だ。

 それを実感させる出来事があった。

 ワタシのスマホに、イベントでDJを努めていたぜん宇竜うりゅうさんからメールが届いたのだ。

 それはイベントでの労をねぎらう文言だったのだけど、ワタシはメールアドレスを教えた覚えが無いので首をかしげていると今度はキアラセンパイからメールが来て、彼女がぜんさんに頼まれてワタシのメアドを教えたことを伝えてきたのだった。

 そして彼は次に食事の誘いのメールを送ってきた。

 なぜ彼はワタシにメールを送ってくるのかキアラセンパイに電話でたずねると、

『そんなの、さくらちんのことが好きだからに決まってんじゃん!』

 と楽しそうに笑いながら言った。

 ワタシはにわかには信じられなかった。

 彼はプロデューサーさん並みに背が高く、ドレッドヘアを決めこんだイケメンだ。
 自分を卑下するワケじゃないけど、彼とワタシとでは住む世界が違うと言うか、あのイベントが無かったら何の接点も見いだせない組み合わせだと思うからだ。

『うりゅっちはウチのセフレなんだ~。セックス上手いからウチも好きなんだけど、もしさくらちんにその気があるならウチ、2人を応援するよ~?』

 キアラセンパイはそうも言っていた。

 2人がセフレだったというのも驚いたけど、キアラセンパイのあまりにもサバサバとした言動にも驚かされた。

 さらに彼女は、

『でもウチはやっぱりPちゃんとのセックスが1番気持ちよかったなぁ。ねぇ、さくらちんはどっちが気持ちよかった?』

 そんなことまで話してくるのだった。

「え? ワタシ、プロデューサーさんとはしたことありません」

 ワタシがそう答えると、彼女は通話越しから驚きの声を発した。

『ホントに!? おっかしいなぁ、しほりんもモカモカも社長もみんな抱かれてるはずなのに……』

 それはワタシも知っていた。

 たしかに改めて考えると、プロデューサーさんの身近な女性の中で彼に抱かれていないのはワタシだけなんだという事実に今さら気づくのだった。

 ──やっぱりワタシに魅力が無いから手を出さないのかな?

 その後ワタシはそんなモヤモヤとした気持ちをずっと抱えたまま悶々と日々を過ごしていたけど、

 ──直接いてみよう。

 そう思い、今日、事務所のあるビルまでやって来たのだった。

 いつものように清掃作業をしてくれている陽崎ひざきさんとあいさつを交わし、いつものように事務所へと上がる。

 だけど、ワタシの胸の鼓動は、ここへ初めてやって来た時よりも早鐘を打っているのだった。

 そう──

 ワタシはプロデューサーさんに抱かれる覚悟でここまで来たのだから。

 プロデューサーさんとのセックスについて以前いたところ、キアラセンパイも、萌火もかセンパイも、しほりセンパイも、みんな同じことを言っていた。

『言葉にならないくらい気持ち良かった』

 と……。

 ワタシにとってこれまでで1番気持ち良かったセックスは、この間のイベントでのぜんさんとのセックスだった。

 正直、それよりも気持ち良く感じられるセックスなんて想像できないでいたし、それと同時にスゴく興味が沸いて楽しみでもあった。

 ワタシはひとつ深呼吸をしてから、事務所のセキュリティを解除して中に入る。

「おはようございます」

 そう言って顔を出すと、デスクに向かっていたプロデューサーさんがおもむろに顔を上げ、

「あれ? さくらさん、どうしました? 今日はオフでしたよね?」

 驚いた様子でたずねる。

「あ、あの、プロデューサーさん。だ、だい、だい……」

 ──抱いてください!

 その一言がどうしても口から出てこない。

「だい?」

 彼は首をかしげる。

「だい……たい何時くらいに終わるんですか、仕事!?」

 ワタシは完全に日和ってしまい、まったく意図しないことをいてしまった。

「え? そうですね、今日はイベント関係者とのオンライン会議がありますので、大体19時くらいでしょうか?」

 不可解そうな顔をしながらも彼はそう答える。

「そ、そうなんですか。お疲れ様です……」

 ワタシは自身の不甲斐無さにがっくりと肩を落とす。

 それに、仕事で忙しいのにセックスしようだなんて、空気が読めないにもほどがある。

「すみません、今日はもう帰ります。お忙しいところ失礼しました……」

 ワタシはそう言ってきびすを返した。

「あ、そうださくらさん。さくらさんにひとつ提案があるのですが」

 その時、プロデューサーさんがワタシを呼び止める。

 ワタシは再び彼の方に向き直った。

「提案?」
「はい。最近のさくらさんの仕事ぶりを拝見して思ったのですが、もしかしたらさくらさんはもうトラウマを乗り越えられているんじゃないのかと感じまして。そこで提案なのですが、次回のイベントは俺の代わりに社長に随行してもらおうと思うのですが、いかがでしょうか?」
「え? プロデューサーさん、いらっしゃらないんですか?」

 ワタシは急に不安に襲われ、すがるような弱々しい声でたずねた。

「いいえ、俺が行けない訳ではないんです。ですが、俺がいなくてもさくらさんがトラウマに襲われることがなければ、これからは俺が常に仕事を見ている必要もなくなるでしょうから。あくまでも実験的な提案です」

 彼の言葉は当然のことであり、ワタシだっていつまでも彼に甘えるワケにはいかないことも理解している。

 だけど──

「プロデューサーさんはワタシと一緒にいるのがイヤなんですか?」

 何だか彼に見捨てられたような気がして、ポツリとそんな言葉を吐露してしまう。

「はい? 何か言いましたか?」
「い、いいえ、何でも無いです!」

 ワタシは慌ててかぶりを振る。
 どうやら聞こえてなかったみたいでホッと安堵する。

「あの、プロデューサーさん。その件は少し考えさせてもらってもイイですか?」

 気持ちの整理がうまくつかないワタシは、答えを後回しにすることに決めた。

「わかりました。この件に関してはまた後日に返答を伺うことにして、それまではいつもどおり俺が仕事に随行させていただきます」

 プロデューサーさんは小さくうなずき、了承してくれた。

 そして再びパソコンと向き合い、せわしそうに仕事を再開するのだった。

「……失礼します」

 消え入りそうな小さな声でつぶやく。

 彼はもう、ワタシのことなど気にしてないし、目に入らないみたいだ。

 ──やだな、ワタシ。めんどくさい女になってる……。

 事務所を出ながらワタシは、そんなネガティブな思考に走る自分にほとほと嫌気が差して余計に自己嫌悪に陥ってしまうのだった。
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