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チャプター4 彩金キアラ
10項 キアラ、喜ぶ ~ノーマルセックス
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「さて、と」
刹那、社長はおもむろに立ち上がると、椅子の背もたれにかけてあったジャケットを肩にかける。
「もう帰られるのですか?」
「ああ。さくらくんかキアラくん、そのどちらかが、あるいは両方が来るかも知れないからな。今夜はひとりで飲むよ」
「はあ……」
それならば一緒にいてくれれば良いのに、とも思ったが口にはしなかった。
「マサオミ。彼女たちの想いを受け止めてやってくれ」
彼女はそう言い残すと、ヒラヒラと手を振りながら事務所を後にした。
「想い、か……」
俺はふと手を止める。
今年もキアラさんは来るのだろうか。
さみしさを抱えたまま。
俺が抱くことで彼女の悲しみがその場限りでも消えるのなら、俺は彼女の想いに応えてあげたい。
しかし──
もしもさくらさんが来たなら──
もしもさくらさんが抱いて欲しいと言ってきたなら──
俺は果たしてその想いに応えることができるのだろうか?
過去の悲惨な出来事から男性に対して恐怖心を抱いている彼女が、プライベートで特定の男に抱かれたいと願うとは考え難い。
しかし、もしもそのような時がきたならば、俺は彼女を抱くことができるのだろうか?
ズキン、と眉間に刻まれた傷が疼く。
トラウマが──あの時の忌まわしい光景が脳内に蘇る。
それは、さくらさんの仕事に同行する度に──彼女が複数の男たちとまぐわっている姿を見る度に脳内にフラッシュバックし、俺を苦しめてきたものだ。
俺はさくらさんをあの女性の姿と重ね合わせているのだ。
俺のトラウマの要因となったあの最愛の女性の姿と。
俺はデスクの隅に伏せてあった写真立てを手に取る。
その写真に写っているのは、まるでカメラマンを威嚇するかのように鋭い眼光を向けている10年前の俺と、その背後に立つイカつい中年男性。そして俺の隣にいるのは──
「……Pちゃん」
「ッ!?」
刹那、事務所の入り口付近から今にも消え入りそうな弱々しい声がかけられ、俺は慌てて写真立てを伏せる。
俺のことをそう呼ぶ人物はただひとりだった。
「どうしましたか、キアラさん?」
俺は振り返り訊ねる。
いつも元気ではしゃいでいる姿が印象的な彼女が、今は暗く沈んだ面持ちでうつむいていた。
その憔悴しきった姿は、去年のイヴに泣きながらここへやって来た時と何ら変わってはいなかった。
彼女は何も言わずにこちらへ駆け込んで来ると、
「Pちゃん、ウチを抱いて!」
俺の体にしがみつき、潤んだ瞳を向けて懇願する。
今にも手折れそうなくらいか弱い姿だ、と思った。
彼女が複雑な事情を抱えているであろうことは、初めて会った時から感じていた。
しかし、その事情をすべて知った今では彼女のさみしさが──幸せな家庭への強い憧憬が手に取るようにわかる。
幸せだった時を取り戻そうと必死にもがき続いた彼女。
しかしその想いは大切な人には届かず、彼女はずっと苦しんできたのだ。
俺は彼女の頭をそっと撫で、
「それでキアラさんの悲しみが少しでも埋められるのなら、喜んで」
そう告げる。
「ありがとう、Pちゃん……」
彼女はそう言って瞳を閉じ、俺の唇に口づけた。
俺たちは服を脱ぎ捨て、ソファーの上に乗る。
思えば初めてキアラさんを抱いたのも、このソファーでだった。
「ねえ、Pちゃん? ウチ、キレイかな?」
恥ずかしそうに体をよじりながら彼女が訊ねる。
「キレイですよ」
「ホントに? ウチ、ギャングにいたころいっぱい汚いことしたよ。乱交、売春、クスリ、恐喝、強盗……数えきれないくらいの罪を犯した」
彼女はそっと目を伏せ、まるで懺悔をするように淡々と語る。
「キアラさんはちゃんと立ち直ってくれました。犯した罪は決して消えることはありませんが、自分自身の愚かさと正面から向き合い、きちんと償おうと努力している姿を、俺はとてもキレイだと思います」
「Pちゃん……ありがとう♪」
キアラさんは涙を流しながら笑みを浮かべ、もう1度俺と口づけを交わす。
「ん……ちゅむ」
口内で舌と舌が互いを求め合って激しく絡み合う。
俺は彼女のバストに手を伸ばし、その豊満な乳房をランジェリー越しから揉みしだく。
「んむ……はぁンッ!!」
耐えきれず熱い吐息が漏れ出し、彼女はお返しとばかりに俺のペニスをまさぐる。
俺はブラジャーをたくし上げて直に乳首をこね回すと、彼女は握ったペニスを手でしごき始める。
俺がもう片方の手を彼女の秘部に伸ばしてまさぐると、彼女はペニスをしごく速度を早めてゆく。
まるで技と技の攻防戦のような前戯を繰り返すと、お互いの準備が整った。
「来て、Pちゃん……」
ソファーの上に仰向けで寝そべり、キアラさんは両手を上げて俺を誘う。
俺は彼女の頭の横に手を置いて見下ろし、ペニスを彼女の膣口にあてがうと膣内へと一気に挿入する。
ズププププッッ!!!
「あぁぁぁぁんッ! Pちゃんのおチ○ポが入ってるぅぅぅッッ!!」
歓喜の声を上げながら彼女は体を大きく反らせる。
スパンッ! スパンッ! スパンッッ!!
俺は腰を振り上げ、律動を早める。
「イイッ! Pちゃんのおチ○ポがウチの膣内で暴れてるよぉぉぉッッ!!」
室内によがり声を響かせ、彼女は体の芯から快楽に染まってゆく。
今はこのビル内には誰もいない。
だから、今日は心ゆくまで気持ち良くさせてあげたい。
じゅぶッ! じゅぶッ! じゅぶッッ!!
俺は彼女の腰を抱え上げながら、ありったけの力を込めてペニスを深層まで打ちつける。
「ふあぁぁぁッ!? 来てるぅ! 奥の敏感な所、おチ○ポが来てるよぉぉぉぉぉッッ!!!!」
彼女は自らも腰を動かしながらバストを激しく振り乱し、悦楽の嬌声を発する。
ズン! ズン! ズン! ズンッッ!!
彼女の艶かしい声に応えるように、俺はピストン運動を限界まで早める。
「ダメぇ、もう気持ち良すぎて……イクぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!!!」
プシャアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!
刹那、彼女は絶頂に達すると同時に尿道から大量の潮を噴き上げる。
俺はペニスを引き抜いて彼女の体をソファーの上にゆっくりと下ろす。
「はぁはぁ……気持ちよかったよ、Pちゃん」
荒い吐息を吐き出しながら、彼女は潤んだ瞳でそう言った。
「こちらこそ、キアラさんに求められて嬉しかったですよ」
俺はそう言って彼女の体を起こし上げ、自分の方から彼女にキスをする。
「……ありがとう。大好きだよ、Pちゃん」
キアラさんはニコリと微笑み、そう言った。
と、その刹那だった。
ドサッ!
事務所の入り口付近で何が落下する音が発せられると、そのすぐ後に扉が閉まる音が聞こえる。
──誰か来たのか?
俺は立ち上がり、入り口の方へと向かう。
──ッ! これは……。
入り口付近にクリスマス仕様に包装されたひとつの紙袋が落ちているのに気づき、それを拾い上げる。
そこには1枚のメッセージカードがついていて、表には『プロデューサーさんへ』という文字が書かれていた。
俺はどくん、と心臓が大きく跳ね上がるのを感じながら、そのカードを広げて見る。
『いつも遅くまでお仕事、お疲れ様です! それと、いつもワタシを見守ってくれてありがとうございます! ほんのささやかなお礼ですがどうか受け取ってください。メリークリスマス!!』
そして紙袋を開けて見ると、そこには暖かそうなブラウン色の手袋が入っていた。
俺は──まるで心臓にハンマーを打ち込まれたかのような衝撃を受けた。
さくらさんが来ていたのだ。
俺にこれを──プレゼントを渡すために……。
──見られていたのか……。
まさに最悪のタイミングだった。
しかし、以前にもここで社長たちとしているところを目撃されている。
その時彼女は呆れた顔をして俺たちに説教をした。
きっと、今度会った時にも同じように怒るのだろう。
「Pちゃん、どうしたの?」
刹那、ソファーの方からキアラさんが問いかける。
「いいえ、何でもありません」
俺はひとまずプレゼントの入った紙袋を近くのテーブルに置き、ソファーの方へと戻るのだった。
♢
その夜──
俺とキアラさんは事務所内で2人だけのささやかなパーティーを開き、そのまま夜を共に過ごすこととなった。
俺たちは上の階にある仮眠室へと入る。
「わ~、なつかしいな~」
今は布団と最低限の家具しか置いていない室内を見回して、彼女は感慨深げにつぶやいた。
「キアラさんの後にさくらさんが今年の夏前まで使ってたんですよ」
「へ~、さくらちんもここに住んでたんだ」
彼女はさっそく布団を敷くとその中に飛び込み、
「Pちゃん、一緒に寝よ~」
まるで親にねだる子供のような口調で言うのだった。
そして俺たちは枕を並べ、1つの布団の中で寄り添う。
「ねぇ、Pちゃん? まだ射精できてないの?」
ふと、彼女が訊ねてくる。
「……はい。まだ無理みたいです」
俺が答えると彼女は、そっか、と落胆したようにため息をもらした。
射精ができない──
それは、俺に課せられた呪いのようなものだった。
今の俺は射精ができない──オーガズムに達することができないでいたのだ。
原因は、俺の心に深く刻み込まれたトラウマだった。
あの時以来、俺は幾度女を抱いても1度たりともオーガズムに達したことはなかったのだ。
「でもPちゃん、ひきょーだよね。そんな重大なヒミツを隠したままあの時ウチと賭けセックスをしたんだもん。完全に反則だよ~」
キアラさんはそう言ってワザとらしく頬を膨らませて不機嫌そうな仕草を見せる。
「ははは、すみませんでした。でも、社長はアナタには結構期待してたみたいですよ? もし射精させることができたらそれはそれでめでたいことだ、って後で言ってましたから」
「1億円とか性奴隷とか懸かってるのに、Pちゃんの射精に期待するとか、社長も相当Pちゃんのことが好きなんだね」
彼女はそう言って笑うが、すぐに顔を曇らせ、
「でも、悔しいなぁ。いつもPちゃんに気持ちよくしてもらってるのに、ウチはPちゃんのこと気持ちよくさせてあげられないんだもん……」
煩慮の言葉を口にするのだった。
俺はそんな思いをうれしく感じて彼女の頭を抱き寄せ、
「その気持ちだけで充分ですよ。それに、気持ち良さを感じていないワケではありませんし。ゆっくりと解決策を探してゆきますよ」
軽く微笑んでそう伝える。
彼女はうれしそうに微笑み返すと俺を腕を枕にして、スヤスヤと気持ち良さそうに眠りに就いたのだった。
♢
俺はキアラさんが眠っている間に、さくらさんへ昨日のプレゼントのお礼メールを送信した。
しかし、いつまで経っても彼女からの返信が来ることは無かったのだった……。
刹那、社長はおもむろに立ち上がると、椅子の背もたれにかけてあったジャケットを肩にかける。
「もう帰られるのですか?」
「ああ。さくらくんかキアラくん、そのどちらかが、あるいは両方が来るかも知れないからな。今夜はひとりで飲むよ」
「はあ……」
それならば一緒にいてくれれば良いのに、とも思ったが口にはしなかった。
「マサオミ。彼女たちの想いを受け止めてやってくれ」
彼女はそう言い残すと、ヒラヒラと手を振りながら事務所を後にした。
「想い、か……」
俺はふと手を止める。
今年もキアラさんは来るのだろうか。
さみしさを抱えたまま。
俺が抱くことで彼女の悲しみがその場限りでも消えるのなら、俺は彼女の想いに応えてあげたい。
しかし──
もしもさくらさんが来たなら──
もしもさくらさんが抱いて欲しいと言ってきたなら──
俺は果たしてその想いに応えることができるのだろうか?
過去の悲惨な出来事から男性に対して恐怖心を抱いている彼女が、プライベートで特定の男に抱かれたいと願うとは考え難い。
しかし、もしもそのような時がきたならば、俺は彼女を抱くことができるのだろうか?
ズキン、と眉間に刻まれた傷が疼く。
トラウマが──あの時の忌まわしい光景が脳内に蘇る。
それは、さくらさんの仕事に同行する度に──彼女が複数の男たちとまぐわっている姿を見る度に脳内にフラッシュバックし、俺を苦しめてきたものだ。
俺はさくらさんをあの女性の姿と重ね合わせているのだ。
俺のトラウマの要因となったあの最愛の女性の姿と。
俺はデスクの隅に伏せてあった写真立てを手に取る。
その写真に写っているのは、まるでカメラマンを威嚇するかのように鋭い眼光を向けている10年前の俺と、その背後に立つイカつい中年男性。そして俺の隣にいるのは──
「……Pちゃん」
「ッ!?」
刹那、事務所の入り口付近から今にも消え入りそうな弱々しい声がかけられ、俺は慌てて写真立てを伏せる。
俺のことをそう呼ぶ人物はただひとりだった。
「どうしましたか、キアラさん?」
俺は振り返り訊ねる。
いつも元気ではしゃいでいる姿が印象的な彼女が、今は暗く沈んだ面持ちでうつむいていた。
その憔悴しきった姿は、去年のイヴに泣きながらここへやって来た時と何ら変わってはいなかった。
彼女は何も言わずにこちらへ駆け込んで来ると、
「Pちゃん、ウチを抱いて!」
俺の体にしがみつき、潤んだ瞳を向けて懇願する。
今にも手折れそうなくらいか弱い姿だ、と思った。
彼女が複雑な事情を抱えているであろうことは、初めて会った時から感じていた。
しかし、その事情をすべて知った今では彼女のさみしさが──幸せな家庭への強い憧憬が手に取るようにわかる。
幸せだった時を取り戻そうと必死にもがき続いた彼女。
しかしその想いは大切な人には届かず、彼女はずっと苦しんできたのだ。
俺は彼女の頭をそっと撫で、
「それでキアラさんの悲しみが少しでも埋められるのなら、喜んで」
そう告げる。
「ありがとう、Pちゃん……」
彼女はそう言って瞳を閉じ、俺の唇に口づけた。
俺たちは服を脱ぎ捨て、ソファーの上に乗る。
思えば初めてキアラさんを抱いたのも、このソファーでだった。
「ねえ、Pちゃん? ウチ、キレイかな?」
恥ずかしそうに体をよじりながら彼女が訊ねる。
「キレイですよ」
「ホントに? ウチ、ギャングにいたころいっぱい汚いことしたよ。乱交、売春、クスリ、恐喝、強盗……数えきれないくらいの罪を犯した」
彼女はそっと目を伏せ、まるで懺悔をするように淡々と語る。
「キアラさんはちゃんと立ち直ってくれました。犯した罪は決して消えることはありませんが、自分自身の愚かさと正面から向き合い、きちんと償おうと努力している姿を、俺はとてもキレイだと思います」
「Pちゃん……ありがとう♪」
キアラさんは涙を流しながら笑みを浮かべ、もう1度俺と口づけを交わす。
「ん……ちゅむ」
口内で舌と舌が互いを求め合って激しく絡み合う。
俺は彼女のバストに手を伸ばし、その豊満な乳房をランジェリー越しから揉みしだく。
「んむ……はぁンッ!!」
耐えきれず熱い吐息が漏れ出し、彼女はお返しとばかりに俺のペニスをまさぐる。
俺はブラジャーをたくし上げて直に乳首をこね回すと、彼女は握ったペニスを手でしごき始める。
俺がもう片方の手を彼女の秘部に伸ばしてまさぐると、彼女はペニスをしごく速度を早めてゆく。
まるで技と技の攻防戦のような前戯を繰り返すと、お互いの準備が整った。
「来て、Pちゃん……」
ソファーの上に仰向けで寝そべり、キアラさんは両手を上げて俺を誘う。
俺は彼女の頭の横に手を置いて見下ろし、ペニスを彼女の膣口にあてがうと膣内へと一気に挿入する。
ズププププッッ!!!
「あぁぁぁぁんッ! Pちゃんのおチ○ポが入ってるぅぅぅッッ!!」
歓喜の声を上げながら彼女は体を大きく反らせる。
スパンッ! スパンッ! スパンッッ!!
俺は腰を振り上げ、律動を早める。
「イイッ! Pちゃんのおチ○ポがウチの膣内で暴れてるよぉぉぉッッ!!」
室内によがり声を響かせ、彼女は体の芯から快楽に染まってゆく。
今はこのビル内には誰もいない。
だから、今日は心ゆくまで気持ち良くさせてあげたい。
じゅぶッ! じゅぶッ! じゅぶッッ!!
俺は彼女の腰を抱え上げながら、ありったけの力を込めてペニスを深層まで打ちつける。
「ふあぁぁぁッ!? 来てるぅ! 奥の敏感な所、おチ○ポが来てるよぉぉぉぉぉッッ!!!!」
彼女は自らも腰を動かしながらバストを激しく振り乱し、悦楽の嬌声を発する。
ズン! ズン! ズン! ズンッッ!!
彼女の艶かしい声に応えるように、俺はピストン運動を限界まで早める。
「ダメぇ、もう気持ち良すぎて……イクぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!!!」
プシャアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!
刹那、彼女は絶頂に達すると同時に尿道から大量の潮を噴き上げる。
俺はペニスを引き抜いて彼女の体をソファーの上にゆっくりと下ろす。
「はぁはぁ……気持ちよかったよ、Pちゃん」
荒い吐息を吐き出しながら、彼女は潤んだ瞳でそう言った。
「こちらこそ、キアラさんに求められて嬉しかったですよ」
俺はそう言って彼女の体を起こし上げ、自分の方から彼女にキスをする。
「……ありがとう。大好きだよ、Pちゃん」
キアラさんはニコリと微笑み、そう言った。
と、その刹那だった。
ドサッ!
事務所の入り口付近で何が落下する音が発せられると、そのすぐ後に扉が閉まる音が聞こえる。
──誰か来たのか?
俺は立ち上がり、入り口の方へと向かう。
──ッ! これは……。
入り口付近にクリスマス仕様に包装されたひとつの紙袋が落ちているのに気づき、それを拾い上げる。
そこには1枚のメッセージカードがついていて、表には『プロデューサーさんへ』という文字が書かれていた。
俺はどくん、と心臓が大きく跳ね上がるのを感じながら、そのカードを広げて見る。
『いつも遅くまでお仕事、お疲れ様です! それと、いつもワタシを見守ってくれてありがとうございます! ほんのささやかなお礼ですがどうか受け取ってください。メリークリスマス!!』
そして紙袋を開けて見ると、そこには暖かそうなブラウン色の手袋が入っていた。
俺は──まるで心臓にハンマーを打ち込まれたかのような衝撃を受けた。
さくらさんが来ていたのだ。
俺にこれを──プレゼントを渡すために……。
──見られていたのか……。
まさに最悪のタイミングだった。
しかし、以前にもここで社長たちとしているところを目撃されている。
その時彼女は呆れた顔をして俺たちに説教をした。
きっと、今度会った時にも同じように怒るのだろう。
「Pちゃん、どうしたの?」
刹那、ソファーの方からキアラさんが問いかける。
「いいえ、何でもありません」
俺はひとまずプレゼントの入った紙袋を近くのテーブルに置き、ソファーの方へと戻るのだった。
♢
その夜──
俺とキアラさんは事務所内で2人だけのささやかなパーティーを開き、そのまま夜を共に過ごすこととなった。
俺たちは上の階にある仮眠室へと入る。
「わ~、なつかしいな~」
今は布団と最低限の家具しか置いていない室内を見回して、彼女は感慨深げにつぶやいた。
「キアラさんの後にさくらさんが今年の夏前まで使ってたんですよ」
「へ~、さくらちんもここに住んでたんだ」
彼女はさっそく布団を敷くとその中に飛び込み、
「Pちゃん、一緒に寝よ~」
まるで親にねだる子供のような口調で言うのだった。
そして俺たちは枕を並べ、1つの布団の中で寄り添う。
「ねぇ、Pちゃん? まだ射精できてないの?」
ふと、彼女が訊ねてくる。
「……はい。まだ無理みたいです」
俺が答えると彼女は、そっか、と落胆したようにため息をもらした。
射精ができない──
それは、俺に課せられた呪いのようなものだった。
今の俺は射精ができない──オーガズムに達することができないでいたのだ。
原因は、俺の心に深く刻み込まれたトラウマだった。
あの時以来、俺は幾度女を抱いても1度たりともオーガズムに達したことはなかったのだ。
「でもPちゃん、ひきょーだよね。そんな重大なヒミツを隠したままあの時ウチと賭けセックスをしたんだもん。完全に反則だよ~」
キアラさんはそう言ってワザとらしく頬を膨らませて不機嫌そうな仕草を見せる。
「ははは、すみませんでした。でも、社長はアナタには結構期待してたみたいですよ? もし射精させることができたらそれはそれでめでたいことだ、って後で言ってましたから」
「1億円とか性奴隷とか懸かってるのに、Pちゃんの射精に期待するとか、社長も相当Pちゃんのことが好きなんだね」
彼女はそう言って笑うが、すぐに顔を曇らせ、
「でも、悔しいなぁ。いつもPちゃんに気持ちよくしてもらってるのに、ウチはPちゃんのこと気持ちよくさせてあげられないんだもん……」
煩慮の言葉を口にするのだった。
俺はそんな思いをうれしく感じて彼女の頭を抱き寄せ、
「その気持ちだけで充分ですよ。それに、気持ち良さを感じていないワケではありませんし。ゆっくりと解決策を探してゆきますよ」
軽く微笑んでそう伝える。
彼女はうれしそうに微笑み返すと俺を腕を枕にして、スヤスヤと気持ち良さそうに眠りに就いたのだった。
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