ユダの黙示録

神代リナ

文字の大きさ
12 / 13
第零章 砕けた氷

第十一話 ありし日の記憶Ⅰ

しおりを挟む
 ……私は、4大財閥の令嬢とか政治家の娘とかそういう裕福な家の生まれではなかった。
 かと言って、スラム街生まれとか傭兵の両親の元生まれたとかそういう貧しい生まれでもない。

 私、蒼山氷華は、平和だった時代にはたくさんあったが今や逆に珍しくなってしまった中間層という家庭に生まれた。

 父親は国防軍の士官で、母親は本州連合国家に仕える魔術師だった。
 2人とも、そこまでして位が高かった訳ではない。

 それでも、普通に暮らす分には十分な暮らしは出来た。
 私たちは、幸せだった。
 そう、そして、その幸せはずっと、ずっと……続いていく。
 そう私は信じていた。

 この残酷な世界は……もちろん私のような勘違いをした人にその過酷さを見せつけてくる。
 はじめは……私が10歳の時。
 そして、私が姉になった日。

 父親の勤めていたD-03地区国防軍司令部に突如原初派側の魔女である第二の魔女が出現。
 そこにいた国防軍の軍人は一瞬で全滅した。
 もちろん、私の父親も例外なく。

 母親は立ち直れなくなって、何もしなくなった。
 だから、私は働き始めた。
 幸い、私にはそこそこ高い魔術師としての適正があったので、仕事はあった。
 この時ほど、この世界が荒廃していることに感謝したことはない。
 幼い自分でも、働けるから。

 妹は、母の親戚の家に預けた。
 誰も世話が出来ないからだ。
 一応、時々妹の様子は見に行った。

 ……まだ、私は世界を恨みきれずにいた。
 残っていたからだ。
 母と妹が。
 一回だけなら耐えられたのだ、そう一回だけなら。





「……先輩」

 誰かが呼んでいる。
 私は、さっきまで何を見ていたのだろうか。
 あれは……誰の記憶だったのだろうか? 
 もう、夢の記憶はあいまいになっていた。

「宵月先輩! 起きてください」

 私は、目を開ける。
 カーテンの隙間から眩しい光が一瞬視界を覆うがすぐに慣れた。

 私の顔を覗き込んでいる、まだあどけなさの残る少女の顔が見える。
 短かめ茶色の髪、右目の青い瞳、左目の部分に付けられた白い医療用の眼帯。

「……あぁ、氷華。おはよう。ところで、今何時かしら」

「もう8時ですよ! いくら寮と学園の距離が近いと言ってもそろそろ起きないと一限の授業に間に合わないですよ!」

 あぁ、そのこと。
 私、別に早くに行かなくてもいいのだけど……。
 うーん、説明するのもめんどくさいし……寝よ。

 私は再び瞼を閉じる。

「おやすみ、氷華」

「ちょっと先輩! はぁ……私はもう行きますよ」

「行ってらっしゃい。ちなみに、私は午後からしか授業無いから」

「え、そうなんですか! すいませんでした……はぁ、私っていつも……行ってきます……」

 ……帰って来たら、励ましとこ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...