ユダの黙示録

神代リナ

文字の大きさ
上 下
11 / 13
第零章 砕けた氷

第十話 一日の終わり

しおりを挟む
 私たちは、お昼ご飯を食べたあと、4人でかなりの時間喋ってしまった。別に会話の内容は大したことはない。
 個々の近況報告や近くにある武器屋が新しく仕入れた武器の評判、Aクラスの恋愛の噂……まぁ、本当になんてことはない会話だ。

 ……それでも、いつ死ぬか分からない私たちにとっては、こんなどうでもいい会話をしている楽しい時間が、とても大事なのだ。

「じゃ、また明日」

「また明日、校舎で会いましょう」

 そう言って、恵梨香と胡桃の2人は去って行った。

「氷華、楽しかった?」

「はい、2人とも面白い人でした。……またいつか、こんな風に4人で楽しめる時間があれば良いですね」

「……そうね。きっと、いや、多分、またこんな時間を過ごせるわ」

 私は、きっと過ごせる、とは言い切れなかった。
 この世界は理不尽だ。
 どれだけ、善行を積もうと……一切悪いことをしなくても、災害に等しい圧倒的な力が突然現れて……あっさり人間は殺されるのだ。
 だから私は……言い切ることは出来なかった。

 窓から外を見る。
 真っ暗になりつつある……もう夕方か。
 もちろん、夕焼けなんてものは見れない。
 空は、いつでも分厚い雲で覆われているのだから。

「じゃ、私はあのバカが壊して行ったドアを直しとくから……あなたは部屋に入って暇つぶしでもしてて」

「分かりました」

 ……さて、この豪快に破壊されたドアをなんとかしよう。
 もちろん、私は物理的にこれを直す手段はないので、魔術でどうにかするしかない。

「……復元リストア

 私がそう唱えると、ドアは淡く輝きながら瞬時に壊れる前の姿に戻る。
 ……汎用魔術、ひょっとして戦闘よりも日常での方が使えたりする? 

 ま、いいや。
 一応、ドアを何回か開閉したが、大丈夫そうだ。
 私も、部屋の中に入る。

 部屋の中を見渡す。
 氷華が、机に座って必死に何かを書いていた。
 近づいて、横から覗き込んでみる。

 ……火属性魔術の術式か。
 しかもこれ、一番単純な術式"魔弾"のヤツ……この子、自分の適合属性火だったよね。

 ……間違いだらけね、これ。
 ていうか、火属性なのに温度下げてる式あるし。
 ……大丈夫かしら? この子。

「ねぇ、氷華」

「……」

 彼女は、魔術式を書いてるのに熱中してて気づかない。
 肩を揺らしてみる。

「ひゃ、ひゃい! ……痛い……」

 この子、びっくりして舌噛んじゃってるし……。

「大丈夫……?」

「だ、大丈夫です。それで、何ですか?」

「ここ、温度下がっちゃってるわよ」

 私は、間違っている場所を横から指差す。

「あ、ほんとですね」

「あと、ここも……」

 途中、近くのコンビニで買ってきた弁当を夕食として食べたり、シャワーを交代で浴びたりしながら、私たちは魔術式を結局21:00まで書き続けた。

「……もう消灯時間ね」

 寝巻きに着替えながら、私はそう呟く。

「そうですね。今日は、ありがとうございました」

 ……やたら氷華は嬉しそうだ。
 魔術式なんか書いたって楽しくないだろうに。

「じゃあ、電気消すから。貴女は早く上に登って」

 氷華は、二段ベッドの上だから、彼女が登ってから電気を消さないと大惨事になりそうだ。

「はい、おやすみなさい。宵月先輩」

 私は電気を消して、自分のベッドに潜り込む。
 目を閉じる前に、スマホを開き、情報屋と書かれたアドレスに1本のダイレクトメールを送ってから眠りについた。
しおりを挟む

処理中です...