こんな呪われた世界で

おかか

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1章 魔法少女

加速

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「さて、と。私としてはこのまま退散してくれた方が楽でいいんだけど。」
 
 二人を担いだヤスが森に入ったことを確認した後、少女はストロベリー・ハートに向き直った。

「私の魔法が、そんなバカな。ありえない、ありえない、ありえない……。」

 だが、彼女は少女の話を聞いている様子はなく、独り言を呟くのみだ。

「私の魔法が負けるはずない!嘘だ、嘘に決まってる!」

 今までとは様子が変わり、錯乱したように叫び始めた。

「ま、そうなるよね。でも、無駄だと思うけど?」
「うるさいうるさいうるさい!黙れェ!」

 そして、叫びながらステッキを振りかざした。

「マジカル・ハート・バーニング!」

 彼女の詠唱に反応して、ステッキから炎が巻き起こる。
 炎はまるで意思を持つかのように、火球となって少女の元へと走った。

 炎が迫る中、少女は眉一つ動かさず、退屈そうに立っていた。

 ゴウッ!

 火球は少女へと炸裂した。
 さっきまで少女がいた空間を、炎が燃やし尽くす。

「フフ、フフフ、ハハハハハッ!!。燃えた、燃えたわ!なによ、やっぱり偶然だったんだわ。私の魔法が効かないはずないもの!」

 燃え盛る炎を見て、彼女は狂ったように笑い続ける。
 少しでもあの少女に恐怖を感じたことを、誤魔化すように。

「そろそろ耳障りだよ、オバサン。」

 その時、彼女の耳に、ありえないはずの声が聞こえた。

「え、嘘……。あなた、どうして。」

  業火の中、少女はそこに立っていた。
 ストロベリー・ハートの足は、自然と数歩、後ろに下がる。ただ立っているだけの少女に、まるで気圧されてしまっているかのように。

「面倒臭いから詳しくは教えてあげないけど、理由はたった一つ。、ストロベリー・ハート。それだけ。それじゃあ、こっちのターンね。」

どこから取り出したのか、少女の手にはいつの間にか、一振りの日本刀があった。

「死にたくなかったら、死ぬ気で避けなさい。」

  ダンッ

 少女の踏み込みを、彼女は捉えることが出来なかった。
 まさに神速、一つ瞬きをする間にも、彼我の差は零になっていた。

 彼女は斬撃を予想し、必死に腕でガードを作る。

 トンッ

 だが腕に感じたのは、予想していたより遥かに小さい衝撃。
 少女は腕に飛び乗り、上空へと跳んだのだ。

「ハァ!」

 大上段に構えた少女は、落下する勢いそのままに、空中で抜刀。一直線にストロベリー・ハートへと向かう。
 
「ッ!」

振り下ろされる斬撃に、彼女は辛うじて飛び退く。だが、少女の攻撃はそこでは止まらない。
 着地と同時に切っ先を反転、瞬時に間合いへと踏み込む。
 もはや反応もできぬ刹那、互いの視線は交錯する、驚愕と無感情、異なる感情が映る視線が。
 一閃、少女は逆袈裟斬りを、ストロベリー・ハートへと叩き込んだ。
 
ドサァ

 斬撃をまともに受け、地に倒れ伏す。
 さっきまで傷一つつかなかった体から、おびただしい量の血が流れ出す。

「まぁ、死にはしないよ。貴方が魔法少女ならね。」
「う……、アァァァッ。痛い痛い痛い!どうして!?こんなはずないわ、どうしてこんなに痛いのよ!うぅ、ううぅ……。…………………………。ガ、ガガガガガガガガガガガガ。」

 突然、蹲っていた体を跳ね起こし、ノイズ音を口から漏らし始めた。

「始まったか。よし、撤収するよ!」

 少女は周りにいる男達に声をかけ、森へと歩いていった。

「ガガガガガガガガガ……。私は魔法少女ストロベリー・ハート、私は……。」

 虚ろな目をしたまま、ブツブツと話し続けるストロベリー・ハートを残して。
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