あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

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第一章 異世界召喚と旅立ち

038 ラロイさん家の災難3 走れマルコス!

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「あ、あの! お父さんは生きてるんですか?」

 泣き崩れているミネットさんの隣で、気丈にもマリルちゃんが父親の安否を確認する。

「あぁ……医者に連れて行ったときはまだ息はあった。でも、酷くやられちまったから、そう長くは持たないかもしれない」
「そんな、お父さん。ううっ……」

 マリルちゃんもその場に座り込み、お母さんのミネットさんに縋りついて泣き始めた。

「う、嘘だ! お父さんはとっても強いんだ! ワヒーラなんかに負けるわけない!!」

 持っていた木剣を放り出してルド君は、報告に来たマルコスさんの服を掴んで力いっぱい揺すっている。
 しかし、そんなルド君に、マルコスさんは諭すように優しく答えた。

「坊主……今まで何人も犠牲になってるんだ、いくらお前の父ちゃんがこの町でも有数の戦士だとしても、ワヒーラにゃあ勝やしない。奴は化け物なんだよ」
「ううぅ、嘘だ、嘘だーー! うわーーーー」

 さっきまで良い感じのホームドラマだったのに、あっという間にモンスターパニックものになってしまった。

 "ワヒーラ"というのは町の外から来たモンスターか何かだろうか? 先輩が言う通り塀の外は恐ろしい外敵がいたということだろう。
 もし、僕たちが野営をしているときにそんな化け物が襲い掛かってきていたら……そう思って、僕は背中に冷たいもの感じた。



 泣き出したルド君をギュッと抱きしめて、マルコスさんはラロイ家の3人に話しかける。

「今から急いで医者に行けば、なんとかカロンの最後には立ち会えるだろう。急いで準備をしてくれ。ほら、ミネットさん!」

 地面に座り込んでいたミネットさんは、その言葉を聞いてゆっくりとだが立ち上がって二人の子供に、外に出る準備を促す。

「今からお父さんのところに行くよ。ふたりとも一応上着を羽織っておいで、私は暖炉の火を消してくるから、マリルは私の上着も持ってきて頂戴。ほら、急いで!」
「わかった!」「うん!」

 マリルちゃんとルド君は急いで居間に戻って壁にかけてあった上着を羽織っている。
 ミネットさんは暖炉の火に灰をかぶせて消火したあと、戸棚から財布と思われる巾着袋を取り出して胸元にしまっている。

 その間僕はどうしたら良いのかわからなかったけど、とりあえず一緒に外に出る準備をすることにした。
 着ていたローブの前をしっかりとめて、被っていたフードをさらに深く、万が一にでも耳が出ないように引っ張って被り直した。
 そして、椅子にかけてあった鞄をしっかりと肩からかけたときに、バッグの横のポケットが膨らんでいることに気付いた。

「あ、マリルちゃんのお母さん!」

 マリルちゃんのお母さんは丁度マリルちゃんから上着を受け取って羽織っているところで、もう全員の準備が終わって、あとは出発するだけのようだ。

「なんだいラヴィちゃん。悪いんだけど、一人で留守番させるわけにもいかないから、一緒に来てもらうことになるけど、いいかい?」
「うん、それは構わないんだけど……お父さんは怪我をしてるんだよね? これ、使えないかな?」

 そう言ってバッグのポケットから使いかけのポーションを取り出して見せた。
 小瓶の中には薄い緑色の液体が入っている、僕が使ったときは舐める程度しか使わなかったのだ。
 今日開けたばかりだし、きっとまだ使えるはずだ。
 それでだめならバッグの中にはあと5本もポーションがあるのだから、これできっとなんとかなる。

 僕の手にある回復ポーションを見て、マリルちゃんが飛びついてくる。

「そうだよ、ラヴィちゃんは回復のポーションを持ってたんだ! お母さん、これでお父さんが助かるかもしれないよ、ラヴィちゃんありがとう!」
「そんな、いいのかい? 回復のポーションって言ったら、金貨1枚はする代物じゃあないか。そんな簡単に人に差し出すようなものじゃあないんだよ?」

 喜ぶマリルちゃんと対照的に、少し戸惑っている風のミネットさんだが、今は時間がないのだ、無理やり押し切らせてもらおう。

「いいんだよ。私の舌の火傷に使ったあまりになっちゃうけど、そんな程度のことに使っちゃうようなモノなんだから。ほら、時間が無いかもしれなんだよ、急ごう!」

 「ほら、早く!」と急かす僕に、「ありがとう、ありがとうね」と泣きながらお礼を言うミネットさん。
 それを見て、ラロイさん一家を呼びに来ていたマルコスさんは唖然としている。

「回復ポーションをぽんと出すなんて、とんだお大尽だな……あれ、あの娘は門の前であった兄妹の妹さんじゃないか?」

 そんなことを考えていたマルコスさんに、ミネットさんが急かすように言う。

「ほら、準備できたよ! 急いどくれ、うちの旦那が助かるかどうかが懸かってるんだからね!」
「あ、ああ、わかった、急いでいこう。西門の近くの医者の所だ」



 そう言ってマルコスさんは、一家の先導を始めたのだが走るのが遅かったようで、急いているミネットさんに怒鳴られている。

「もっと早く走れないのかい!」
「お、おう、わかった。もっと飛ばすぞ!」

 急かされたマルコスさんは、僕たちの前を走るペースを更に上げて先導をしている。

 夜の路地を、鎧のおじさん、主婦、少女、少年、幼女の5人の集団が猛スピードで走っていく。
 それを見かけた人は何事かと思ったのだが、声をかける間もなく彼らは走り去っていくのだった。
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