あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

文字の大きさ
65 / 85
第二章 迷宮都市ロベリア

065 風の魔法剣とモグリのシーナ

しおりを挟む
 ラウニさんの風魔法によってオークの一匹が倒されたが、まだ一匹エレクさんが受け持っているオークが残っている。

 気を抜かないようにしないと。そう思いながら残ったもう一匹のオークに目を向けると、足に短剣が突き刺さっているのが見えた。
 マイアさんは、エレクさんを手伝っていたようだ。そのオークの正面で、槍を使って牽制していたエレクさんが声を張り上げる。

「おい、ジグガンド! そっち終わったんならこっちを手伝ってくれよ」

 倒したオークの死亡確認をしていたジグガンドさんとラウニさんは、顔を上げてエレクさんたちの方を見る。

「おうよ、すぐ行く! おい、シーナ。そっちは大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。こっちのPTの人もなんとか助かったみたいです」

 俺の返事を聞いたジグガンドさんは、右手に持った片手斧を水平に突き出して構えた。

「よっしゃ! じゃあラウニ、アレいくぞ!」
「ああ、こいつで決めてこい」

 ラウニさんが手に持った杖を、ジグガンドさんの斧に向かって構える。

「風よ 刃に宿れ」

 ラウニさんの詠唱(?)の終わりと同時に、大気中に光の粒が現れて、次々にジグガンドさんの斧に向かって集まっていく。
 その様はまるで、光る風が渦を巻いて吸い込まれていくようで、斧の真ん中に埋め込まれた緑色の宝石が、吸い込んだ風を糧に燃え上がる炎のように力強く光り始める。

「す、すげぇ……アレが風の魔法剣ってやつか」

 お姉さんのカイヤさんの回復を確認したマック君は、弟のゴルテガ君に後を任せて、残ったオークの討伐を手伝おうと剣を構えていたのだが、その手を止めてラウニさんの魔法に見入っている。

「もしかして、アンタらのPTは"リゼルタの旋風"か?」
「そうですけど……知ってるんですか?」

 俺の発言に呆れ顔になったマック君だったが、それでも律義に答えてくれる。

「"リゼルタの旋風"っていったら、迷宮都市でも一二を争う探索者クラン"黒鉄くろがね戦斧せんぷ"所属のPTの一つじゃないか。探索者をやってて知らないなんて、モグリもいいとこだぜ」
「へぇ、そうなんですか。すごいんですね」

 どうやらラウニさん達のPTは、迷宮都市ではなかなか有名なPTらしい。
 リコットちゃんが話をつけたその日の内に、俺をバイトとして雇ってくれたから、そこまで大手のPTではないと思い込んでいたのだが……

「へぇって、お前な……」
「あ、勝負が決まりそうですよ」

 さっきまでジグガンドさんの持った斧に向かって、轟々と吹き込んでいた風がピタリと止み、静まり返った洞窟の中に、甲高く金属が震えるような硬質な音が響いている。

"キィィィィイン……"

「風が……風が鳴いている」

 マック君が風魔法がかかったジグガンドさんの斧を見て、そんなことを呟いている。

 だが、多分あれは斧が振動している音だろう。
 超振動ブレード。SFモノだと定番なんだけど、ファンタジーだと珍しいかもしれない。
 普通は刃が薄いナイフや剣でやるものだろうに、あんなデカい斧でやるなんてすごい力技だ。

「準備出来たぜ、あとは俺に任せな!」

 盾を前に突き出し、後ろに斧を構えたジグガンドさんが、マイアさんとエレクさんが押さえていたオークに向かって、ずんずんと歩を進める。

「おう、やっちまってくれ」
「もう、遅いのよ!」

 オークの前から二人が退き、必然的にオークとジグガンドさんの一対一を見守るという形になる。

 エレクさんとマイアさんから攻撃を受け続けていたオークは、すでに全身細かい切傷だらけになっており、足に加えて背中にも短剣が突き刺さっていた。
 満身創痍で荒い息を吐いているオークの前に、準備万端のジグガンドさんが魔法のかかった斧を光らせながら迫っている。

 ……敵ながら同情せざるを得ないような状況だ。

「グァ、ウゥ……」

 流石にオークも絶望的な自分の未来を想像したのか、顔色が悪い……毛だらけの豚みたいな顔なのでわかり辛いが、たぶんそうだろう。

「ブヒッ……」

 周りを見回して、逃げ道を探している様子のオークだが、背後にはオルガの大穴を背負い、左右をマイアさんとエレクさんに塞がれている。

「グフゥォオオッ!!」

 どうしようもないことに今更ながらに気付いたようだ。
 オークは吹っ切れたように叫び声をあげると、小学生の子供くらいありそうな巨大な棍棒を頭上に振りかぶり、ジグガンドさんへと襲い掛かった。

「はっ、かかってこいやブタ野郎!」

 啖呵を切ったジグガンドさんは、オークから振り下ろされる棍棒を、前に突き出していた盾で受けて逸らすと、体勢を崩したオークの脳天目掛けて斧を振り下ろす。

「くたばれ!」
「ブヒィイッ!」

 緑色に輝く斧が脳天に迫る中で、オークは地面を叩いた棍棒を無理やり引き戻すと、倒れながらもなんとか斧と自分の体の間にそれを割り込ませる。

 今までの戦闘でも、オークやゴブリンは知性を感じさせるような戦闘方法を取ってくることがあったのだが、こいつはその中でも特にしぶとく、武器の扱いにも長けている個体のようだ。

「無駄だぁーー!!」

 "ズドンッ"

 ジグガンドさんが振り下ろした斧は、オークのこん棒を真っ二つに切り落とし、右肩から腰のあたりまで一気に切り裂いた。

 オークの右腕が胴体から、10cm程の厚さの肉で繋がったままぶら下がっている。
 こん棒の所為で頭から狙いがずれたようだが……下手したら脳天から股間まで真っ二つにしてしまいそうな、とんでもない威力の一撃だった。

 "キュルゥウウウ"

 鳥が鳴くような甲高い音がした後、オークに突き刺さったままの斧が……

 "ドパァーーンッ!!"

 爆発した。

 まだ繋がっていたオークの右腕が遠くへとちぎれ飛んで、暗い穴の中へと落ちていき、爆風で吹き飛ばされたオークの体は後ろへとゴロゴロと転がった後、ピクリとも動かなくなった。



「す、すっげぇぇーー! 流石は黒鉄の戦斧のPTだ、マジやべぇぜ!!」

 俺の隣でマック君が大騒ぎしている。
 ちょっとうるさいが気持ちはとてもわかる。ジグガンドさんの一撃は派手で格好良かった。

「ふぅ、なんとかなったな」
「あの技、威力はすごいけど血が飛び散るのよねぇ」

 いつの間にか俺の隣まで退いてきていたエレクさんとマイアさんが、やっと一息つけるといった感じで話している。

「おい、お前ら何逃げてんだよ!」

 そんな二人に、至近距離でオークの身体を爆発させたジグガンドさんが、血まみれで近寄ってくる。

「ちょ、ちょっとこっちに来ないでよ!」
「あぁっ? 仲間だったら一緒に我慢して、血まみれになろうって気は起きねぇのかよ!」
「なにそれ、気持ち悪い! そんな気起きるわけないでしょ。アンタ一人で真っ赤になってなさいよ!」
「なぁにぃ!?」

 戦闘終了の安堵からか、また二人でヤイヤイやり始めた。

「ったく……シーナ君、大丈夫だったかい?」

 そんな二人を横目に、アレクさんが俺の方へと近づいてくる。

「はい、そちらで2匹とも引き受けてもらえたんで、こちらはなんともありませんでした」
「そうか……それにしても、良かったのかい? ポーションなんて使っちゃって」

 そう言って、まだ気を失ったままのカイヤさんとゴルテガ君に目を向ける。

「シーナ君お金持ってないんだろう? あんな高価なポーションを使っちゃって……明日からは俺たちのPTから卒業だっていうのに、やっていけるのかい?」

 エレクさんは、そこまで言ったあと何かに気付いたようにニヤニヤしながらこちらを見てくる。

「なるほどねぇ、そこのお姉ちゃんが倒れていた子か……シーナ君も男の子だねぇ」
「な……なんのことですか?」
「いやぁ、リコットちゃんというものがありながら、まったく君は見た目のわりに結構気が多いんだなぁって思ってさ」

 エレクさんのそんなセリフを聞いたゴルテガ君は、俺の視線から遮るようにカイヤさんを背中に隠す位置に移動した。
 なんだかこっちを睨んでるような気がする……いや、気のせいじゃなくばっちり睨まれているな。

「ちょっと、やめてくださいよ。そういうのじゃないですから」
「なんだい? 明らかにこの階層に来るには力不足の彼らに、分不相応な高価なポーションを使って代金を巻き上げる算段じゃあないのかい? いや、金は持ってなさそうだからその娘の体で……」
「ちょ、エレクさん!?」

 慌てる俺を見てひとしきり笑ったエレクさんは、満足したのか軽く手を振りながら謝ってくる。

「あはは、ごめんごめん。でもちゃんと対価は貰わないとダメだよ。君は人ひとりの命を救ったんだ。何にもなしっていうのは逆に命を軽んじていることになるんだよ」

 そう言って俺の肩をポンポンと叩いた。

 エレクさんはそう言うけれど、モンスターを倒して彼らを助けようと言い出したのも、戦って倒したのも俺以外のPTの人たちなんだから、ポーションを使っただけの俺に恩を感じさせるのはちょっと違うんじゃあないだろうか?

 そんなことを考えていると、ジグガンドさんが最後に仕留めたオークの様子を見に行ったマック君が騒いでいる声が聞こえてきた。

「うぉーー! 右半身が、オークの右半身がぶっ飛んでるぜ! どうやったらこんなこと出来るんだよ!」

 そんなことを言いながら、手に持った剣で魔法剣をくらって吹っ飛んだオークの身体をツンツンとつついている。

 マック君はさっきからテンション高いなぁ。
 どうやったらって……斧に魔法をかけるところから、一撃食らわせてぶっ飛ばすところまで一部始終見てたんじゃないのか?

 そう思って、倒れているオークをつついているマック君を眺めていると、右半身を失ったオークの残った左手が動いているのが見えた。



 あれ、やばくないか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...