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第二章 迷宮都市ロベリア
073 ジグガンドの過去と撤退作戦
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地面に突き立てられた五つの木の棒……いや、5墓の墓の前にジグガンドさんは神妙な顔で立っている。
この墓はジグガンドさんが所属する"黒鉄の戦斧"がおこなった、ボス討伐戦の犠牲者のものらしい。
しんみりした空気だ。なんと話しかければ良いだろうか? かける言葉が思い浮かばない。
しかし、そんな俺の心配を無視するように、ジグガンドさんは普通に話しかけてきた。
その顔には、もうさっきみたいな張り詰めた雰囲気はない。
「もう何年も前に作ったものなんだけどよ、迷宮に吸収されずにちゃんと残ってるもんだな」
そう言って一番小さな木の棒の上に乗せられた、銀色の認識票を懐かしそうな眼をして撫でている。
「外から持ち込んだモノは、時間がたつと迷宮の中に取り込まれちまうだろ? だから、この墓はこの階層に生えている木を切ってきて作ったんだよ……ボスと戦った後だったから、みんな満身創痍だったんだが、ほっといていくわけにもいかなかったからなぁ」
迷宮内では生き物の死体がまず溶けて吸い込まれる。その次に有機物、そして最後に無機物の順で迷宮に吸収されていく。
しかし、迷宮の中の植物や鉱物は多少加工しても吸収されないようで、壁に掛けられている道しるべの照明(光石というものが使われているらしい)や、冒険者が身に着けている認識票は、ダンジョンの中に取り込まれないように探索者が持ち帰った迷宮内の鉱石から作られているらしい。
オルガの大穴の名前の元になった探索者、オルガレフは下りて行った穴のある階層から、ずっと先の階層で見つかったということらしいが、この迷宮に吸収されない認識票を見つけて持ち帰った者がいたということなのだろう。
「転移石はボスの魔核なんだが、その石に転移に必要な魔力が溜まるまでに1日くらいの時間がかかっちまうんだ。だから討伐が終わった後でも、死んだ奴等を外へ連れて帰るってわけにもいかなくってよ……あいつらが溶けていくところは見たくはなかったから、ここに掘って埋めちまったってわけだ」
ジグガンドさんは、そう言いながら腰に結び付けた袋に手を突っ込んでゴソゴソしている。
「あぁそうか、落ちてきたときに酒の瓶は割れちまってたんだったな……悪いなスアレス、レフィア、あと……え~っと、他の奴らも……酒はまた今度来た時までお預けだ」
ハハッと寂しそうに笑った後に、頭を掻きながらジグガンドさんは、そう独り言《ご》ちた。
ジグガンドさん……名前くらい覚えておこうよ。
そう思いながら視線を向けてみると、苦笑いのジグガンドさんが言い訳を始める。
「い、いや、アレなんだよ。あの時は、普段は顔を合わせないような人間まで搔き集めた作戦だったんだよ。他のPTの殆ど初対面の人間まで覚えてなくてもしょうがねぇだろ」
そう言いながら、他の認識票を見て名前をチェックしている。
「そうだそうだ、イワン、アダラ、エンゾだったな」
なんともしまらないが、ジグガンドさんの仲間だったのは確からしい。
普段はジグガンドさんのPT"リゼルタの旋風"は4人PTだが、さっきのミノタウロスと戦う時は、数十人のクランメンバーを集めて討伐作戦を組んだということだろう。
MMORPGで言うところのレイドボス戦みたいなものなのかな?
そう考えると、あまり顔を知らない人間がいてもおかしくないのかもしれない。
「レフィアは同じ村から出てきた俺とラウニの幼馴染だったんだよ。そんで、スアレスはレフィアに惚れてたみたいで、俺たちにいつも突っかかってきてたからよく覚えてるぜ」
そこまで言うと、手をのせていた木の棒をポンポンと叩いて、こちらへと視線を向けてきた。
「とりあえず、一度最初に落ちてきたあの場所に戻ろうぜ。相手がボスなら作戦を練り直したほうがいいだろうからな。ミノタウロスは魔術師とは相性が悪すぎる」
「え……でも……」
リコットちゃんや田仲君を心配させたくないし、さっさとボスを倒して帰りたいと思っていたのだが……
「ミノタウロスの巨体から繰り出される攻撃を止められるようなヤツは、ウチのクランの大将くらいしかいねぇからな……詠唱中の魔術師を狙われちまうと止めようがねぇ。いくらお前が強いと言っても、ミノタウロスを相手に一人で戦わせるわけにはいかねえだろ」
確かに、オーク相手でもあれだけ苦労するのだから、更に大きいボスモンスターのミノタウロス相手だと、普通の人は真っ向から力比べをするのは自殺行為だろうなぁ。
「それに……ここが30階層だっていうんなら、俺に良い考えがある。一度最初の拠点に戻るぞ……いいな?」
「はぁ……わかりました」
ジグガンドさんに、そこまで言われてしまっては、無理に反対するわけにもいかない。
しょうがないので、俺たちは一旦最初の場所に戻ることにした。
再び前日のキャンプ地点へと戻ってきた俺たちは、拠点で快適に夜を過ごせるように準備を始めた。
ジグガンドさんの考える作戦を実行するには、数日ここで過ごさなければならないらしいので、明るいうちに必要なものを揃えておくのだ。
まあ、つまりは昨日と同じだな。
「シーナ、お前の持ってる食料はあと何日分だ?」
ジグガンドさんが、周りから拾い集めてきた薪を樹のウロの中へと運び込みながら訪ねてくる。
「え~っと、ステーキとシチューが6食分ですね……あとは空き瓶に詰めた水が少々ありますけど、そんなに何日も持つほどはありませんよ?」
「おー! あのクソ美味いステーキとシチューが、あと6回も食べられるのか!」
キラキラした目でこちらを見てくるジグガンドさん。
「二人だから、それぞれ3食ずつね……でもこの程度じゃあ、あと何日も持ちませんけど大丈夫なんですか?」
昼食を抜いて、朝と夜にどちらかを一食分だけ食べるとしても、残りは3日分といったところか……なんとも心もとない。
ダンジョン探索に行くのだから、本当はもっと食料を魔法の鞄に入れておきたかったが、なにぶん今の俺たちはリコットちゃんのヒモと化しているため、自由にできるお金がなかったのだ。
あぁ、早く稼げるようになりたい……。
「おう、心配ないぜ! 今日は白の月の30日だろ? つまりは、明日になれば青の月になるってことだ」
「そりゃあ、明日になれば青の中月になりますけど……なにかあるんですか?」
「ふふんっ」
どういうことなのかイマイチわかっていない俺に、ジグガンドさんは自信ありげに笑い返してきた。
「この階層のボスに挑戦するクランがあるんだよ。ウチのクランにも通達があったから間違いねえはずだぜ!」
ガハハと笑いながら、得意気に胸を張っているジグガンドさん。
ボス討伐……なんて都合が良いタイミングで! 変なフラグじゃないだろうな?
この墓はジグガンドさんが所属する"黒鉄の戦斧"がおこなった、ボス討伐戦の犠牲者のものらしい。
しんみりした空気だ。なんと話しかければ良いだろうか? かける言葉が思い浮かばない。
しかし、そんな俺の心配を無視するように、ジグガンドさんは普通に話しかけてきた。
その顔には、もうさっきみたいな張り詰めた雰囲気はない。
「もう何年も前に作ったものなんだけどよ、迷宮に吸収されずにちゃんと残ってるもんだな」
そう言って一番小さな木の棒の上に乗せられた、銀色の認識票を懐かしそうな眼をして撫でている。
「外から持ち込んだモノは、時間がたつと迷宮の中に取り込まれちまうだろ? だから、この墓はこの階層に生えている木を切ってきて作ったんだよ……ボスと戦った後だったから、みんな満身創痍だったんだが、ほっといていくわけにもいかなかったからなぁ」
迷宮内では生き物の死体がまず溶けて吸い込まれる。その次に有機物、そして最後に無機物の順で迷宮に吸収されていく。
しかし、迷宮の中の植物や鉱物は多少加工しても吸収されないようで、壁に掛けられている道しるべの照明(光石というものが使われているらしい)や、冒険者が身に着けている認識票は、ダンジョンの中に取り込まれないように探索者が持ち帰った迷宮内の鉱石から作られているらしい。
オルガの大穴の名前の元になった探索者、オルガレフは下りて行った穴のある階層から、ずっと先の階層で見つかったということらしいが、この迷宮に吸収されない認識票を見つけて持ち帰った者がいたということなのだろう。
「転移石はボスの魔核なんだが、その石に転移に必要な魔力が溜まるまでに1日くらいの時間がかかっちまうんだ。だから討伐が終わった後でも、死んだ奴等を外へ連れて帰るってわけにもいかなくってよ……あいつらが溶けていくところは見たくはなかったから、ここに掘って埋めちまったってわけだ」
ジグガンドさんは、そう言いながら腰に結び付けた袋に手を突っ込んでゴソゴソしている。
「あぁそうか、落ちてきたときに酒の瓶は割れちまってたんだったな……悪いなスアレス、レフィア、あと……え~っと、他の奴らも……酒はまた今度来た時までお預けだ」
ハハッと寂しそうに笑った後に、頭を掻きながらジグガンドさんは、そう独り言《ご》ちた。
ジグガンドさん……名前くらい覚えておこうよ。
そう思いながら視線を向けてみると、苦笑いのジグガンドさんが言い訳を始める。
「い、いや、アレなんだよ。あの時は、普段は顔を合わせないような人間まで搔き集めた作戦だったんだよ。他のPTの殆ど初対面の人間まで覚えてなくてもしょうがねぇだろ」
そう言いながら、他の認識票を見て名前をチェックしている。
「そうだそうだ、イワン、アダラ、エンゾだったな」
なんともしまらないが、ジグガンドさんの仲間だったのは確からしい。
普段はジグガンドさんのPT"リゼルタの旋風"は4人PTだが、さっきのミノタウロスと戦う時は、数十人のクランメンバーを集めて討伐作戦を組んだということだろう。
MMORPGで言うところのレイドボス戦みたいなものなのかな?
そう考えると、あまり顔を知らない人間がいてもおかしくないのかもしれない。
「レフィアは同じ村から出てきた俺とラウニの幼馴染だったんだよ。そんで、スアレスはレフィアに惚れてたみたいで、俺たちにいつも突っかかってきてたからよく覚えてるぜ」
そこまで言うと、手をのせていた木の棒をポンポンと叩いて、こちらへと視線を向けてきた。
「とりあえず、一度最初に落ちてきたあの場所に戻ろうぜ。相手がボスなら作戦を練り直したほうがいいだろうからな。ミノタウロスは魔術師とは相性が悪すぎる」
「え……でも……」
リコットちゃんや田仲君を心配させたくないし、さっさとボスを倒して帰りたいと思っていたのだが……
「ミノタウロスの巨体から繰り出される攻撃を止められるようなヤツは、ウチのクランの大将くらいしかいねぇからな……詠唱中の魔術師を狙われちまうと止めようがねぇ。いくらお前が強いと言っても、ミノタウロスを相手に一人で戦わせるわけにはいかねえだろ」
確かに、オーク相手でもあれだけ苦労するのだから、更に大きいボスモンスターのミノタウロス相手だと、普通の人は真っ向から力比べをするのは自殺行為だろうなぁ。
「それに……ここが30階層だっていうんなら、俺に良い考えがある。一度最初の拠点に戻るぞ……いいな?」
「はぁ……わかりました」
ジグガンドさんに、そこまで言われてしまっては、無理に反対するわけにもいかない。
しょうがないので、俺たちは一旦最初の場所に戻ることにした。
再び前日のキャンプ地点へと戻ってきた俺たちは、拠点で快適に夜を過ごせるように準備を始めた。
ジグガンドさんの考える作戦を実行するには、数日ここで過ごさなければならないらしいので、明るいうちに必要なものを揃えておくのだ。
まあ、つまりは昨日と同じだな。
「シーナ、お前の持ってる食料はあと何日分だ?」
ジグガンドさんが、周りから拾い集めてきた薪を樹のウロの中へと運び込みながら訪ねてくる。
「え~っと、ステーキとシチューが6食分ですね……あとは空き瓶に詰めた水が少々ありますけど、そんなに何日も持つほどはありませんよ?」
「おー! あのクソ美味いステーキとシチューが、あと6回も食べられるのか!」
キラキラした目でこちらを見てくるジグガンドさん。
「二人だから、それぞれ3食ずつね……でもこの程度じゃあ、あと何日も持ちませんけど大丈夫なんですか?」
昼食を抜いて、朝と夜にどちらかを一食分だけ食べるとしても、残りは3日分といったところか……なんとも心もとない。
ダンジョン探索に行くのだから、本当はもっと食料を魔法の鞄に入れておきたかったが、なにぶん今の俺たちはリコットちゃんのヒモと化しているため、自由にできるお金がなかったのだ。
あぁ、早く稼げるようになりたい……。
「おう、心配ないぜ! 今日は白の月の30日だろ? つまりは、明日になれば青の月になるってことだ」
「そりゃあ、明日になれば青の中月になりますけど……なにかあるんですか?」
「ふふんっ」
どういうことなのかイマイチわかっていない俺に、ジグガンドさんは自信ありげに笑い返してきた。
「この階層のボスに挑戦するクランがあるんだよ。ウチのクランにも通達があったから間違いねえはずだぜ!」
ガハハと笑いながら、得意気に胸を張っているジグガンドさん。
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