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第二章 迷宮都市ロベリア
080 ミノタウロス討伐作戦5 牛おっぱいvs猫ちっぱい
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集合の鐘の音が鳴ってから約一時間後、貴族の薔薇の奴隷たちは30階層のボス、ミノタウロスが住まうという部屋の前に集合していた。
突然の招集とボス討伐計画の前倒しに、当初は不満をいう者たちもいたのだが……スポンサー様の命令という事で、どれだけ文句を言われようと計画の変更は出来ないということを説明されると、渋々と準備をするために散っていった。
それからしばらくの後、戦闘準備を整えた奴隷たちは、それぞれの班ごとに集合して戦いの時を待っていた。
ボスとの戦闘に怯え震えている者、周りの人間にバカな話を振って恐怖を紛らわす者、瞼を閉じて精神を集中している者……それぞれのやり方でミノタウロスとの死闘の前の、緊張した時間を過ごしていた。
そんな一団から少しだけ離れた位置で、貴族の薔薇の切り込み隊長を務めるガルフは、一人静かに瞑想をしていた。
そのガルフのところに、ひとりの獣人が近づいて声をかける。
「今からミノタウロスの野郎と一発やろうっていうのに、のんびり寝てるなんて、ウチの班のリーダーは呑気なもんだねぇ」
大きな金属製のメイスに寄りかかったポーズで、体重を預けた格好のままガルフに声をかけてきたのは、やたらと胸が大きな獣人の女だった。
その女はメイスの柄に顎をのせたまま、ゆるく跳ねている自分の茶色い癖毛をグイグイと押さえつけている。
しばらくはそうやって髪の毛を撫でつけていたのだが、ガルフが無視を決め込んでいることに気付くと、不機嫌そうな顔でメイスを担いで近付いてきた。
「ちょっとホントに寝てんのかい? 勘弁しておくれよ、あんたが最初にミノタウロスにひとあてするんだろう? そんな調子で本当に大丈夫なのかい!?」
ガルフは片目を開けて、その近くで騒ぎ立てて精神集中を邪魔してくる女を眺める。
「なんだ、ムッカか……」
そう呟くと、ガルフは再度目を閉じて瞑想を続けた。
「なんだとはご挨拶だね、残念ながらアンタお気に入りのテトちゃんじゃあないよ、猫じゃあなくて牛の女で悪かったね」
そう言ってニヤニヤ笑いを浮かべている女は、”ムッカ”という名前の牛獣人だ。
牛獣人の特徴である大きな胸と、クリクリと動く牛の耳が頭にあるのだが、左右両方の角は根元からぽっきりと折れて無くなっている。
奴隷に落ちるような人間の過去には、ろくでもないことが色々とあるのだろう、ガルフは今までそのことについてムッカに訪ねたことはなかった。
そんな事情を知れば情が移ってしまうかもしれない、できるだけ他人との距離は取っておきたかった。
それがどれだけの効果があるのかは、もはや謎ではあったが……。
ガルフの前に立っているムッカは、大きく張り出た胸と尻を、小さな面積の革の装備で隠すような、とても挑発的な服装をしている。
そんな彼女は、貴族の薔薇の男連中の中で、1・2を争うほどの人気を誇っていた。
ホットパンツとチューブトップ、そして四肢に手甲と拗ね当てを装備した機動性重視の格好をして、いつも男どもの視線をくぎ付けにしている。
獣人達の男はとにかく胸と尻が大きな女が好きなのだ。ムッカの様な体型の女は、獣人の男達からとても人気があるのだ。
(ちなみにテトは小さくて細い体をしている)
「さっきまでテトと二人でいたんだろ、あの娘とは良い仲なんじゃあないのかい? それなのに今回の作戦で、あの子を他所の班に入れちゃってさぁ」
ムッカはそう言って”呆れた男だよ”といった表情をしている。
「あいつとはそういう関係じゃない。それに最前線のウチの班に入るよりは、他に入ったほうが安全だろう」
眼を閉じたまま、表情をまったく変えずに答えるガルフの態度に、面白くなさそうに「あぁ、そうかい」と返事を返すムッカ。
「まったく、貴族様の気まぐれにはまいったもんだよ」
「ああ」
「このへんの階層に慣れてない連中は、まだまだ疲れが取れてないっていうのに」
「ああ」
「それなのに、もうすぐミノタウロスとの戦闘だっていうんだからねぇ……」
「ああ」
「…………」
「…………」
気のない返事ばかり返すガルフの態度に、”はぁ~”と大きくため息つくムッカ。
そして、ガヤガヤと騒いでいる他の奴隷たちの方へと視線を投げ、寂しそうな表情をしたまま呟いた。
「……今回は何人死んじまうのかねぇ」
「……」
ムッカの寂しそうな声に、ガルフは瞑想を止めて彼女の方へと視線を向ける。
丁度こちらへと向き直ったムッカと目が合ったが、ガルフはまっすぐとムッカを見続けた。
「な……な、なんだい!」
「30階層のボス相手だ、犠牲を一人も出さないっていうのは難しいだろう」
なぜか慌てた様子のムッカに、ガルフは無表情のまま声を投げかける。
そのガルフの正論に、ムッとした顔になり言い返すムッカ。
「そ、そりゃあ、そうだろうけど! みんな好きでこんなことやってるわけじゃあないってのにさ、バカ貴族の思い付きに付き合わされて死んじゃうかもしれないなんて、あんまりじゃあないか」
「仕方がない。俺たちは奴隷なんだからな、まともな扱いを期待するほうがどうかしている」
憤慨するムッカとは対照的に、冷静な様子のガルフ。
「クランリーダーのマトゥーのオッサンが、ある程度まともな頭をしているから、俺たちは他の奴隷に比べたらマシな生活ができているというだけだ。戦闘奴隷の扱いなど、そういうものだろう」
「むむ……」
「今回は上からの命令だからな、あのオッサンでも止められなかったんだろうよ」
「でも……だからって、なにもミノタウロス相手にそんなことしなくたって……」
確かにムッカの言う通り、ミノタウロス討伐はウチのクラン最大難易度の作戦なのだ。
わざわざそこに合わせてバカをやるのは止めて欲しいというのは、全奴隷の共通の思いであろう。
「まぁ、今回は俺たちが踏ん張るしかないだろうな」
「結局はそうなるんだろうね……どうだい、いけそうかい?」
心配そうにこちらを窺ってくるムッカ。
結局のところ、彼女も他の奴隷たちと同じで、不安だったのだ。
その不安を紛らわすために、ガルフにちょっかいをかけてきたのだろう。
前回のミノタウロス討伐のときは、彼女は最前線の班には配置されていなかった。
ボス討伐作戦を最前線で戦い、生き残ったガルフにすがるような思いもあるのだろう。
「アンタに頑張ってもらわなきゃ、ウチらは全滅だってありえるんじゃないかい?」
「どうだろうな? まあ……やれるだけやるしかないってだけだな」
「そうかい…………あっ」
何かを言いたそうにしていた彼女だったが、無情にも作戦開始前の集合の鐘が鳴り響いた。
思ったような答えを聞けなかったのか、不安そうな表情が消えないムッカだったが、背中を丸めたままノソノソと歩き始めた。
ガルフも荷物を持って立ち上がり、その後を追いかける。
歩き始めてすぐにムッカに追いついたガルフは、ムッカの背中を張り手で”バチン”と叩いた。
「きゃっ! なっ……なにするんだい急に!」
ガルフの突然の行動に、驚いて可愛らしい声をあげてしまったムッカは、そのことが恥ずかしかったのか、顔を赤くしてガルフを睨みつける。
そんなムッカを無視して追い抜き、先を歩いていってしまうガルフ。
「ちょっと、ガルフ!」
ガルフを追いかけて、肩を掴んで抗議をするムッカ。
そんなムッカの頭に手を置いて、引きはがしながら宥めるガルフ。
「心配するな、俺が生きている限りはお前が死ぬようなことにはならん」
「……はぇ?」
「俺が生きている限りは、お前を守ると言っているんだ」
「…………ッ!!」
抵抗が弱くなったムッカを引きはがして、ずんずんと歩みを進めるガルフ。
あまり仲間の心に踏み込むようなことは避けるべきだが、同じ班の人間が役に立たないままというほうがまずいだろう。
適当な口約束ではあるが、ムッカとは横に並んで戦うのだから、嘘にはならないはずだ。
そんなことを考えながら、歩き続けるガルフに、真っ赤な顔をしたムッカが追い付いてきた。
「ちょっとアンタ! アンタにはテトがいるっていうのに、だれかれ構わず粉かけてんじゃないよ!」
そう言って、なぜかガルフの足を蹴ってくる。
「なにを言っているんだお前は!」
「なにをだって!? とぼけてんじゃないよ、このっ!」
「おい、やめろ! 足を蹴るな、痛いんだよ!」
ムッカの足蹴攻撃から、飛び跳ねて逃げようとするガルフを、執拗に攻撃してくるムッカ。
「痛くしてんのさ、このこのっ! この朴念仁!!」
「おい、やめろって」
二人はそんなやり取りとしながら、他の班員と合流したのだが……
「あは、あははは……お帰りなさい旦那、テトの嬢ちゃんがお待ちしてましたよ」
合流したガルフを迎えたのは、苦笑いのコルツと、ハイライトが消えた真っ黒な目をしたテトだった。
突然の招集とボス討伐計画の前倒しに、当初は不満をいう者たちもいたのだが……スポンサー様の命令という事で、どれだけ文句を言われようと計画の変更は出来ないということを説明されると、渋々と準備をするために散っていった。
それからしばらくの後、戦闘準備を整えた奴隷たちは、それぞれの班ごとに集合して戦いの時を待っていた。
ボスとの戦闘に怯え震えている者、周りの人間にバカな話を振って恐怖を紛らわす者、瞼を閉じて精神を集中している者……それぞれのやり方でミノタウロスとの死闘の前の、緊張した時間を過ごしていた。
そんな一団から少しだけ離れた位置で、貴族の薔薇の切り込み隊長を務めるガルフは、一人静かに瞑想をしていた。
そのガルフのところに、ひとりの獣人が近づいて声をかける。
「今からミノタウロスの野郎と一発やろうっていうのに、のんびり寝てるなんて、ウチの班のリーダーは呑気なもんだねぇ」
大きな金属製のメイスに寄りかかったポーズで、体重を預けた格好のままガルフに声をかけてきたのは、やたらと胸が大きな獣人の女だった。
その女はメイスの柄に顎をのせたまま、ゆるく跳ねている自分の茶色い癖毛をグイグイと押さえつけている。
しばらくはそうやって髪の毛を撫でつけていたのだが、ガルフが無視を決め込んでいることに気付くと、不機嫌そうな顔でメイスを担いで近付いてきた。
「ちょっとホントに寝てんのかい? 勘弁しておくれよ、あんたが最初にミノタウロスにひとあてするんだろう? そんな調子で本当に大丈夫なのかい!?」
ガルフは片目を開けて、その近くで騒ぎ立てて精神集中を邪魔してくる女を眺める。
「なんだ、ムッカか……」
そう呟くと、ガルフは再度目を閉じて瞑想を続けた。
「なんだとはご挨拶だね、残念ながらアンタお気に入りのテトちゃんじゃあないよ、猫じゃあなくて牛の女で悪かったね」
そう言ってニヤニヤ笑いを浮かべている女は、”ムッカ”という名前の牛獣人だ。
牛獣人の特徴である大きな胸と、クリクリと動く牛の耳が頭にあるのだが、左右両方の角は根元からぽっきりと折れて無くなっている。
奴隷に落ちるような人間の過去には、ろくでもないことが色々とあるのだろう、ガルフは今までそのことについてムッカに訪ねたことはなかった。
そんな事情を知れば情が移ってしまうかもしれない、できるだけ他人との距離は取っておきたかった。
それがどれだけの効果があるのかは、もはや謎ではあったが……。
ガルフの前に立っているムッカは、大きく張り出た胸と尻を、小さな面積の革の装備で隠すような、とても挑発的な服装をしている。
そんな彼女は、貴族の薔薇の男連中の中で、1・2を争うほどの人気を誇っていた。
ホットパンツとチューブトップ、そして四肢に手甲と拗ね当てを装備した機動性重視の格好をして、いつも男どもの視線をくぎ付けにしている。
獣人達の男はとにかく胸と尻が大きな女が好きなのだ。ムッカの様な体型の女は、獣人の男達からとても人気があるのだ。
(ちなみにテトは小さくて細い体をしている)
「さっきまでテトと二人でいたんだろ、あの娘とは良い仲なんじゃあないのかい? それなのに今回の作戦で、あの子を他所の班に入れちゃってさぁ」
ムッカはそう言って”呆れた男だよ”といった表情をしている。
「あいつとはそういう関係じゃない。それに最前線のウチの班に入るよりは、他に入ったほうが安全だろう」
眼を閉じたまま、表情をまったく変えずに答えるガルフの態度に、面白くなさそうに「あぁ、そうかい」と返事を返すムッカ。
「まったく、貴族様の気まぐれにはまいったもんだよ」
「ああ」
「このへんの階層に慣れてない連中は、まだまだ疲れが取れてないっていうのに」
「ああ」
「それなのに、もうすぐミノタウロスとの戦闘だっていうんだからねぇ……」
「ああ」
「…………」
「…………」
気のない返事ばかり返すガルフの態度に、”はぁ~”と大きくため息つくムッカ。
そして、ガヤガヤと騒いでいる他の奴隷たちの方へと視線を投げ、寂しそうな表情をしたまま呟いた。
「……今回は何人死んじまうのかねぇ」
「……」
ムッカの寂しそうな声に、ガルフは瞑想を止めて彼女の方へと視線を向ける。
丁度こちらへと向き直ったムッカと目が合ったが、ガルフはまっすぐとムッカを見続けた。
「な……な、なんだい!」
「30階層のボス相手だ、犠牲を一人も出さないっていうのは難しいだろう」
なぜか慌てた様子のムッカに、ガルフは無表情のまま声を投げかける。
そのガルフの正論に、ムッとした顔になり言い返すムッカ。
「そ、そりゃあ、そうだろうけど! みんな好きでこんなことやってるわけじゃあないってのにさ、バカ貴族の思い付きに付き合わされて死んじゃうかもしれないなんて、あんまりじゃあないか」
「仕方がない。俺たちは奴隷なんだからな、まともな扱いを期待するほうがどうかしている」
憤慨するムッカとは対照的に、冷静な様子のガルフ。
「クランリーダーのマトゥーのオッサンが、ある程度まともな頭をしているから、俺たちは他の奴隷に比べたらマシな生活ができているというだけだ。戦闘奴隷の扱いなど、そういうものだろう」
「むむ……」
「今回は上からの命令だからな、あのオッサンでも止められなかったんだろうよ」
「でも……だからって、なにもミノタウロス相手にそんなことしなくたって……」
確かにムッカの言う通り、ミノタウロス討伐はウチのクラン最大難易度の作戦なのだ。
わざわざそこに合わせてバカをやるのは止めて欲しいというのは、全奴隷の共通の思いであろう。
「まぁ、今回は俺たちが踏ん張るしかないだろうな」
「結局はそうなるんだろうね……どうだい、いけそうかい?」
心配そうにこちらを窺ってくるムッカ。
結局のところ、彼女も他の奴隷たちと同じで、不安だったのだ。
その不安を紛らわすために、ガルフにちょっかいをかけてきたのだろう。
前回のミノタウロス討伐のときは、彼女は最前線の班には配置されていなかった。
ボス討伐作戦を最前線で戦い、生き残ったガルフにすがるような思いもあるのだろう。
「アンタに頑張ってもらわなきゃ、ウチらは全滅だってありえるんじゃないかい?」
「どうだろうな? まあ……やれるだけやるしかないってだけだな」
「そうかい…………あっ」
何かを言いたそうにしていた彼女だったが、無情にも作戦開始前の集合の鐘が鳴り響いた。
思ったような答えを聞けなかったのか、不安そうな表情が消えないムッカだったが、背中を丸めたままノソノソと歩き始めた。
ガルフも荷物を持って立ち上がり、その後を追いかける。
歩き始めてすぐにムッカに追いついたガルフは、ムッカの背中を張り手で”バチン”と叩いた。
「きゃっ! なっ……なにするんだい急に!」
ガルフの突然の行動に、驚いて可愛らしい声をあげてしまったムッカは、そのことが恥ずかしかったのか、顔を赤くしてガルフを睨みつける。
そんなムッカを無視して追い抜き、先を歩いていってしまうガルフ。
「ちょっと、ガルフ!」
ガルフを追いかけて、肩を掴んで抗議をするムッカ。
そんなムッカの頭に手を置いて、引きはがしながら宥めるガルフ。
「心配するな、俺が生きている限りはお前が死ぬようなことにはならん」
「……はぇ?」
「俺が生きている限りは、お前を守ると言っているんだ」
「…………ッ!!」
抵抗が弱くなったムッカを引きはがして、ずんずんと歩みを進めるガルフ。
あまり仲間の心に踏み込むようなことは避けるべきだが、同じ班の人間が役に立たないままというほうがまずいだろう。
適当な口約束ではあるが、ムッカとは横に並んで戦うのだから、嘘にはならないはずだ。
そんなことを考えながら、歩き続けるガルフに、真っ赤な顔をしたムッカが追い付いてきた。
「ちょっとアンタ! アンタにはテトがいるっていうのに、だれかれ構わず粉かけてんじゃないよ!」
そう言って、なぜかガルフの足を蹴ってくる。
「なにを言っているんだお前は!」
「なにをだって!? とぼけてんじゃないよ、このっ!」
「おい、やめろ! 足を蹴るな、痛いんだよ!」
ムッカの足蹴攻撃から、飛び跳ねて逃げようとするガルフを、執拗に攻撃してくるムッカ。
「痛くしてんのさ、このこのっ! この朴念仁!!」
「おい、やめろって」
二人はそんなやり取りとしながら、他の班員と合流したのだが……
「あは、あははは……お帰りなさい旦那、テトの嬢ちゃんがお待ちしてましたよ」
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