あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

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第二章 迷宮都市ロベリア

081 ミノタウロス討伐作戦6 闇堕ちヒロイン

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 班員との合流地点へと戻ってきたガルフとムッカだったが、ふたりを出迎えたテトは、表情が抜け落ちた様な真っ黒な瞳を二人に向けてきた。

「おい、なんでテトがここにいるんだ?」

 ガルフが二人に声をかける。

「なんで……私がいちゃいけないんですか?」
「ちょ、ちょっと旦那……あんまり嬢ちゃんを刺激しないで……」

”ギリッ……ギリギリ!”

 なぜかコルツの腕を掴んでいたテトの手に、傍目に見ていてもわかるほどに力が込められていく。

「なんで、なんで……二人はなんでもないって言ったじゃないですか、コルツさんそう言ったじゃないですか、なんであんなに仲良さそうに……なんでなんでなんでナンデ…………」

「い、いや、たぶんそうだろうって言っただけじゃ……」

”ギリギリギリッ……ビキッ”

「んにゃあっ!!」

 テトは容赦なくコルツの腕をねじり上げていく。
 なんだかよく分からないが、テトとコルツは喧嘩をしているらしい。

 まったく……喧嘩をしている場合じゃないだろうに、こいつらは危機感を持つってことが出来ないのだろうか?

「おい、そのへんにしておけ。ボスとの戦闘前に、仲間割れで負傷なんて洒落にもならないぞ」

 ガルフはテトの手を掴んで、コルツを解放してやる。

「だ、旦那ぁ、ありがとうございます……いやー、流石はセリアンスロープ、女の子でもなかなか力が強いんですねぇ」

 コルツはそう言って、解放された腕をさすっている。

「何をやってるんだ、お前は……」

 ガルフは呆れながらテトを見下ろす。
 テトはガルフに腕を掴まれたまま、視線を合わせようとせずに、不貞腐れた顔で地面を見つめ続けている。

「お前は他の班に配属されたはずだろうが、こんなところで油を売ってんじゃねぇ!」

 語気を強めたガルフの言葉に、ビクリと身体を震わせる。

「…………」

 何も答えないテト。
 ガルフは大きくため息をついた後、声音を少し優しくしつつ声をかける。

「はぁ……黙っていたら分からないだろ? もうすぐにでも討伐作戦が始まっちまうだろうに……」

 そんなガルフの言葉を受けて、テトは少しずつだが、喋り始める。

「あ、あの……私、変わったんです。だからココにいて良いって……それで……」

 なんだか要領を得ない説明を続けるテトに、コルツが助け舟を出す。

「旦那、嬢ちゃんは班員の交代があって、この班に配属されたそうですよ。そうだね、嬢ちゃん?」
「……はい」

 コルツの説明に頷くテト。
 どうやら討伐の班が直前に変更になったらしい。

「交代って、いったい誰と交代したんだ? ウチの班は前衛の集まりだったろうに」
「それが、カルバザの野郎がテトの嬢ちゃんと交代で、後ろの班に入るらしいです」

「カルバザが!? あいつは大盾を持ってミノタウロスの攻撃を受け止める役割のはずだろ? テトが入ってた支援要員を集めた班に入って、いったい何をするってのさ?」

 コルツとガルフの会話を聞いていたムッカが、憤慨した様子で文句を言っている。

「あの……こっちの班はガルフさんとムッカさんがいるから、十分ミノタウロスの攻撃を止められるって言ってました」

 さっきよりは、ちょっとだけ落ち着いた様子のテトが補足を加える。

「ったく……これだから、ヒュームの男ってのは信用ならないんだよ、ビビッて芋引きやがった」
「……すいません」

「テトが謝ることないよ……けど、大丈夫かねぇ?」
「…………」



 泣きそうな顔で、地面を見つめたまま動かなくなってしまったテトを見て、コルツはなんともいたたまれない気持ちになった。

 今はしょぼくれた顔をしているテトだが、仲良く帰ってくるガルフとムッカを見るまでは、班員の交代があって、ウチの班に入ることになったのを、嬉しそうにコルツに報告してきていたのだ。

 あのやる気満々だったテトの顔が、今では見る影もないほどに落ち込んでいる。

「あの~……旦那……」

 なんとかフォローを入れようと口を開いたコルツだったが

「まぁ、いいんじゃないのか?」

 ガルフの声がそれを遮った。

「前にカルバザがサボった日に、交代で入ったときは良い感じに動けていたしな」

 その言葉を聞いたテトが、ようやく顔をあげる。
 その眼には涙がなみなみと溜まっていた。

「前に出なけりゃどうにかなるだろ。それに、どうせカルバザの盾になんて頼るつもりはなかっただろ?」

 ガルフはそう言って、ムッカとコルツに向かってニヤリと笑って見せる。

「そりゃまぁ……あんなヤツの守りに命を預けるつもりなんてありゃしないよ。そう考えるとテトがいたほうがいいのかもしれないねぇ」
「そうですよ、使えるかどうかわからないカルバザなんかより、嬢ちゃんのほうがよっぽど役に立つってもんですよ」

「み……皆さん~~ありがとぉ~……」

 とうとう泣き出してしまったテトに近寄り、ムッカは宥める様にテトの頭を撫でてあげている。

「お~よしよし、危なくなったらガルフの後ろに隠れるんだよ。なんなら盾にしちゃっていいんだからね」
「は、はい……」

 ムッカの大きな胸に顔をうずめて、頭を撫でられているテトは、もうすっかり泣き止んだようだ。

「きっと私たちなら大丈夫さ。そうだろ、ガルフ?」
「……む?」

 急に話を振られて返事が遅れるガルフに、テトが不安そうな目を向けてくる。

「私の事……守ってくれますか?」

 同じ班になってしまったのだ、テトを守るのはさっきのムッカを守ることと同じだろう。
 ここで断っても、全体にとってマイナスにしかならない。
 そう思ったガルフは、テトに向かって首肯する。

「ああ、俺が生きてる限りはな……」
「ガ、ガルフさん!!」

 感激した様子のテトが、ガルフの腕に飛びついてくる。

「ありがとうございます。私、がんばりますから!」
「ああ、お前は前衛じゃないんだから、あまり前に出過ぎなければいい」
「はい!」

「あの~……オイラも守って貰えるんでしょうか?」
「自分の身は自分で守れ」
「旦那ぁ~~そりゃないですよ~……」

 なんとか明るい空気を取り戻したガルフたちは、もうすでに点呼を取り始めている奴隷たちの元へと急いで移動していった。



「なんだい、やっぱり誰だっていいんじゃないか……バカ」

 前を行く三人を後ろから見つめていたムッカは、少しだけ不機嫌そうな顔をして、そう独り言をつぶやいていた。
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