あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

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第二章 迷宮都市ロベリア

083 ミノタウロス討伐作戦8 背中の傷は剣士の恥

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 多少のゴタゴタはあったものの、作戦開始位置へと移動した奴隷達は、突入前にスポンサーであるヘルベルトからの有難いお言葉をいただいていた。

 ヘルベルトは長々と小難しい言い回しで喋っていたのだが、その内容を要約すると……
「このミノタウロス討伐を果たして、自分達の実力を騎士団へとアピールする。お前たち奴隷は買ってやった恩義に報いる為に死ぬ気で戦え、務めを果たせ!」ということらしい。

 その他にも、自分の作戦にしたがっていれば間違いないだの、参加できることをありがたく思えだの、セリシア様にはゴンドラン家の男である自分がふさわしいだの……好き勝手に喋くった後、締めくくりに騎士団全員で出陣の勝鬨をあげ、意気揚々と安全な後方へと戻っていった。

 そんな茶番を見せられた奴隷たちは、しばらく唖然としていたのだが……ヘルベルトと入れ替わりに出てきたクランリーダーのマトゥーが、今回の作戦の流れを各班のリーダーたちに確認し、ミノタウロス討伐作戦の開始を告げたことによって、ようやくミノタウロス討伐作戦が開始された。



 ボスの部屋へとつながる巨大な扉が開かれると同時に、次々と中へと突入していく奴隷たち。

 初めて30階層に連れてこられた者は、迷宮の中に生い茂る植物に目を見張り、外の世界と変わらない夕暮れの空に驚いた様子を見せたが、事前情報で地形の説明を受けていたおかげで、すぐに落ち着きをとり戻したようだった。

 大所帯を引き連れて入り口から進むこと数分、遺跡の跡やそれを覆いつくす木々が途切れた先に、円形の広場が見えてきた。

「ここで止まれ! 広場には踏み込むんじゃないぞ、ミノタウロスが起きちまうからな!」

 先頭を進んでいたドノバンの号令で、全部隊の進行が止まる。
 全員の視線は、広場の中心で座り込んで動かないミノタウロスへと注がれている。

 巨大な斧を地面に突き刺し、その横に腰を下ろし眠っている、牛の頭をしたバケモノ。
 腰巻こしまきと手足の防具以外には何も身に着けていないおかげで、大きく膨らんだ逞しい筋肉が惜しげもなくさらけ出されている。

「「「おぉ……」」」
「「「おぉ~~っ! 」」」

 それを見た奴隷たちと、貴族の両方から声が上がる。

 恐怖が混じった声をあげる奴隷達とは対照的に、後方に陣取った貴族連中は物見遊山で名所でも巡っているかのような呑気な雰囲気だ。

「へぇ~さすがは30階層のボス、ゴツイ体してるねぇ……あの腕の太さ、テトのお尻くらいあるんじゃないかい?」

 静まり返った他の奴隷たちを和ます為なのか、ワッカがミノタウロスを指差し冗談を飛ばす。

「なっ……私のお尻の方がおっきいです!」
「そうかい? アイツの腕、丸太みたいじゃあないか」
「ほ、ほらっちゃんと見てください! あいつの腕はこれくらいですけど、私のお尻はこ~んなに……」

 ネタにされたテトは、プリプリしながらワッカに抗議している。

「ちょっと、二人ともそれくらいにしないと、もう始まっちまいますよ!」

 ボスを前に、関係ないことで言い争い始めた二人を宥めようとコルツが声をかけた直後、部隊を動かす号令の声が響き渡った。



「弓部隊、魔術部隊、前へ出ろ!」

 ドノバンの指示に合わせて、弓矢を構えた十数人の部隊と、杖を握りしめた比較的に軽装の魔術師たちの部隊が一歩前へと進み出る。

「詠唱開始!」

 号令に合わせて魔術師たちの詠唱が開始される。
 杖を掲げたり、前に突き出したり、両手を広げたり……各々の方法で詠唱を始める魔術師たち。
 集まっていく魔力に合わせて、ほのかな光が魔術師たちを包んでいく。

「弓部隊構え! 盾役の者は念のため構えておけよ!」

 弓部隊の弓兵たちは、弓を構え矢をつがえ引き絞る。
 弓を構え横に並んでいる弓兵の後ろや魔術師たちの横には、大盾を担いだ屈強な男たちが控えている。

「ロビンじいさん、弓兵に強化魔術をかけてくれ!」
「はいよ……風よ、矢へと宿れ!」

 ドノバンの部隊に入っていた魔術師の老人が、先行して詠唱していた風魔術を行使する。
 魔術を発動させた杖から弓兵部隊へと光る粒子が風に乗って運ばれ、弓矢へと纏わりつく。
 
「詠唱完了まであと10、9、8……」

 魔術師の部隊から詠唱完了の秒読みが始まる。
 それを受けて、ドノバンは攻撃を開始させた。

「弓部隊、てぇっ!!」

 号令があがり、ミノタウロスへ向けて一斉に矢が放たれた。
 風の魔術を纏った無数の矢が、加速しながら無防備なミノタウロスへ向かって一直線に降り注いだ。

 飛んできた十数本の矢が、ミノタウロスの体へと突き立っていく。
 眠っているかのようにうずくまっていたミノタウロスは、その攻撃を受けて目を覚ましたのか、地面に突き立っていた斧を引き抜き立ち上がった。
 自分の身体に刺さっている矢のことは意にも介していないようだ。

「魔術師部隊、撃ち込めぇ!」

「炎槍!」「火球!」「石弾!」「風刃!」「火柱!」

 すでに詠唱を完了していた魔術師たちから、いくつもの攻撃魔術がミノタウロス目掛けて飛んでいき、着弾と同時に大爆発を引き起こした。

”ドドドーーンッッ”

「「おぉおおおおおーーーっ!」」

 複数の魔術師の連携によって引き起こされた爆発。後ろで見ていた騎士団連中から歓声があがる。
 爆心地は土煙で覆われており、攻撃の結果はいまだに確認できない。

 そんな様子を広場の外側から眺めている奴隷達、彼らは全く気を抜いておらず、戦闘開始から変わらずしっかりと身構えているのだが……
 その後ろで、どんどんフラグを立ていく浮かれた騎士団連中ガヤ芸人

「なんて威力だ!」
「やったかっ!?」
「これではどんなバケモノも生きてはおれまい!」
「我が軍は圧倒的ではないか!」



「ブモォォオオオオオオォォッ!!」
「「ひえぇぇっ!」」

 突然発せられた獣の様な咆哮に、悲鳴を上げる騎士団ガヤ芸人

 土煙の中から飛び出し突進してくるミノタウロスは、身体に刺さった何本もの矢から血を垂れ流し、身体のいたるところが火傷でただれている。
 しかし、爆発の直撃をくらったわりに、そこまで大きなダメージを追っていないようで、元気いっぱいで手に持った斧を振り回している。

 それを見たドノバンは、落ち着いて次の一手を打つ。

「弓部隊、てぇっ!!」

 弓矢部隊からの第二射がミノタウロス目掛けて飛んでいく。
 強化魔術の効果はまだ切れていないようで、第一射と見劣りしない速度で弓矢が飛んでいくが……

"ブゥンッ!"

 ミノタウロスが手に持った巨大な斧の一振りによって、殆どの弓矢が弾かれてしまった。
 眠ったように動かなかった的への第一射とは違い、戦闘態勢の整ったミノタウロスには、正面からの弓矢の攻撃は通用しないようだ。
 しかし、こちらに向かってきていた突進は止めることができた。

「チッ……魔術部隊、詠唱はあとどれくらいだ!?」
「まだ始めたばかりです、あと20秒は……」

 マトゥーと伝令役がそんなやり取りをしている間にも、ミノタウロスはこちらへと近づいてくる。
 それをみたヘルベルト達はすっかり及び腰になってしまってたようで、騎士団を引率しているマトゥーに群がり始めた。

「そ、そんな……矢が通用しないではないか! ど、どどど、どうするんだマトゥー!」

 まだこちらが攻撃を受けたわけでもないのに、近づいてくるミノタウロスの巨体にビビリまくっている。
 危険なボス討伐に無理やりくっついてきた、自信満々のあの態度はどこにいったのか……マトゥーはつっこみたい気持ちをぐっと抑える。

「危ないので下がっていてください、ここまでは予定通りです!」
「ほ、本当なのか!? 全然効いていないではないか」
「弓矢は足止めなんです、魔術は連発できませんから。それに我々の攻撃はその二つだけでは……」

「ブゥモォオオオオオオオッッッ!!」
「「ひぃい!」」

 ミノタウロスの雄叫びに驚き、竦み上がる騎士団。
 そんな騎士団を横目に、溜息をつきながらマトゥーはひとりごちた。

「少々早いタイミングだが、仕方ないか……」

 彼の目には、背中から血を流しているミノタウロスが映っている。
 貴族の薔薇ノーブルローズの切り込み隊長ガルフが、大剣で不意打ちの攻撃を成功させたのだ。
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