The Doomsday

Sagami

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Seam

14:人形5

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大きく伸びをして、体をほぐす。予定外の場所での小休止、結果としてマークスとの一時の会話を楽しむ事ができた。思わず口元に笑みが浮かぶ、笑みの形に顔を動かすと火傷の跡が引き攣って僅かに痛む。

「アネッサさん、そろそろ」

男が小声で告げる。思わず大きくため息を付いてしまう。小休止は終わりを告げた、マークスとの一時の会話に後ろ髪を引かれないといえば嘘になる。

「どうした、傭兵の方々が待ちかねてるよ。出発しよう」

男との会話が聞こえたのか、罰の悪そうな顔をしてマークスは立ち上がり、他の団員たちにも声をかけている。ふとあたりを見渡すと周囲は木々に囲まれ他の班の者たちは遠目にも見えない。傭兵たちもそれに気づいているのか、を求め私をまっすぐ見ている。

(立ち止まるなんて贅沢は許されてないか)

伸びるに任せている髪を乱暴にかきむしる。マークスはそんな様子を見て困ったような笑みを浮かべている。そんな様子に、思わずもう一度ため息をつく。

「マークス、あんた状況分かってる」

マークスは両手を上げ、お手上げというジェスチャーをしている。

「さあ、そっちの2人がやけに剣呑な気配をしてるって事は分かるけどね」

そう言って、マークスは無為造作に愛用の武器を抜く。反りのある片刃の剣、槍ほどの長さのあるそれは長巻というらしい。かつては皇都の近衛の1人が愛用としたというそれをマークスは軽々と振り回す。

(優男でいい加減に見えるけど、このあたりはしっかり鍛えてるんだよな)

以前、手で触れた胸板はその薄さに反して固く。実用性のみを目指して鍛えられたその躯はある種の美しささえ感じた。長巻の刃が傭兵の1人の首を落とす。悲鳴を上げる者は誰もいない。生き残った傭兵の1人がマークスから咄嗟に距離を取る。さっきまで傭兵の立っていた場所を白刃が掠めてゆく。

「この野郎」

傭兵が剣を抜き、団員がそれに応じるように剣を構える。私も小さな子供の躯ほどもある戦斧を持ち構える。

「まあ、やっぱりこうなるって事ね」

技も何もない、力任せに戦斧を振り回す。小細工は必要ない、そういうのに長けた奴もいるがはやはりではないのだろう。戦斧が空気を裂く音が近いはずなのに、どこか遠くで聞こえた気がする。真っ二つに裂かれた肉から血が飛び散り辺りを紅く染める。肉塊は驚きの表情をこちらに向けて絶命している。

「アネッサ、それは流石に笑えないかな」

長巻の刃を戦斧の柄で横に弾く。真っ二つになった殿だった肉塊を踏んでしまい、一瞬バランスを崩す。そこに振り下ろされる斬撃、同僚に対する容赦は一切ない。いつものヘタレなマークスの姿はそこにはない。

「ま、こっちもあんたや団長、副団長とは戦いたくはないのが本音なんだけどね」

長巻と戦斧の刃がぶつかり、火花が散る。長年背中を預けていた者同士、幾合も刃を交えるが致命打にはならない。団員も傭兵も生き残りはいない、神殿騎士団で団長と副団長、それにリンを除けばマークスとの戦いに実力で割り込めるものは居ない。暴風と化した戦斧に巻き込まれ、肉塊が転がってゆく。

「本音で生きるのも悪くはないと思うよ」

避け損ねた刃の切っ先が肩を僅かに抉る。お返しとばかりに振り下ろした戦斧がマークスの腕を打ち、その腕が籠手ごとあり得ない方向に曲がる。

「残念ながら、こっちも本音さ」

神殿騎士団に入って今までの間ほど生きてきて幸せだったことはない。それは嘘偽りのない本音。あの地獄から救い出してきた団長や副団長、そして、マークスは恩人でもある。

「そうか」

短い言葉とともに片腕だけで振り下ろされる長巻の斬撃は、先程までに比べると遥かに鈍い。力任せに振るった戦斧が長巻の刀身に触れ、長巻が宙を舞う。

「一度だけ言う、神殿騎士団からも皇国からも離れるなら命まではとらない」

戦斧の刃をマークスの首に当て静かに問う。ここで首を縦に振ってくれるならどれだけ良いだろうか。もしそうしてくれれば、いつかまた笑いながら酒を呑むこともあるかもしれない、結末に、自ずと失笑が浮かぶ。

「悪いなアネッサ」

いつもの笑みを浮かべ、マークスが答える。大きくため息を付き、こちらも笑みを返す。

「仕方ないね、恨んでくれていいよ、マークス」

戦斧を構え、細心の注意を払いながらそれを振り下ろす。

ただ、苦しまずマークスが死ねることを祈りながら。



「死ぬかと思ったぞ」

バルドは息を荒げ、2のハルバートを支えに立ち上がる。首を狙った男の一撃は、突如現れたハルバートに防がれバルドは九死に一生を得ていた。

「実は魔法使いとかいうオチは止めて欲しい所ですが」

男は二本のハルバートとバルドを交互に見て呟く。ただでさえ噂道理の強さに辟易している所に、実は魔法使いでしたなど悪い冗談にしか思えない。

「大丈夫だ、儂は一切魔法を使うことは出来ない」

ハルバートを手に、バルドが駆ける。突き、払い、時には打ち据え、戦鬼の如く戦うバルドの姿を見て男は思わず口元に笑みが浮かべる。これほどの猛者と対峙することが出来る喜びに、男は既に捨て去ったと思っていた戦いへの興奮が高まっていくことを感じていた。

「後はお前だけだ、降りて目的を吐くか?」

少し前、男自身がバルドに問うた言葉とそれは酷く似ている。その時と違うのは、男の仲間は獣を含め全て打倒されバルドと対峙するのは自身だけであること。さて、どうしたものかと男は思考を巡らせる。取れる手段は多くはない。逃亡か、或いは。

「ご冗談を、俺はまだ負けてない」

それは半分は虚勢、残りの半分は本気の言葉。男の体が不自然に膨らんでゆく、バルドはハルバートを構えその様子を静かに見ている。

を初めて見たという感じではなさそうですね」

茶色の体毛が全身を覆い、口元には鋭い牙が現れている。久々のに力が滾る。

「ああ、実際戦うのは酷く久しぶりではあるがな」

ハルバートを正面に構え男の様子を窺う。

の最中に攻撃してこなかった礼と、強敵である貴方への敬意を示し名乗らせていただきます。私は人猪ワーボアのサグ、あなた方の敵です」

バルドは大きく息を吐き、獣人の男を見る。獣化した獣人とまともに戦うのはいつ以来だろうか。僅かに興奮が湧き上がることを感じつつも、同時に冷めた目でこの様子を客観的に見ている自身もいる。こいつぐらいに勝てないようなら、その後に控えているだろうには勝てないだろう。

「では、儂も名乗ろう。神殿騎士団副団長バルドだ、短い付き合いだがよろしく頼む」




フルネストの研究室、リンは再び眠りについたネイラの横に座っている。ノックの音がする。

「どうぞ」

扉が音もなく開く、フルネストが名無しを連れそこに立っている。

「相変わらず定期投与の後は不安定だな」

ネイラとリンのやり取りをどこからか見ていたのだろう、フルネストは淡々と語る。禁断症状を抑えるために定期的に投与される治療薬、投与後から半日ほどは精神的にネイラに様々な副作用が発生する。

「ネイラはいつになったら完全に治るんだ」

幾度となく尋ねた問いを僅かな希望をもって繰り返す。

「完全に治ることは無い」

変わらぬ答え。残酷な事実だが律儀にフルネストは答えてくれる。

「そうか」

ネイラの手を握る。

「そろそろ、症状の収まる頃だ彼女が起きたら好きに帰ってよい。名無し、あれを」

フルネストの声に、名無しが近づいてくる。手には2つの革袋。中を確認すると、それぞれ銀貨と薬が入っている。どちらもうちの家族に必要なものだ。

「少し、多くないか」

「家族に付けられた値段に不服か」

嫌な問いをしてくる。死んだばかりの弟をとしてここに持ってきた身には心に刺さるものがある。ルークを名無しと呼ばれる少女に引き渡したのは僅か数刻前のことだ、時を経ずいつものように腑分けされ様々な薬の材料とされることだろう。その薬により、救われる命が多いことも知ってはいるが、未だ慣れるものではない。

「まあいい、今回彼女には命を救われたからな、その礼の分と思ってくれ」

答えを返さない私に、フルネストは淡々と告げた。



フルネストは仮眠室を出て、椅子に座った。

「マスター、お疲れでしょうか」

名無しが傍らに立っている。

「そうだな、疲れた。お前も左腕の調子が良くないのだろう休むと良い」

隠そうとしてはいるようだが、その左腕がまともに動いてないことは所作に見て取れる。

「承知しました」

頭を下げ、私室へと下がってゆく。その後姿をフルネストは黙って見つめている。

「やはり、似て非なるものだな」

その脳裏に浮かぶのは、リンと名無し。マーシャとラグルド。2対の既知と未知。

「薬術師であって、それ以上は領分外のはずなんだが」

頭を掻く。前者はともかく後者は理解の範疇外と言わざるをえない。

「御師様、お疲れでしょうか」

「悩みの種が帰ってきたか」

その声に、マーシャ神官長は穏やかな笑みで答えた。

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