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第27話
選択を歪める、甘い声
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その夜、夢を見た。
王城の回廊。
まだ何も失っていなかった頃の景色。
騎士団長として歩くカイルの背中を、少し後ろから追いかけている。
距離は、今より遠い。
けれど、不思議と安心している。
「……レオ。」
呼ばれて、顔を上げる。
振り向いたカイルは、いつもの蒼い瞳ではなかった。
優しすぎるほど、穏やかで。
――どこか、違う。
「ここまででいい。これ以上は、危険だ。」
心臓が、嫌な音を立てた。
「……どういう意味ですか?」
「君は、もう十分だ。」
「誓約も、責任も、全部、俺が引き受ける。だから――」
手を伸ばされる。
「ここで、別れよう。」
「……っ」
拒もうとして、声が出ない。
胸の刻印が、冷える。
「それが、君のためだ。」
その瞬間。
「――違う。」
はっきりとした声が、夢を切り裂いた。
レオは、息を荒げて目を覚ます。
「……っ」
外は、まだ夜明け前。
隣で眠るカイルが、すぐに身じろぎした。
「……どうした。」
低く、寝起きの声。
「夢です。」
短く答える。
だが、刻印はまだ、微かにざわついている。
「……嫌な夢だな。」
カイルは、そう言って、何も聞かずに腕を伸ばした。
抱き寄せられる。
その距離で、ようやく呼吸が整う。
(……大丈夫)
(今は、ここにいる)
だが。
その“違和感”は、朝になっても消えなかった。
村を出て、次の街へ向かう途中。
山道に差し掛かったとき、刻印が、はっきりと反応した。
(……来る)
「止まって。」
レオが言うと、
カイルは即座に足を止めた。
「……今度は、何だ?」
答えの代わりに、風が止んだ。
鳥の声が、消える。
そして。
「やはり、君だったか…」
聞き覚えのある声。
林の奥から現れたのは、あの“観測者”だった。
だが、今日は違う。
1人ではない。
後ろに、数名の影。
全員、武装していない。
だが、空気が“整えられて”いる。
「……随分、準備がいいな。」
カイルが低く言う。
「今回は、“説得”ですから。」
観測者は、穏やかに微笑んだ。
「騎士団長、少しだけ、彼を借りても?」
瞬間、カイルの殺気が跳ね上がる。
「断る。」
即答。
だが、観測者はレオを見る。
「君の意志を、聞いている。」
(……来た)
これが、分断の本命。
「……話すだけなら。」
レオは、静かに言った。
「聞きます。」
「レオ!」
カイルが、即座に制する。
「罠だ。」
「分かってます。」
レオは、振り返らずに言う。
「でも、聞かずに拒むのも……違う。」
一瞬の沈黙。
やがて、カイルは歯を食いしばり、低く言った。
「……視界から、外れるな。」
「はい。」
観測者は、満足そうに頷いた。
「では…」
数歩、距離を取る。
「君に、“選択肢”を提示しよう。」
空気が、変わる。
「君が誓約を解消する必要はない。彼と別れる必要もない。ただし――」
言葉が、慎重に紡がれる。
「“距離”を置く。誓約の力を、意図的に弱める。それにより、国家も聖庁も、彼を追わなくなる。」
「……つまり」
レオが、低く言う。
「俺が、足手まといになるのをやめればいい。」
観測者は、否定しなかった。
「君は、転生者だ。この世界では、常に“異物”として扱われる。だが…」
視線が、柔らかくなる。
「君だけなら、保護できる。安全な場所も、生活も、自由も――」
「黙れ。」
カイルの声が、地を這う。
「それ以上、彼を甘言で汚すな。」
観測者は、肩をすくめる。
「甘言?」
「現実的提案です。彼は、君といることで、常に危険に晒されている。それは、事実でしょう?」
一瞬。
言葉が、胸に刺さる。
(……事実、だ)
王城。
拘束。
追撃。
今も、追われている。
(……俺が、いるから)
その考えが浮かんだ瞬間。
刻印が、強く脈打った。
(……違う)
はっきりと、否定が流れ込む。
これは――
彼の感情。
「……違う。」
レオは、静かに言った。
観測者が、眉を上げる。
「何が?」
「俺がいるから、危険なんじゃない。」
視線を、カイルへ向ける。
「この人が、“選ぶ”人だからです。俺がいなくても、この人は、同じことをする。」
カイルの息が、止まる。
「……そして」
レオは、前を向く。
「俺は…安全のために、一緒にいない選択は――」
はっきりと言う。
「しません。」
観測者は、しばらく黙っていた。
やがて、小さく笑う。
「……なるほど。やはり、“切り離す”のは無理か。なら…」
1歩、下がる。
「次は、壊しに行く。」
その言葉を残し、一団は森へ消えた。
しばらく、沈黙。
カイルが、レオの肩を掴む。
「……怖くなかったか?」
「怖かったです。」
正直に答える。
「でも…」
顔を上げる。
「選択は、1つしかありませんでした。」
カイルは、強く、抱きしめた。
「……2度と」
低い声。
「1人で背負うな。俺の誓約相手だ。一緒に、選ぶ。」
刻印が、深く、穏やかに共鳴した。
分断は、失敗した。
だが――
敵は、確信したはずだ。
“説得”では、この誓約は壊れない。
次に来るのは、選択を奪う手段。
そして、その矛先は――
レオ自身に向けられる。
静かな山道に、不穏な風が吹いた。
物語は、次の段階へ進む。
王城の回廊。
まだ何も失っていなかった頃の景色。
騎士団長として歩くカイルの背中を、少し後ろから追いかけている。
距離は、今より遠い。
けれど、不思議と安心している。
「……レオ。」
呼ばれて、顔を上げる。
振り向いたカイルは、いつもの蒼い瞳ではなかった。
優しすぎるほど、穏やかで。
――どこか、違う。
「ここまででいい。これ以上は、危険だ。」
心臓が、嫌な音を立てた。
「……どういう意味ですか?」
「君は、もう十分だ。」
「誓約も、責任も、全部、俺が引き受ける。だから――」
手を伸ばされる。
「ここで、別れよう。」
「……っ」
拒もうとして、声が出ない。
胸の刻印が、冷える。
「それが、君のためだ。」
その瞬間。
「――違う。」
はっきりとした声が、夢を切り裂いた。
レオは、息を荒げて目を覚ます。
「……っ」
外は、まだ夜明け前。
隣で眠るカイルが、すぐに身じろぎした。
「……どうした。」
低く、寝起きの声。
「夢です。」
短く答える。
だが、刻印はまだ、微かにざわついている。
「……嫌な夢だな。」
カイルは、そう言って、何も聞かずに腕を伸ばした。
抱き寄せられる。
その距離で、ようやく呼吸が整う。
(……大丈夫)
(今は、ここにいる)
だが。
その“違和感”は、朝になっても消えなかった。
村を出て、次の街へ向かう途中。
山道に差し掛かったとき、刻印が、はっきりと反応した。
(……来る)
「止まって。」
レオが言うと、
カイルは即座に足を止めた。
「……今度は、何だ?」
答えの代わりに、風が止んだ。
鳥の声が、消える。
そして。
「やはり、君だったか…」
聞き覚えのある声。
林の奥から現れたのは、あの“観測者”だった。
だが、今日は違う。
1人ではない。
後ろに、数名の影。
全員、武装していない。
だが、空気が“整えられて”いる。
「……随分、準備がいいな。」
カイルが低く言う。
「今回は、“説得”ですから。」
観測者は、穏やかに微笑んだ。
「騎士団長、少しだけ、彼を借りても?」
瞬間、カイルの殺気が跳ね上がる。
「断る。」
即答。
だが、観測者はレオを見る。
「君の意志を、聞いている。」
(……来た)
これが、分断の本命。
「……話すだけなら。」
レオは、静かに言った。
「聞きます。」
「レオ!」
カイルが、即座に制する。
「罠だ。」
「分かってます。」
レオは、振り返らずに言う。
「でも、聞かずに拒むのも……違う。」
一瞬の沈黙。
やがて、カイルは歯を食いしばり、低く言った。
「……視界から、外れるな。」
「はい。」
観測者は、満足そうに頷いた。
「では…」
数歩、距離を取る。
「君に、“選択肢”を提示しよう。」
空気が、変わる。
「君が誓約を解消する必要はない。彼と別れる必要もない。ただし――」
言葉が、慎重に紡がれる。
「“距離”を置く。誓約の力を、意図的に弱める。それにより、国家も聖庁も、彼を追わなくなる。」
「……つまり」
レオが、低く言う。
「俺が、足手まといになるのをやめればいい。」
観測者は、否定しなかった。
「君は、転生者だ。この世界では、常に“異物”として扱われる。だが…」
視線が、柔らかくなる。
「君だけなら、保護できる。安全な場所も、生活も、自由も――」
「黙れ。」
カイルの声が、地を這う。
「それ以上、彼を甘言で汚すな。」
観測者は、肩をすくめる。
「甘言?」
「現実的提案です。彼は、君といることで、常に危険に晒されている。それは、事実でしょう?」
一瞬。
言葉が、胸に刺さる。
(……事実、だ)
王城。
拘束。
追撃。
今も、追われている。
(……俺が、いるから)
その考えが浮かんだ瞬間。
刻印が、強く脈打った。
(……違う)
はっきりと、否定が流れ込む。
これは――
彼の感情。
「……違う。」
レオは、静かに言った。
観測者が、眉を上げる。
「何が?」
「俺がいるから、危険なんじゃない。」
視線を、カイルへ向ける。
「この人が、“選ぶ”人だからです。俺がいなくても、この人は、同じことをする。」
カイルの息が、止まる。
「……そして」
レオは、前を向く。
「俺は…安全のために、一緒にいない選択は――」
はっきりと言う。
「しません。」
観測者は、しばらく黙っていた。
やがて、小さく笑う。
「……なるほど。やはり、“切り離す”のは無理か。なら…」
1歩、下がる。
「次は、壊しに行く。」
その言葉を残し、一団は森へ消えた。
しばらく、沈黙。
カイルが、レオの肩を掴む。
「……怖くなかったか?」
「怖かったです。」
正直に答える。
「でも…」
顔を上げる。
「選択は、1つしかありませんでした。」
カイルは、強く、抱きしめた。
「……2度と」
低い声。
「1人で背負うな。俺の誓約相手だ。一緒に、選ぶ。」
刻印が、深く、穏やかに共鳴した。
分断は、失敗した。
だが――
敵は、確信したはずだ。
“説得”では、この誓約は壊れない。
次に来るのは、選択を奪う手段。
そして、その矛先は――
レオ自身に向けられる。
静かな山道に、不穏な風が吹いた。
物語は、次の段階へ進む。
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