27 / 51
第26話
静寂に混じる、追う者の気配
しおりを挟む
村の朝は、思ったよりも賑やかだった。
鶏の鳴き声。
井戸で水を汲む音。
焼いたパンの匂い。
王城での張り詰めた日々が、まるで嘘だったかのようだ。
「……平和ですね。」
宿の窓から外を眺めながら、レオが言う。
「平和に“見える”だけだ。」
背後で、カイルが静かに答えた。
鎧を外し、旅人用の簡素な服に身を包んでいても、立ち姿だけで騎士だと分かる。
「見た目は、普通の村ですよ。」
「だからこそだ。」
カイルは、外套を肩にかけながら言う。
「追う側にとって、“隠れやすい”。」
その言葉が終わる前から、レオの胸の刻印が、微かにざわめいた。
(……あ)
昨夜とは違う。
警戒ではない。
**“視線”**だ。
「……来てます。」
レオが低く言うと、カイルは一瞬も迷わず頷いた。
「何人だ?」
「……分かりません。」
正直に言う。
「でも、兵士じゃない。」
「同感だ。」
カイルは、剣の位置を確認しながら言った。
「近衛や聖庁なら、もう少し分かりやすい圧がある。」
「これは――」
言葉を切る。
「“観察”だ。」
2人は、村へ出た。
市場の通り。
人は多いが、雑然としている。
だからこそ、不自然なものが混じる。
「……あの人…」
レオが、視線を伏せたまま言う。
「薬草屋の前。」
「……ああ。」
カイルも、気づいていた。
その男は、商品を見ているようで、視線だけが2人を追っている。
近づいてこない。
だが、離れもしない。
(……試してる)
2人は、あえて気づかないふりをして歩いた。
村の外れ。
林へ続く小道。
その瞬間。
刻印が、はっきりと拒絶を示した。
「……止まれ。」
カイルが、即座にレオの前に出る。
「出てこい。」
林の影から、男が1人、姿を現した。
年齢不詳。
武器はない。
だが、“空気”が違う。
「驚かせるつもりはありません。」
穏やかな声。
「私は、ただの――観測者です。」
「観測?」
カイルの声は低い。
「誰の?」
男は、レオを見た。
「誓約者の。」
その瞬間、カイルの殺気が、はっきりと立ち上がった。
「……目的を言え。」
男は、肩をすくめる。
「安心していただきたい。奪うつもりも、壊すつもりもありません。ただ…」
1歩、踏み出す。
「確認したいのです。」
「その誓約が、どこまで“人の意志”で保たれているか…」
レオは、静かに前へ出た。
「……それ、前にも聞きました。」
「ええ。」
男は、わずかに微笑む。
「ですが、今回は少し違う。今回は…」
視線が鋭くなる。
「あなた1人に、選ばせたい。」
空気が、凍った。
「……どういう意味だ?」
カイルの声が、明確に危険になる。
男は、レオだけを見て言った。
「騎士団長がいない状況で。誓約が、あなたの意志だけで成立し続けるか、それを見たい。」
(……切り離し)
理解した瞬間、レオの中で、何かが冷えた。
「……つまり」
レオは、静かに言った。
「俺が1人になったら、この誓約は揺らぐと?」
「理論上は、可能です。」
男は、即答した。
「転生者の魂は、環境に影響されやすい。孤立、不安、恐怖。それらが積み重なれば――」
「黙れ。」
カイルが、低く遮る。
「その“理論”は、既に破綻している。」
男は、首を傾げた。
「では、なぜあなたは彼を前に立たせる?守るべき存在でしょう?」
その問いに、レオが答えた。
「守られるだけなら…」
1歩、前に出る。
「ここまで来てません。」
刻印が、穏やかに光る。
「誓約は、“一緒に選び続ける”ものです。1人にすることで、壊れるなら…」
視線を、まっすぐ向ける。
「それは、誓約じゃない。」
男は、しばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……なるほど。やはりこの誓約は、“対”ではなく――」
一瞬、言葉を探す。
「“同行”だ。」
そう言い残し、男は後ずさった。
「本日は、これで。だが…」
最後に、意味深に言う。
「次は、もっと露骨になります。」
男は、林の奥へ消えた。
しばらく、沈黙。
「……はあ。」
レオが、息を吐く。
「平和、短かったですね。」
「むしろ、長かった。」
カイルは、苦く笑った。
「だが――」
レオを見る。
「今のやり取りで、確信した。」
「俺たちは、もう“試される段階”を越えた。」
「え?」
「次は…」
低く、断言する。
「奪うか、壊すかだ。」
刻印が、静かに共鳴した。
それは、恐怖ではない。
覚悟の音だった。
静かな村の風景は、変わらない。
だが、世界は確実に動いている。
そしてレオは、はっきりと感じていた。
次に狙われるのは――
**自分の「選択そのもの」**だと。
鶏の鳴き声。
井戸で水を汲む音。
焼いたパンの匂い。
王城での張り詰めた日々が、まるで嘘だったかのようだ。
「……平和ですね。」
宿の窓から外を眺めながら、レオが言う。
「平和に“見える”だけだ。」
背後で、カイルが静かに答えた。
鎧を外し、旅人用の簡素な服に身を包んでいても、立ち姿だけで騎士だと分かる。
「見た目は、普通の村ですよ。」
「だからこそだ。」
カイルは、外套を肩にかけながら言う。
「追う側にとって、“隠れやすい”。」
その言葉が終わる前から、レオの胸の刻印が、微かにざわめいた。
(……あ)
昨夜とは違う。
警戒ではない。
**“視線”**だ。
「……来てます。」
レオが低く言うと、カイルは一瞬も迷わず頷いた。
「何人だ?」
「……分かりません。」
正直に言う。
「でも、兵士じゃない。」
「同感だ。」
カイルは、剣の位置を確認しながら言った。
「近衛や聖庁なら、もう少し分かりやすい圧がある。」
「これは――」
言葉を切る。
「“観察”だ。」
2人は、村へ出た。
市場の通り。
人は多いが、雑然としている。
だからこそ、不自然なものが混じる。
「……あの人…」
レオが、視線を伏せたまま言う。
「薬草屋の前。」
「……ああ。」
カイルも、気づいていた。
その男は、商品を見ているようで、視線だけが2人を追っている。
近づいてこない。
だが、離れもしない。
(……試してる)
2人は、あえて気づかないふりをして歩いた。
村の外れ。
林へ続く小道。
その瞬間。
刻印が、はっきりと拒絶を示した。
「……止まれ。」
カイルが、即座にレオの前に出る。
「出てこい。」
林の影から、男が1人、姿を現した。
年齢不詳。
武器はない。
だが、“空気”が違う。
「驚かせるつもりはありません。」
穏やかな声。
「私は、ただの――観測者です。」
「観測?」
カイルの声は低い。
「誰の?」
男は、レオを見た。
「誓約者の。」
その瞬間、カイルの殺気が、はっきりと立ち上がった。
「……目的を言え。」
男は、肩をすくめる。
「安心していただきたい。奪うつもりも、壊すつもりもありません。ただ…」
1歩、踏み出す。
「確認したいのです。」
「その誓約が、どこまで“人の意志”で保たれているか…」
レオは、静かに前へ出た。
「……それ、前にも聞きました。」
「ええ。」
男は、わずかに微笑む。
「ですが、今回は少し違う。今回は…」
視線が鋭くなる。
「あなた1人に、選ばせたい。」
空気が、凍った。
「……どういう意味だ?」
カイルの声が、明確に危険になる。
男は、レオだけを見て言った。
「騎士団長がいない状況で。誓約が、あなたの意志だけで成立し続けるか、それを見たい。」
(……切り離し)
理解した瞬間、レオの中で、何かが冷えた。
「……つまり」
レオは、静かに言った。
「俺が1人になったら、この誓約は揺らぐと?」
「理論上は、可能です。」
男は、即答した。
「転生者の魂は、環境に影響されやすい。孤立、不安、恐怖。それらが積み重なれば――」
「黙れ。」
カイルが、低く遮る。
「その“理論”は、既に破綻している。」
男は、首を傾げた。
「では、なぜあなたは彼を前に立たせる?守るべき存在でしょう?」
その問いに、レオが答えた。
「守られるだけなら…」
1歩、前に出る。
「ここまで来てません。」
刻印が、穏やかに光る。
「誓約は、“一緒に選び続ける”ものです。1人にすることで、壊れるなら…」
視線を、まっすぐ向ける。
「それは、誓約じゃない。」
男は、しばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……なるほど。やはりこの誓約は、“対”ではなく――」
一瞬、言葉を探す。
「“同行”だ。」
そう言い残し、男は後ずさった。
「本日は、これで。だが…」
最後に、意味深に言う。
「次は、もっと露骨になります。」
男は、林の奥へ消えた。
しばらく、沈黙。
「……はあ。」
レオが、息を吐く。
「平和、短かったですね。」
「むしろ、長かった。」
カイルは、苦く笑った。
「だが――」
レオを見る。
「今のやり取りで、確信した。」
「俺たちは、もう“試される段階”を越えた。」
「え?」
「次は…」
低く、断言する。
「奪うか、壊すかだ。」
刻印が、静かに共鳴した。
それは、恐怖ではない。
覚悟の音だった。
静かな村の風景は、変わらない。
だが、世界は確実に動いている。
そしてレオは、はっきりと感じていた。
次に狙われるのは――
**自分の「選択そのもの」**だと。
2
あなたにおすすめの小説
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~
春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』
アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。
唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。
美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。
だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。
母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。
そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。
——カイエンが下す「最後の選択」とは。
ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由
スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。
どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる