蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

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第26話

静寂に混じる、追う者の気配

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村の朝は、思ったよりも賑やかだった。

鶏の鳴き声。
井戸で水を汲む音。
焼いたパンの匂い。

王城での張り詰めた日々が、まるで嘘だったかのようだ。

「……平和ですね。」

宿の窓から外を眺めながら、レオが言う。

「平和に“見える”だけだ。」

背後で、カイルが静かに答えた。

鎧を外し、旅人用の簡素な服に身を包んでいても、立ち姿だけで騎士だと分かる。

「見た目は、普通の村ですよ。」

「だからこそだ。」

カイルは、外套を肩にかけながら言う。

「追う側にとって、“隠れやすい”。」

その言葉が終わる前から、レオの胸の刻印が、微かにざわめいた。

(……あ)

昨夜とは違う。

警戒ではない。
**“視線”**だ。

「……来てます。」

レオが低く言うと、カイルは一瞬も迷わず頷いた。

「何人だ?」

「……分かりません。」

正直に言う。

「でも、兵士じゃない。」

「同感だ。」

カイルは、剣の位置を確認しながら言った。

「近衛や聖庁なら、もう少し分かりやすい圧がある。」

「これは――」

言葉を切る。

「“観察”だ。」

2人は、村へ出た。

市場の通り。
人は多いが、雑然としている。

だからこそ、不自然なものが混じる。

「……あの人…」

レオが、視線を伏せたまま言う。

「薬草屋の前。」

「……ああ。」

カイルも、気づいていた。

その男は、商品を見ているようで、視線だけが2人を追っている。

近づいてこない。
だが、離れもしない。

(……試してる)

2人は、あえて気づかないふりをして歩いた。

村の外れ。
林へ続く小道。

その瞬間。

刻印が、はっきりと拒絶を示した。

「……止まれ。」

カイルが、即座にレオの前に出る。

「出てこい。」

林の影から、男が1人、姿を現した。

年齢不詳。
武器はない。

だが、“空気”が違う。

「驚かせるつもりはありません。」

穏やかな声。

「私は、ただの――観測者です。」

「観測?」

カイルの声は低い。

「誰の?」

男は、レオを見た。

「誓約者の。」

その瞬間、カイルの殺気が、はっきりと立ち上がった。

「……目的を言え。」

男は、肩をすくめる。

「安心していただきたい。奪うつもりも、壊すつもりもありません。ただ…」

1歩、踏み出す。

「確認したいのです。」

「その誓約が、どこまで“人の意志”で保たれているか…」

レオは、静かに前へ出た。

「……それ、前にも聞きました。」

「ええ。」

男は、わずかに微笑む。

「ですが、今回は少し違う。今回は…」

視線が鋭くなる。

「あなた1人に、選ばせたい。」

空気が、凍った。

「……どういう意味だ?」

カイルの声が、明確に危険になる。

男は、レオだけを見て言った。

「騎士団長がいない状況で。誓約が、あなたの意志だけで成立し続けるか、それを見たい。」

(……切り離し)

理解した瞬間、レオの中で、何かが冷えた。

「……つまり」

レオは、静かに言った。

「俺が1人になったら、この誓約は揺らぐと?」

「理論上は、可能です。」

男は、即答した。

「転生者の魂は、環境に影響されやすい。孤立、不安、恐怖。それらが積み重なれば――」

「黙れ。」

カイルが、低く遮る。

「その“理論”は、既に破綻している。」

男は、首を傾げた。

「では、なぜあなたは彼を前に立たせる?守るべき存在でしょう?」

その問いに、レオが答えた。

「守られるだけなら…」

1歩、前に出る。

「ここまで来てません。」

刻印が、穏やかに光る。

「誓約は、“一緒に選び続ける”ものです。1人にすることで、壊れるなら…」

視線を、まっすぐ向ける。

「それは、誓約じゃない。」

男は、しばらく黙っていた。

やがて、小さく息を吐く。

「……なるほど。やはりこの誓約は、“対”ではなく――」

一瞬、言葉を探す。

「“同行”だ。」

そう言い残し、男は後ずさった。

「本日は、これで。だが…」

最後に、意味深に言う。

「次は、もっと露骨になります。」

男は、林の奥へ消えた。

しばらく、沈黙。

「……はあ。」

レオが、息を吐く。

「平和、短かったですね。」

「むしろ、長かった。」

カイルは、苦く笑った。

「だが――」

レオを見る。

「今のやり取りで、確信した。」

「俺たちは、もう“試される段階”を越えた。」

「え?」

「次は…」

低く、断言する。

「奪うか、壊すかだ。」

刻印が、静かに共鳴した。

それは、恐怖ではない。

覚悟の音だった。

静かな村の風景は、変わらない。
だが、世界は確実に動いている。

そしてレオは、はっきりと感じていた。

次に狙われるのは――
**自分の「選択そのもの」**だと。
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