蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

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第25話

夜明けの向こう、ふたりの居場所

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夜明け前の空気は、ひどく澄んでいた。

丘を越え、王都から十分に距離を取ったところで、2人はようやく足を止めた。
東の空が、わずかに白み始めている。

「……朝ですね。」

レオが、吐く息を確かめるように言う。

「ああ。」

カイルは周囲を見渡し、危険がないことを確認してから、ようやく剣から手を離した。

「追手は、まだ来ない。」

「“まだ”なんですね。」

苦笑すると、カイルは一瞬だけこちらを見る。

「不安か?」

「少し…」

正直に答える。

「でも……」

言葉を探す間、刻印が穏やかに脈打った。

「怖くはないです。」

それは嘘ではなかった。
王城を出た今、身の安全や未来の保証は何1つない。

それでも――
胸の奥が、静かに満ちている。

「……お前は、不思議だな。」

カイルが低く言う。

「すべてを失った直後に、そんな顔ができるとは…」

「失ってないですよ?」

レオは、即座に返した。

「手に入れたものの方が、大きいです。」

一瞬、風が吹いた。

草が揺れ、朝露が光る。

カイルは、しばらく黙っていたが、やがて、そっと手を伸ばしてきた。

指が触れる。

絡めるように、自然に。

「……なあ、レオ。」

「はい。」

「しばらくは、不便な生活になる。名も、立場も、捨てることになる。それでも――」

言葉が、慎重に選ばれているのが分かる。

「俺と来るか…?」

答えは、考えるまでもなかった。

「もう来てます。」

レオは、繋いだ手を軽く握り返す。

「今さら、別行動はないでしょう。」

その言い方に、カイルは小さく息を吐き、笑った。

「……そうだったな。」

2人は、再び歩き出す。

道なき道。
それでも、不思議と足取りは軽い。

やがて、小さな村が見えてきた。

王都とは違い、石ではなく木と土の建物。
朝の支度をする人々の気配。

「ここで、1度休む。身なりを整えて、追跡をやり過ごす。」

騎士団長らしい判断だ。

宿屋に入ると、主人は2人をただの旅人だと思ったらしい。

詮索はない。
それが、妙に新鮮だった。

「部屋は1つでいいか?」

そう聞かれ、レオは一瞬だけ言葉に詰まる。

「……はい」

答えると、カイルがこちらを見た。

「嫌なら、別でも――」

「嫌じゃないです。」

被せるように言ってしまい、自分でも少し驚く。

だが、後悔はない。

部屋は簡素だった。
木の寝台が1つ、小さな窓、粗末な机。

「……狭いですね。」

「問題ない。」

即答。

「俺たちは、もっと狭い場所でも生き延びてきた。」

それは戦場の話だろう。
だが今は、妙に別の意味にも聞こえる。

外套がいとうを外し、よろいを置く。

その姿を見て、レオは初めて気づいた。

(……この人、疲れてる)

地下拘束、脱出、緊張。
限界が来ていないはずがない。

「……少し、休んでください。」

レオが言うと、カイルは一瞬、驚いたような顔をした。

「……命令か?」

「お願いです。」

そう言うと、少しだけ目を細める。

「……お前は、本当に俺を甘やかすのが上手い。」

そう言いながら、寝台に腰を下ろす。

レオも、隣に座った。

言葉はない。
ただ、呼吸が重なる。

「……なあ」

しばらくして、カイルが言う。

「王城を出た瞬間、不安になると思っていた。でも…」

レオの肩に、額を預ける。

「今は、妙に落ち着いている。」

「同じです。」

レオも、静かに答える。

「ここが、正しい場所なんだって……そう思えて…」

刻印が、穏やかに光った。

派手な奇跡ではない。
だが、確かに“ここにある”感覚。

「……これから」

カイルが、低く続ける。

「追われる。試される。奪おうとする者も、現れる。それでも…」

顔を上げ、真っ直ぐに見る。

「俺は、お前を選び続ける。」

レオは、笑った。

「それ、もう誓約に含まれてますよ?」

「……そうか。じゃあ…」

ほんの少し、声が柔らぐ。

「言い直す。それでも、何度でも言う。」

レオは、そっと肩にもたれた。

逃げてきたはずなのに。
失ったはずなのに。

今ここには、奇妙なほど穏やかな朝がある。

それが、新しい日常の始まりだと――
まだ、2人は知らない。

だが確かに。

誓約は、伝説になっても、日常を選び続けている。

そして、その日常こそが、何よりも壊されがたいものだと。
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