蒼誓(そうせい)の騎士は転生者を離さない ― 異世界転生BL/騎士×転生者 ―

遊羽(ゆう)

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第29話

敵か、奇跡か

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王城の議場は、重苦しい空気に包まれていた。

「……3度目だ。」

王の低い声が、石壁に反響する。

「拘束は破られ、分離結界は破壊され、聖庁の管理下施設も突破された。これを、どう説明する?」

誰も、即答できなかった。

騎士団長カイル・ヴァルグリム。
そして転生者レオ。

2人の誓約は、もはや“違法”の枠を越えている。

「誓約の強度が、異常です。」

魔術顧問が、震える声で言う。

「干渉型結界に対し、外部共鳴で自壊現象を起こした。理論上、同調率が9割を超えなければ不可能です。」

「9割?」

重臣の1人が、顔をしかめる。

「歴史上、存在したのか?」

「神代の記録に、2例のみ。人同士では……確認されていません。」

沈黙が落ちる。

「……つまり」

王が、静かに言う。

「我らは今、“前例のないもの”を相手にしている。」

その言葉が、場の空気を変えた。

敵。
反逆者。
秩序の破壊者。

そう呼ぶには、あまりに“異質”だった。

聖庁側代表が、口を開く。

「もはや、抑圧は逆効果です。」

「民は既に、彼らを“奇跡”と認識し始めている。」

王都では、噂が広がっていた。

・誓約者は神意に等しい
・王命すら退けた
・光の道を渡った

それを、完全に否定する証拠はない。

「排除を続ければ…」

聖庁代表は続ける。

「彼らは“殉教者”になります。」

「伝説は、迫害によって強化される。」

王は、ゆっくりと玉座に背を預けた。

「ならば、どうする?」

その問いに、沈黙。

やがて、軍務大臣が口を開いた。

「……利用する。」

空気が、わずかに動く。

「誓約の力は、干渉結界を突破した。つまり、外敵の結界も破れる可能性がある。北境の魔族領との境界結界。あれは、100年前から手詰まりだ。」

場の視線が、一斉に集まる。

「まさか…」

魔術顧問が、息を呑む。

「彼らに、協力を求めると?」

「敵として追い回すより…」

軍務大臣は冷静に言う。

「“国家の象徴”にした方が、制御しやすい。」

王は、目を細めた。

「……誓約を、認めると?」

「条件付きで…」

聖庁代表が続ける。

「神域侵犯の罪は取り下げる。代わりに、誓約を“公的登録”させる。」

「監視下に置く。」

「……監視?」

「はい。敵に回せば、止められない。味方にすれば、制限は可能。」

王は、しばらく考え込んだ。

その間、誰も口を開かない。

やがて。

「……呼べ。」

静かな命令。

「誓約者2名に、交渉の場を設ける。」

その決断は、排除から“招請”への転換だった。





一方。

レオとカイルは、森を抜けた小さな街に滞在していた。

分離結界を破った後、追撃は止まっている。

それが、逆に不気味だった。

「……静かすぎますね。」

宿の窓から外を見ながら、レオが言う。

「嵐の前だな。」

カイルは、短く答える。

刻印は、穏やかだ。

だが、その奥に――
わずかな“波”がある。

(……来る)




夕刻。

宿の扉が叩かれた。

「王城より使者。」

低く、整った声。

カイルは、レオを一瞬見る。

レオは、静かに頷いた。

扉を開ける。

そこに立っていたのは、王直属の文官。

武装はない。

敵意もない。

「騎士団長カイル・ヴァルグリム殿。誓約者レオ殿。王より、正式な交渉の申し出があります。」

沈黙。

「……拘束ではなく?」

カイルが問う。

「ええ。」

文官は、真っ直ぐに答える。

「国家は、あなた方の誓約を“危険”ではなく“可能性”として再評価しました。」

レオの胸が、わずかにざわめく。

「……急ですね。」

「急です。」

文官は、否定しない。

「止められないものは、利用する。」

率直すぎる。

だが、嘘はない。

「条件は?」

カイルが問う。

「誓約の公的登録。国家への協力。対外的危機への共同対応。代わりに…」

文官は、はっきりと言った。

「誓約の合法承認。追跡の停止。身分の回復。」

部屋に、静寂が落ちる。

敵から、協力要請へ。

追われる立場から、“必要とされる存在”へ。

「……どう思う?」

カイルが、低くレオに問う。

レオは、少し考えた。

(……罠ではない)

刻印は、静かだ。

拒絶していない。

「……選ぶのは…」

レオは、ゆっくりと言った。

「俺たちです。」

文官が、わずかに目を細める。

「国家に従うかどうか、ではなく…」

レオは続ける。

「俺たちの誓約が、どう在りたいか。」

カイルは、静かに息を吐いた。

「……だな。」

視線を、文官へ向ける。

「王に伝えろ。我々は、交渉には応じる。だが…」

蒼い瞳が、揺るがない。

「誓約は、条件に含まれない。それを前提に話せ。」

文官は、深く一礼した。

「承知しました。」

扉が閉まる。

しばらく、沈黙。

「……利用されるかもしれませんよ?」

レオが言う。

「構わない。」

カイルは、迷わず答える。

「利用される価値があるなら、それも選択だ。だが…」

レオを見る。

「選ぶのは、俺たちだ。」

刻印が、穏やかに共鳴する。

敵か、奇跡か。

世界は、まだ迷っている。

だが1つだけ確かなのは――

この誓約は、もはや“排除できる存在”ではないということ。

そして、次の舞台は。

逃亡でも、追跡でもない。

王との対話。

物語は、新しい局面へ進む。
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