38 / 51
第37話
触れようとする指先
しおりを挟む
祝宴から3日後。
王城の1室に、静かな緊張が満ちていた。
「……正式な研究協力依頼です。」
書簡を差し出したのは、王国魔術院の使者。
差出人は――
アルヴェイン・ルシェル。
レオは、無言でその封を切った。
誓約の安定構造解析
境界との共鳴観測
最小限の干渉実験
文字は、冷静で整っている。
だが。
「……実験。」
レオが、小さく呟く。
「却下だ。」
カイルは、書簡を奪い取るようにして読み、即座に言った。
「話にならない。」
「でも…」
レオは、静かに言う。
「“干渉しない観測”って書いてあります。」
カイルの視線が、鋭くなる。
「観測は干渉だ。誓約を“外から見る”時点でな。」
その言葉は、正しい。
誓約は、2人の選択の循環。
外部の視点が入れば、意味が変わる。
「……会うだけなら…」
レオが言った瞬間。
空気が、はっきりと変わった。
「レオ。」
低い声。
警告ではない。
制止。
「危険だ。」
「分かってます。」
「だが、分かっているからこそ危険だ。」
カイルは、1歩近づく。
距離が、近い。
圧が、強い。
「彼は、誓約を“現象”として見ている。お前を、式の一部として扱う。」
その言葉に、胸がわずかにざわつく。
(……式の一部)
嫌な表現だ。
だが、否定できない。
境界と結びついたことで、誓約は確かに“構造”の一部になった。
「……逃げ続けるのは、違うと思うんです。」
レオは、正直に言った。
「理解されることも、必要かもしれない。」
沈黙。
カイルは、しばらく何も言わなかった。
やがて。
「……俺も同席する。」
「当然です。」
レオは、少し笑った。
それで、決まった。
◇
魔術院。
白い石造りの建物は、王城とは違う冷たさがある。
案内された研究室は、広い。
中央には、巨大な魔術陣。
その前に、アルヴェインが立っていた。
「お待ちしていました。」
穏やかな笑み。
だが、その目は相変わらず静かすぎる。
「騎士団長も同席ですか?」
「当然だ。」
カイルの声は、低い。
アルヴェインは、軽く肩をすくめる。
「構いません。」
「今回の目的は、あくまで観測。」
視線が、レオへ向く。
「境界と共鳴した誓約は、現在も微弱に接続状態にあるはずです。」
レオは、頷いた。
「感じます。」
「では…」
アルヴェインは、魔術陣を指し示す。
「その中心に立ってください。」
カイルの手が、レオの腕を掴む。
「……危険は?」
「ありません。」
即答。
「干渉術式は組み込んでいない。観測のみ。」
レオは、カイルを見る。
その蒼い瞳には、明確な不安がある。
だが。
「一緒にいてください。」
レオは、静かに言った。
「離れません。」
カイルは、ゆっくりと手を離す。
だが、視線は外さない。
レオが、魔術陣の中心へ立つ。
アルヴェインが、術式を起動する。
淡い光。
刻印が、反応する。
(……境界)
遠くの鼓動が、わずかに強まる。
「……やはり…」
アルヴェインが、低く呟く。
「誓約は、閉じていない。外部と、共鳴している。」
「当然だ。」
カイルが、鋭く言う。
「俺たちが選んだ結果だ。」
アルヴェインは、興味深そうに頷く。
「ですが…」
視線が、レオへ固定される。
「この共鳴は、“2人の意志”とは別に存在している」
レオの胸が、ひやりとする。
「どういう意味ですか?」
「誓約は、もはや“2者のみの循環”ではない。」
「第3の支点がある。」
――境界。
「つまり…」
アルヴェインの声は、穏やかだ。
「理論上、支点を変えれば…循環構造を再編できる。」
空気が、凍った。
カイルの殺気が、明確に立ち上がる。
「……今、何と言った?」
アルヴェインは、平然としている。
「誤解しないでください。再編とは、破壊ではない。より安定した形への変換です。」
レオの刻印が、強く拒絶を示す。
「……それは…」
レオは、はっきりと言った。
「誓約じゃない。」
アルヴェインは、微笑んだ。
「感情的ですね。」
「当然だ。」
カイルが、1歩前に出る。
「誓約は、感情だ。式ではない。」
2人の間で、刻印が強く共鳴する。
光が、わずかに広がる。
魔術陣が、軋む。
アルヴェインの目が、初めてわずかに見開かれた。
「……観測だけで、反発が…」
小さく、呟く。
「興味深い。」
その言葉が、火に油を注いだ。
カイルは、レオの手を引く。
「終わりだ。」
術式が、強制的に停止する。
光が消える。
沈黙。
「……本当に、触れる気はなかったのか?」
カイルが、低く問う。
アルヴェインは、少しだけ考えた。
「理論的可能性を提示しただけです。選ぶのは、あなた方。」
その言い方が、余計に危険だった。
研究室を出る。
廊下に出た瞬間、カイルが足を止める。
「……2度と、1人で会うな。」
声は、静かだが強い。
「分かりました。」
レオは、素直に答えた。
「でも…」
少しだけ、笑う。
「怒ってます?」
「当然だ。」
即答。
「誓約を、式にされかけた。」
カイルの指が、レオの顎に触れる。
視線が、絡む。
「誓約は…」
低く、はっきりと。
「俺たちのものだ。」
刻印が、強く光る。
独占。
執着。
そして。
揺るがない選択。
遠くで。
アルヴェインは、窓から2人を見ていた。
「……なるほど…」
小さく呟く。
「ならば、外からではなく、内側から揺らすしかない。」
新たな思惑が、静かに動き始める。
誓約は、守られている。
だが。
次の試練は――
2人の“内側”に触れようとしていた。
王城の1室に、静かな緊張が満ちていた。
「……正式な研究協力依頼です。」
書簡を差し出したのは、王国魔術院の使者。
差出人は――
アルヴェイン・ルシェル。
レオは、無言でその封を切った。
誓約の安定構造解析
境界との共鳴観測
最小限の干渉実験
文字は、冷静で整っている。
だが。
「……実験。」
レオが、小さく呟く。
「却下だ。」
カイルは、書簡を奪い取るようにして読み、即座に言った。
「話にならない。」
「でも…」
レオは、静かに言う。
「“干渉しない観測”って書いてあります。」
カイルの視線が、鋭くなる。
「観測は干渉だ。誓約を“外から見る”時点でな。」
その言葉は、正しい。
誓約は、2人の選択の循環。
外部の視点が入れば、意味が変わる。
「……会うだけなら…」
レオが言った瞬間。
空気が、はっきりと変わった。
「レオ。」
低い声。
警告ではない。
制止。
「危険だ。」
「分かってます。」
「だが、分かっているからこそ危険だ。」
カイルは、1歩近づく。
距離が、近い。
圧が、強い。
「彼は、誓約を“現象”として見ている。お前を、式の一部として扱う。」
その言葉に、胸がわずかにざわつく。
(……式の一部)
嫌な表現だ。
だが、否定できない。
境界と結びついたことで、誓約は確かに“構造”の一部になった。
「……逃げ続けるのは、違うと思うんです。」
レオは、正直に言った。
「理解されることも、必要かもしれない。」
沈黙。
カイルは、しばらく何も言わなかった。
やがて。
「……俺も同席する。」
「当然です。」
レオは、少し笑った。
それで、決まった。
◇
魔術院。
白い石造りの建物は、王城とは違う冷たさがある。
案内された研究室は、広い。
中央には、巨大な魔術陣。
その前に、アルヴェインが立っていた。
「お待ちしていました。」
穏やかな笑み。
だが、その目は相変わらず静かすぎる。
「騎士団長も同席ですか?」
「当然だ。」
カイルの声は、低い。
アルヴェインは、軽く肩をすくめる。
「構いません。」
「今回の目的は、あくまで観測。」
視線が、レオへ向く。
「境界と共鳴した誓約は、現在も微弱に接続状態にあるはずです。」
レオは、頷いた。
「感じます。」
「では…」
アルヴェインは、魔術陣を指し示す。
「その中心に立ってください。」
カイルの手が、レオの腕を掴む。
「……危険は?」
「ありません。」
即答。
「干渉術式は組み込んでいない。観測のみ。」
レオは、カイルを見る。
その蒼い瞳には、明確な不安がある。
だが。
「一緒にいてください。」
レオは、静かに言った。
「離れません。」
カイルは、ゆっくりと手を離す。
だが、視線は外さない。
レオが、魔術陣の中心へ立つ。
アルヴェインが、術式を起動する。
淡い光。
刻印が、反応する。
(……境界)
遠くの鼓動が、わずかに強まる。
「……やはり…」
アルヴェインが、低く呟く。
「誓約は、閉じていない。外部と、共鳴している。」
「当然だ。」
カイルが、鋭く言う。
「俺たちが選んだ結果だ。」
アルヴェインは、興味深そうに頷く。
「ですが…」
視線が、レオへ固定される。
「この共鳴は、“2人の意志”とは別に存在している」
レオの胸が、ひやりとする。
「どういう意味ですか?」
「誓約は、もはや“2者のみの循環”ではない。」
「第3の支点がある。」
――境界。
「つまり…」
アルヴェインの声は、穏やかだ。
「理論上、支点を変えれば…循環構造を再編できる。」
空気が、凍った。
カイルの殺気が、明確に立ち上がる。
「……今、何と言った?」
アルヴェインは、平然としている。
「誤解しないでください。再編とは、破壊ではない。より安定した形への変換です。」
レオの刻印が、強く拒絶を示す。
「……それは…」
レオは、はっきりと言った。
「誓約じゃない。」
アルヴェインは、微笑んだ。
「感情的ですね。」
「当然だ。」
カイルが、1歩前に出る。
「誓約は、感情だ。式ではない。」
2人の間で、刻印が強く共鳴する。
光が、わずかに広がる。
魔術陣が、軋む。
アルヴェインの目が、初めてわずかに見開かれた。
「……観測だけで、反発が…」
小さく、呟く。
「興味深い。」
その言葉が、火に油を注いだ。
カイルは、レオの手を引く。
「終わりだ。」
術式が、強制的に停止する。
光が消える。
沈黙。
「……本当に、触れる気はなかったのか?」
カイルが、低く問う。
アルヴェインは、少しだけ考えた。
「理論的可能性を提示しただけです。選ぶのは、あなた方。」
その言い方が、余計に危険だった。
研究室を出る。
廊下に出た瞬間、カイルが足を止める。
「……2度と、1人で会うな。」
声は、静かだが強い。
「分かりました。」
レオは、素直に答えた。
「でも…」
少しだけ、笑う。
「怒ってます?」
「当然だ。」
即答。
「誓約を、式にされかけた。」
カイルの指が、レオの顎に触れる。
視線が、絡む。
「誓約は…」
低く、はっきりと。
「俺たちのものだ。」
刻印が、強く光る。
独占。
執着。
そして。
揺るがない選択。
遠くで。
アルヴェインは、窓から2人を見ていた。
「……なるほど…」
小さく呟く。
「ならば、外からではなく、内側から揺らすしかない。」
新たな思惑が、静かに動き始める。
誓約は、守られている。
だが。
次の試練は――
2人の“内側”に触れようとしていた。
1
あなたにおすすめの小説
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~
春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』
アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。
唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。
美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。
だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。
母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。
そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。
——カイエンが下す「最後の選択」とは。
ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由
スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。
どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる