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第42話
静かすぎる鼓動
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カイルの傷は、完全に塞がった。
医療魔術師たちは口を揃えて「奇跡」と言った。
出血量、損傷の深さ、どれを取っても生還は不可能だったと。
だが。
奇跡の代償は、静かにそこにあった。
夜。
王城の私室。
レオは、胸に触れていた。
刻印は、変わらずそこにある。
消えていない。
弱まってもいない。
むしろ――
安定しすぎている。
「……どうした?」
ベッドの端に腰掛けたカイルが問う。
「いえ…」
レオは笑う。
「ちょっと、静かだなって…」
「静か?」
「前は、もっと揺れてた。」
嬉しいとき、少し強く。
不安なとき、少し熱く。
怒れば、はっきり波打った。
今は。
一定。
常に一定。
穏やかで、強く、乱れない。
「安定しているなら、問題はない。」
カイルはそう言う。
だが、その声もどこか静かだ。
レオは近づく。
触れる。
キスをする。
いつもと同じはずなのに。
(……深いのに、揺れない)
愛情はある。
確かにある。
だが、胸の奥が震えない。
「……カイル。」
「ん?」
「怖くないですか?」
「何がだ?」
「俺が、いなくなるかもしれないって…」
以前なら、その問いだけで刻印は強く反応した。
今は。
変わらない。
カイルは、少しだけ間を置いて言う。
「怖い…」
だが。
その感情が、誓約に伝わってこない。
レオは、はっきりと気づいた。
(……吸収されてる)
恐怖も、不安も、揺らぎも。
すべて、平坦になっている。
「……レオ…」
カイルが、真っ直ぐ見る。
「俺は、怖かった…お前が、固定化を使った瞬間。」
その言葉に、胸がわずかに痛む。
「でも今は…」
低く続ける。
「安心している。誓約は、壊れない。」
その安心が。
重い。
「……壊れないって。」
レオは小さく笑う。
「いいことのはずなのに…」
「何かが、違う。」
沈黙。
カイルの指が、刻印に触れる。
「冷たいな。」
ぽつりと呟く。
レオは、息を止めた。
同じことを思っていた。
温かくない。
燃えるような感覚がない。
ただ、完成された構造がある。
「……アルヴェイン…」
カイルが低く言う。
「あいつは、これを望んでいた。固定された誓約。」
レオは、視線を落とす。
「助けるために、やったんです。」
「分かっている。」
即答。
だが。
「誓約は、命を繋ぐ鎖じゃない。」
その言葉は、重い。
「選び続けるものだ。」
レオは、刻印を握りしめた。
揺れない。
何をしても。
「……もし」
小さく言う。
「このまま揺れなくなったら、どうなりますか?」
カイルは、しばらく答えなかった。
やがて。
「俺は、選び直す。」
はっきりと言う。
「誓約がなくても…」
その言葉は、力強い。
だが。
刻印は、反応しない。
以前なら、爆発的に共鳴したはずだ。
今は。
静寂。
その静寂が、怖い。
同じ夜。
魔術院。
アルヴェインは、記録を確認していた。
「共鳴値、安定。揺らぎ、消失。」
満足げに、息を吐く。
「固定構造、完成形。」
だが、ふと手を止める。
「……だが」
窓の外を見る。
「揺らぎがない誓約は、進化しない。」
小さく笑う。
「さて…次は、崩壊実験だ。」
王城の夜は、静かだった。
静かすぎるほどに。
誓約は、壊れていない。
だが。
生きているとも言い難い。
時は、静かに歪み始めた。
医療魔術師たちは口を揃えて「奇跡」と言った。
出血量、損傷の深さ、どれを取っても生還は不可能だったと。
だが。
奇跡の代償は、静かにそこにあった。
夜。
王城の私室。
レオは、胸に触れていた。
刻印は、変わらずそこにある。
消えていない。
弱まってもいない。
むしろ――
安定しすぎている。
「……どうした?」
ベッドの端に腰掛けたカイルが問う。
「いえ…」
レオは笑う。
「ちょっと、静かだなって…」
「静か?」
「前は、もっと揺れてた。」
嬉しいとき、少し強く。
不安なとき、少し熱く。
怒れば、はっきり波打った。
今は。
一定。
常に一定。
穏やかで、強く、乱れない。
「安定しているなら、問題はない。」
カイルはそう言う。
だが、その声もどこか静かだ。
レオは近づく。
触れる。
キスをする。
いつもと同じはずなのに。
(……深いのに、揺れない)
愛情はある。
確かにある。
だが、胸の奥が震えない。
「……カイル。」
「ん?」
「怖くないですか?」
「何がだ?」
「俺が、いなくなるかもしれないって…」
以前なら、その問いだけで刻印は強く反応した。
今は。
変わらない。
カイルは、少しだけ間を置いて言う。
「怖い…」
だが。
その感情が、誓約に伝わってこない。
レオは、はっきりと気づいた。
(……吸収されてる)
恐怖も、不安も、揺らぎも。
すべて、平坦になっている。
「……レオ…」
カイルが、真っ直ぐ見る。
「俺は、怖かった…お前が、固定化を使った瞬間。」
その言葉に、胸がわずかに痛む。
「でも今は…」
低く続ける。
「安心している。誓約は、壊れない。」
その安心が。
重い。
「……壊れないって。」
レオは小さく笑う。
「いいことのはずなのに…」
「何かが、違う。」
沈黙。
カイルの指が、刻印に触れる。
「冷たいな。」
ぽつりと呟く。
レオは、息を止めた。
同じことを思っていた。
温かくない。
燃えるような感覚がない。
ただ、完成された構造がある。
「……アルヴェイン…」
カイルが低く言う。
「あいつは、これを望んでいた。固定された誓約。」
レオは、視線を落とす。
「助けるために、やったんです。」
「分かっている。」
即答。
だが。
「誓約は、命を繋ぐ鎖じゃない。」
その言葉は、重い。
「選び続けるものだ。」
レオは、刻印を握りしめた。
揺れない。
何をしても。
「……もし」
小さく言う。
「このまま揺れなくなったら、どうなりますか?」
カイルは、しばらく答えなかった。
やがて。
「俺は、選び直す。」
はっきりと言う。
「誓約がなくても…」
その言葉は、力強い。
だが。
刻印は、反応しない。
以前なら、爆発的に共鳴したはずだ。
今は。
静寂。
その静寂が、怖い。
同じ夜。
魔術院。
アルヴェインは、記録を確認していた。
「共鳴値、安定。揺らぎ、消失。」
満足げに、息を吐く。
「固定構造、完成形。」
だが、ふと手を止める。
「……だが」
窓の外を見る。
「揺らぎがない誓約は、進化しない。」
小さく笑う。
「さて…次は、崩壊実験だ。」
王城の夜は、静かだった。
静かすぎるほどに。
誓約は、壊れていない。
だが。
生きているとも言い難い。
時は、静かに歪み始めた。
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