カウンター越しの熱帯夜

遊羽(ゆう)

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プロローグ

熱の入り口

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扉を開けた瞬間、湿り気を帯びた熱気が肺にへばりついた。

荒金あらかね 義明よしあきは、自分の場違いなスーツ姿を1度だけ呪い、無愛想にカウンターの端へ腰を下ろした。51年の人生、仕事と孤独だけを正解として生きてきた男が、ふとした夜、導かれるようにこの路地裏のバーの扉を叩いたのは、単なる気まぐれだったはずだ。

だが、その1歩が、彼の中に眠っていた「獣」を暴力的に呼び覚ますことになった。

「いらっしゃいませ!」

弾んだ声と共に、目の前に白く柔らかな手が差し出される。
視線を上げれば、そこには重めの前髪の間から、濡れたような瞳を覗かせる青年がいた。

瀬戸せと 陽向ひなた
彼が纏う黒のTシャツは、驚くほど白い首筋と、マシュマロのように柔らかな肌を鮮烈に際立たせている。その身体のラインを認めた瞬間、義明の脳髄に痺れるような衝撃が走った。

(……ああ、なんて。なんて美味そうな肉だ)

50を過ぎて今さら、理性が本能に完敗する音がした。
義明の視線は、吸い寄せられるように陽向の身体を舐め回す。黒い生地を内側から押し返す豊かな胸板。そして何より、Tシャツの裾がわずかに持ち上がり、スラックスのベルトの上に乗った「ふっくらとした腹の肉」に目が釘付けになった。

指を立てれば、どこまでも沈み込んでしまいそうな、淫らなほどの柔らかさ。
その感触を想像しただけで、義明の股間はかつてないほどの硬度で自己主張を始めた。ズボンの生地を内側から猛烈に突き上げ、熱を帯びた剛直が、はち切れんばかりに膨張する。50を過ぎてなお、これほどまでに野卑な反応を身体が示すなど、想像だにしていなかった。

今すぐその黒いTシャツを捲り上げ、むき出しになった真っ白な腹に自分の無骨な大きな掌を押し当てたい。その柔らかな脂肪を手のひらで揉みしだき、指の隙間から肉が溢れるさまを眺めたい。
あるいは、その豊かな臀部を両手で掴み上げ、自分のはち切れそうな熱をその奥へと沈めることができたなら――。

「……何か、お作りしましょうか?」

陽向が首を傾げると、広い襟元からふっくらとした鎖骨と、そこへ続く柔らかな胸元の肉が見えた。
義明は、喉の奥が焦げ付くような渇きを覚える。自分の三白眼が、欲望を隠しきれずに陽向を犯すような視線を送っている自覚があった。

「お疲れ……なんですね。すごく頑張ったあとの顔、してます。」

陽向は怯えるどころか、慈しむような笑みを浮かべて身を乗り出してきた。
カウンター越しに漂う石鹸の香りに、義明の心拍数は跳ね上がる。乱暴に奪いたいのではない。だが、この巨大な手のひらで、あの子の身体の隅々まで、指紋が消えるほどに丁寧に愛で尽くしたい。その柔らかい肉の1つ1つを、自分の重みでじっくりと溶かすように可愛がりたいという、ドロリとした執着が脳を支配した。

「……山崎を。ロックで・・・」

絞り出した声は、欲望と愛撫への飢えで酷く濁っていた。
陽向が「はい、喜んで」と笑い、丸みを帯びた腰を揺らしてボトルの棚へと向かう。

義明は、その背中を、黒い生地越しでもはっきりと分かる豊かな肉付きを、這い回るような視線で追い続けた。
この熱帯夜に、俺は初めて、自分という男が持て余すほどの「重さ」を知った。

カウンター越しの、わずか数10センチの境界線。
それが今はあまりにももどかしい。

義明は確信していた。
俺は、この子を逃さない。たとえそのために、これまでの人生で築き上げた矜持をすべて投げ打つことになっても、この柔らかな肉の感触だけは、俺が一生をかけて守り、慈しみ、愛で尽くす。

熱帯夜は、まだ始まったばかりだった。
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