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プロローグ
崩壊の序曲
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東京の夜景は、いつだって冷たく、美しい。
地上200メートル、全面ガラス張りのリビングから見下ろす街は、まるで誰かがぶちまけた宝石箱のようだった。
俺――朝霧湊は、ソファで膝の上に置いたノートPCの画面を見つめていた。
指先が、無意識に震える。
画面に並ぶのは、霧島が送ってきた「掃除屋」のリスト。そこに記された名前のいくつかは、国際手配犯や、戦地で行方不明になったはずの元兵士たちだった。
「……湊。」
背後から、低い、けれど安らぎを与える声がした。
振り向くと、厳がバスローブを羽織り、手に2つのグラスを持って立っていた。肩にはまだ、鏑木との死闘で刻まれた傷を保護するガーゼが白く浮いている。
「少しは休め。……今夜は雨も降っていない。死神も、晴れた夜には活動しにくいだろうよ。」
「厳……。でも、霧島が言ってたことが本当なら、もう猶予はないよ…」
厳は俺の隣に座り、琥珀色の液体が揺れるグラスを差し出した。
俺の手を包み込む彼の掌は、驚くほど熱い。新宿のゲイバーで、そしてあの夜のベンチで、俺を激しく求めたあの熱量。
「……お前が、怯えているのか。それとも、武者震いか?」
「どっちかな。……ただ、厳を失うことだけが、今は一番怖いんだ。」
俺が厳の胸に顔を寄せると、彼は空いた手で俺の髪を優しく梳いた。
その時だった。
ピピッ、と俺のスマホが短く、鋭い警告音を発した。
俺が構築した、マンション全体のセキュリティ・システム。外壁に設置された赤外線センサーが、異常を検知したのだ。
「……来た。」
俺はPCの画面を切り替えた。
監視カメラの映像には何も映っていない。だが、熱感知センサーには、屋上からロープ一本で降下してくる「何者か」の熱源が3つ、青白い影となって浮かび上がっていた。
彼らはカメラを破壊しない。死角を知り尽くし、光学迷彩のように夜の闇に溶け込んでいる。
「……プロだな。ヤクザの歩兵じゃねえ」
厳はグラスをテーブルに置くと、その下からホルスターに収まった2丁の拳銃を取り出した。
その瞳には、すでに情事の残照はない。獲物を迎撃する、漆黒の殺意だけが宿っている。
「湊、裏口のロックを解除しろ。エレベーターを最上階で固定。……この城は、今から鉄の檻になる。」
「分かった。……厳、僕がルートを指示する。耳のデバイス、付けて。」
俺は自分のスマホを操作し、マンション内のスマート家電から照明まで、すべての制御権を握った。
俺の知識。それは今、この「硝子の城」を要塞に変えるための最強の武器となる。
カラン、とリビングのベランダで乾いた音がした。
ガラスの向こう。
逆さ吊りになった黒い人影が、無表情なガスマスクを被り、こちらを見つめていた。
その手には、サイレンサー付きのサブマシンガン。
厳が俺を突き飛ばし、ソファの陰へ飛び込む。
同時に、防弾仕様のはずの強化ガラスが、音もなく粉々に砕け散った。
「……ようこそ、地獄の1丁目へ。」
厳の低い呟きと共に、1発の銃声が夜の静寂を切り裂いた。
平穏は、終わった。
俺たちの愛を、世界という名の怪物が喰らいに来る。
――Season 3。
硝煙と電子の海、その真ん中で、俺たちの「本当の戦争」が始まった。
地上200メートル、全面ガラス張りのリビングから見下ろす街は、まるで誰かがぶちまけた宝石箱のようだった。
俺――朝霧湊は、ソファで膝の上に置いたノートPCの画面を見つめていた。
指先が、無意識に震える。
画面に並ぶのは、霧島が送ってきた「掃除屋」のリスト。そこに記された名前のいくつかは、国際手配犯や、戦地で行方不明になったはずの元兵士たちだった。
「……湊。」
背後から、低い、けれど安らぎを与える声がした。
振り向くと、厳がバスローブを羽織り、手に2つのグラスを持って立っていた。肩にはまだ、鏑木との死闘で刻まれた傷を保護するガーゼが白く浮いている。
「少しは休め。……今夜は雨も降っていない。死神も、晴れた夜には活動しにくいだろうよ。」
「厳……。でも、霧島が言ってたことが本当なら、もう猶予はないよ…」
厳は俺の隣に座り、琥珀色の液体が揺れるグラスを差し出した。
俺の手を包み込む彼の掌は、驚くほど熱い。新宿のゲイバーで、そしてあの夜のベンチで、俺を激しく求めたあの熱量。
「……お前が、怯えているのか。それとも、武者震いか?」
「どっちかな。……ただ、厳を失うことだけが、今は一番怖いんだ。」
俺が厳の胸に顔を寄せると、彼は空いた手で俺の髪を優しく梳いた。
その時だった。
ピピッ、と俺のスマホが短く、鋭い警告音を発した。
俺が構築した、マンション全体のセキュリティ・システム。外壁に設置された赤外線センサーが、異常を検知したのだ。
「……来た。」
俺はPCの画面を切り替えた。
監視カメラの映像には何も映っていない。だが、熱感知センサーには、屋上からロープ一本で降下してくる「何者か」の熱源が3つ、青白い影となって浮かび上がっていた。
彼らはカメラを破壊しない。死角を知り尽くし、光学迷彩のように夜の闇に溶け込んでいる。
「……プロだな。ヤクザの歩兵じゃねえ」
厳はグラスをテーブルに置くと、その下からホルスターに収まった2丁の拳銃を取り出した。
その瞳には、すでに情事の残照はない。獲物を迎撃する、漆黒の殺意だけが宿っている。
「湊、裏口のロックを解除しろ。エレベーターを最上階で固定。……この城は、今から鉄の檻になる。」
「分かった。……厳、僕がルートを指示する。耳のデバイス、付けて。」
俺は自分のスマホを操作し、マンション内のスマート家電から照明まで、すべての制御権を握った。
俺の知識。それは今、この「硝子の城」を要塞に変えるための最強の武器となる。
カラン、とリビングのベランダで乾いた音がした。
ガラスの向こう。
逆さ吊りになった黒い人影が、無表情なガスマスクを被り、こちらを見つめていた。
その手には、サイレンサー付きのサブマシンガン。
厳が俺を突き飛ばし、ソファの陰へ飛び込む。
同時に、防弾仕様のはずの強化ガラスが、音もなく粉々に砕け散った。
「……ようこそ、地獄の1丁目へ。」
厳の低い呟きと共に、1発の銃声が夜の静寂を切り裂いた。
平穏は、終わった。
俺たちの愛を、世界という名の怪物が喰らいに来る。
――Season 3。
硝煙と電子の海、その真ん中で、俺たちの「本当の戦争」が始まった。
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