マレフィカス・ブルートは死に損ない

六十月菖菊

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【第1章】アヴィメントにて

【幕間】*****は還り損ねた

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 波のさざめく音が聞こえる。
 まず見えたのは心から愛する海だった。青く澄んだその場所に駆け寄りたい衝動が湧き上がるが、視線を降下させて見えたものに、身動きが取れなくなった。
 満ち干きを繰り返す波打ち際、砂浜、そして────人の足。
 それらを目にして、絶望した。

 ────ああ、私は、人に成ってしまった。

 人の身では、あの愛しい場所に還ることは叶わない。
 両目から涙が溢れた。
 悲しいままに言葉を零す。遠くなってしまった愛しい存在に向けて、未練がましく声を上げる。

『貴女が好きだよ。昔も今も、ずっとずっと愛してる。それなのに、貴女を穢す、この世で一番醜い存在に成ってしまった。こんな私を、きっと貴女は受け入れてくれない』

 身の内に流れる赤くて熱い生命の証。
 それに合わせて脈動する、中心核の音が煩わしくて堪らない。
 こんなもの、要らなかったのに。

『私の居場所は【そこ】以外ありえないのに。どうして? ────どうして!』

 寄せられた波と、砂浜の間にできた境界線。自身を更に遠ざける規制線そのもの。
 神聖なるその場所へ、卑しい人の身体で入ることは許されない。

『私は、貴女の中で、死にたかったのに! 貴女に還りたいだけなのに!』

 どうして、叶わない? 叶わなかった?

『憎い、憎い憎い憎い! 私の【最期】を奪った、貴女を穢した醜悪な人間どもを、私は決して許さない!』

 憎い。
 恨んでやる。
 許さない。
 苦しめてやる。

 ────齎された邪悪をもって、復讐してやる。

 人の形をした【それ】は、宣誓する。


『我が符名はマレフィカス・ブルート。与えられた権能は【災厄】。邪悪を体現する《人でなし》なり────』
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