【完結】死んだあの子が会いに来ました

月狂 紫乃/月狂 四郎

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彼の足跡 Shou’s mother

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 ――あの子はね、心の優しい子だった。

 あなたが知っているかは分からないけど、翔は亜衣ちゃんと付き合っていたの。

 きっかけは友達同士でやった肝試しらしくて、それを機に亜衣ちゃんと仲良くなったと聞いたわ。

 本当に不器用な子でねえ。最初に亜衣ちゃんを家に連れて来た時は驚いたわ。だって、あの子が異性に対して興味を持っているのかどうかも怪しかったもの。

 今で言うノンセクシャルってやつ? 性的なものにまったく欲求を持たないっていう人の特徴ね。翔はまさにそんな属性を持った子供だったと思う。

 それもあって、亜衣ちゃんみたいに見た目がかわいくて性格もいい彼女が出来たっていうのは、それこそ神のおぼしめしぐらいに感じたわよね。だって、そんな状況は想像すらしなかったもの。

 だから二人にはどうしても上手くいってほしくて、ウチに遊びに来る時は色々と用意したわ。ちょっと高めのおやつなんかも用意して、ね。

 だけど、ある日になって悲しいことが起きたの。

 今から二十五年前にね、翔と亜衣ちゃんがペルセウス流星群っていう流れ星がたくさん見られる夜に出かけていったの。星のよく見える、町はずれの峠に。

 翔は真面目な性格だったし、相手が亜衣ちゃんであれば夜に男女が一緒にいても大丈夫だとは思ったんだけど……ごめんなさい。今でも、あの時のことを思い出すとつらくなってしまってね。

 とにかく、翔と亜衣ちゃんは峠に流れ星を見に行ったの。その帰りに、悲劇は起きた。

 流星群を見終わった二人に、飲酒運転で暴走する車が突っ込んできた。翔は比較的軽傷で済んだけど、亜衣ちゃんが……。

 ねえ、どうして神様っていうのは、こうやって一生懸命生きている人を平気で向こうに連れて行くのでしょうね。あの時の翔がどんな気持ちでいたのかと考えると、本当にかわいそうでかわいそうで仕方なくなるの。

 ともかく、あの事故が原因で亜衣ちゃんは即死だった。良かったことは、見た目の損傷がさして無かったことと、彼女が苦しまずに死ねたことぐらい。その代わりに、翔は地獄の苦しみを味わうことになった。

 もともと感情を見せない子だったけど、亜衣ちゃんの亡くなった日から、あの子の感情は本当に根本から消え去ったように見えたわ。不幸な事故には違いなかったけど、翔は自分を責めて、そして責めて、見ているのもつらくなってしまうほどだった。

 ある程度の覚悟はしていたけど、その後の彼は懲役刑でも受けているかのように何の楽しみもなく人生を生きているようだった。新しい恋人も作らなかったし、きっと、そもそも作るつもりもなかったんじゃないかしら。亜衣ちゃんに悪いと思ってね。

 そんな翔は時々昔のお友達とも会いつつ、亜衣ちゃんの亡くなった現場まで節目ごとに弔いには行っていたみたい。わたしにそれを止める理由は無かったし、それによって彼の心が平穏に保たれるならいいと思っていた。

 だけど、悲劇はそれで終わらなかった。

 ――今度は、翔が事故で亡くなったの。

 皮肉なことにね、例の事故現場へ花を持って行った帰りだった。スピードを上げ過ぎたトラックがカーブを曲がり切れなったみたいでね。即死だったと聞いたわ。事故を起こしやすい地形なんでしょうね。

 いずれにしても、あの場所で二度も悲しい事故が起こり、翔の姿は二度と見ることが出来なくなった。

 場所が場所だっただけに、あの子が自殺でもしたんじゃないかって言う人もいる。だけどね、あの子はそんなことはしない。あの子は自分が背負うべき罪の重荷から逃げるよりも、それを背負って生きていくことを選ぶような子よ。私は翔の親だから分かるの。

 事故の話を聞いた時やお葬式が終わるまではひたすら混乱していたわ。どうしてあの子がとか、この世に神も仏も無いと思ったの。

 だけど、拭えない罪の意識で生き地獄のような毎日を過ごしていた翔を思い浮かべると、これで終わりになったのも一つの幸運なのかもしれないと思いはじめた。

 そりゃあ呼吸をしていれば生きてはいるのでしょうけど、悲しみに打ちひしがれながら毎日を過ごしていく人生がずっと続くと考えるとゾッとするでしょ?

 今頃、天国で亜衣ちゃんと仲良くしているのかしらね。分からないけど、どこにいたって息子が幸せでいられることを祈っている。

 だって、そうでもしないとやってられないじゃない。

 今日はこうやって亜衣ちゃんとそっくりなアユミちゃんが来たことだし、生きていればいいこともあるのよ。

 だから遠慮しないで、私のことを頼っていいのよ。
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