【完結】死んだあの子が会いに来ました

月狂 紫乃/月狂 四郎

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愛した人 Shou

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 これは、どういうことだ?

 俺は上城の命日に、峠に花を手向けに来たんだよな? あの時は夜空に浮かんだ月を眺めて帰る途中で、後ろから急に光に包まれて……。

 ……っておい、俺は一体何を見ているんだ?

 目の前にいる女の子が、どう見ても上城にしか見えないんだが。当時の学生服に、肩までかかった髪。どこかはかなげな目はあの時から少しも変わらない。

 まさか、幽霊……?

「夜見川君!」

 考える間もなく、上城(らしき少女)は俺の胸に飛び込んでくる。訳も分からず、彼女を抱き止めた。ちょっと待ってくれ。何がどうなっているんだ? さっぱり理解出来ないぞ。

 混乱しまくる俺をよそに、上城が声を上げて泣いた。なんだか分からないけど、抱きしめて泣かせるままにした。

 ふと先に視線を遣ると、岳と植村……じゃなくて竹川志穂が俺を見ている。どうした? そんな幽霊でも見たような顔をして。

「夜見川。夜見川、なのか……?」
「ああ、そうだけどどうした? 記憶喪失にでもなったか? 昨日会っただろ?」

 俺の言葉に岳が我に返る。となりにいる竹川志穂も戸惑い気味の表情だった。おい、頼むぜ。説明してくれ。一体今の俺はどういう状況なんだ?

「夜見川く~ん、良かった~。うええぇえ~」

 上城があまりにも情けない声を出して泣くので思わず笑ってしまった。間違いない。この女の子はあの上城だ。

 さてどうしようか。亡くなった人に再会する状況を想定していなかったので、どんな声をかけたらいいか分からない。だけどこのまま泣かせておくのもどうかと思うので、ひとまず再会を喜ぶ言葉をかければいいのか? もう訳が分からん。

「久しぶりだな。元気だったか?」

 自分で言ってからひどい第一声だなと思った。

 いくら何でも、亡くなった人にそれはないだろう。だから俺は上城の亡くなった後もあんな感じの人生だったんだろうがな。

 まあそれはいい。それは反省するとしてだ。

「なあ、今はどういう状況なんだ? その……時代設定がおかしいというか、同い年のはずなのに……」

 その先は言えなかった。なにせ上城については二十五年前に亡くなっているのだ。まさか「お前、死んでるはずだよな?」とは訊けない。

月美津峠つきみつとうげの伝説って本当だったんだな」

 岳がそんなことを言いはじめるので目で「どういうことだ?」と訊いてみる。

「月美津峠には幽霊が出るなどの怪談もあるけど、恋人たちの願いが叶う場所としても知られているんだ」
「初耳だな」
「ああ、怪談のほうがよっぽど有名だからな。俺も中学の時から聞いたことはあった」
「俺の記憶が確かなら、岳はそんな話はしてなかったと思うけどな」
「そうだ。あえて黙っていた。余計なことを言うと夜見川が肝試しに参加してくれなくなると思ったからな。あえて怪談の一点だけ強調して、お前を引き入れたわけだ」

 岳はちょっと複雑な笑みを浮かべながら、俺の胸で泣きじゃくる上城の背中を見つめる。そういえば岳が竹川志穂とくっつく前は、上城のことが好きだったんだっけ。

 ――ん、待てよ……?

「……俺、もしかして死んだのか?」

 そう訊くと、岳が下を向いた。マジか。なんだか知らないけど、死んでいたのは俺の方だったのか?

 そうか。たしかにそう考えると腑に落ちる。何をやったかまでは知らないが、月美津峠の伝説とやらで伝わっている何かをして、俺をあの世から呼び出したってところか?

 そう言えば、長いこと知らない場所をさまよっていた気がする。この峠のどこかに上城の霊がいるんじゃないか。そんな気がして。あの白い女も、俺をここに導こうとしていたってわけか。

「なあ、上城」

 声をかけると、泣いていた上城が我に返ったのかピタッと泣き止む。

「あの事故以来、俺はずっと君のことを探していた」
「うん」
「無駄だっていうのは分かっていた。だけど、どんな証拠を見せられても俺はあきらめることが出来なかった。それは俺にとって君が本当に大切な存在だったからだ」
「うん」
「いつかの幽霊の言った通りだった。俺はもっと、君といる時間を大切にするべきだったと思う」

 ふいに上城の目から涙がこぼれ落ちる。それを見たら、俺の視界も滲んできた。

 嗚咽しそうになって、声が詰まる。だけど俺は、ちゃんと伝えないといけない。いつまでも声にされずに、さまよっていたこの想いを。

「君と一緒にいる時間は、俺にとって何よりも幸せな時間だった」
「うん」
「君が、好きだ。……たったこれだけのことをずっと言えなくて悪かった」

 言いながら自分の目尻から涙がこぼれ落ちるのを感じた。いい年をしたオッサンが情けないばかりだけど、今はいい。今だけは、最高にカッコ悪い姿も含めてすべてを見せる。

 上城は涙を流しながら俺を見ていた。だけど、その顔はついさっきに比べてずっと晴れやかだった。この表情こそ、俺がもう一度見たかった彼女の顔だった。ずっと前に失って、心の中で保ち続けた笑顔。

 上城の姿はあの頃から少しも変わらない。俺があの夜、彼女の時間を止めてしまったんだ。決して償えるようなものではないけど、それでも……。

「俺だけが年を取ってしまったけど、この先もずっと一緒に隣を歩いていってくれるか?」
「うん、わたしも、夜見川君のことが好き。何年経っても、ずっとあなたを探し続けてきた」
「そうか。お互いがお互いを探し求めていたんだな」

 そう言ったら、なんだかおかしくなって二人で笑った。

「……ねえ、キスしてよ。あの時みたいに、カッコよくさ」

 俺は岳と竹川志穂を一瞬見る。二人はことの成り行きを見守っていた。

「いいけど、今の俺は四十歳だぞ。それが中学生にキスしてもいいのか?」
「うるさいなあ、もう」

 問答無用で上城の唇を押し付けられる。なんだか細かいことで悩むのもバカバカしくなって、俺も自分から唇を重ねた。きっと人生でも一番長いキスだったと思う。

 上城、いや……亜衣、ありがとう。ここまで愛してくれて。
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