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「マリア、早く行かないと聖痕の儀に遅れるわ」
「ごめんなさい。今、行きますの」
親友のミリーに言われて、マリアは少し慌てた様子で答えた。
鏡を見つめると、太い束の三つ編みでまとめられた長い金髪。大きなエメラルドグリーンの眼は、空から見た南国の海みたいに輝いている。
この日のためにしつらえた聖衣は、汚れ無き聖職者を象徴するような真っ白なローブだった。近くで見ると、刺繍で細かい紋様が縫い付けてある。
「やっぱり、わたくしこそ大聖女様の生まれ変わりですの」
自分の晴れ姿を見て、自画自賛が止まらない。17歳を迎えた今、人生最高の舞台へ立とうとしている。
マリア・クオッドナインは修道女学校、エテルナ・ルクス学園の卒業式に当たる聖痕の儀を控えていた。
聖痕の儀とは、その年で最も優秀だった生徒を「聖遺物」と呼ばれる聖人にゆかりのある物を触らせることで、自身に眠るスキルを目覚めさせる儀式である。
見事に聖遺物から力を得られた者は、触れた手の甲に聖痕と呼ばれる紋章が光り輝くのだと言う。そうして聖人の力を受け継いだシスターは、大聖女の後継者として勇者とともに旅へと出ることになる。世間の誰もが認める、それは世界中にいる白魔導士の頂点に立つことを意味する。
「思えば、ここまで長かったですわ」
マリアは遠い目で過去を振り返る。
修道女学校に来る前、当時10歳のマリアは王都のはずれに広がるスラム街に生まれ育ち、荒んだ生活を送っていた。
スラム街は国中のろくでなしや堕落した人間たちが集まり、欲しい物を手に入れる方法は盗み、奪うことだった。貧富の差はこじれるばかりで、スラム街にいる犯罪者たちが王都に出向いては悪事を働くので社会問題化していた。
そんな状況下で、勇者とともにスラム街を視察した当時の大聖女アリッサ・ホワイトグレイスは、スラム街のど真ん中で汚らしい身なりをしたマリアと出会った。
親もおらず、栄養不足でやせ細っていたマリアはアリッサに助けられて人生で初めてと言っていい温かい料理や清潔な暮らしを与えられた。
大聖女アリッサは「人の痛みを知っているあなただからこそ、助けられる人がいる」とマリアを修道女学校のエテルナ・ルクス学園へと入学させた。
文字通りに神に仕える修道女を養成するこの学校は、貴族もいれば貧しい身分出身の者もいる。それらがすべて生活を共にして学ぶことで、どのような人でも助けられるシスターを育て上げるといった寸法だった。
「あなたには才能がある。大聖女を目指しなさい」
他ならぬ大聖女アリッサにそう言われたマリアは舞い上がり、自分は大聖女になるべく生まれたのだと思い込むようになった。
マリアは死に物狂いで勉強して、スラム街出身にも関わらす異例中の異例で主席の卒業を勝ち取るに当たった。そこまで頑張れたのも、大聖女アリッサへの憧れがあったからだ。
「わたくしも、いかなる身分の人でも、どのような立場の人でも誰一人欠けることなく助けますの」
鏡に映った自分に誓う。
ここにやって来るまで、本当に厳しい競争を勝ち抜いてきた。すでにスラム街出身であるマリアの快挙は世間でも知れ渡っており、例を見ない大聖女の誕生に人々の期待が高まっている。
「マリア、さっきから呼んでいるでしょう? 自分に見惚れていないで早く来なさいよ」
「ごめんなさい。そのお言葉通り、自分の姿に見惚れていましたわ」
マリアは冗談でも何でもなく、心から思ったことを言った。
――そう、これから大聖女となるマリアは少々自信過剰だった。
「ミリーは分かっていないですわ」
決して親友には聞こえない音量で、マリアはひとりごちる。
「どんな場所であれ、主役は遅れて来るものですわよ」
「ごめんなさい。今、行きますの」
親友のミリーに言われて、マリアは少し慌てた様子で答えた。
鏡を見つめると、太い束の三つ編みでまとめられた長い金髪。大きなエメラルドグリーンの眼は、空から見た南国の海みたいに輝いている。
この日のためにしつらえた聖衣は、汚れ無き聖職者を象徴するような真っ白なローブだった。近くで見ると、刺繍で細かい紋様が縫い付けてある。
「やっぱり、わたくしこそ大聖女様の生まれ変わりですの」
自分の晴れ姿を見て、自画自賛が止まらない。17歳を迎えた今、人生最高の舞台へ立とうとしている。
マリア・クオッドナインは修道女学校、エテルナ・ルクス学園の卒業式に当たる聖痕の儀を控えていた。
聖痕の儀とは、その年で最も優秀だった生徒を「聖遺物」と呼ばれる聖人にゆかりのある物を触らせることで、自身に眠るスキルを目覚めさせる儀式である。
見事に聖遺物から力を得られた者は、触れた手の甲に聖痕と呼ばれる紋章が光り輝くのだと言う。そうして聖人の力を受け継いだシスターは、大聖女の後継者として勇者とともに旅へと出ることになる。世間の誰もが認める、それは世界中にいる白魔導士の頂点に立つことを意味する。
「思えば、ここまで長かったですわ」
マリアは遠い目で過去を振り返る。
修道女学校に来る前、当時10歳のマリアは王都のはずれに広がるスラム街に生まれ育ち、荒んだ生活を送っていた。
スラム街は国中のろくでなしや堕落した人間たちが集まり、欲しい物を手に入れる方法は盗み、奪うことだった。貧富の差はこじれるばかりで、スラム街にいる犯罪者たちが王都に出向いては悪事を働くので社会問題化していた。
そんな状況下で、勇者とともにスラム街を視察した当時の大聖女アリッサ・ホワイトグレイスは、スラム街のど真ん中で汚らしい身なりをしたマリアと出会った。
親もおらず、栄養不足でやせ細っていたマリアはアリッサに助けられて人生で初めてと言っていい温かい料理や清潔な暮らしを与えられた。
大聖女アリッサは「人の痛みを知っているあなただからこそ、助けられる人がいる」とマリアを修道女学校のエテルナ・ルクス学園へと入学させた。
文字通りに神に仕える修道女を養成するこの学校は、貴族もいれば貧しい身分出身の者もいる。それらがすべて生活を共にして学ぶことで、どのような人でも助けられるシスターを育て上げるといった寸法だった。
「あなたには才能がある。大聖女を目指しなさい」
他ならぬ大聖女アリッサにそう言われたマリアは舞い上がり、自分は大聖女になるべく生まれたのだと思い込むようになった。
マリアは死に物狂いで勉強して、スラム街出身にも関わらす異例中の異例で主席の卒業を勝ち取るに当たった。そこまで頑張れたのも、大聖女アリッサへの憧れがあったからだ。
「わたくしも、いかなる身分の人でも、どのような立場の人でも誰一人欠けることなく助けますの」
鏡に映った自分に誓う。
ここにやって来るまで、本当に厳しい競争を勝ち抜いてきた。すでにスラム街出身であるマリアの快挙は世間でも知れ渡っており、例を見ない大聖女の誕生に人々の期待が高まっている。
「マリア、さっきから呼んでいるでしょう? 自分に見惚れていないで早く来なさいよ」
「ごめんなさい。そのお言葉通り、自分の姿に見惚れていましたわ」
マリアは冗談でも何でもなく、心から思ったことを言った。
――そう、これから大聖女となるマリアは少々自信過剰だった。
「ミリーは分かっていないですわ」
決して親友には聞こえない音量で、マリアはひとりごちる。
「どんな場所であれ、主役は遅れて来るものですわよ」
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