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「ひどいですのひどいですのひどいですの!」
マリアは教会近くの大岩の影に隠れて大泣きしていた。後を追いかけたミリーがその背中をさすっている。
「マリア、その……これは、何と言うか……」
その後の言葉が続かない。ミリーですらどんな言葉をかけていいのか分からなかった。
マリアは大聖女になるべく血の滲むような努力をしてきた。その結果として今年の大聖女に選ばれたわけだが……まさかそんな彼女に資質が全く無いとは誰一人想像すら出来なかった。
「ひどいですの、本当にひどいですの……!」
マリアは目を真っ赤にしたまま続ける。
「今日こそわたくしが大聖女になって、みんなから尊敬されまくってあっちこっちでチヤホヤされて死ぬほどイケメンの勇者にも『君のことが好きだ』なんて言われて魔王を倒してこの世界の歴史に残るウルトラスーパー大聖女になるはずでしたのに……」
「そ、それはずいぶんと壮大な計画を立てていたのね……」
背中をさすって慰めるミリーは引き気味に言った。元々マリアは自信過剰気味のところはあったが、そこまで歴史に爪痕を残そうとしているとまでは思わなかった。
「つらかったよね。他の人たちもあんなことを言わなくてもいいのに」
色々と考えて、やっと出てきた言葉がそれだった。あちこちから浴びせられた嘲笑で、マリアはさぞ傷付いたに違いない。
「わたしが一体、何をしたって言うんですの?」
独り言なのか、それとも質問なのか。ミリーは答えることが出来なかった。承認願望にまみれていたとはいえ、マリアが大聖女の力を使って人々を助けたかったのは事実だ。
だからこそあれだけ厳しい修行や勉強にも励むことが出来た。それは決して承認願望やチヤホヤされたいだけで超えられるものではない。
それでも人に得手不得手があるように、魔法や魔力にも資質はある。残念ながら、マリアは大聖女の資質たる白魔導士としての才能が皆無だった。残酷ではあるものの、それは真実だった。
「マリア、こんなところにいたの」
ミリーが振り返ると、そこにはハンネマン学園長が来ていた。ミリーは聖痕の儀で堂々と「詰んだわね」と言った学園長にどんなリアクションをしていいのか分からず、軽く目礼だけした。
マリアは学園長の言葉に答えないまま、大岩に顔くっつけて泣いていた。その様子を見ていた学園長が口を開く。
「あなたの体質、きっと魔力が無いわけじゃないわ」
「え? そうなんですか?」
泣いているマリアの代わりにミリーが訊き返す。
「そうよ。一瞬ではあるけど、この子の手の甲には聖痕が浮かび上がった。本当に魔力が皆無なのであれば、それすらも起こらないはずよ」
「それではどうして……。だって、あれじゃあマリアは少しの間線香花火みたいに光っただけじゃないですか」
言ってからミリーは「あ」という顔になり、マリアを見た。不幸中の幸いか、マリアは泣き続けていて聞こえていないか心にまでミリーの失言が届いていないようだった。
「これは私の仮説なんだけど……」学園長が続ける。
「おそらくマリアの中には膨大な魔力があるの。それは私もさっき知覚したから分かった。だけど、それを出力する能力が無いのかもしれない」
「魔力を出力する能力ですか?」
「そう。魔力っていうのは持っているだけじゃダメで、それを何らかの効果を伴って体外へと出力する必要があるの。例えば、黒魔導士であれば指先から火を出したりするでしょう?」
「ああ、たしかに」
「私たちシスターの場合は白魔導だから、それが回復魔法やそれに似たような形で体外へと魔力が排出される。だけど、この子にはそれがない」
「えっと……つまり、マリアの場合はすごい魔力を持っていても、それを外に出して力に変換することが出来ないってことですか?」
「簡単に言うとそうなるわね。どうしてそうなるかまでは知らないけど」
ミリーはここで学園長の言った「詰んだわね」二連発の意味を理解した。学園長にはきっとあの段階からマリアの身に起こっている現象が分かっていたのだ。それは排出方法の存在しない油田を見つけたも同じ。その結果として、「詰んだわね」という言葉に繋がったというわけだった。
「そんなの……」
「ふっざけんじゃねえええええですわ!」
さっきまで泣いていたマリアが怒りに声を上げる。
「ヤバい。これ、闇堕ちパターンかも」
小声で言うミリーをよそに、マリアが叫ぶ。
「わたくしに魔力を出力する力がない? はあ⁉ なんですの、それ? 意味が分からないですわ! それじゃあ、どれだけ魔力を持っていても無駄ってことじゃないですの!」
「あの、マリア……ちょっと、落ち着きなさい」
慌てる学園長を見て、ミリーは『いや、半分はあなたのせいやろ』と思っていた。
追い詰められた敵キャラみたいになったマリアは大聖女など程遠く、怒りで獣のような咆哮を上げている。
「ふっざけんじゃ、ねえですわああああああああ!」
さっきまで顔を付けて泣いていた大岩に、マリアは白魚のような手で殴りつける。ミリーはマリアの指が折れると思い、止めようとしたが間に合わなかった。
だが――
ドゴオオオオオオオオオン‼
まるで爆弾でも落としたかのような音が響くと、あまりの衝撃にミリーと学園長はその場ですっ転んだ。
何とか立ち上がると、立ちすくすマリアの前には巨大なわだちのような跡が出来ており、殴りかかった大岩は消し飛んでいた。
「なんですの、これ……?」
呆然とするマリア。いや、あんたが自分でやったんだろうとは思ったがミリーは何も言えなかった。
「嘘でしょう……?」
ハンネマン学園長も起き上がり、真っすぐに伸びていく大地のえぐれた跡を呆然と眺めていた。土煙ののぼる巨大な跡は、兵器か何かでビームでも撃った跡のようだった。
「まさか、これがこの子の……」
その後は言葉が続かなかった。マリアは呆然と自分の拳を眺めている。
「嘘ですの」
誰に向けられたかも分からない言葉は、土煙とともにどこかへ消えていった。
マリアは教会近くの大岩の影に隠れて大泣きしていた。後を追いかけたミリーがその背中をさすっている。
「マリア、その……これは、何と言うか……」
その後の言葉が続かない。ミリーですらどんな言葉をかけていいのか分からなかった。
マリアは大聖女になるべく血の滲むような努力をしてきた。その結果として今年の大聖女に選ばれたわけだが……まさかそんな彼女に資質が全く無いとは誰一人想像すら出来なかった。
「ひどいですの、本当にひどいですの……!」
マリアは目を真っ赤にしたまま続ける。
「今日こそわたくしが大聖女になって、みんなから尊敬されまくってあっちこっちでチヤホヤされて死ぬほどイケメンの勇者にも『君のことが好きだ』なんて言われて魔王を倒してこの世界の歴史に残るウルトラスーパー大聖女になるはずでしたのに……」
「そ、それはずいぶんと壮大な計画を立てていたのね……」
背中をさすって慰めるミリーは引き気味に言った。元々マリアは自信過剰気味のところはあったが、そこまで歴史に爪痕を残そうとしているとまでは思わなかった。
「つらかったよね。他の人たちもあんなことを言わなくてもいいのに」
色々と考えて、やっと出てきた言葉がそれだった。あちこちから浴びせられた嘲笑で、マリアはさぞ傷付いたに違いない。
「わたしが一体、何をしたって言うんですの?」
独り言なのか、それとも質問なのか。ミリーは答えることが出来なかった。承認願望にまみれていたとはいえ、マリアが大聖女の力を使って人々を助けたかったのは事実だ。
だからこそあれだけ厳しい修行や勉強にも励むことが出来た。それは決して承認願望やチヤホヤされたいだけで超えられるものではない。
それでも人に得手不得手があるように、魔法や魔力にも資質はある。残念ながら、マリアは大聖女の資質たる白魔導士としての才能が皆無だった。残酷ではあるものの、それは真実だった。
「マリア、こんなところにいたの」
ミリーが振り返ると、そこにはハンネマン学園長が来ていた。ミリーは聖痕の儀で堂々と「詰んだわね」と言った学園長にどんなリアクションをしていいのか分からず、軽く目礼だけした。
マリアは学園長の言葉に答えないまま、大岩に顔くっつけて泣いていた。その様子を見ていた学園長が口を開く。
「あなたの体質、きっと魔力が無いわけじゃないわ」
「え? そうなんですか?」
泣いているマリアの代わりにミリーが訊き返す。
「そうよ。一瞬ではあるけど、この子の手の甲には聖痕が浮かび上がった。本当に魔力が皆無なのであれば、それすらも起こらないはずよ」
「それではどうして……。だって、あれじゃあマリアは少しの間線香花火みたいに光っただけじゃないですか」
言ってからミリーは「あ」という顔になり、マリアを見た。不幸中の幸いか、マリアは泣き続けていて聞こえていないか心にまでミリーの失言が届いていないようだった。
「これは私の仮説なんだけど……」学園長が続ける。
「おそらくマリアの中には膨大な魔力があるの。それは私もさっき知覚したから分かった。だけど、それを出力する能力が無いのかもしれない」
「魔力を出力する能力ですか?」
「そう。魔力っていうのは持っているだけじゃダメで、それを何らかの効果を伴って体外へと出力する必要があるの。例えば、黒魔導士であれば指先から火を出したりするでしょう?」
「ああ、たしかに」
「私たちシスターの場合は白魔導だから、それが回復魔法やそれに似たような形で体外へと魔力が排出される。だけど、この子にはそれがない」
「えっと……つまり、マリアの場合はすごい魔力を持っていても、それを外に出して力に変換することが出来ないってことですか?」
「簡単に言うとそうなるわね。どうしてそうなるかまでは知らないけど」
ミリーはここで学園長の言った「詰んだわね」二連発の意味を理解した。学園長にはきっとあの段階からマリアの身に起こっている現象が分かっていたのだ。それは排出方法の存在しない油田を見つけたも同じ。その結果として、「詰んだわね」という言葉に繋がったというわけだった。
「そんなの……」
「ふっざけんじゃねえええええですわ!」
さっきまで泣いていたマリアが怒りに声を上げる。
「ヤバい。これ、闇堕ちパターンかも」
小声で言うミリーをよそに、マリアが叫ぶ。
「わたくしに魔力を出力する力がない? はあ⁉ なんですの、それ? 意味が分からないですわ! それじゃあ、どれだけ魔力を持っていても無駄ってことじゃないですの!」
「あの、マリア……ちょっと、落ち着きなさい」
慌てる学園長を見て、ミリーは『いや、半分はあなたのせいやろ』と思っていた。
追い詰められた敵キャラみたいになったマリアは大聖女など程遠く、怒りで獣のような咆哮を上げている。
「ふっざけんじゃ、ねえですわああああああああ!」
さっきまで顔を付けて泣いていた大岩に、マリアは白魚のような手で殴りつける。ミリーはマリアの指が折れると思い、止めようとしたが間に合わなかった。
だが――
ドゴオオオオオオオオオン‼
まるで爆弾でも落としたかのような音が響くと、あまりの衝撃にミリーと学園長はその場ですっ転んだ。
何とか立ち上がると、立ちすくすマリアの前には巨大なわだちのような跡が出来ており、殴りかかった大岩は消し飛んでいた。
「なんですの、これ……?」
呆然とするマリア。いや、あんたが自分でやったんだろうとは思ったがミリーは何も言えなかった。
「嘘でしょう……?」
ハンネマン学園長も起き上がり、真っすぐに伸びていく大地のえぐれた跡を呆然と眺めていた。土煙ののぼる巨大な跡は、兵器か何かでビームでも撃った跡のようだった。
「まさか、これがこの子の……」
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