欲望が満たされなくなった天使は化け物へと変貌する

僧侶A

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最終話

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「出来た!」

 神の力を媒介にすることで記憶にある大天使たちの能力をコピーすることが出来た。

 僕はまずガブリエルの能力である、相手を脱力させる透明な煙を周囲に放った。

 元々の意思が強い相手には効果が薄いらしく、カマエルにはあまり効いていないようだが。多少は攻撃速度を抑えることが出来ていた。

「見えてます!」

 そして次に使用したのはカマエルさんの能力。相手の悪性を暴くだけだが、フェイントは相手を騙す意思、つまり悪性だと判定されるらしい。そのおかげで僕は目の前から飛んでくる攻撃を対処することだけに意識を割けばいいらしく、かなり動きやすくなった。

「やるじゃないか。でも私は他の大天使とは意思の、欲望の強さが違うんだよ!」

 ミカエルは更に力を開放した。そうやら圧倒的な出力で僕のコピーした能力を圧し潰そうとしているようだ。

「力で来るなら……!」

 僕は次にエリーゼの能力を発動。それは空想、現実問わず僕の記憶の中に居る全ての強者の戦い方を、完全に自分の物にするというもの。

 相手が圧倒的な力で来るのなら、こちらは最高の技術で対抗する。

 僕も武器を捨て、素手で相対する。

 食らったら遥か彼方まで弾き飛ばされそうなパンチを合気道?と呼ばれる攻撃で受け流し、関節技に移行しつつ、ミカエルを上空から地面に叩きつける。

「これでもう体を動かせないはずです!」

 僕は関節技を決めることよりも、正攻法で抜け出せないことのみに重点を当てた。

 邪道な方法だったらカマエルさんの能力で封殺できるから。

「その程度でどうしたんだい?こんな甘い攻撃じゃ僕にダメージは与えられないよ!」

 ミカエルの言う通り、これじゃ止めを刺す事なんて到底不可能だ。

 大天使になっているミカエルは、骨を折られた所で大したダメージにはなり得ない上、そもそも折る事が難しい。

 そもそも、僕がルーシーさんの力を受け継いでいても戦闘面でミカエルに勝つことは不可能だったのだ。

「だけど、時間を稼ぐことは出来る!」

 だから僕は狙いを変えた。

 ここで僕はルーシーさんの能力をミカエルに向かって発動する。

「まさか……!離せ!まだ私にはやることがあるんだ!」

 ルーシーさんが堕天使や大天使を元に戻すために使っていた、触れた対象の時を巻き戻す能力。

 ルーシーさんとレヴィさんに力を分散させていたから相手の同意が必要だったり、相手を戦闘不能にしなければなかったりと制限が生まれていたらしいが、一つに集約された今はそんなものは無い。

 ただ、ミカエルが大天使になる前まで時を戻す都合上、かなりの間対象に触れる必要があった。

「もう離さない!これで決まりだ!」

 ミカエルはみるみるうちに若返っていき、最後には僕と同じくらいの年齢まで戻っていた。

「私の計画が⋯⋯」

 完全に元に戻り、力を失ったミカエルは抵抗もせず項垂れていた。

 どうやら大天使になったからこその暴走ではなく、元々持っていた意思によるものだったらしい。

 何も無いところから大天使になれるミカエルは、放っておいたらまた同じ計画を実行すると思う。

 だけど、その時はきっとルーシーさんが事前に食い止めてくれるだろう。

 それよりも能力を使い続けて疲れた。

 時を戻して無かったことにするのにもどうやら制約があったらしい。

「大丈夫か!?!?」

「大丈夫!?」

 僕も倒れる寸前で、エリーゼとライナーさんが駆けつけて僕の体を支えてくれた。

「はい、少し疲れただけなので。元凶は倒してしまったので、後は事態の収集だけ」

「おっと。ミカエル様は倒されてしまったみたいですね」

 僕が後のことを任せようとしたタイミングで、60歳くらいの男性が穴の空いた天井から降りてきた。

 その男性は真っ白な祭服を身に纏っており、ミカエルに匹敵するエネルギーを感じる。

「まさか……」

 僕は疲労困憊の体を奮い立たせ、自力で立ち上がる。

「はい。私は天使教教皇、グレゴリオと申します」

 悪い予想が当たってしまった。ミカエルを支援していた天使教の親玉だった。

 年老いているから戦闘は弱いと信じたいが、教皇に限ってそんなことは無いだろう。

「まさか、ミカエルの敵討ちですか?」

 もしそれが目的だとするのなら、せめてエリーゼとライナーさんを逃がすくらいはしなければ。

「いえいえ、そのつもりはございません。天使様同士が最善を求めてぶつかった結果、あなたに全てを託した天使様の最善が勝利した。私どもはその結果に付き従うのみです」

 どうやら教皇は結果を見届けにきただけだったようだ。

「では、今回の事件を片付ける手伝いをしてもらえる?流石に私達じゃ手が足らないの」

「はい、それが天使様の意向とあれば」



 それから皆は街を駆け巡り暴走した堕天使の討伐や、ガブリエルによって眠らされていた住人達を自宅まで介抱してくれたらしい。

 そんな中僕はというと、丸一日眠っていたらしい。

 どうやら教皇が敵でないと判明し、エリーゼが教皇に指示を入れたタイミングで既に意識を手放していたとのこと。

 疲れていたことは自覚していたが、それでも丸一日走ったとかそのレベルだと思っていた。しかしその見込みはかなり甘かったようだ。

 そして起きた僕は、一連の事件で堕天使にされてしまった方々を元に戻すことに。

 本来なら能力を返してルーシーさんに任せるべきなのだけど、あの後もミカエルは反抗的な態度を続けており、堕天使化させた方々を教えてくれなかったらしい。

 そのため、僕が神の力でミカエルの能力を再現して居場所を探す必要があった。

 起きてから大体3日程かけて、全ての堕天使を元に戻す事が出来た。

「じゃあ、返しますね」

「ああ。確かに受け取った」

 僕はその後、全ての能力をルーシーさんに返還した。

「で、どうするよお前らは?」

 全ての堕天使をこの世から消した今、残るは大天使のエリーゼ、マルティンさん、レイモンドさん、そしてルーシーさんだけだ。

 レイモンドさんは当然戻す気が無いのでこの場に居ない。その為エリーゼとマルティンさんに意思を確認している。

「私は以前と同様に捨てるわ」

「そうか。マルティンは?」

「そうじゃな。この状態ならあの時みたいな事を起こさないのは自覚しているし、体力が無尽蔵に湧いてくるから絵を今まで以上に取り組むことが出来ると思う。じゃが、この力はわしには必要無いかの。こんなものに頼らなくても素晴らしい作品を作れるからな」

「分かった。俺は芸術家としていい心がけだと思うぜ」

「お主にそう言われると少々嬉しいの」

「それは良かった。じゃあ早速元に戻すぞ」

 そしてエリーゼとマルティンさんは力を全て失い、自分の家に帰っていった。

「ルーシーさんはどうするんですか?」

 僕とルーシーさんだけになった家で、僕はそう聞いた。

「俺はこのまま力を保持する予定だ。今までのような事を二度と起こさせないためにもな」

「そうですか」



 あれから10年後、僕は大学を数年前に卒業し、学んできた領地運営を実際の現場で発揮しようと四苦八苦する日々を過ごしている。

 まだまだお父さんには及ばないものの、このまま順調に学んでいけばちゃんと家を継ぐことが出来ると思う。

「ペトロ様、お手紙です」

 そんなある日、一通の招待状が届いた。

「ありがとう」

 中を開いてみると、その正体の主はルーシーさんだった。是非見せたいものがあるから来いとの事。

「この日って空いてるかな?」

「大丈夫ですよ」

「分かった。ありがとう」


 そして数日後、集合場所のダンデさんの酒場にやってきた。

「懐かしいな……」

 美食ブームが起こって以降、かなり客が増えて、お金も十分に貯まっていると思うのだけれど、10年前と一切変わっていなかった。

「こんにちは~」

「おっせえぞペトロ!!!!」

 中に入ると、どうやら既に全員この場に来ていたらしく、ジョニー君の怒号で出迎えられた。

「そりゃそうでしょ。僕だけこの街に家が無いんだから。汽車で5時間かけてくる僕の身になってよ」

「別に俺の家に泊まれば良いじゃねえかよ」

「ジョニー君の家はちょっとね……」

 ジョニー君は大学を卒業してから2年後にアグネス商会長の座を継いでいた。

 それからの手腕は見事なもので、これ以上発展しようが無いほどに大きかったはずのアグネス商会を更に巨大化させ、今では他国を巻き込む超大規模な商会となっていた。

 そのためジョニー君個人が建てた家がそこらの貴族じゃ比べ物にならない程の豪邸となっている。

 ただし、その中身というか、住まわせている人に問題があって、そこもかしこも美女ばっかりで、恰好もその、アレなのだ。

 男のロマンを実現させているだけなので気持ちはよく分かるのだけれど、流石に行く気にはなれなかった。

「別に男だから良いじゃねえかよ」

「流石にアレは無いと思う」

「うっせえクビにするぞ!!」

「おお怖い怖い」

 と辛辣な感想を述べたのはレヴィさん。堕天使を元に戻すために国中を回り、果ては国外も回っていた経験が重宝され、今はアグネス商会の外国進出事業のリーダーとして活躍しているらしい。

「ほら、喧嘩しないで。ご飯出来たから」

「酒もちゃんとあるぞ!」

 厨房から出てきたのはランセットさんとダンデさん。僕とジョニー君が大学を卒業するかしないかのタイミングでランセットさんがここで働きだし、今では店で料理を任されるほどの腕前になったらしい。

 ちなみにダンデさんの酒選びのセンスの悪さはレイモンドさんの手によって改善されたらしく、今ではちゃんと美味しいお酒が出るようになっていた。

「じゃあさっさと食おうぜ!腹減った!」

 と話すのはライナーさん。今は美食ブームのお陰で貧民街から子供が消え去ったため、複数の孤児院を掛け持ちして働くことで子供と触れ合う欲求を解消しているのだとか。

「そうだな。これだけ美味い飯を前に待っていられん。食うぞ」

 大天使らしく食べることが我慢できないレイモンドさん。今でも現役で政治家をやっており、時折ニュースで新しい法案を可決させたという情報が流れてくる。

「うん」

「そうだね」

「そうしましょう」

「ペトロ、こっちに来て」

「うん」

 僕はエリーゼに誘われ、空いていた隣の席に座った。

「久しぶり」

「久しぶりって。二週間前にあったばかりでしょ?」

「それは久しぶりじゃない?」

「そうかしら」

 エリーゼとは、大学を卒業してから1年後に結婚した。エリーゼの失踪前はお互いの親がその体で進めようという事になっていたらしく、反対されることは無かった。

 しかし、エリーゼはアグネス商会で働いているため、僕の家に住むのは難しかった。そのため、別居という形をとり、月に何回か会うということにしている。

「そこ!二人の空間を作るな!そして、お前ら!飯を食いだすな!」

「何騒いでいるんですか、ルーシーさん」

「何の為に呼び出したと思っているんだ!俺が見せたいものがあるからだろうが!」

「よし、食うぞ」

「ダンデ、てめえ!」

「冗談だ。わざわざてめえが全員を同時に呼び出したんだ。でっけえニュースでもあるんだろ?」

「ああ、見てくれ!これだ!持ってきてくれ!」

「おう、分かっておる!」

 ルーシーさんがマルティンさんに指示し、持って来させたのは、デザイア教の跡地や、天使教の教会にあった台に似た機械だった。
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