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3話
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それから五分後、玄関から鍵を開ける音と共に、
「おはよう!渚くん!」
という大きな声と共に女の子の大きな声が聞こえてきた。
しかし俺はそれに反応せず、目を瞑る。
「まだ寝ているのかな~起きて!!!」
女の子は布団を俺から剥ぎ取り、体を揺すってきた。
「ん……おはよう」
俺は眠そうなフリをして、ゆっくりと起き上がる。
「おはよう、渚。お姉ちゃんだよ」
「おはよう、涼香」
「涼香お姉ちゃんだよ」
「はいはい、涼香お姉ちゃん」
「よろしい!じゃあご飯を作るね!」
と言いながらキッチンにご飯を作りに行った、姉を自称する黒髪ショートカットの元気な女の子の名前平塚涼香。
俺の家の合鍵を所持してはいるが、名字から推察できる通り実の姉ではない。
もっと言えば年上ですらない。俺と同じく高校一年生の同級生である。
しかし、彼女は高校生になった俺に現れた第二の姉である。
何故そんな奇妙な関係が生まれているのか。
その理由はただ一つ。小学校の頃の勘違いである。
俺と涼香は小学校3年生の時に出会っており、とても仲良くしていた。その時期の俺の身長が歳の割に低く、涼香が歳の割に高かった。
そのため、学年が離れているものだと完全に思い込んでしまった。
その勘違いが維持されたまま親の都合で俺が転校し、この高校で再び出会って初めて実は同級生だったという事を知ることになった。
同級生というあるべき関係に戻ろうにも、連絡も取っていない間に心にしっかりと根付いてしまった関係性を戻すことは出来なかった。
というわけで同級生なのに姉なのだ。
別に同い年の女子が姉ということ自体に忌避感はない。だって同級生であることと、元気っ子すぎて姉っぽく見えないという致命的な弱点以外は姉として完璧に近いからね。
こうやって一人暮らしをしている俺を心配して毎朝起こしに来てくれる上に朝食まで作ってくれるんだから。本当にありがたい。
ん?朝はともかくとして自分で料理は作れるじゃないか。なんならさっき作っていたじゃないかって?
確かにそうだ。なんなら俺の方が上手いだろう。父さんと暮らしていた時は基本的に俺が毎日夕食を作っていたしな。
だが、姉は尊重しなければならない。姉が料理を作ってくれるというのなら作ってもらうべきだし、その場合弟は姉より料理が下手でなければならない。
よって涼香の弟である俺は料理が下手だし、朝起きることも苦手である。OK?
その方程式を維持するために、俺は毎朝朝食を作った痕跡が見つからないように消した上で再度ベッドに潜り込むんだ。
別にキッチンに食器を洗うスポンジを置いたり勉強机の引き出しにキッチンペーパーに収納したりしていたのは気が狂っていたわけではない。
あくまで正常な判断の結果である。
とそんな裏事情はどうでも良い。涼香お姉ちゃんが料理をしている様を見ようではないか。
「ふんふんふ~ん♪」
まだ朝7時だというのに機嫌よく鼻歌を歌いながら味噌汁を作っている。すごく素晴らしい。姉って本当に素晴らしいものだな。
これが毎日見られるなんてそれだけで生きる意味だよ。
俺は涼香にバレないようにこっそりと拝んでおく。
味噌汁がある程度完成したので、他の料理を作り始めた。
ずっと見ていると完成した時の楽しみが減るから見ないでおこうかな。
というわけで俺はベッドの上に座って一息ついた。
「渚、何してるのさ。今の内に学校に行く準備して!」
「あっ、うん」
俺は涼香に言われるがまま家を出る支度を始めた。
と言っても前日の内に殆ど準備は済んでいるので顔を洗うだけなんだけどね。
「出来た!じゃあ食べよっか!」
洗面台で顔を洗ってから戻ってくると、ベッドの前にあるテーブルで配膳を済ませた涼香が待っていた。
「いつもありがとうね」
「別に良いんだよ。私はお姉ちゃんだからね!」
と自信満々に宣言する涼香。本当にちゃんと姉だと思います。
「「いただきます」」
涼香と共に手を合わせてから朝食を食べようと箸を取った後、
「……茶碗蒸し?」
明らかにおかしな存在に目が留まった。どう考えても顔を洗いに行っている間に完成出来る品ではない。
「うん。好きでしょ?」
「好きだけど……」
茶碗蒸しは俺の好物だ。甘くてとろとろした卵の部分が完璧すぎていくらでも食べられる最高の代物だ。
しかし作るためには相当な手間がかかり、買ったり外で食べようとしたりしてもラスボスの銀杏が俺の口内を襲ってくる。
だから中々食べることが叶わない代物だが、目の前に存在しているのだ。
しかも容器はどう考えても陶器。ってことは……
「銀杏が嫌いなんでしょ?だから私が銀杏を抜いて昨日作っておいたんだ」
「えっ!?大変だったでしょ?」
女神!?!?!?
本当にありがとうございます。あなたは最高のお姉ちゃんです。
「一度作ってみたかったから別に良いよ。ほら、食べて食べて」
「ありがとうございます……」
前言撤回。涼香様は俺よりも料理が上手です。
「ごちそうさま」
「うん、満足そうで良かった。じゃあ片付けとくね」
「帰ってきてから俺がやるのに……」
「良いから良いから。今の内に歯でも磨いて制服を着替えてて」
「うん」
俺は涼香に言われるがままに行動し、共に学校へ歩いて向かった。
「おはよう!渚くん!」
という大きな声と共に女の子の大きな声が聞こえてきた。
しかし俺はそれに反応せず、目を瞑る。
「まだ寝ているのかな~起きて!!!」
女の子は布団を俺から剥ぎ取り、体を揺すってきた。
「ん……おはよう」
俺は眠そうなフリをして、ゆっくりと起き上がる。
「おはよう、渚。お姉ちゃんだよ」
「おはよう、涼香」
「涼香お姉ちゃんだよ」
「はいはい、涼香お姉ちゃん」
「よろしい!じゃあご飯を作るね!」
と言いながらキッチンにご飯を作りに行った、姉を自称する黒髪ショートカットの元気な女の子の名前平塚涼香。
俺の家の合鍵を所持してはいるが、名字から推察できる通り実の姉ではない。
もっと言えば年上ですらない。俺と同じく高校一年生の同級生である。
しかし、彼女は高校生になった俺に現れた第二の姉である。
何故そんな奇妙な関係が生まれているのか。
その理由はただ一つ。小学校の頃の勘違いである。
俺と涼香は小学校3年生の時に出会っており、とても仲良くしていた。その時期の俺の身長が歳の割に低く、涼香が歳の割に高かった。
そのため、学年が離れているものだと完全に思い込んでしまった。
その勘違いが維持されたまま親の都合で俺が転校し、この高校で再び出会って初めて実は同級生だったという事を知ることになった。
同級生というあるべき関係に戻ろうにも、連絡も取っていない間に心にしっかりと根付いてしまった関係性を戻すことは出来なかった。
というわけで同級生なのに姉なのだ。
別に同い年の女子が姉ということ自体に忌避感はない。だって同級生であることと、元気っ子すぎて姉っぽく見えないという致命的な弱点以外は姉として完璧に近いからね。
こうやって一人暮らしをしている俺を心配して毎朝起こしに来てくれる上に朝食まで作ってくれるんだから。本当にありがたい。
ん?朝はともかくとして自分で料理は作れるじゃないか。なんならさっき作っていたじゃないかって?
確かにそうだ。なんなら俺の方が上手いだろう。父さんと暮らしていた時は基本的に俺が毎日夕食を作っていたしな。
だが、姉は尊重しなければならない。姉が料理を作ってくれるというのなら作ってもらうべきだし、その場合弟は姉より料理が下手でなければならない。
よって涼香の弟である俺は料理が下手だし、朝起きることも苦手である。OK?
その方程式を維持するために、俺は毎朝朝食を作った痕跡が見つからないように消した上で再度ベッドに潜り込むんだ。
別にキッチンに食器を洗うスポンジを置いたり勉強机の引き出しにキッチンペーパーに収納したりしていたのは気が狂っていたわけではない。
あくまで正常な判断の結果である。
とそんな裏事情はどうでも良い。涼香お姉ちゃんが料理をしている様を見ようではないか。
「ふんふんふ~ん♪」
まだ朝7時だというのに機嫌よく鼻歌を歌いながら味噌汁を作っている。すごく素晴らしい。姉って本当に素晴らしいものだな。
これが毎日見られるなんてそれだけで生きる意味だよ。
俺は涼香にバレないようにこっそりと拝んでおく。
味噌汁がある程度完成したので、他の料理を作り始めた。
ずっと見ていると完成した時の楽しみが減るから見ないでおこうかな。
というわけで俺はベッドの上に座って一息ついた。
「渚、何してるのさ。今の内に学校に行く準備して!」
「あっ、うん」
俺は涼香に言われるがまま家を出る支度を始めた。
と言っても前日の内に殆ど準備は済んでいるので顔を洗うだけなんだけどね。
「出来た!じゃあ食べよっか!」
洗面台で顔を洗ってから戻ってくると、ベッドの前にあるテーブルで配膳を済ませた涼香が待っていた。
「いつもありがとうね」
「別に良いんだよ。私はお姉ちゃんだからね!」
と自信満々に宣言する涼香。本当にちゃんと姉だと思います。
「「いただきます」」
涼香と共に手を合わせてから朝食を食べようと箸を取った後、
「……茶碗蒸し?」
明らかにおかしな存在に目が留まった。どう考えても顔を洗いに行っている間に完成出来る品ではない。
「うん。好きでしょ?」
「好きだけど……」
茶碗蒸しは俺の好物だ。甘くてとろとろした卵の部分が完璧すぎていくらでも食べられる最高の代物だ。
しかし作るためには相当な手間がかかり、買ったり外で食べようとしたりしてもラスボスの銀杏が俺の口内を襲ってくる。
だから中々食べることが叶わない代物だが、目の前に存在しているのだ。
しかも容器はどう考えても陶器。ってことは……
「銀杏が嫌いなんでしょ?だから私が銀杏を抜いて昨日作っておいたんだ」
「えっ!?大変だったでしょ?」
女神!?!?!?
本当にありがとうございます。あなたは最高のお姉ちゃんです。
「一度作ってみたかったから別に良いよ。ほら、食べて食べて」
「ありがとうございます……」
前言撤回。涼香様は俺よりも料理が上手です。
「ごちそうさま」
「うん、満足そうで良かった。じゃあ片付けとくね」
「帰ってきてから俺がやるのに……」
「良いから良いから。今の内に歯でも磨いて制服を着替えてて」
「うん」
俺は涼香に言われるがままに行動し、共に学校へ歩いて向かった。
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