可愛かった幼馴染の女の子がイケメン堕ちした本当の理由に一同驚愕。演劇を始めてしまった事が理由との噂も。

僧侶A

文字の大きさ
24 / 35

24話

しおりを挟む
「まずは素が出てしまわないようにすることだ。これが出来ない間は恐らく何をしても無駄だろう」

「はい」

「これから色んな役で話しかけてみる。全て台本に存在しないセリフだ。頑張ってキャラを維持してくれ」

「はい」

「じゃあまずは——」

 それから俺は今回の劇に存在する役全てで話しかけてみた。

「『はい。そうですね……』」

「『難しいと思われます』」

「『何を言っているんですか。ポテチを食べて痩せるなんて嘘に決まっているでしょう』」

「『おはようございます——』」

 結果として、

「一つ残らず素だったな」

「はい。難しいです」

 1つも花森咲として返事をすることは出来なかった。

「気にするな。そもそもこれで治るのなら俺は要らない」

「すいません……」

 MIUは申し訳なさそうに謝罪した。

「そうだな。なら方法を変えるか。アドリブに対してどう答えるべきか考えていこう」

「アドリブに対して?」

「ああ。まずは今回俺が言ったセリフに対し、どう答えていくか想定しよう」

 台本から内容をくみ取って演技をするのが得意なのであれば、台本を瞬時に作成できるようになれば演技が出来るのではないか。

「はい」

「ではさっきまでのセリフを書き起こしていくから少し待ってくれ」

 俺はホワイトボードに向かい、俺が作ったアドリブを一つ一つ書き始めた。

「覚えているんですね」

「当然だ。自分が考えたセリフ。すなわち俺が作った話だからな」

「凄いですね」

「そうか?創作者なら大体できるぞ」

「創作者って凄いんですね……」

 創作者は自分が作ったものを全て記憶しているもの。つまり作れば作るだけ自分の脳内に蓄積されて行くのだ。

 悪い言い方をするのであれば、忘れたくても忘れられない。黒歴史は一生頭の中で生き続けるのだ。

「そうでもない。時間を掛けた分頭に入っているってだけだ。同じ時間を掛けられるのであれば誰でも出来る」

 単行本1冊を10分で読破できるが、書く場合は最低3か月かかるのだから覚えて当然だ。




「できたぞ。じゃあ一つ一つ考えていこう」

「はい」

「まずは一つ目だが——」

 それから俺たちは30分程アドリブに対して解答を話し合い、キャラへの理解を深めていった。

「後はその理解を演技に反映させるだけだな。試しに新しいアドリブを要求するから、アドリブで返してみてくれ」

「はい」

「『なあ——』」


 それから1時間、

「無理だったか」

「はい……」

 結果としては失敗に終わった。だが、少しだけ進歩はあった。

「立ち振る舞いや声のトーンには変化が無かったが、セリフの中身が若干キャラ寄りになった」

「そうですか?」

「ああ」

 といっても20%くらい花森咲成分が生まれたってだけだが。

「良かった。進歩した……!」

 MIUは喜びを噛みしめるようにそう呟いた。

 アドリブが出来ない上、それの改善の目途が立たない事が結構なストレスだったのだろう。



「光明が見えてきた所で悪いが、そろそろ俺は帰らないといけない」

 一応親には遅くなると伝えてあるが、流石に夕食時間を超えるのは不味い。

「そうですか……今日はありがとうございました!」

 まだまだ練習したい気持ちがMIUの表情に現れているが、これに関してはどうしようもない。

「ああ、またよろしく」

「私は親が迎えに来るまでここで練習していますね」

「そうか、頑張ってくれ」

「はい!」

 俺は一人練習部屋を出て、雨宮を探すために練習場をうろつき始めた。


「『そこ、廊下を走らない!』」

「『今急いでいるんですよ!歩いていたら間に合いません!』」

「『って言われても規則は規則です。歩きなさい』」

「『反省文ならいくらでも書きますので!』」

「『えっ、ちょっと!』」


「『俺が涼野にテニスで勝ったら付き合ってくれ!』」

「『南雲くん……』」

「『おいおい、俺を恋愛のダシにするのは辞めてくれよ』」

「『お前がエースなのが悪い!強い自分を恨むんだな!』」

「『なんだよその理論……』」

 練習場では劇団員が数人のグループに分かれて練習をしていた。

 服装は流石に私服なものの、演技はいたって真剣であり、誰も彼も完成度が非常に高いので一見真面目に練習しているように見えるが、先程聞こえてきたセリフは全てアドリブである。

 もっと言えば今回の演劇にはテニスなんて一切登場しないので二組目の方はアドリブ以前の問題である。

 せめて台本の範囲でアドリブをしろ。それはただの即興劇だ。

 と劇団の役者だった頃は常々思っていたのだが、大体の奴らは俺よりも演技が上手かったので何も言えなかった。

 外部の人間になった今なら言っても問題無いかなんて考えていると、雨宮を見つけた。

「先生!終わったんですか?」

「おっ弟子!こっちこいよ!」

 その隣には何故か酒瓶を持っている師匠が居た。完全に泥酔している。

「今日はな。で、なんでこういう状況になっているんだ?」

 どう考えても師匠には話が通じないので無視して、雨宮に聞いた。

「二人で先生の描かれている漫画の話をしていたら、『こういうのは飲みながら話すのが一番だな!』って言って家から大量に酒瓶を持ってきてこうなりました」

「家が隣であることの弊害が大きすぎる」

 遅刻が減っても酒を飲んでいては意味が無い。

 一応台本を書き上げてからは大した仕事は無いが、それでも練習の時は素面でいてくれ。

「あ?俺様に何か文句でもあんのか?」

 白い目で見られていることに気付いた師匠が、文句ありげな表情でこちらを見てくる。

「文句しかないですが。せめて家でやってください」

「あ?ここは家だろうが!!!」

「家みたいなものと家を混同しないでください」

 あくまでここは練習場だ。他の劇団員の迷惑になる——

 いや、ならなさそうだ。全員自分の世界に入っていた。

「弟子が文句言うんじゃない!お前も飲めば分かる!!!」

 これ本当に面倒なやつだな……

「未成年ですので。師匠を犯罪者にする気はありません」

「うるせえ!!」

 流石に埒が明かないので師匠の担当者を呼ぶことにした。

「どうしました?剛君」

 連絡すると咲良さんはすぐに駆けつけてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...