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24話
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「まずは素が出てしまわないようにすることだ。これが出来ない間は恐らく何をしても無駄だろう」
「はい」
「これから色んな役で話しかけてみる。全て台本に存在しないセリフだ。頑張ってキャラを維持してくれ」
「はい」
「じゃあまずは——」
それから俺は今回の劇に存在する役全てで話しかけてみた。
「『はい。そうですね……』」
「『難しいと思われます』」
「『何を言っているんですか。ポテチを食べて痩せるなんて嘘に決まっているでしょう』」
「『おはようございます——』」
結果として、
「一つ残らず素だったな」
「はい。難しいです」
1つも花森咲として返事をすることは出来なかった。
「気にするな。そもそもこれで治るのなら俺は要らない」
「すいません……」
MIUは申し訳なさそうに謝罪した。
「そうだな。なら方法を変えるか。アドリブに対してどう答えるべきか考えていこう」
「アドリブに対して?」
「ああ。まずは今回俺が言ったセリフに対し、どう答えていくか想定しよう」
台本から内容をくみ取って演技をするのが得意なのであれば、台本を瞬時に作成できるようになれば演技が出来るのではないか。
「はい」
「ではさっきまでのセリフを書き起こしていくから少し待ってくれ」
俺はホワイトボードに向かい、俺が作ったアドリブを一つ一つ書き始めた。
「覚えているんですね」
「当然だ。自分が考えたセリフ。すなわち俺が作った話だからな」
「凄いですね」
「そうか?創作者なら大体できるぞ」
「創作者って凄いんですね……」
創作者は自分が作ったものを全て記憶しているもの。つまり作れば作るだけ自分の脳内に蓄積されて行くのだ。
悪い言い方をするのであれば、忘れたくても忘れられない。黒歴史は一生頭の中で生き続けるのだ。
「そうでもない。時間を掛けた分頭に入っているってだけだ。同じ時間を掛けられるのであれば誰でも出来る」
単行本1冊を10分で読破できるが、書く場合は最低3か月かかるのだから覚えて当然だ。
「できたぞ。じゃあ一つ一つ考えていこう」
「はい」
「まずは一つ目だが——」
それから俺たちは30分程アドリブに対して解答を話し合い、キャラへの理解を深めていった。
「後はその理解を演技に反映させるだけだな。試しに新しいアドリブを要求するから、アドリブで返してみてくれ」
「はい」
「『なあ——』」
それから1時間、
「無理だったか」
「はい……」
結果としては失敗に終わった。だが、少しだけ進歩はあった。
「立ち振る舞いや声のトーンには変化が無かったが、セリフの中身が若干キャラ寄りになった」
「そうですか?」
「ああ」
といっても20%くらい花森咲成分が生まれたってだけだが。
「良かった。進歩した……!」
MIUは喜びを噛みしめるようにそう呟いた。
アドリブが出来ない上、それの改善の目途が立たない事が結構なストレスだったのだろう。
「光明が見えてきた所で悪いが、そろそろ俺は帰らないといけない」
一応親には遅くなると伝えてあるが、流石に夕食時間を超えるのは不味い。
「そうですか……今日はありがとうございました!」
まだまだ練習したい気持ちがMIUの表情に現れているが、これに関してはどうしようもない。
「ああ、またよろしく」
「私は親が迎えに来るまでここで練習していますね」
「そうか、頑張ってくれ」
「はい!」
俺は一人練習部屋を出て、雨宮を探すために練習場をうろつき始めた。
「『そこ、廊下を走らない!』」
「『今急いでいるんですよ!歩いていたら間に合いません!』」
「『って言われても規則は規則です。歩きなさい』」
「『反省文ならいくらでも書きますので!』」
「『えっ、ちょっと!』」
「『俺が涼野にテニスで勝ったら付き合ってくれ!』」
「『南雲くん……』」
「『おいおい、俺を恋愛のダシにするのは辞めてくれよ』」
「『お前がエースなのが悪い!強い自分を恨むんだな!』」
「『なんだよその理論……』」
練習場では劇団員が数人のグループに分かれて練習をしていた。
服装は流石に私服なものの、演技はいたって真剣であり、誰も彼も完成度が非常に高いので一見真面目に練習しているように見えるが、先程聞こえてきたセリフは全てアドリブである。
もっと言えば今回の演劇にはテニスなんて一切登場しないので二組目の方はアドリブ以前の問題である。
せめて台本の範囲でアドリブをしろ。それはただの即興劇だ。
と劇団の役者だった頃は常々思っていたのだが、大体の奴らは俺よりも演技が上手かったので何も言えなかった。
外部の人間になった今なら言っても問題無いかなんて考えていると、雨宮を見つけた。
「先生!終わったんですか?」
「おっ弟子!こっちこいよ!」
その隣には何故か酒瓶を持っている師匠が居た。完全に泥酔している。
「今日はな。で、なんでこういう状況になっているんだ?」
どう考えても師匠には話が通じないので無視して、雨宮に聞いた。
「二人で先生の描かれている漫画の話をしていたら、『こういうのは飲みながら話すのが一番だな!』って言って家から大量に酒瓶を持ってきてこうなりました」
「家が隣であることの弊害が大きすぎる」
遅刻が減っても酒を飲んでいては意味が無い。
一応台本を書き上げてからは大した仕事は無いが、それでも練習の時は素面でいてくれ。
「あ?俺様に何か文句でもあんのか?」
白い目で見られていることに気付いた師匠が、文句ありげな表情でこちらを見てくる。
「文句しかないですが。せめて家でやってください」
「あ?ここは家だろうが!!!」
「家みたいなものと家を混同しないでください」
あくまでここは練習場だ。他の劇団員の迷惑になる——
いや、ならなさそうだ。全員自分の世界に入っていた。
「弟子が文句言うんじゃない!お前も飲めば分かる!!!」
これ本当に面倒なやつだな……
「未成年ですので。師匠を犯罪者にする気はありません」
「うるせえ!!」
流石に埒が明かないので師匠の担当者を呼ぶことにした。
「どうしました?剛君」
連絡すると咲良さんはすぐに駆けつけてきた。
「はい」
「これから色んな役で話しかけてみる。全て台本に存在しないセリフだ。頑張ってキャラを維持してくれ」
「はい」
「じゃあまずは——」
それから俺は今回の劇に存在する役全てで話しかけてみた。
「『はい。そうですね……』」
「『難しいと思われます』」
「『何を言っているんですか。ポテチを食べて痩せるなんて嘘に決まっているでしょう』」
「『おはようございます——』」
結果として、
「一つ残らず素だったな」
「はい。難しいです」
1つも花森咲として返事をすることは出来なかった。
「気にするな。そもそもこれで治るのなら俺は要らない」
「すいません……」
MIUは申し訳なさそうに謝罪した。
「そうだな。なら方法を変えるか。アドリブに対してどう答えるべきか考えていこう」
「アドリブに対して?」
「ああ。まずは今回俺が言ったセリフに対し、どう答えていくか想定しよう」
台本から内容をくみ取って演技をするのが得意なのであれば、台本を瞬時に作成できるようになれば演技が出来るのではないか。
「はい」
「ではさっきまでのセリフを書き起こしていくから少し待ってくれ」
俺はホワイトボードに向かい、俺が作ったアドリブを一つ一つ書き始めた。
「覚えているんですね」
「当然だ。自分が考えたセリフ。すなわち俺が作った話だからな」
「凄いですね」
「そうか?創作者なら大体できるぞ」
「創作者って凄いんですね……」
創作者は自分が作ったものを全て記憶しているもの。つまり作れば作るだけ自分の脳内に蓄積されて行くのだ。
悪い言い方をするのであれば、忘れたくても忘れられない。黒歴史は一生頭の中で生き続けるのだ。
「そうでもない。時間を掛けた分頭に入っているってだけだ。同じ時間を掛けられるのであれば誰でも出来る」
単行本1冊を10分で読破できるが、書く場合は最低3か月かかるのだから覚えて当然だ。
「できたぞ。じゃあ一つ一つ考えていこう」
「はい」
「まずは一つ目だが——」
それから俺たちは30分程アドリブに対して解答を話し合い、キャラへの理解を深めていった。
「後はその理解を演技に反映させるだけだな。試しに新しいアドリブを要求するから、アドリブで返してみてくれ」
「はい」
「『なあ——』」
それから1時間、
「無理だったか」
「はい……」
結果としては失敗に終わった。だが、少しだけ進歩はあった。
「立ち振る舞いや声のトーンには変化が無かったが、セリフの中身が若干キャラ寄りになった」
「そうですか?」
「ああ」
といっても20%くらい花森咲成分が生まれたってだけだが。
「良かった。進歩した……!」
MIUは喜びを噛みしめるようにそう呟いた。
アドリブが出来ない上、それの改善の目途が立たない事が結構なストレスだったのだろう。
「光明が見えてきた所で悪いが、そろそろ俺は帰らないといけない」
一応親には遅くなると伝えてあるが、流石に夕食時間を超えるのは不味い。
「そうですか……今日はありがとうございました!」
まだまだ練習したい気持ちがMIUの表情に現れているが、これに関してはどうしようもない。
「ああ、またよろしく」
「私は親が迎えに来るまでここで練習していますね」
「そうか、頑張ってくれ」
「はい!」
俺は一人練習部屋を出て、雨宮を探すために練習場をうろつき始めた。
「『そこ、廊下を走らない!』」
「『今急いでいるんですよ!歩いていたら間に合いません!』」
「『って言われても規則は規則です。歩きなさい』」
「『反省文ならいくらでも書きますので!』」
「『えっ、ちょっと!』」
「『俺が涼野にテニスで勝ったら付き合ってくれ!』」
「『南雲くん……』」
「『おいおい、俺を恋愛のダシにするのは辞めてくれよ』」
「『お前がエースなのが悪い!強い自分を恨むんだな!』」
「『なんだよその理論……』」
練習場では劇団員が数人のグループに分かれて練習をしていた。
服装は流石に私服なものの、演技はいたって真剣であり、誰も彼も完成度が非常に高いので一見真面目に練習しているように見えるが、先程聞こえてきたセリフは全てアドリブである。
もっと言えば今回の演劇にはテニスなんて一切登場しないので二組目の方はアドリブ以前の問題である。
せめて台本の範囲でアドリブをしろ。それはただの即興劇だ。
と劇団の役者だった頃は常々思っていたのだが、大体の奴らは俺よりも演技が上手かったので何も言えなかった。
外部の人間になった今なら言っても問題無いかなんて考えていると、雨宮を見つけた。
「先生!終わったんですか?」
「おっ弟子!こっちこいよ!」
その隣には何故か酒瓶を持っている師匠が居た。完全に泥酔している。
「今日はな。で、なんでこういう状況になっているんだ?」
どう考えても師匠には話が通じないので無視して、雨宮に聞いた。
「二人で先生の描かれている漫画の話をしていたら、『こういうのは飲みながら話すのが一番だな!』って言って家から大量に酒瓶を持ってきてこうなりました」
「家が隣であることの弊害が大きすぎる」
遅刻が減っても酒を飲んでいては意味が無い。
一応台本を書き上げてからは大した仕事は無いが、それでも練習の時は素面でいてくれ。
「あ?俺様に何か文句でもあんのか?」
白い目で見られていることに気付いた師匠が、文句ありげな表情でこちらを見てくる。
「文句しかないですが。せめて家でやってください」
「あ?ここは家だろうが!!!」
「家みたいなものと家を混同しないでください」
あくまでここは練習場だ。他の劇団員の迷惑になる——
いや、ならなさそうだ。全員自分の世界に入っていた。
「弟子が文句言うんじゃない!お前も飲めば分かる!!!」
これ本当に面倒なやつだな……
「未成年ですので。師匠を犯罪者にする気はありません」
「うるせえ!!」
流石に埒が明かないので師匠の担当者を呼ぶことにした。
「どうしました?剛君」
連絡すると咲良さんはすぐに駆けつけてきた。
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