死せる勇者、魔界で生きる 〜蘇った俺はただ静かに暮らしたい〜

夢乃アイム

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第一章:再び目覚めた勇者

第二十六話:父と子の初めての出会い

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 セリオはリゼリアの言葉を理解するのに、数秒の時間を要した。

 ——息子?

「……今、なんと?」

 思わず聞き返すと、リゼリアは淡々と告げる。

「だから、お前の息子がいるのよ。私とお前の間に生まれた子が」

 その口調はいつもの無機質なものだったが、彼女の赤い瞳の奥には、微かな感情の揺らぎがあった。
 だが、セリオの思考はそれどころではなかった。

「俺の……子供……?」
「そう。カイという名よ」

 名前まで告げられ、セリオは言葉を失った。
 彼がリゼリアと初めて出会ったのは、生前のことだった。敵同士として剣を交え、そして彼は彼女を討ったはずだった。

 ——だが、リゼリアは不死の術によって蘇り、俺を蘇らせた。そして、俺は二度目の死を迎え、またこうして復活している。

 その間に、子供が生まれていた。

 ——俺の子が。

 思考がまとまらないまま、セリオは静かに問いかけた。

「……なぜ今まで言わなかった?」
「言う必要がなかったからよ」

 リゼリアはあっさりと言い放つ。

「お前は復活するたびに記憶を失っていたし、言ったところで何になるの?」
「……それは、そうかもしれないが……」

 セリオは額に手を当て、大きく息を吐いた。
 リゼリアは彼を見上げながら、静かに続ける。

「……それに、お前が覚えていないとしても、カイはお前を"父親"だと思っているわ」

 セリオの胸が、妙に締めつけられる感覚があった。

 ——俺を、父親だと?

 その言葉の意味を噛み締めるよりも早く、リゼリアが小さく息を吐いた。

「……とにかく、今から会わせるわ。お前はお前なりに対応しなさい」

 セリオが返答する間もなく、リゼリアは転移門に消える。

 ややあって、門から二人の人影が現れた。
 一人はリゼリア。もう一人は、少年だった。

 年の頃は、十歳前後だろうか。
 黒髪はセリオと同じく短く、瞳は深い青。

 ——まるで、自分の幼い頃を見ているようだった。

 少年はセリオを見つめ、少しの間、動かなかった。
 そして、ゆっくりと歩み寄り、

「……父さん?」

 その一言が、セリオの胸に突き刺さる。

 記憶にないはずの存在。しかし、目の前の少年は確かに、自分を"父親"と呼んだ。
 セリオは何か言おうと口を開くが、適切な言葉が見つからない。

 そんな彼の様子を見て、少年——カイは、不安そうに顔を曇らせた。

「やっぱり……覚えてない、んだね」

 セリオの沈黙が、答えになってしまったのだろう。
 カイは少しだけ視線を落とし、しかしすぐに顔を上げた。

「でも……それでもいいよ。母さんから聞いてた。父さんは、いつも忘れちゃうんだって」
「……」
「でも、何度でも、僕の父さんになってくれるんでしょ?」

 無邪気な問いかけに、セリオの胸が締め付けられる。

 この少年は、どんな気持ちで"父親"を待ち続けていたのか。
 自分はそれに応えられるのか——?

 セリオは迷いながらも、そっと手を伸ばした。

「……ああ。俺は、お前の父親だ」

 そう言うと、カイの顔がぱっと明るくなった。

「本当!? じゃあ……抱っこしてくれる?」
「え?」
「僕、父さんに会ったら、一度でいいから抱っこしてほしかったんだ!」

 カイは無邪気に両手を広げる。
 セリオは戸惑いながらも、そっと彼を抱き上げた。

 ——軽い。

 これほど小さな存在が、自分の子供なのかと、実感が湧かないままに思う。
 だが、カイは満足そうに笑って、

「やった! 父さんの腕、すごく大きい!」

 そう言って、嬉しそうに頬を寄せた。

 セリオの胸に、じんわりと温かいものが広がる。

 彼はまだ"父親"である自覚を持てていない。

 それでも——

「……これから、よろしくな、カイ」
「うん!」

 少年の笑顔を見て、セリオは初めて"父親"としての覚悟を、ほんの少しだけ自覚したのだった。
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