奈落より還る 〜元Sランク覚醒者、ダンジョン最下層からの逆襲〜

夢乃アイム

文字の大きさ
63 / 102

【#62】地下7階・第四話:儀式の刻、迫る戦慄

しおりを挟む
 マーカスが手を掲げると、祭壇の背後の闇から複数の影が現れた。
 それはかつての覚醒者たち——だが今は、魔物と融合し、異形の姿へと変じた者たちだった。

 角や鱗を持ち、腕は刃のように伸び、瞳は深紅に染まっている。
 だがその口元は笑みを浮かべていた。人としての理性と忠誠心は、まだ残っているのだ。

「儀式の邪魔はさせないよ、蓮。——彼らは自ら志願した。“進化”のためにね。誇りある覚醒者たちだ」
「歪んだ進化だ。……こんなものに、誇りなんてあるか」

 俺は剣形態のミスティを構え、身構える。
 空間は震え、魔力の渦が広間を満たしていく。祭壇の周囲からも、異形の魔物たちが姿を現す。数だけでも圧倒的だ。
 だが、怖れはない。

「蓮、私にあなたの“怒り”を預けて」

 ミスティの声が胸に響く。そうだ、こんな場所で、立ち止まるわけにはいかない。

「……行くぞ!」

 号令のように、戦いが始まった。
 融合者たちは俊敏だった。人間だった頃の技術を活かしながら、魔物の肉体による強靭さで攻撃してくる。
 だが、こちらも一人ではない。ミスティの力は、戦うほどに研ぎ澄まされていく。ひとり、ふたりと融合者を倒していく——その瞬間、ミスティの剣身が赤く光り、熱を帯びた。

「……また一人、蓮に縁ある者を斬った。かつて同じ戦場にいた覚醒者。名前は、もう思い出せないけど……」

 彼女の声が低く響き、剣がさらなる力を得る。
 そう——ミスティは、“契約者に縁ある者”を屠ることで、自らの力を増していく。
 それは呪いにも近い宿命だ。

 マーカスは、戦場の奥で冷静に祭壇を守りながら呟く。

「ほう……やはり、“彼女”の適性は規格外だな。ミスティ・プロトコル——いや、ロザリンドの残滓すら、取り込んでいるのか」
「……お前、知っているのか——!」
「ミスティはエルゴスの聖剣になるはずだった。しかしロザリンドが我々を欺き、その命と引き換えに、剣に異物を植え付けた。だが……勝ったのは剣の方だ。ロザリンドの死は無駄だったようだな」

 俺はその言葉に怒りを抑えきれず、剣を振るった。
 融合者たちの一人が斬られ、ミスティの刃が深紅に染まる。彼女は再び強くなっていく。
 だが、それと引き換えに何か大切なものを失っているような気がしてならなかった。

 ダンジョンの魔物たちも、儀式の魔力に引き寄せられるように次々と広間に現れる。
 この戦場は、地獄と化していた。

「……マーカス、時間稼ぎのつもりなら——失敗だ」
「そうか? 君が気づかぬうちに、儀式はほぼ完了している。私がここにいるのは、その最終段階に必要な“扉”を開くためだ。もうすぐ、融合は不可逆となる」

 不気味に笑いながら、マーカスの身体から黒い魔力が噴き上がる。
 彼もまた、自らに“異形”を取り込もうとしている——!

「蓮、次が“決戦”だな」

 俺はミスティを構え直し、血の気配が渦巻く戦場を睨んだ。

「——そうだ。必ず、止める」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

異世界帰りの最強勇者、久しぶりに会ったいじめっ子を泣かせる

枯井戸
ファンタジー
学校でイジメを受けて死んだ〝高橋誠〟は異世界〝カイゼルフィール〟にて転生を果たした。 艱難辛苦、七転八倒、鬼哭啾啾の日々を経てカイゼルフィールの危機を救った誠であったが、事件の元凶であった〝サターン〟が誠の元いた世界へと逃げ果せる。 誠はそれを追って元いた世界へと戻るのだが、そこで待っていたのは自身のトラウマと言うべき存在いじめっ子たちであった。

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。 広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。 ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。 彼の名はレッド=カーマイン。 最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。 ※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...