魂の残響 〜冥府の支配者、還暦からのVRMMO成り上がり〜

夢乃アイム

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第五十七話:現実の境界

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 扉の向こうには、ただ白い霧が広がっていた。
 どこまでも続くような、果てのない虚無。
 誠司は慎重に足を踏み出し、エレベーターの外へ出た。

「伯父さん……行くのか?」

 俊也の声には不安が滲んでいた。

「ここに留まっていても埒が明かん」

 誠司は淡々と答え、周囲を見渡した。
 レクシアが静かに続く。
 俊也は一瞬ためらったが、やがて意を決したように後を追った。

 ——途端に、エレベーターの扉が音もなく閉じる。

「っ!?」

 俊也が振り返った瞬間、エレベーターはそのまま消え去った。
 まるで最初から存在しなかったかのように——

「……やはりな」

 誠司は低く呟く。

「これは、“誘導”されている」
「どういうこと?」

 俊也が不安げに尋ねる。

「俺たちは、自分の意思でここに来たように見えて、実際には誰か——もしくは何かに”導かれた”可能性が高い」
「……つまり、罠?」
「そうかもしれんが、それだけじゃない」

 誠司はじっと霧の奥を見つめた。

 ——この空間は、何かを”試そう”としている。

「……行くぞ」

 誠司は前を向き、霧の中へと足を踏み入れた。
 俊也とレクシアも続く。

 ——その瞬間、世界が”変化”した。



 ——病院の廊下。

 だが、先ほどまでとは違う。

「……なに、これ……」

 俊也が息を呑む。
 壁は色褪せ、床にはひび割れが走り、天井の蛍光灯はちらついている。
 まるで、“朽ち果てた病院” のようだった。

「さっきまでの病院とは別の場所みたいだな……」

 誠司は慎重に辺りを見渡した。
 壁にかかっている時計は、針がぐるぐると逆回転している。

 異様な違和感。

「伯父さん……これって、まさか”ゲームの中”とかじゃないよな?」

 俊也が恐る恐る尋ねる。

「……いや、これは”現実”のはずだ」

 誠司はそう言いながらも、自分の言葉に確信を持てなかった。
 現実のはずなのに、“現実ではない”。

 ——この病院は、“境界”にある。

「進むしかなさそうだな」

 誠司は歩き出した。

 その時——

 ——カツン、カツン。

 遠くから、足音が聞こえてきた。

「……誰かいるのか?」

 誠司は警戒しながら声をかける。

 だが——

「違います」

 レクシアが静かに言った。

「これは……“人の足音ではありません”」

 誠司が目を凝らす。
 霧の奥から、ゆっくりと何かが近づいてくる。
 やがて、白い霧の中から”それ”が姿を現した。

 ——白衣を着た、顔のない人影。

「ッ……!」

 俊也が息を呑む。
 顔のない”それ”は、ゆっくりと手を伸ばし——

 ——言葉にならない”声”を発した。

「おかえり……ませ……」

 ……それは、どこかで聞いたことのある声だった。
 誠司の胸の奥に、微かな違和感が生まれる。

「……伯父さん?」

 俊也の声で、誠司は我に返った。
 目の前の存在が、さらにこちらへと歩み寄る。

 ——だが、誠司は一歩も引かなかった。

「……お前は、誰だ?」

 静かに問いかける。
 白衣の影は、一瞬動きを止め——

 ——次の瞬間、“世界”が揺れた。



 誠司は目を開いた。

 そこは、再び”普通の病院”だった。
 廊下は元通り。
 エレベーターの前に立っていた。

「……?」

 俊也が戸惑ったように周囲を見回す。

「今の……何だったんだ?」

 レクシアがそっと口を開く。

「“現実と非現実の境界”に触れたのです」

 誠司は黙って、自分の手を握った。
 その指先は、ほんの僅かに冷たくなっていた。

(……俺は、現実に”戻ってきた”のか?)

 それとも——

 まだ、“境界の中”にいるのか。

 誠司の中に、微かな疑念が生まれた。

 ——果たして、この”現実”は本当に”本物”なのか?
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