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第11話 次の夏とレイ
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『夏になれば、テオに会える』
秋からの一年は、その思いだけで過ごすことが出来た。
周りの特別扱いも、やっかみも、孤独さえも。
テオに会えると思えば、辛くはなかった。
むしろ、心の支えにすらなっていた。
『ぼくには、テオがいる。ほかに誰もいなくたって、平気さ』
そう思うだけで、幸せだった。
次の夏。
王子は、たくさんの本と菓子とオモチャを用意して。
夏の宮殿に向かった。
「ヴィルヘルム、あなたがそんなに楽しそうなのは初めてね。
いとこのみんなに会えるのが、楽しみなのかしら?」
母である王妃は、良くいえば、おっとりとした性格の人。
悪くいってしまえば、何も見えていないタイプの女性だった。
王子が、いとこたちに避けられていることにも気づいていない。
けれど、母は母である。
愛情が無いわけではないことは、分かっている。
だから、聡明な王子は、母に本当のことは言わない。
「はい。母上。とっても楽しみです」
(テオに会えるのがね)
心の声は飲み込んで、王子は母に向かってニッコリと微笑んだ。
夏の宮殿に着くと、王子はさっそく薔薇園へと向かった。
王子お気に入りの白いベンチは塗り直され、新品のように輝く。
(あぁ、早くテオに会いたい。大きくなったかなぁ?)
(きっと、去年よりもっと素敵になっているに違いない)
ワクワクする胸の内を隠そうともせずに、ベンチに座る。
足をぶらぶらさせながら、本に目を落とす。
けれど、その目は字を追ってはいない。
ただひたすらに、テオの現れるのを待っていた。
ところが、である。
いくら待っても、テオは薔薇園には現れなかった。
理由は、分からない。
どんどん落ち込む王子に、母である王妃は言った。
「あなたに会わせたい人がいるの。夏の終わり頃にね」
(誰? もしかして、テオ? だから、会えなかったの?)
王子の胸は、高鳴った。
落ち込んでいた気持ちが、一気に吹き飛ぶ。
よく笑い、よく食べた。
王子の頬に桃色の艶が戻ると、母は喜びの表情を浮かべた。
夏が終わる頃。
その子は、王子の前にやって来た。
「このたび、ペイジになりましたレイと申します。王子様」
そう言って、王子の前に現れたのは現在の執事のレイだった。
すっかりテオが現れるものだと思い込んでいた王子は、落胆した。
それでも、王子は王子らしさを忘れない。
その小さな胸を精いっぱい強がりで膨らませて、こう言った。
「うん。これから、よろしく。レイ」
ほかの使用人のように、距離を置いて付き合っていくのだろう。
そう思っていた王子の思い込みを、レイは覆してきた。
王妃がいなくなると、ニヤリと笑ってこう言ったのだ。
「誰が来ると思ってたんです? 残念そうですけど」
「なっ! なんだ、お前は! ほかのペイジとは違うな」
「ふふ。王子様は、こういうほうがお望みでしょう?
周りの距離を置いた特別扱いに、ウンザリなさっているのでは?」
「ブッ! お前、面白いなぁ! レイだっけ?」
「はい。私は、あなたの側近候補として王宮に入りました。
将来、王になるかたの片腕になるつもりです。ですから……」
「うん?」
「私のことは、少し年上の親友と思ってください。
なんでも話せる親友になりたいのです」
「家臣ではなくて?」
「はい。私は、表の出世は望んでおりません。
ただ、あなた様が健やかに幸せであればいいと願っています」
「……なぜ、そこまで私のことを考えてくれる?」
「王国において、王は国そのもの。
王が健やかで幸せであれば、国もそうあるでしょう」
「私がいい国を作ることが、お前の望みだと?」
「はい。そのためならば、あなた様の恋とて叶えてみせましょう」
「恋……?」
レイは、各国を旅してきた一族の末裔だった。
知識と魔法能力を武器に、その時々に属する国の君主に仕えてきた。
その卓越した力で、属した国を豊かにしてきた。
しかし、王族や君主の中には、その器でない者も多くいる。
国が豊かになると、それまでの功績を忘れて一族を迫害する者。
約束の報酬や身分を与え渋る者。
それどころか、戦争犯罪人として追われることさえあった。
「ですから、我らの一族は、人を見極める能力に長けるようになったのです」
「ふうん。それで、私はレイのお眼鏡に適ったというわけか?」
「はい。あなた様は、すでに君主としての器を持っていらっしゃる。
聡明なだけではなく、民たちのことを考える力もお持ちです」
「はは。それは、家庭教師のおかげだろう」
「いいえ。どんな授業を受けても、それを活かせるかは、その人次第。
失礼ながら、いとこの皆様は、全く見込みがございません」
「何? それは、どうして?」
「民は、自分たちを支える家畜だと思っていらっしゃるようで。
王子様と同じ本で学んでいるにも関わらず、です」
「そうか……」
「どうやら、心当たりがおありのようですね」
「う~ん、大きな声では言えないが、私も彼らは苦手だ」
「ふふふ。あなたの率直なところも、素晴らしい。
それで? どう致します?」
「何がだ?」
「あなた様のお会いしたいかたをお連れしましょうか?」
「お会いしたいかた……」
「愛しいかた、とお呼びしてもよろしいですが」
「愛しい……? 私は、テオをそんな風に思っているのだろうか?」
「そればかりは、ご自分の御心に聞いていただかないと。
けれど、確かめる術はございましょう」
王子が覚えている、去年の夏にテオから聞いた話。
それだけを頼りに、なんとレイはすぐにテオを見つけてきた。
「どうやら、テオ様は薔薇園に入ることが出来なかったようです」
「なぜ?」
「夏の宮殿の庭師が、庭園に入れる抜け道をふさいでしまったようで」
「そうだったのか……」
「おや? ホッとされたようですね。嫌われたとでも?」
「まっ、いや、それはっ」
「ははは。あなた様の素直さは、とても好ましい。
それで、どうします? 会いに行かれますか?」
「も、もちろんだ!」
けれど、その夏。
王子は、テオに会うことは出来なかった。
テオ以外で心を許せるレイに出会えて。
そのレイが、全ての段取りを整えてくれたというのに。
秋からの一年は、その思いだけで過ごすことが出来た。
周りの特別扱いも、やっかみも、孤独さえも。
テオに会えると思えば、辛くはなかった。
むしろ、心の支えにすらなっていた。
『ぼくには、テオがいる。ほかに誰もいなくたって、平気さ』
そう思うだけで、幸せだった。
次の夏。
王子は、たくさんの本と菓子とオモチャを用意して。
夏の宮殿に向かった。
「ヴィルヘルム、あなたがそんなに楽しそうなのは初めてね。
いとこのみんなに会えるのが、楽しみなのかしら?」
母である王妃は、良くいえば、おっとりとした性格の人。
悪くいってしまえば、何も見えていないタイプの女性だった。
王子が、いとこたちに避けられていることにも気づいていない。
けれど、母は母である。
愛情が無いわけではないことは、分かっている。
だから、聡明な王子は、母に本当のことは言わない。
「はい。母上。とっても楽しみです」
(テオに会えるのがね)
心の声は飲み込んで、王子は母に向かってニッコリと微笑んだ。
夏の宮殿に着くと、王子はさっそく薔薇園へと向かった。
王子お気に入りの白いベンチは塗り直され、新品のように輝く。
(あぁ、早くテオに会いたい。大きくなったかなぁ?)
(きっと、去年よりもっと素敵になっているに違いない)
ワクワクする胸の内を隠そうともせずに、ベンチに座る。
足をぶらぶらさせながら、本に目を落とす。
けれど、その目は字を追ってはいない。
ただひたすらに、テオの現れるのを待っていた。
ところが、である。
いくら待っても、テオは薔薇園には現れなかった。
理由は、分からない。
どんどん落ち込む王子に、母である王妃は言った。
「あなたに会わせたい人がいるの。夏の終わり頃にね」
(誰? もしかして、テオ? だから、会えなかったの?)
王子の胸は、高鳴った。
落ち込んでいた気持ちが、一気に吹き飛ぶ。
よく笑い、よく食べた。
王子の頬に桃色の艶が戻ると、母は喜びの表情を浮かべた。
夏が終わる頃。
その子は、王子の前にやって来た。
「このたび、ペイジになりましたレイと申します。王子様」
そう言って、王子の前に現れたのは現在の執事のレイだった。
すっかりテオが現れるものだと思い込んでいた王子は、落胆した。
それでも、王子は王子らしさを忘れない。
その小さな胸を精いっぱい強がりで膨らませて、こう言った。
「うん。これから、よろしく。レイ」
ほかの使用人のように、距離を置いて付き合っていくのだろう。
そう思っていた王子の思い込みを、レイは覆してきた。
王妃がいなくなると、ニヤリと笑ってこう言ったのだ。
「誰が来ると思ってたんです? 残念そうですけど」
「なっ! なんだ、お前は! ほかのペイジとは違うな」
「ふふ。王子様は、こういうほうがお望みでしょう?
周りの距離を置いた特別扱いに、ウンザリなさっているのでは?」
「ブッ! お前、面白いなぁ! レイだっけ?」
「はい。私は、あなたの側近候補として王宮に入りました。
将来、王になるかたの片腕になるつもりです。ですから……」
「うん?」
「私のことは、少し年上の親友と思ってください。
なんでも話せる親友になりたいのです」
「家臣ではなくて?」
「はい。私は、表の出世は望んでおりません。
ただ、あなた様が健やかに幸せであればいいと願っています」
「……なぜ、そこまで私のことを考えてくれる?」
「王国において、王は国そのもの。
王が健やかで幸せであれば、国もそうあるでしょう」
「私がいい国を作ることが、お前の望みだと?」
「はい。そのためならば、あなた様の恋とて叶えてみせましょう」
「恋……?」
レイは、各国を旅してきた一族の末裔だった。
知識と魔法能力を武器に、その時々に属する国の君主に仕えてきた。
その卓越した力で、属した国を豊かにしてきた。
しかし、王族や君主の中には、その器でない者も多くいる。
国が豊かになると、それまでの功績を忘れて一族を迫害する者。
約束の報酬や身分を与え渋る者。
それどころか、戦争犯罪人として追われることさえあった。
「ですから、我らの一族は、人を見極める能力に長けるようになったのです」
「ふうん。それで、私はレイのお眼鏡に適ったというわけか?」
「はい。あなた様は、すでに君主としての器を持っていらっしゃる。
聡明なだけではなく、民たちのことを考える力もお持ちです」
「はは。それは、家庭教師のおかげだろう」
「いいえ。どんな授業を受けても、それを活かせるかは、その人次第。
失礼ながら、いとこの皆様は、全く見込みがございません」
「何? それは、どうして?」
「民は、自分たちを支える家畜だと思っていらっしゃるようで。
王子様と同じ本で学んでいるにも関わらず、です」
「そうか……」
「どうやら、心当たりがおありのようですね」
「う~ん、大きな声では言えないが、私も彼らは苦手だ」
「ふふふ。あなたの率直なところも、素晴らしい。
それで? どう致します?」
「何がだ?」
「あなた様のお会いしたいかたをお連れしましょうか?」
「お会いしたいかた……」
「愛しいかた、とお呼びしてもよろしいですが」
「愛しい……? 私は、テオをそんな風に思っているのだろうか?」
「そればかりは、ご自分の御心に聞いていただかないと。
けれど、確かめる術はございましょう」
王子が覚えている、去年の夏にテオから聞いた話。
それだけを頼りに、なんとレイはすぐにテオを見つけてきた。
「どうやら、テオ様は薔薇園に入ることが出来なかったようです」
「なぜ?」
「夏の宮殿の庭師が、庭園に入れる抜け道をふさいでしまったようで」
「そうだったのか……」
「おや? ホッとされたようですね。嫌われたとでも?」
「まっ、いや、それはっ」
「ははは。あなた様の素直さは、とても好ましい。
それで、どうします? 会いに行かれますか?」
「も、もちろんだ!」
けれど、その夏。
王子は、テオに会うことは出来なかった。
テオ以外で心を許せるレイに出会えて。
そのレイが、全ての段取りを整えてくれたというのに。
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