王宮家庭教師は、ドールハウスに溺れる

クリヤ

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第14話 待ち望んだ光景

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 テオの深夜の逃避行が始まって、すでに10日が過ぎていた。

 王子は、毎夜、テオの部屋を訪れては、甘いものをくれる。
 ふたりでお茶を楽しむと、優しくテオの体を求めてくる。
 今のところ、王子が求めるのは唇と首筋、それに胸の突起だけ。
 テオ自身には、触れようとはしない。
 むしろ、テオ自身がもっともっとというように王子の腹を叩く。
 王子の愛撫は、とろけるように甘く。
 テオは、すっかりと感覚遮断魔法を使うのを忘れていた。
 いや、実際は、使いたいとさえ思わなくなっていた。

 「先生は、辛抱強いなぁ……」
 「どういうことです?」
 「私がどんなに攻めても、声も出さないだろう?
  もしかして、気持ちよくないのかな?」
 「い、いえ! そのようなことは!」
 「先生の声が聞きたいなぁ」
 「……それは、無理です……」
 「なぜ?」
 「私は、あくまで王子様の想い人の代わりです。
  自分のために、快楽を受け取ることは出来ません」
 「先生は、真面目すぎるよ」
 「そう、でしょうか?」
 「うん。先生の想い人は、今、どうしてる?」
 「分かりません。あの子は、おそらく……」
 「ん?」
 「王子様は、『夏の宮殿』をご存知ですか?」
 「知っているよ。王族たちは、避暑に行くからね」
 「私があの子と会ったのは、『夏の宮殿』なのです。
  ですから、もしかしたら、あの子は王族なのかも知れません」
 「そうか。もしそうなら?」
 「そうなら……。それでも、この想いだけは伝えたいです」
 「受け取ってもらえなくても?」
 「はい。あの子は私に夢をくれましたから。
  あの子に会わなければ、魔導士を目指さなければ。
  王子様ともお会いすることは出来なかったでしょうし」
 「ん? どういう意味だい?
  私に会えて嬉しい、そう聞こえるのは自意識過剰かな?」
 「あっ! いえ、あの……」

 テオは驚いた顔をして、それから頬を真っ赤に染めて黙ってしまう。
 冗談だよ、そう言って王子は話を流してくれた。

 (私は……、こんなにも王子様のことを……)
 (あんなに会いたかったヴィーのことも、最近は思い出さなくなって)
 (そうしたら、魔導士試験にも熱が入らない)
 (それに……)

 王子に触れられるたびに、もっと先を望む自分をテオは知っていた。
 テオ自身に触れて欲しい。
 あの唇に、もう一度飲み込まれたい。
 誰にも感じたことのない感情で、テオの内心はあふれそうだった。

 (もしかして……、王宮を出ていけないのも?)
 (本当は、私が出ていきたくないからじゃないのか?)
 (夜だけ高い壁が現れるなんて聞いたことがない)
 (あれは、私が作り上げた妄想……?)

 今夜も王子が部屋に戻ると、テオは出ていく支度を始める。
 どうせ、今夜も王宮からは出られない。
 そう思いながらも、すでにルーティン化したように支度は進む。
 幸いにも、今夜は眠くならない。
 すでに荷物を詰め込んである鞄をクローゼットから引っ張り出す。
 今夜こそ!
 そう思って、開けた部屋の扉。
 その先に、王子の執事のレイが立っていた。

 「レイ……さん?」
 「先生、こんな夜更けにどちらへ?」
 「あ、あの! ええっと……」
 「まぁ、よろしいですが。少しお話がありまして」
 「え、ええ。ど、どうぞ」

 レイと共に、今出ようとした部屋に再び戻る。

 「あの、お茶でも?」
 「あぁ、これは失礼を。私が」
 「いえ、でも……」
 「先生は、王子の先生ですから。遠慮なさらずに」
 「あ、ありがとうございます」
 「ところで、先生? 王子からは、お聞きになりましたか?」
 「な、何をです?」
 「そろそろ、想い人を王宮に迎え入れたいとのことですが」
 「えっ?」
 「ご存知ないですか?」
 「は、はい」
 「先生は、よろしいのですか?」
 「何がです?」
 「このままの関係で。王子が想い人と睦み合うのを見ることが出来ます?」
 「え? レイさん、何を仰っているのか……」
 「……本当に分かりませんか?」
 「あ、あの。もしかして、私の気持ちをご存知なのですか?」
 「ふふ。見ていれば分かります」
 「でも、だからといって、私にはどうすることも……」
 「先生、まずはお茶をどうぞ。
  体を温めれば、ご自分の本心にも素直になれるはずです」

 レイが用意してくれたお茶を、テオは口に運ぶ。
 さすが執事というところか、テオが淹れるよりも美味しく感じる。
 それを飲み干すと、テオの腹の奥にポッと熱い火が生まれる。

 (そうだ、私はまだ何もしていない)
 (どうせ出ていくのなら、この気持ちをぶつけてからでも)

 「あ、あの! レイさんっ! 王子様は、まだ起きて……」
 「ええ。王子は、明け方近くまで起きておられますよ」
 「これから私のすることを見逃してはいただけませんか?」
 「ふふふ。私は何も見ておりません」
 「あ、ありがとうございます!」

 王子の部屋に向かって、テオは駆け出した。
 テオの部屋にひとり残されたレイは、カップを片付ける。
 テオが放り出していった鞄を部屋の隅に置く。
 それから、ニヤリと笑って、ひとり呟く。

 「やれやれ、手間のかかる恋人たちだ」

 その顔は優しく微笑んでいて、主人の幸せを心から喜んでいた。


 *****

 トントントントントントン!
 深夜に小さく、けれど何度も叩かれる扉。

 (レイ? にしては、騒がしい音を立てる)

 レイは、テオの部屋に王子の失敗を補填するために向かっていた。
 今夜の王子は、テオに魔法のかかった菓子を食べさせるのを忘れてしまった。
 話をしているうちに、テオの唇が欲しくなってしまう。
 王子がテオを引き寄せると、テオはトロンとした瞳で見つめてくる。
 だから、気づかなかったのだ。
 今日のテオが菓子を口にしていないことに。

 「……んっ」

 いつものように、小さく聞こえる声。
 我慢するような、切なげな表情。
 首筋から、すべすべとした肌を唇で撫でながら、胸の突起に辿り着く。
 毎夜のように愛撫し続けたそれは、王子の吐息にさえ応えてくれる。
 小さな紅色の果実を存分に堪能する。
 王子の腹を、テオ自身が誘うように撫でてくる。
 掴まえて撫でてしまいたいのを、どうにかこらえる。
 最近のテオは、魔法のおかげで素直な反応を見せる。
 魔法のかかった状態で、テオを自分のものにするのは簡単そうだ。
 けれど、そうしたくはなかった。
 テオが本心から望んだ時に、結ばれたい。
 そう、王子は思っていた。

 「レイ? どうした……」

 扉を開けた王子の胸に飛び込んできたのは、テオだった。

 「先生? 何かありましたか?」
 「……もう先生じゃ嫌なんです……」

 王子が長い間、待ち望んでいた光景がそこにはあった。
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