王宮家庭教師は、ドールハウスに溺れる

クリヤ

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第27話 魔導士試験の闇

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 王子は、打ちのめされていた。
 この世界の甘くはない現実に。
 決して賢くはないのに、ズルいだけの大人たちに。
 ……そして、その世界の中心に、自分も存在することに。

 「王子……。残念ながら、魔導士試験は公正なものではないようです」
 「……いつからだ?」
 「数年前からですね。
  貴族の子息たちの間で、魔導士試験を受けることが流行りだしました」
 「なぜだ? あれは、領主たる貴族たちには無用の長物だろう?」
 「ええ。あれは、元々、魔導兵の採用試験として始まったものですから。
  平和ではない時代に、庶民から有能な魔導兵を募った名残りです。
  貴族たちは、魔導兵を雇う側です。
  間違っても、自分たちが、戦争になど行きません」
 「それが、なぜ、今になって……?」
 「戦争が無くなって、魔導兵は魔導士とその名が変えられました。
  秀でた才能を持つ庶民を魔導士として、公務員登録する。
  これは、国にとっても民にとっても良いことでした」
 「うん、知っている。
  再び戦禍に見舞われた時、国の護りにもなるのはもちろんのこと。
  自然災害、日頃の事故などにも活躍してくれるからだろう?」
 「そうです。
  魔導士になれば、貴族の地位は無くても王宮に出入りも出来ます。
  扱いも、ただの庶民とは格段に違う。
  優秀な民にとっては、出世の機会にもなりました」
 「うん。それは、当然の扱いだろう」
 「はい。危険もある仕事ですしね」
 「では、今更、どうして貴族の子息が魔導士資格を取ろうと?
  急に愛国心に目覚めたわけでもあるまいに」
 「非常に、言いにくいのですが……」
 「なんだ? 構わないから、言ってくれ」

 レイの調べに寄ると、それは給付型奨学金に所得制限が設けられてからだという。   
 それは、王子が数年前に、議会に掛け合って作った法律だった。
 進学する貴族の中には、さほど裕福でない者もいる。
 逆に、裕福な庶民だっている。
 だから、『貴族への奨学金の禁止』には、しなかった。
 我ながら、いい法律が出来たと王子は自負していた。

 「まさか、あの奨学金のせいなのか……?」
 「……はい。貴族の子息たちは、奨学金を優秀の証しとしていました。
  奨学金証書を領地に持って帰れば、次の領主も優秀なのだと思われる。
  そうすれば、領地運営は楽になったようです。
  だから、家庭教師を何人つけてでも、奨学金を取っていたらしいのです」
 「しかし、それが無くなってしまったと?」
 「ええ。そこで、次に狙ったのが魔導士試験だったというわけです」
 「だが、魔導士試験は受かるだけでは意味がないだろう?」
 「はい。正式に登録するためには、2年の実務修習が必要です」
 「貴族は、修習所に行っているのか?」
 「もちろん、行っていません。欲しいのは、あくまで合格証書のみ。
  領地の執務室には、勲章のように合格証書が飾られているとか」
 「だが、魔導士試験は定員制だ。修習所の容量の問題もあるからな」
 「ええ。ですから、修習所の教官が嘆いていましたよ。
  合格者数に対して、修習を受ける人数が少なすぎると。
  修習所は、今や、ガラガラのようです」
 「そんなことに……。しかし、解せないことがある」
 「はい。あまり優秀とは言えない者たちの合格ですね?」

 テオの学友が言っていた通り、それは不自然に思える。
 いくら家庭教師をつけても、難関の魔導士試験。
 そう、すんなりと受かるわけがないのだ。

 「魔導士試験の問題を作り、採点をするのが誰かはご存知ですか?」
 「確か……、魔導士試験委員会だったはず」
 「そうです。
  魔道学の教授や現役の魔導士たちで構成される委員会です」
 「うん。王の任命状が出される」
 「はい」
 「……ん? 彼らに問題が?」
 「残念ながら。彼らの一部の者が、事前に問題を洩らしています」
 「なにっ⁉︎  それは、王に対する背信にもなるぞ」
 「しかし、彼らは、そこまで深刻なことだと思っていないのです」
 「なぜだ? 優秀な彼らだ。考えずとも分かるだろうに」
 「それが……。彼らはただ、教え子に類似の問題を提示しただけ。
  練習問題として、指導しただけ。
  そう考えています。ただ……。マズい点もありました」
 「さらにか?」
 「はい。採点時に、貴族の子息には、一律数十点が加算されています」
 「はぁ? どういうことだ?」
 「分かりません。そのような採点基準がいつの間にか設定されていて」
 「それでは、よほどの高得点でなければ、庶民は……」
 「ええ。問題を洩らしてもらえる立場でなければ……」
 「合格するわけがないと?」
 「そういうことになります」

 王子は、愕然としていた。
 テオのために、すなわち優秀な庶民がしっかりと学べるように。
 そう思って、奨学金の制度を変えた。
 それは、自分のためでもあったが、国のためにもなると思った。
 良いことをしたのだと、そう王子は思っていたのだ。

 ところが、蓋を開けてみればどうだろう。
 王子は、かえってテオを苦しめることに加担していたのだ。
 奨学金の制度が変わらなければ、テオは王都での進学を断念しただろう。
 そうすれば、若い時代の数年もの間、厳しい勉強に費やすことも。
 それなのに、試験には受からなくて苦しむことも。
 きっと無かったはずだった。


 *****

 「すまない……。すまない、テオ。僕のせいで……」

 魔導士試験の闇の話をし終えると、王子はポロポロと涙をこぼす。
 その姿は儚く、大雨に打たれて萎れた大輪の薔薇のように見える。
 話を聞いたテオ本人は、実は、さほど衝撃を受けてはいなかった。
 むしろ、得心がいっていたとも言える。
 庶民にとって、いつだって世界は不平等なものだったから。

 「ヴィル。君が謝ることじゃないよ。
  奨学金の問題を解決してくれたのは、ありがたいって思ってる。
  これから進学する子たちのためにもね」
 「でも、君の夢を壊したのは、実質、僕みたいなもので……」
 「ふふっ。最近、考えることがあるんだ。
  僕の夢って、なんだったろうって」
 「どういうこと?」
 「それは、話が全て終わったら話すよ。
  それで、そこから、どうやってドールハウスに結びつくの?」

 テオが王子を安心させるように抱きしめて問う。
 王子は、少しだけ心の荷をおろせたような雰囲気を醸し出す。
 王子の涙をテオが優しく拭って、その頬に唇を落とす。
 すると王子は、ふにゃりと弱々しく笑うと口を開いた。
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