王宮家庭教師は、ドールハウスに溺れる

クリヤ

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第28話 君を手に入れたくて

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 テオは、魔導士試験が正しく機能していないことを知らない。
 テオが相談した学部の教授は、貴族に問題を洩らしている側の人間だった。
 だから、テオは『勉強が足りない』などと言われてしまったのだ。
 自分の不正を隠すために。

 まずは、テオの才能を妨げない指導教授を見つけなければ。
 レイの調べでは、そのような不正に関わっていない教授は少ない。
 けれど、ようやくひとり見つけることが出来た。
 それが、ヨスト先生だった。

 ヨスト先生の所属は、学部ではなく大学院。
 魔導士の資格を持ちながら、魔道学の研究を続けている。
 さっそく接触を試みる。
 先生は、快く王子の訪問を受け入れてくれた。

 「これは、王子様。私に相談があるとか?」
 「ええ、ヨスト先生。
  先生は、大学院生を受け入れるつもりはありませんか?」
 「向学心のある若者を受け入れるのは、いつでも歓迎ですが?」
 「このたび、大学院に『魔導士コース』が設置されることになりました。
  そのコースの院生の指導教授をお願い出来ればと」
 「学生の名は?」
 「テオです。ご存知ですか?」
 「ええ、もちろん。庶民出身ながら、学部ではトップの成績だとか」
 「そうです。けれど、魔導士試験には落ちたようで」
 「あぁ、なるほど。最近の良くない噂は聞いています。
  私が受けた頃は、学部できちんと学べば合格出来るものだったんですがねぇ」
 「そうでしょうね。今は、全科目で9割以上を取らないと受かりません」
 「それは、常軌を逸している」
 「はい。このままでは、国のためにも民のためにもなりません」
 「しかし、私がテオくんを受け入れても試験の合格は保証出来ませんよ?」
 「ええ。分かっています。テオも、そんなことは望まないでしょう」
 「ほう。テオくんは、ずいぶんと真面目なようだ」
 「はい。私が今こうして、先生に頼んでいることも。
  テオが知れば、きっと断られてしまうのだと思います」
 「そうなのですか? それは、また潔癖な……」
 「そういうところが、テオの魅力ですから」
 「おや、テオくんは王子様の特別な人のようですね」
 「はい……。そういう意味では、私も自分のために動く人間。
  貴族たちを一方的に責める立場にはないのです……」
 「ははは。私欲が全て悪とは言えませんよ?
  誰も傷つけない、結果、皆のためになれば私欲も有益と言えましょう」


 *****

 「それで、ヨスト先生が僕に声を掛けてくれたんだね。
  『学部の成績がいいから』と言われて信じてたのが、恥ずかしい」
 「ち、違うんだ。テオ。それは、本当なんだよ」
 「でも……。元々、ヨスト先生は院生を取る気なんて……」
 「いや! 優秀でやる気のある学生は育てるつもりだったらしい。
  僕は、ちょっと、その後押しをしただけなんだよ。
  そんな根回しをした僕を許して欲しい。あの時は、そうするしか」
 「うん、ありがとう。ヴィル。僕のためだったんでしょ?
  だけど、実力で先生の目に留まりたかったな……」
 「あのっ! 先生は、テオを褒めていたよ?
  出来れば、このまま研究を続けないかなとも言ってた」
 「本当? それは嬉しいな。……あっ! それじゃあ……」
 「な、なんだい?」
 「王宮家庭教師の招聘状……。
  先生ったら、全く、訳が分からないなんて顔してたけど……」
 「ははっ。それは、僕からだと気づいていたかも知れないね」
 「通りで……。ずいぶん、融通を利かせてくれるはずだよね」

 本当のことを話してもテオが怒らない。
 そのことに、王子は顔には出さずに安堵していた。
 この話をするにあたって、最も心配だったのはテオの怒りを買うこと。
 余計なことをしたと、嫌われてしまうのが怖かった。
 けれど、テオは変わらずに王子の手を握ったまま。
 肌が離れていく様子もない。
 嬉しさのあまり、テオの裸の肩に唇をつける。

 「ん……。はぁ~、どうしてヴィルにされることって。
  どれもこれも気持ちがいいんだろう……」

 ビクッと震えたかと思うと、テオが嬉しいことを言ってくれる。
 横たわるテオの首の後ろに、王子は腕を差し入れる。
 テオの頭が、甘えるように王子の胸の上に添われる。
 その様子に安心して、王子は再び、話を続けた。


 *****

 ヨスト先生の計らいもあって、テオは大学に残ることを決めてくれた。
 ひと仕事終えたような気持ちで、のんびりとしている王子。
 そんな王子に、レイは呆れた顔をする。

 「王子、気を抜いていて、いいんですか?」
 「どういうことだ?」
 「テオ様に近づいている輩がいるようですよ?」
 「なにっ? 今まで、そんなこと、無かったじゃないか!」
 「ええ。とりあえずの進路が決まって、ホッとしたのでしょうか。
  最近のテオ様の表情は、だいぶ明るくなって。
  その眩しさに、気づく者がチラホラ……」
 「そ、そうか。まぁ、テオはかわいいからな。当たり前だが」
 「害が無いなら、もちろん放置して構わないのですが……」
 「は? 害あるヤツが、テオに近づいているのか?」
 「う~ん、テオ様にとっては、どうなんですかねぇ……」

 その頃、テオにひとりの学生が急接近していた。
 テオの進む予定の院の学生で、ある地方領主の令息らしい。

 「魔導士試験を受けるから、一緒に勉強しないかと誘っているようで。
  テオ様は、先輩にあたるかたの頼みを断り切れず……」
 「勉強するのは、いいことじゃないのか?」
 「ええ、まぁ、普通はそうですね。
  でも、その先輩の狙いは、どうやらテオ様のようです。
  勉強を理由に、テオ様は塾の講師を休みがちで……。
  そのせいで、家賃の支払いも滞っているようでして」
 「それは、マズいのでは?」
 「もちろん、そうです。
  家賃を払えなければ、今の家を追い出される可能性もありますから」
 「はぁ? それじゃあ、そいつは何がしたいんだ?」
 「ですから……」

 家賃を支払えずに、路頭に迷ったテオを助けて屋敷に連れ帰る。
 テオは、その厚意にほだされて、先輩と恋仲になる。
 そうなってしまえば、院修了後に、領地にテオを連れて戻る。
 ふたりは、末長く幸せに暮らす。

 「……というような物語を考えているようですね」
 「なぜ、それをレイが知ってる?」
 「大きな声で吹聴していますから。
  だからテオ様には手を出すな、ということでしょう。
  知らぬは、テオ様ばかりなり、というところです」
 「それは……、テオは……どう思っているんだろう?」
 「王子! しっかりしてください。また弱気の虫の発生ですか?
  テオ様が、誰かにさらわれてもいいんですか?」
 「それは……嫌だ。けれど、テオが望むなら……」
 「もっと、心を強くお持ちください。
  テオ様をご自分の手で幸せにしなくてもいいのですか?」
 「う、ん。だけど……」
 「ちなみに、その地方領主の令息には、地元に婚約者がいますよ」
 「へ? それじゃあ、なんでテオを……」
 「婚約者は、あくまで家のため。好きなのは、テオ様なんでしょう。
  もちろん、テオ様は、一生、日陰の身にはなりますけどね。
  仮に、その先輩を好きになったとしても」

 嫌だ、のんびりしている場合ではない。
 そう、王子は思った。
 好きすぎて動けないから、好きな人を手放す。
 そんなバカなことではいけないと思えた。

 テオにもう一度出会って、自然に恋をして……。
 そんな子どもの夢みたいなことを考えているうちに、手が届かなくなる。
 そんなのは、嫌なんだ。
 そう思った王子は、今まで避けていた職権濫用すれすれの行為に出た。

 王宮家庭教師としての招聘状。
 それをテオに出すことを決めたのは、この時だった。
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