王宮家庭教師は、ドールハウスに溺れる

クリヤ

文字の大きさ
30 / 30

最終話 王宮家庭教師は、ドールハウスに溺れる

しおりを挟む
 ヴィルの長い指が、テオの頬に伸びてくる。
 顔のラインに沿って、手のひらがスルスルと滑る。
 テオはニッコリと微笑んで、顔を上げる。
 自然と開かれた唇。
 そこは、すでに期待で紅く色づき、フルフルと震える。
 ヴィルの唇が、なだめるように合わせられ、すぐに舌が割り入れられる。

 「……んっ。はぁ……。んんっ。……んふぅ」

 何度絡め合っても、ヴィルの唇も舌もテオを魅了して離さない。
 極上の甘味は、毎日味わっても飽きることがない。

 テオの腹の奥で、柔らかいものが溶けていくのを感じる。
 それは、火をつけた蝋燭のように、とろりとろりと滴り落ちる。
 ヴィルの唇が首筋に動き、指は胸の突起をなぶり始める。
 自分の意思とは関係なく揺れ出す腹が、腰が、ヴィルを求める。
 そそり立つヴィル自身を探り当てる。
 自分自身と合わせると、手のひらで優しく包み込み、上下させる。

 (気持ち……いい……。ヴィルも……?)

 色白の肌を桃色に染めたヴィルが、苦しげにも見える表情を浮かべている。
 よく見ると、口角が少しだけ上がって、悦びに耐えているのが分かる。
 その表情は、テオに安堵と物足りなさを同時に感じさせる。

 (……ヴィルが欲しい。僕で感じるヴィルが見たい……)

 急速に、テオの後ろの窪みに熱が集まる。
 ねだるようにヴィルに擦りつけられるテオの腰。
 それを、ヴィルがぐいっと引き寄せる。
 スルリと窪みに入り込む指は、慣れた様子でテオの内側を探る。
 その刺激にテオ自身は強く反応して、自分自身を上下させる手を止められない。

 「ンァ……。ヴィル、好き……。ンハァ、ンッ、ンン!」
 「……僕もだよ。あぁ、テオがとろけて、僕を誘ってくるよ」
 「う、ん。来て……。ンクゥ! ……ヴィルが足りないんだ……アァ!」

 すでに何本もの指を咥え込んだ窪みは、ヒクヒクと期待に震えている。
 ヴィルがテオの腰に、手を添わせる。
 それを合図に、テオの窪みは、一層の期待に熱くなる。
 ゾクゾクとする感覚と共に、ヴィルがテオの中を埋める。
 ジグソーパズルのピースが、ピタリとはまった時のような充足感。
 テオは、今日も満ち足りる。
 ヴィルの動きは、テオの全身に悦びの律動を巡らせる。
 いつもは分からない血液の流れを、指先や爪先にまで感じる。

 「あぁぁぁっ! ヴィル、ヴィル……!」

 意図せず連呼してしまう愛しい人の名。

 「テオ……。君が呼ぶと、僕は自分の名前にさえも昂ぶってしまうよ」
 「……だって、あぁ! 好きすぎるんだ……。ん、んんァァ!」

 ズブズブと自分が溶けて、寝台とひとつになっていく気がする。
 ツルツルの布に包まれて、ヴィルの香りに包まれて。
 遠ざかっていく意識。


 *****

 「テオ……。テオ、テオ……」

 水底で聞くような、くぐもった声。
 愛しい人の声。
 徐々に鮮明に聞こえてくる、その声にテオの意識が浮上する。

 「テオ。もうすぐ時間だよ」
 「ん……。もう? まだヴィルといたいのに……」
 「ははっ。嬉しいことを言ってくれる」
 「ホントだよ?」
 「分かってる。仕事を終えたら、たっぷりとふたりだけで過ごそう」
 「約束だよ?」
 「テオこそ。まぁ、逃げ出そうとしても、閉じ込めるけどね」
 「もうっ! ヴィルったら、またそれを言う!」
 「ごめん、ごめん。冗談だよ。今日もテオがいてくれて嬉しい」
 「うん、愛してる。ヴィル、早く帰れたら、今日のディナーは庭にしない?」
 「いいね。薄着のテオのデザート付きなら、喜んで」
 「ヴィル! そんなこと言われたら、今夜も止められないかも」
 「それは、大歓迎。さて、今日もやる気が湧いてきたぞ」
 「ふふっ! いってらっしゃい、ヴィル」

 凛々しい姿で颯爽と歩く王子の姿を見送る。
 サラリとなびく髪を見ると、後ろから抱き締めたくなる。
 その気持ちは、胸の奥にしまい込む。
 自分を鼓舞するように、声に出して言う。

 「さぁて、今日も頑張るぞ~!」

 着替えると、テオはドールハウスを出て、縮小魔法を解除する。
 ダークブルーのローブに身を包んで、通用門から王宮の外に出る。
 向かう先は、新しく作られた魔導学校。

 「おはよう、テオ先生!」
 「おはようございます。走ると危ないよ~」
 「平気だよぉ~」

 歩くテオを、勢いよく走って追い抜いていく子どもたち。
 テオと同じように、ゆっくりと進む大人の姿もある。

 「テオ先生、この問題なんだけど……」
 「ん? どれどれ……」

 熱心な若者が、さっそく問題集を手に声を掛けてくる。
 ニコニコと応えるテオは、傍目から見ても楽しげだ。

 (やっぱり、僕の天職はこっちだったなぁ)

 眩しいくらいの朝の空を見上げて、テオは思う。
 全てを打ち明けてくれた王子に、自分の気持ちを話せて良かった。
 今は、心からそう感じていた。


 ***

 涙をこぼしながら、王子が全てを打ち明けてくれた日。
 王子は、テオが失望するのではないかと心配していたようだ。

 奨学金の制度をテオのために変えたこと。
 大学院への進学そのものが、王子の差し金だったこと。
 そこまでして目指した魔導士試験が、公正なものではなかったこと。
 自分が幼い頃に出会った、あの薔薇園のヴィーであること。
 ……そして、ドールハウスの秘密。
 テオを逃がさないために、夜はドールハウスに閉じ込めていたこと。

 その全てを聞いても、テオに失望は無かった。
 自分でも意外なほど、腑に落ちたと思えた。
 そして、正直な気持ちを自分も王子に打ち明けたのだった。

 「ねぇ、ヴィル。もう泣かないで。綺麗な肌が可哀想だから」
 「……だけど。僕は、君の人生の大半を無駄にさせて……」
 「ふふ。そんなことない」
 「……本当に?」
 「うん。試験には受からなかったけど、学んだことは知識になってる。
  それにさ。……ちょっと、言いづらいんだけど」
 「何? なんでも言って」
 「うん。僕はさ、ヴィルが思うほど、清廉じゃないし、真面目でもない。
  ただ、好きな子に会いたくて。会いに行ける自分になりたくて。
  頑張ってきただけ。私欲だよ。
  そういう意味では、貴族の人たちと変わらないと思うんだよ」
 「違うよ、テオは、いつだってきちんと……」
 「ふふ。僕は、器用じゃないからね。そういう風にしか出来なかっただけ」
 「でも……」
 「だけどね、僕は、結局、これで良かったと思ってる」
 「それは、本音かい?」
 「もちろんだよ。だって、考えてみて。僕の夢は叶ってるんだ。
  目の前に、ずっと会いたかった大好きな子がいるんだよ?
  しかも、僕を閉じ込めたいくらい好きって言ってくれる」
 「そうだよ。だまして閉じ込めたこと、許してくれる?」
 「ははっ! 僕は、とっくに王子様に恋をしてしまっていたからね。
  初恋のヴィーを裏切った自分が後ろめたかったんだ。
  それに、ヴィルの近くで理性を保てる自信がなかった。
  出て行きたかったわけじゃないんだ」
 「だけど、僕は、これからも君の自由を奪うかも知れない。
  僕の立場は、そういうものだから」
 「そんなの構わない。ヴィルといられるならね。
  ヴィルこそ、ヴィーとの間で気持ちが揺れたこと、許してくれる?」
 「それ、どっちも僕でしょ? 許すも許さないも……。
  テオのこと、どっちの僕も愛してる」

 ふたりは、顔を見合わせて、ふふふと笑うと肌を寄せ合った。
 それは初めてのように、くすぐったくもあり。
 長年馴染んだように、しっくりくるものでもあった。

 「実はね、塾の講師を本職にしようかと思うんだ」

 のちに、テオが王子に打ち明けると王子は驚いて言った。

 「どうして? 魔導士の夢は? 
  試験の不正なら、今、どうにか正そうとしてるところだよ?」
 「うん、ありがとう。それは、続けて欲しい。
  これから先の才能ある子たちのためにも」
 「だったら……」
 「だけど、僕は、そういうのを支える先生になりたい。
  ヴィルと一緒に議論した時間が、僕の本当にやりたいことを教えてくれた」
 「そう、なの? それは、諦めとかじゃなくて?」
 「うん。誰かに教えて、一緒に考えて。
  そんな時間が、僕は好きみたいなんだ」
 「そうか……。あははは!」
 「どうしたの? 急に笑い出して。変なこと言ったかな?」

 戸惑うテオを、王子がぎゅっと抱き締める。
 それから、テオを胸に抱えたまま、口を開く。

 「テオ。これからも、一生、そばにいてくれないか?」
 「いいの? 王子様のそばに、僕なんかがいても」
 「なんか? 僕の大切な人に、ひどい言い草だな。
  僕は、テオ以外、そばにいて欲しい人はいないんだ。
  君に断られたら、一生、寂しくひとりでいることになるよ」
 「ふふっ! それはダメ。ヴィルは、幸せにならなくちゃ」
 「じゃあ、いいかな?」
 「もちろん!」
 「それでは、テオ先生を新しい魔導学校の講師として任命します」
 「はぁっ? どういうこと?」

 テオの件を通して、王子は様々なことを目にした。
 良かれと思えたことが、のちに別のところに意外な影響を与えること。
 貴族、庶民、大人、子ども。
 立場が違っても、学べる場所が必要だということ。
 人は、いつだって、誰だって、知的好奇心を満たすものを求めていること。

 「だからね、年齢性別身分を問わず、無料で学べる学校を作るつもりなんだ。
  子どもたちが補習を受けてもいい。
  大人が、もう一度、学び直したっていい。
  貴族だって、庶民の気持ちが分かれば領地運営に活かせるだろう?
  そんな学校。どうかな? テオ先生」
 「ええっ! 偶然なの? 僕が先生になろうとした時に?」
 「うん。つくづく僕らは、同じことを考えるみたいだね」
 「はは。嬉しい! 嬉しいよ、ヴィル!」


 ***

 「ただいま。会いたかった、テオ」
 「おかえり。僕もだよ、ヴィル」
 「学校はどうだい?」
 「まだ始まったばかりだから、分からないけれど。
  みんな、楽しそうに学んでいるよ」
 「そうか。良かった。
  それじゃあ、これから数日間、テオは僕だけのものだね」
 「いつだって、ヴィルだけのものだよ」
 「そうかな? あまりに慕われすぎる姿を見て、妬けちゃったよ」
 「あぁ、この前の視察? 僕もだよ。
  王子様がカッコいいって、みんながキャーキャー言ってて」
 「ふふ。また僕らは、互いに同じことを思ってたわけか」
 「そうみたいだね。じゃあ……。
  僕が、今、したいと思ってることもヴィルと同じかな?」
 「あぁ。それは、絶対に同じだと思うよ……」

 そう言って王子は、テオの唇をふさぐ。
 脱ぎ捨てられた衣服が、床に花が咲いたように散らばる。
 テオの体の隅々が、王子を感じようと敏感になっていく。

 週末のふたりは、たっぷりとドールハウスの中で過ごす。
 流れの遅いドールハウスの中では、外の世界の数十倍の時間を過ごせる。
 互いを存分に堪能して、平日を精力的に仕事に費やす。
 王子が、『鉄人』と呼ばれる父と並び称賛される日も遠くはない。

 薔薇の香りに包まれながら、自分を貫く心地よさにテオは酔う。
 窓の外には、満天の星。
 それと、上弦の月。
 王子がテオの中を出入りするたびに、サラサラと肌にあたる髪。
 肌に吸いつく唇の感触。
 満たされていく心と体。

 (あぁ! 溺れていく……。ずっと、溺れていたい……)

 夢のような律動に、テオはいつまでも浸っていた。

                               (終)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

処理中です...