ボクとじーちゃんの古道具屋

クリヤ

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第2話 ガラスペン

(1)中学生のお姉さん

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 そのお姉さんが、お店に入ってきたとたんに道具たちは話をやめた。
 ドアベルの音もいつもより、涼やかに鳴り響いた気がした。
 さわやかな風を連れているような雰囲気のお姉さん。
 歩きかたがまるで、ダンスのステップみたい。
 ボクは、少しだけみとれてしまった。
 きっと、道具たちも少しだけみとれたのかも。
 
 「この、ガラスペン、ください」

 近くの中学校の制服を着たお姉さんは、ボクを見て言った。

 「は、はい。ありがとうございます」

 ボクが店番をしていて、おかしな顔をされないのは初めてかも。

 「使ってみて、気になることがあれば来てくださいね」
 「ええ。ありがとう。素敵なお店だね」
 「はい! ボクのじーちゃんのお店です」
 「そう。また来ます」

 お姉さんは、入ってきた時と同じように。
 さわやかな風を連れているみたいに、出ていったんだ。

 『タカオ。今までありがとね』

 透明な体に青い模様がキレイなガラスペン。
 お姉さんが持ったら、すごく似合いそう。

 「ガラスペンさん。幸せになってね」

 ボクは、ガラスペンにだけ聞こえるように小声でそう言った。


 *****


 次の日。
 ボクは、今日もお店でのおやつタイムを楽しんでた。
 ホットミルクにメープルシロップをトポンと落とす。
 紙袋から取り出したあんドーナツ。
 今日は、ブルーベリー味。
 甘酸っぱいブルーベリーが、ミルクにぴったり。

 カラン、カラーン!
 ドアベルが涼やかに鳴って、ドアがキィと開かれる音がする。
 ボクは、ドーナツを食べるのをやめてお店に出た。

 カラン、カラーン!
 ボクが「いらっしゃいませ」を言う前に、ドアベルが鳴る。

 (どうして、2回も?)

 首をかしげながら出ていったボクが見たのは、うしろ姿。
 中学校の制服のスカートがヒラリとドアの向こうに出ていった。
 カウンターの上には、若草色のハンカチ。
 ハンカチに包まれていたのは、ガラスペンと1枚のメモ。
 メモには、こう書いてあった。
 『ごめんなさい』

 「今、出ていったのはだれ?」
 『昨日来た中学生の女の子だよ』

 ボクに答えてくれたのは、窓際にある木製デスク。

 『少し、泣いていたようだったなあ』

 ドアベルも、そっとボクに教えてくれる。

 そう。
 このお店にある古道具たちは、みんなお話ができるんだ。
 少しなら、動ける子だっている。
 いつもは、ガヤガヤとさわがしいみんななんだけど。
 今日は、なんだか静かだ。
 理由は、ハッキリしてる。
 若草色のハンカチに包まれて置き去りにされたガラスペン。
 その子が、ずっとぷりぷりと怒っているから。

 「ねぇ、ガラスペンさん。なにがあったの?」
 『もう、どうもこうもないね!』
 「お姉さんとなにかあった?」
 『あの子とは、なにもないさ』
 「それじゃあ、どうして……」

 昨日、ガラスペンは、無事にお姉さんのお家にいったんだって。
 お姉さんは、さっそくガラスペンを使って字を書いたらしい。

 『ほら、私には秘密の力があるだろ?』
 「うん、カッコいいよね」
 『あの子は、字がキレイに書けないのがコンプレックスでさ』
 「こんぷれっくす、ってなに?」
 『まぁ、恥ずかしがってる、みたいなこと』
 「ふうん。ボクも上手に書きたいから、分かるよ!」
 『だろ? それで、私を使ってみたのさ』
 「さらさらキレイに書けるって、じーちゃんが言ってた」
 『そうさ! 私は、あの子の望むキレイな字を書いてやった』
 「お姉さんは、喜んだ?」
 『もちろんさ! さっそく宿題に私を使ってみたのさ』
 「中学校になったら、ペンを使う宿題があるの?」
 『タカオ、話のポイントはそこじゃないんだけど?』
 「あ、ごめん。でも、ペンってカッコいいから!」
 『そ、そう? まぁ、私は特別だからね!』
 「うん。ボクもいつかペンで書けるようになりたいよ」

 ガラスペンは、怒ってるけどキラキラキレイ。
 スラリと長い体に、筆みたいなかたちのペン先。
 動かすたびに、光がペンの中でゆらゆら揺れる。
 ボクも大人になったら使ってみたい。
 あこがれの文房具のひとつ。

 それにね、この店にある道具たちには秘密の力があるんだ。
 持ち主と認めた人にだけ、その力は使ってもらえるんだって!


 『ゴホン! それでね、あの子は。あ、ルリっていうんだけど』
 「ルリちゃん?」
 『そう。ルリはね、ご機嫌に学校に行ったんだよ』
 「それなのに、どうして、こんなことに?」
 『それがさっぱり分からないから、怒ってるんだって!』

 ルリちゃんには、学校でなにかあったのかも知れない。
 ガラスペンは返されたけど、ボクはお金を返してないし。
 若草色のキレイなハンカチだって、そのままじゃよくないよね?

 それに、本当にルリちゃんは、ガラスペンを返したいのかなぁ?
 ルリちゃんの本当の気持ちが知りたい!
 だから、どうにかしてルリちゃんに会わなくちゃ!
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