ボクとじーちゃんの古道具屋

クリヤ

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第3話 フィルムカメラ

(4)カメラのレンズ

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 『わたくしの持ち主は、もうひとりの若者に何度も連絡をしました。
  仲良しの趣味が合う友人を失いたくは、なかったのです』
 
 そうだよね、お友だちと急に会えなくなっちゃったら。
 さみしいし、心配になっちゃうよね。

 『連絡がつかないまま、しばらくが経ちました。
  たまたま出かけた街の中で、偶然にもふたりは再会したのです』
 「え! そうなんだ。良かったね」
 『いえいえ、そうはいかなかったのです。
  わたくしの持ち主は喜んで、友人を喫茶店に誘いました。
  友人のほうは、気まずい顔をしていることには気づかずに』
 「あれ、あんまり良くない感じ……」
 『連絡がつかなかったわけを、わたくしの持ち主は尋ねました。
  すると、友人はこう言いました。
  キミとは会わないほうがいいって言われたからね、と』
 「だれに? ひどいね」
 『もちろん、わたくしの持ち主も同じ疑問を持ちます。
  だれに? と。
  しかし、友人はただ、別の友人さと答えただけでした』
 「イジワルなお友だちがいたのかなぁ?」
 『それは、わかりません。
  わたくしの持ち主は、ショックを受けたようです。
  それ以上は聞かずに、友人と別れました』
 
 なんだか、かわいそうになってきちゃった。
 だれと仲良くするかは、自分が決めていいのにね。
 お友だちに、なにがあったんだろ?

 『それからは、友人に会うのはあきらめました。
  ひとりで、あちこちへと訪れては写真を撮りました。
  コンテストに出すことも続けていました。
  写真の腕は上がり、賞もいくつも、もらいました』
 「すごい、すごい!」
 『ですが、わたくしを見るたびに少しだけ、さみしそうでした。
  ため息をつくこともありました。
  きっと、あの友人を思い出していたのだと思います』
 「そっか、さみしいね……」

 ひとりでも、たくさん写真を撮って賞も取ったけどさ。
 お友だちと一緒だったらさ。
 きっともっと楽しかったかもしれないもんね。

 『しかしですな!』

 おっと、ビックリした!
 カメラさんったら、また急に大きな声を出すんだもん。

 「そんな大きな声じゃなくても、聞こえるよ」
 『これは、失礼をいたしました。しか~し!
  わたくしは、どうしても許せないことがあるのです』
 「いや、だからね。もう少し小さい声で……」
 『おい、カメラよ。落ち着け。
  静かに話したってタカオは、ちゃんと聞くから』
 『おお、おお。懐中時計どの。これはこれは、失礼を。
  あなたのように、幸せだと落ち着いてもいられるのでしょうが。
  わたくしは、この胸にかかえる不満をですなぁ!』
 『ま、オレも事情がねぇわけじゃねぇんだがな』
 『さようでございますか。しかしながら、わたくしの』

 『ちょいと! さっきから黙って聞いてりゃ、うるさいんだよ!』

 え? この声は、どこからするの?
 初めて聞く声なんだけど?

 『これです! こやつが問題なのです!』

 こやつって、だれ? っていうか、どこ?

 「カメラさん、もうひとつの声は、どこからするの?」
 『こやつは、わたくしに、はめられているレンズです』
 「え? レンズ? レンズって、別のものなの?」
 『そうさ。あたしがレンズさ。
  こいつと一緒にされちゃあ、困るね。
  あたしがいなきゃ、写真は撮れやしないんだから』
 「え? そうなの?」
 『そりゃ、そうさ。
  あたしこそが、カメラの本体って言ってもいいくらいさ』
 『なんですと! 
  わたくしがいなければ、あなたなど、ただのガラス』
 『失礼なこと言うんじゃないよ。
  ただのガラスが、こんなにキレイなもんかい!』

 あれれ? 急に別な道具が出てきちゃったよ。
 カメラさんとレンズさん?
 どうやら、ふたりは仲が良くないみたい。

 「え~っと、カメラさんのいう『相方』さんはレンズさん?」
 『タカオさん。それは、違います。
  ええと、たしかに『相方』はレンズではあるのですが。
  こやつでは、ないのです』
 「え? どういうこと?」
 『おや、にぶい子どもだねぇ! レンズ違いなのさ』
 『おい、レンズよ。失礼を申すでない。
  こやつは、このように品がなく、わたくしの『相方』とは』
 『ちょいと! こっちだって、あんたと一緒なんて願いさげさ』
 『わたくしの本当の相方は、品のよいわたくしにピッタリ。
  大層、品のよいレンズでございます』
 『あたしの相方だってさ、スラリとしたイケメンのカメラさ。
  あんたみたいに、ぐちぐちうるさいやつじゃないんだよ』
 『なにを! カメラの見た目は、同じだろうが!』
 『こっちは、性根の話をしてるんだよ!』
 『おまえこそ、そのゆがんだ目でなにが、わかる!』

 あれ、あれ、あれれ!
 こんな大騒ぎする道具たちは初めてだよ。
 次から次へと、よくしゃべる。
 ケンカしてるようにも聞こえるけどさ。
 このふたり、なんだか似てる気がするね。

 『おまえたち、少しは静かにしねぇか!』

 とうとう懐中時計が、大きな声を出した。
 ま、このままじゃ、ちっとも話が聞けないもんね。

 「ありがと、懐中時計。
  カメラさん、レンズさん。
  ボクは、ちゃんとお話が聞きたいんです。
  だから、ケンカしないでお話ししてもらえませんか?」
 『ゴホン。これは、わたくしとしたことが。
  紳士らしからぬ振る舞い、失礼をいたしました』
 『あたしも、ごめんなさいよ。
  この話になると、ゆずれないもんだから、ついね』
 「それじゃ、続きをお願いします」

 うぉっほん!
 大きくせき払いをしてから、カメラさんは話の続きを始めたんだ。

 『わたくしの持ち主は、まったく気づいていなかったのです。
  あの友人に、最後に会った喫茶店で。
  レンズを交換されていたことを』

 え? レンズを交換?
 ってことは、カメラさんの本当の『相方』さんは……。

 『そうさ。あたしの持ち主は、あたしを置いて。
  このカメラの相方のほうを持っていっちまったのさ』
 「それは、どうして?」
 『そんなの、あたしにわかるわけないじゃないか!』
 『おまえは、捨てられたんだろう』
 『そんなこと! そんなことないはずさ。
  手入れはキチンとされていたし、大事に扱ってもらってた』
 『そんなものを置いていくのかね?』
 『……』
 「あの、事情は聞いてみないとわからないと思うんです。
  どういう意味だったか、想像しても答えはわからない」
 『たしかに、そうだ』
 『そりゃ、そうさね』
 「カメラさんは、結局、どうしたいんですか?」
 『わたくしは、本当の相方を取り戻したいのです。
  そうすれば、わたくしの持ち主だって、もう一度……』
 『あたしも、本当の相方に会いたいねぇ。
  もうすっかり、あきらめていたけどさ。
  せっかく道具の声が聞こえるって、お人に会えたんだ。
  元に戻りたいもんだよ』

 ふたりとも、生まれた時からの相方さんに会いたいみたい。
 それにしても、どうしてお友だちはレンズを交換したのかな?
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