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第3話 フィルムカメラ
(5)カメラの記憶
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ボクは、マサさんに連絡して来てもらうことにした。
だって、マサさんは、修復屋さん。
道具たちの声も聞こえるから、きっと助けてくれるはず。
マサさんは、さっそく次の日には来てくれた。
ボクは、マサさんに事情を話したんだ。
「う~ん、レンズをもう一度交換するにはさ。
その友人とやらを探さなくちゃいけないね」
「そうだよねぇ」
「何年も前に、会わなくなった友人か……」
「むずかしいかな?」
「そうだね、普通は、むずかしいね」
「普通は、って?」
「ちょっとだけ、ヒントがあるかもしれないよ」
「え? ホントに? なんだろ?」
「そのカメラを預けたアサミちゃん、だね」
アサミちゃん?
アサミちゃんが、ヒントってどういうこと?
「アサミちゃんに、来てもらうことはできるかい?」
「うん、お家はすぐそこだから、大丈夫だよ」
「じゃあ、来てもらっておくれ。
そのアサミちゃんが写ってなかった、っていう写真を持ってね」
写真?
知らない景色とか知らない人が写ってたっていう、あれ?
そんないらない写真、どうするのかな?
ボクは、マサさんに店番をお願いした。
アサミちゃんのお家に行くのと、もうひとつの用事のために。
「アサミちゃん、こんにちは~」
「あれ? タカオ? どうしたの?」
「うん。カメラのことで、お話があってね」
「修理、終わったの?」
「ううん、まだ。だけどね、お願いがあって」
「お願い?」
「うん。パパが撮った写真を貸してほしいんだ」
「写真? 写真って、わたしが写ってない、あれ?」
「そう。捨てちゃったり、する?」
「ううん! もし誰かのだったら困るってパパが。
ちょっと待ってて。見てくる!」
「あった、あったよ。タカオ。これで、いい?」
「うん。ありがとう。アサミちゃんも一緒に来て。
おやつもあるよ?」
「え? ほんとう? 行く行く!」
ボクたちは、ふたりで商店街を歩いて、それから。
はじっこにある、古道具屋に着いた。
「マサさん、ただいま~」
「お、戻ったかい? その子が、アサミちゃん?」
「うん。アサミちゃん、マサさんだよ。
カメラを直してくれる人」
「そうなんだ。こんにちは、アサミです」
「こんにちは。しっかりしたいいお嬢さんだね」
「へへっ」
ほめられて、アサミちゃんは嬉しそう。
ボクは、アサミちゃんから預かった写真をマサさんに渡した。
「どれ、どれっと。おや、懐かしいね。
ひと昔前の、このあたりが写ってるじゃないか」
「そうなの?」
「うん。ああ、そうだ、そうだ。
こんな店もあったっけ。ここには、よく行ったよ」
マサさんは、写真を見て懐かしそうにしている。
写真を見てる時の人の顔が、ボクは好き。
その写真の時代に、タイムスリップしたみたいって感じるんだ。
じーちゃんもね。
ボクの赤ちゃんの頃の写真を見てね。
「ちっちゃいなぁ、最初はこんなだったんだぞ」
とか言う。
その時のじーちゃんのお顔はさ。
まるで、赤ちゃんのボクがそこにいるみたいにね。
すっごくすっごく優しくなるんだ。
「マサさん、写真のヒントを探すでしょ?」
「そうだね」
「ボク、おやつの準備してるよ」
「うん、そうしておくれ」
「アサミちゃん、どうする? お店、見ててもいいけど」
「ううん、わたしも手伝う。
ホットミルクの作りかたも知りたいし」
「そっか。じゃあ、一緒に用意しよう」
ボクは、マグカップを三つ用意。
トポポポと、マグカップに牛乳をそそぐ。
電子レンジに入れて、温めたら。
メープルシロップをトポン、トポン、トポン。
「へぇ、メープルシロップって、こういう瓶に入ってるんだ。
かわいいね」
「うん、じーちゃんが好きなメープルシロップだよ」
「この取っ手? ってなにに使うの? 持ちづらいけど」
「それは、今は使わないみたいだよ」
ボクもさ、じーちゃんに聞いたことがあるんだ。
メープルシロップの瓶って、横にちっちゃい取っ手があるんだよね。
全部の瓶じゃないけど。
そしたらさ、こう教えてくれたんだ。
「昔はね、もっと大きな瓶にシロップが入っていたらしいんだよ。
その時にはね、取っ手があったほうが注ぎやすかったのさ。
だけど、今はね、小さい瓶に入れてるだろ?
だから、本当はいらないんだけど」
「けど?」
「昔は、これの大きい瓶に入ってたんだなぁって分かるしね。
ほかのシロップと並んで置いてあってもさ。
ひと目で分かるじゃないか。
そんなところが、じーちゃんは好きだなぁ」
そう言ってたんだ。
アサミちゃんにも、教えてあげたよ。
「ふうん。大きい瓶はよく分かんないけど。
これは、かわいいよね」
「うん!」
「うちは、ハチミツしかないからね。
このホットミルク、作れなかったの。
今度は、瓶が分かったから、お買いものに行ったらね。
ママに、これ!って言って買ってもらえるよ」
「うん! そしたら、お家でも特製ホットミルクが飲めるね」
「ふふふ。楽しみ」
今日のおやつ。
あんドーナツは、3種類。
さっきのもうひとつの用事っていうのは、これ。
あんドーナツ屋さんに寄ってたんだ。
アサミちゃんお気に入りのパイナップル生クリーム。
ルリちゃんを思い出して、抹茶生クリーム。
ちょっと大人味のココア生クリーム。
全部を三つずつにわけて、お皿にのせたんだ。
黄色、緑、こげ茶色。
カラフルで、とってもおいしそう!
「マサさん、おやつできたよ~」
「はいよ~。こっちも、写真が見終わったよ」
「まずは、おやつだね」
「うん、食べながら話そう」
「いただきま~す!」
「うん、パイナップル生クリーム、さわやかでおいしいね」
「でしょ! わたしは、これにビックリ!」
「なに?」
「パイナップルと抹茶って合うんだね!」
「お茶と果物は合うって、前にじーちゃんが言ってたなぁ」
「ね! 初めて知っちゃった。次から買うよ」
「この、ココア味ってのもいいじゃないか。
少し苦いけれど、生クリームと合わせるとちょうどいい」
みんなのお腹が、ポッとして満足。
ふわりと優しい空気になったところで。
マサさんが、お話を始めたんだ。
「この写真は、どうやら30年くらい前のものだね」
「え? 撮ったのは、先週だよ?」
「そう。
でも、レンズを通った光をカメラはフィルムに写さなかった」
「どういうこと?」
「う~ん。わかりやすく言うとね。
レンズに映る今の風景を、カメラがわざと写さないでね。
自分の記憶にある昔の風景や人をフィルムに写したんだ」
「なるほど、やりそうだね」
「え? どういう意味?
カメラって、勝手にそんなことができるの?」
「あ、えっと。そうじゃなくてね」
アサミちゃんにわかってもらうには、ボクのヒミツを話すしかない。
「実は、ボク。道具の声が聞こえるんだ」
アサミちゃんは、口をぽっかり開けて、しばらくそのままだった。
信じてもらえないかもしれない……。
そうしたら、どうすれば?
「ホントに? うらやましい!」
ボクの心配なんか吹き飛ばすような明るい声。
アサミちゃんは、目をキラキラさせて、そう言ったんだ。
「どうして? いつから?」
「うん、ボクが道具たちとお話したくてね。
一生懸命、道具にお願いしたんだ。
ホコリを払って、キレイに磨いて。
ボクとお話してほしいって心からお願いしたんだよ」
「そっか。それ、わたしもできる?」
「できるかもしれないよ。
アサミちゃんのおじいちゃんのカメラは、お話できるからね」
「え? 全部の道具がお話できるんじゃないの?」
「違うよ、どうして?」
「わたしがよく見てるお姫様が出てくるアニメだとね。
スプーンもお皿も、ティポットも。
み~んな、お話して、踊り出すから!」
「ふふふ。そうだったら、ステキだよね」
「違うの?」
「うん。ちょっと違う」
「お話できたり、ちょっと動けたりする道具はね。
とっても大切にされてきたものだけなんだよ」
「それじゃあ、うちのおじいちゃんのカメラも?」
「そう。とってもとっても大切にされてきたんだと思うよ」
「そっか。だけど、おじいちゃんはパパにあげちゃったよね?」
「うん。なにか、わけがあるのかもしれないよね」
アサミちゃんが、すぐに信じてくれて良かった。
マサさんのお話を聞くのに、道具たちのお話は必要だからね。
それから、ボクとマサさんはね。
カメラさんから聞いたお話をアサミちゃんにも、したんだ。
カメラさんが言う『わたくしの持ち主』っていうのがさ。
アサミちゃんのおじいちゃんだ、ってこともね。
「それじゃあ、アサミちゃん、いいかい?」
「うん」
「あたしの想像通りか、確かめるためにね。
もう一度、写真を見てほしいんだよ」
「もう一度?」
「そうさ。アサミちゃんは、知らない人だって言ってたけどね。
本当に知らない人なのか、よぉ~く見てほしいのさ」
「うん、やってみる」
アサミちゃんは、じっくりと写真を見始めた。
きっと前の時は、すぐに見るのをやめてしまったのかも。
あたりまえだよね、自分が写ってないんだもん。
「あっ!」
う~ん、ってうなりながら、写真を見ていたアサミちゃん。
急に声を出したんだ。
「どうしたの?」
「なにか見覚えのあるものや人が写っていたかい?」
「うん、たぶん」
「どれだい?」
「えっと、このおうち。少し違うけど、おじいちゃんちに似てる」
「ふんふん」
「あと、これ。この人、おじいちゃんの若い頃かも。
あごにあるホクロが、同じところにある!」
「そうかい。アサミちゃんは、ちゃんと見てくれてエラいね」
「ふふふ」
「やっぱり、あたしの思った通りさね」
「思った通りって?」
「このカメラは、自分の記憶を写真に写したのさ。
昔撮った写真の記憶をね」
「じゃあ、この写真をちゃんと見れば……」
「その友人とやらも、写っているかもしれないね」
やった! 手がかりゲットだね。
そっか。カメラさんは、相方さんに会いたくて……?
「もし、同じように家が写ってたりすれば……」
「友人さんが、住んでるところがわかるかも?」
「そうだね、じっくり見てみよう」
アサミちゃんは、おじいちゃんにつながるヒントを。
マサさんは、30年前の風景のヒントを。
それぞれ探して、写真を見続けた。
「どうやら写真には、何度も同じ街が写っているね」
「そうなの?」
「しかも、すぐそこさ。隣りの駅だよ」
「そうなの⁉︎」
「うん。友人は、どうやら隣りの駅の街に住んでいたようだ」
「わたしも見つけたよ」
「アサミちゃんも?」
「うん。おじいちゃんが、この人だとするとね。
おじいちゃん以外には、この人が何度も写ってる」
アサミちゃんが見つけたのは、男の人。
若い頃のおじいちゃんと同じくらいの年。
すっごく楽しそうに、笑ってる写真が多い。
「もしかして、その人が……?」
「お友だちかもしれないよね!」
だって、マサさんは、修復屋さん。
道具たちの声も聞こえるから、きっと助けてくれるはず。
マサさんは、さっそく次の日には来てくれた。
ボクは、マサさんに事情を話したんだ。
「う~ん、レンズをもう一度交換するにはさ。
その友人とやらを探さなくちゃいけないね」
「そうだよねぇ」
「何年も前に、会わなくなった友人か……」
「むずかしいかな?」
「そうだね、普通は、むずかしいね」
「普通は、って?」
「ちょっとだけ、ヒントがあるかもしれないよ」
「え? ホントに? なんだろ?」
「そのカメラを預けたアサミちゃん、だね」
アサミちゃん?
アサミちゃんが、ヒントってどういうこと?
「アサミちゃんに、来てもらうことはできるかい?」
「うん、お家はすぐそこだから、大丈夫だよ」
「じゃあ、来てもらっておくれ。
そのアサミちゃんが写ってなかった、っていう写真を持ってね」
写真?
知らない景色とか知らない人が写ってたっていう、あれ?
そんないらない写真、どうするのかな?
ボクは、マサさんに店番をお願いした。
アサミちゃんのお家に行くのと、もうひとつの用事のために。
「アサミちゃん、こんにちは~」
「あれ? タカオ? どうしたの?」
「うん。カメラのことで、お話があってね」
「修理、終わったの?」
「ううん、まだ。だけどね、お願いがあって」
「お願い?」
「うん。パパが撮った写真を貸してほしいんだ」
「写真? 写真って、わたしが写ってない、あれ?」
「そう。捨てちゃったり、する?」
「ううん! もし誰かのだったら困るってパパが。
ちょっと待ってて。見てくる!」
「あった、あったよ。タカオ。これで、いい?」
「うん。ありがとう。アサミちゃんも一緒に来て。
おやつもあるよ?」
「え? ほんとう? 行く行く!」
ボクたちは、ふたりで商店街を歩いて、それから。
はじっこにある、古道具屋に着いた。
「マサさん、ただいま~」
「お、戻ったかい? その子が、アサミちゃん?」
「うん。アサミちゃん、マサさんだよ。
カメラを直してくれる人」
「そうなんだ。こんにちは、アサミです」
「こんにちは。しっかりしたいいお嬢さんだね」
「へへっ」
ほめられて、アサミちゃんは嬉しそう。
ボクは、アサミちゃんから預かった写真をマサさんに渡した。
「どれ、どれっと。おや、懐かしいね。
ひと昔前の、このあたりが写ってるじゃないか」
「そうなの?」
「うん。ああ、そうだ、そうだ。
こんな店もあったっけ。ここには、よく行ったよ」
マサさんは、写真を見て懐かしそうにしている。
写真を見てる時の人の顔が、ボクは好き。
その写真の時代に、タイムスリップしたみたいって感じるんだ。
じーちゃんもね。
ボクの赤ちゃんの頃の写真を見てね。
「ちっちゃいなぁ、最初はこんなだったんだぞ」
とか言う。
その時のじーちゃんのお顔はさ。
まるで、赤ちゃんのボクがそこにいるみたいにね。
すっごくすっごく優しくなるんだ。
「マサさん、写真のヒントを探すでしょ?」
「そうだね」
「ボク、おやつの準備してるよ」
「うん、そうしておくれ」
「アサミちゃん、どうする? お店、見ててもいいけど」
「ううん、わたしも手伝う。
ホットミルクの作りかたも知りたいし」
「そっか。じゃあ、一緒に用意しよう」
ボクは、マグカップを三つ用意。
トポポポと、マグカップに牛乳をそそぐ。
電子レンジに入れて、温めたら。
メープルシロップをトポン、トポン、トポン。
「へぇ、メープルシロップって、こういう瓶に入ってるんだ。
かわいいね」
「うん、じーちゃんが好きなメープルシロップだよ」
「この取っ手? ってなにに使うの? 持ちづらいけど」
「それは、今は使わないみたいだよ」
ボクもさ、じーちゃんに聞いたことがあるんだ。
メープルシロップの瓶って、横にちっちゃい取っ手があるんだよね。
全部の瓶じゃないけど。
そしたらさ、こう教えてくれたんだ。
「昔はね、もっと大きな瓶にシロップが入っていたらしいんだよ。
その時にはね、取っ手があったほうが注ぎやすかったのさ。
だけど、今はね、小さい瓶に入れてるだろ?
だから、本当はいらないんだけど」
「けど?」
「昔は、これの大きい瓶に入ってたんだなぁって分かるしね。
ほかのシロップと並んで置いてあってもさ。
ひと目で分かるじゃないか。
そんなところが、じーちゃんは好きだなぁ」
そう言ってたんだ。
アサミちゃんにも、教えてあげたよ。
「ふうん。大きい瓶はよく分かんないけど。
これは、かわいいよね」
「うん!」
「うちは、ハチミツしかないからね。
このホットミルク、作れなかったの。
今度は、瓶が分かったから、お買いものに行ったらね。
ママに、これ!って言って買ってもらえるよ」
「うん! そしたら、お家でも特製ホットミルクが飲めるね」
「ふふふ。楽しみ」
今日のおやつ。
あんドーナツは、3種類。
さっきのもうひとつの用事っていうのは、これ。
あんドーナツ屋さんに寄ってたんだ。
アサミちゃんお気に入りのパイナップル生クリーム。
ルリちゃんを思い出して、抹茶生クリーム。
ちょっと大人味のココア生クリーム。
全部を三つずつにわけて、お皿にのせたんだ。
黄色、緑、こげ茶色。
カラフルで、とってもおいしそう!
「マサさん、おやつできたよ~」
「はいよ~。こっちも、写真が見終わったよ」
「まずは、おやつだね」
「うん、食べながら話そう」
「いただきま~す!」
「うん、パイナップル生クリーム、さわやかでおいしいね」
「でしょ! わたしは、これにビックリ!」
「なに?」
「パイナップルと抹茶って合うんだね!」
「お茶と果物は合うって、前にじーちゃんが言ってたなぁ」
「ね! 初めて知っちゃった。次から買うよ」
「この、ココア味ってのもいいじゃないか。
少し苦いけれど、生クリームと合わせるとちょうどいい」
みんなのお腹が、ポッとして満足。
ふわりと優しい空気になったところで。
マサさんが、お話を始めたんだ。
「この写真は、どうやら30年くらい前のものだね」
「え? 撮ったのは、先週だよ?」
「そう。
でも、レンズを通った光をカメラはフィルムに写さなかった」
「どういうこと?」
「う~ん。わかりやすく言うとね。
レンズに映る今の風景を、カメラがわざと写さないでね。
自分の記憶にある昔の風景や人をフィルムに写したんだ」
「なるほど、やりそうだね」
「え? どういう意味?
カメラって、勝手にそんなことができるの?」
「あ、えっと。そうじゃなくてね」
アサミちゃんにわかってもらうには、ボクのヒミツを話すしかない。
「実は、ボク。道具の声が聞こえるんだ」
アサミちゃんは、口をぽっかり開けて、しばらくそのままだった。
信じてもらえないかもしれない……。
そうしたら、どうすれば?
「ホントに? うらやましい!」
ボクの心配なんか吹き飛ばすような明るい声。
アサミちゃんは、目をキラキラさせて、そう言ったんだ。
「どうして? いつから?」
「うん、ボクが道具たちとお話したくてね。
一生懸命、道具にお願いしたんだ。
ホコリを払って、キレイに磨いて。
ボクとお話してほしいって心からお願いしたんだよ」
「そっか。それ、わたしもできる?」
「できるかもしれないよ。
アサミちゃんのおじいちゃんのカメラは、お話できるからね」
「え? 全部の道具がお話できるんじゃないの?」
「違うよ、どうして?」
「わたしがよく見てるお姫様が出てくるアニメだとね。
スプーンもお皿も、ティポットも。
み~んな、お話して、踊り出すから!」
「ふふふ。そうだったら、ステキだよね」
「違うの?」
「うん。ちょっと違う」
「お話できたり、ちょっと動けたりする道具はね。
とっても大切にされてきたものだけなんだよ」
「それじゃあ、うちのおじいちゃんのカメラも?」
「そう。とってもとっても大切にされてきたんだと思うよ」
「そっか。だけど、おじいちゃんはパパにあげちゃったよね?」
「うん。なにか、わけがあるのかもしれないよね」
アサミちゃんが、すぐに信じてくれて良かった。
マサさんのお話を聞くのに、道具たちのお話は必要だからね。
それから、ボクとマサさんはね。
カメラさんから聞いたお話をアサミちゃんにも、したんだ。
カメラさんが言う『わたくしの持ち主』っていうのがさ。
アサミちゃんのおじいちゃんだ、ってこともね。
「それじゃあ、アサミちゃん、いいかい?」
「うん」
「あたしの想像通りか、確かめるためにね。
もう一度、写真を見てほしいんだよ」
「もう一度?」
「そうさ。アサミちゃんは、知らない人だって言ってたけどね。
本当に知らない人なのか、よぉ~く見てほしいのさ」
「うん、やってみる」
アサミちゃんは、じっくりと写真を見始めた。
きっと前の時は、すぐに見るのをやめてしまったのかも。
あたりまえだよね、自分が写ってないんだもん。
「あっ!」
う~ん、ってうなりながら、写真を見ていたアサミちゃん。
急に声を出したんだ。
「どうしたの?」
「なにか見覚えのあるものや人が写っていたかい?」
「うん、たぶん」
「どれだい?」
「えっと、このおうち。少し違うけど、おじいちゃんちに似てる」
「ふんふん」
「あと、これ。この人、おじいちゃんの若い頃かも。
あごにあるホクロが、同じところにある!」
「そうかい。アサミちゃんは、ちゃんと見てくれてエラいね」
「ふふふ」
「やっぱり、あたしの思った通りさね」
「思った通りって?」
「このカメラは、自分の記憶を写真に写したのさ。
昔撮った写真の記憶をね」
「じゃあ、この写真をちゃんと見れば……」
「その友人とやらも、写っているかもしれないね」
やった! 手がかりゲットだね。
そっか。カメラさんは、相方さんに会いたくて……?
「もし、同じように家が写ってたりすれば……」
「友人さんが、住んでるところがわかるかも?」
「そうだね、じっくり見てみよう」
アサミちゃんは、おじいちゃんにつながるヒントを。
マサさんは、30年前の風景のヒントを。
それぞれ探して、写真を見続けた。
「どうやら写真には、何度も同じ街が写っているね」
「そうなの?」
「しかも、すぐそこさ。隣りの駅だよ」
「そうなの⁉︎」
「うん。友人は、どうやら隣りの駅の街に住んでいたようだ」
「わたしも見つけたよ」
「アサミちゃんも?」
「うん。おじいちゃんが、この人だとするとね。
おじいちゃん以外には、この人が何度も写ってる」
アサミちゃんが見つけたのは、男の人。
若い頃のおじいちゃんと同じくらいの年。
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「もしかして、その人が……?」
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