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第1話 コーヒーミル
(4)消えたコーヒーミル
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「あのっ! コーヒーミルを売りにきた人はいませんかっ?」
ある日の午後。
午前授業だったボクは、いつもより早めにお店に来ていた。
いつもは、おやつタイムだけど、今日は遅めのランチタイム。
ママが用意したおにぎりを食べながら、道具たちとおしゃべり。
それが、今日の予定だったんだ。
そんな、なにも起こりそうもないのんびりとした午後だった。
コーヒー豆屋のお兄さんが店に駆け込んできたのは。
「どうしたんですか?」
「あの、あの。すみません。コーヒーミルがっ!」
『タカオ、お水を渡してあげたら?』
白い陶器のティカップが、そうアドバイスしてくれる。
「そっか。少し待っててくださいね」
すぐ裏にあるミニキッチンからお水を入れたグラスを持ってくる。
お兄さんに渡すと、すぐにゴクゴクと飲み干してしまった。
「すみません。ありがとうございます」
「お兄さん、コーヒーミルがどうかしたんですか?」
「あの、大切にすると言ったのに、すみません!」
「え? どういうことですか?」
「コーヒーミルが消えてしまったんです……」
「はい? 消えたってどういう?」
「僕にもさっぱりで。気づいたら、無くなっていて……」
お兄さんは、今朝もいつも通りに店へと向かった。
朝の掃除をしたり、生鮮食品の買い出しをしたり。
そう。いつも通りの日だったらしい。
コーヒー豆を焙煎し終えて、ふと何かが足りないことに気づいた。
「最初は、何が足りないのか分からなかったんです」
「ふんふん」
「買い忘れでもあったかな? って」
「なるほど」
「色々考えているうちに、気づいたんです!」
「はい」
「大切なお気に入りのコーヒーミルが無いってことに!」
「床に落ちているのかとも思いました。だけど」
「そんなに軽いものじゃないですよね?」
「ええ、その通りです」
「どこかに動かしたとか?」
「いえ、店を始めてから一度も場所を変えていないんです」
「だれか、ほかの人が動かしたとか?」
「いえ、店には誰もいないので」
「それで、ここに?」
「はい。誰かが処分するなら、ここかと思って」
古道具屋は、確かに、中古品を売られるイメージだ。
でも、この店は、古い道具ならなんでも買い取るわけじゃない。
話ができたり、少しだけなら動くこともできる。
不思議な古道具だけがやってくる店なんだ。
それをじーちゃんは『つくもがみ』って呼んでる。
「知らない人が売りに来たりはしてないですね」
「そう……ですか……」
「だけど、もしかしたら見つけられるかも知れませんよ?」
「え? 本当ですか? どうやって?」
う~ん。
まぁ、ボクには道具たちの声が聞こえるわけだから。
きっと、近くまで行けば。
コーヒーミルの声だって、聞こえるはず。
それに、今のボクには心強い相棒だっているんだ。
一緒に探してくれると思う。
だけど……。
なんて、説明すればいいのかなぁ?
『タカオ、タカオ! とりあえずお店を見せてもらえよ』
ささやくような声が、ボクのポケットから聞こえる。
「少しだけ、待っててもらえますか?」
そうお兄さんに言ったボクは、すぐに店の裏のキッチンに向かう。
道具の声は、ほかの人には聞こえないからさ。
道具と話してるボクは、変な人みたいになっちゃうんだ。
キッチンに入ったボクは、ポケットから懐中時計を取り出す。
じーちゃんから預かった大切な時計。
今は、ボクの相棒でいてくれている。
ボクは、フタをパチンと開けて、話を続ける。
「どういうこと?」
『オレら道具はな、この店で仲間になった道具はなぁ』
「うん」
『互いに危険を知らせることができるんだよ』
「そう、なの?」
『そうだ。だけど、ミルからの危険信号は出てねぇ』
「ってことは?」
『少なくとも、あいつは危ない目にはあってねぇってこと』
「そっか」
『だからまずは、何があったのか見に行こうぜ』
「うん!」
そういうわけで、ボクと懐中時計とお兄さんは店に向かうことになった。
ある日の午後。
午前授業だったボクは、いつもより早めにお店に来ていた。
いつもは、おやつタイムだけど、今日は遅めのランチタイム。
ママが用意したおにぎりを食べながら、道具たちとおしゃべり。
それが、今日の予定だったんだ。
そんな、なにも起こりそうもないのんびりとした午後だった。
コーヒー豆屋のお兄さんが店に駆け込んできたのは。
「どうしたんですか?」
「あの、あの。すみません。コーヒーミルがっ!」
『タカオ、お水を渡してあげたら?』
白い陶器のティカップが、そうアドバイスしてくれる。
「そっか。少し待っててくださいね」
すぐ裏にあるミニキッチンからお水を入れたグラスを持ってくる。
お兄さんに渡すと、すぐにゴクゴクと飲み干してしまった。
「すみません。ありがとうございます」
「お兄さん、コーヒーミルがどうかしたんですか?」
「あの、大切にすると言ったのに、すみません!」
「え? どういうことですか?」
「コーヒーミルが消えてしまったんです……」
「はい? 消えたってどういう?」
「僕にもさっぱりで。気づいたら、無くなっていて……」
お兄さんは、今朝もいつも通りに店へと向かった。
朝の掃除をしたり、生鮮食品の買い出しをしたり。
そう。いつも通りの日だったらしい。
コーヒー豆を焙煎し終えて、ふと何かが足りないことに気づいた。
「最初は、何が足りないのか分からなかったんです」
「ふんふん」
「買い忘れでもあったかな? って」
「なるほど」
「色々考えているうちに、気づいたんです!」
「はい」
「大切なお気に入りのコーヒーミルが無いってことに!」
「床に落ちているのかとも思いました。だけど」
「そんなに軽いものじゃないですよね?」
「ええ、その通りです」
「どこかに動かしたとか?」
「いえ、店を始めてから一度も場所を変えていないんです」
「だれか、ほかの人が動かしたとか?」
「いえ、店には誰もいないので」
「それで、ここに?」
「はい。誰かが処分するなら、ここかと思って」
古道具屋は、確かに、中古品を売られるイメージだ。
でも、この店は、古い道具ならなんでも買い取るわけじゃない。
話ができたり、少しだけなら動くこともできる。
不思議な古道具だけがやってくる店なんだ。
それをじーちゃんは『つくもがみ』って呼んでる。
「知らない人が売りに来たりはしてないですね」
「そう……ですか……」
「だけど、もしかしたら見つけられるかも知れませんよ?」
「え? 本当ですか? どうやって?」
う~ん。
まぁ、ボクには道具たちの声が聞こえるわけだから。
きっと、近くまで行けば。
コーヒーミルの声だって、聞こえるはず。
それに、今のボクには心強い相棒だっているんだ。
一緒に探してくれると思う。
だけど……。
なんて、説明すればいいのかなぁ?
『タカオ、タカオ! とりあえずお店を見せてもらえよ』
ささやくような声が、ボクのポケットから聞こえる。
「少しだけ、待っててもらえますか?」
そうお兄さんに言ったボクは、すぐに店の裏のキッチンに向かう。
道具の声は、ほかの人には聞こえないからさ。
道具と話してるボクは、変な人みたいになっちゃうんだ。
キッチンに入ったボクは、ポケットから懐中時計を取り出す。
じーちゃんから預かった大切な時計。
今は、ボクの相棒でいてくれている。
ボクは、フタをパチンと開けて、話を続ける。
「どういうこと?」
『オレら道具はな、この店で仲間になった道具はなぁ』
「うん」
『互いに危険を知らせることができるんだよ』
「そう、なの?」
『そうだ。だけど、ミルからの危険信号は出てねぇ』
「ってことは?」
『少なくとも、あいつは危ない目にはあってねぇってこと』
「そっか」
『だからまずは、何があったのか見に行こうぜ』
「うん!」
そういうわけで、ボクと懐中時計とお兄さんは店に向かうことになった。
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