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第1話 コーヒーミル
(5)コーヒーミル、見つけた!
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お兄さんのコーヒー豆屋さんは、歩いてすぐのところにある。
着くとすぐに店内に入れてもらえた。
確かに、いつもの場所にコーヒーミルはいない。
(この間は、あんなに幸せそうだったのになぁ)
ボクは、ちょっとだけ、切ないような気持ちになる。
『おい、タカオ! ぼんやりしてんじゃねーぞ』
「うん。大丈夫だよ」
『オレも呼んでみるから、おまえも探せ』
「分かった」
「一緒に探してみます」って言っただけで、お兄さんは納得してくれた。
ひとりぼっちで探すのは、さみしいし辛いもんね。
「お~い! ミル~! ボクだよ。いたら、返事して~」
探す仕草をしながらも、ボクは小声でミルに話しかけた。
懐中時計の声は、今は聞こえない。
道具たちだけに聞こえる方法があるのかも?
「お~い。聞こえる? ミル~! 心配なんだよ~」
もう一度、小声で呼んでみる。
反応はない。
このお店の中にはいないのかなぁ?
だったら、どうしよう?
『タカオ、いたぞ。ミルのやつ』
今まで静かだった懐中時計が、急に声を出す。
「え? 良かった! どこにいるの?」
『それがなぁ。出てきたくないって言うんだよ』
「えぇ? どうして? ここがお家だって、言ってたのに」
『理由は言いたくないってさ』
「それは、困ったなぁ……」
コーヒーミルは、じーちゃんのお店にいた頃も優しい子だった。
ワガママも悪口も言わない。
すごく優しい子。
そんな子が出てこないってことは、きっと理由がある。
「ミル。返事はしなくていいから聞いてくれる?」
ボクは、ミルに話しかけた。
そして、懐中時計にも。
「キミたちだけの方法があるなら、ミルに伝えて」
『なにをだよ?』
「どんな理由でも、絶対助けるからって」
『そうだよな。そうじゃなくちゃ、古道具屋の主人とはいえねぇ』
「うん!」
「ミル。隠したいことは、そのままでいいよ」
『ありがとう、って言ってる』
「だけど、お兄さんは本気でキミを心配してる」
『うん、って言ってる』
「だから、出てきてくれない?」
『もうダメかも、って言ってる』
「なにがダメなの? 話してくれれば、助けられるかも」
少しの間、沈黙が続いた。
懐中時計がミルを説得してくれてるといいんだけど。
ぽつりと懐中時計の声がする。
『話してもいい、ってよ』
「ありがとう! ミル! どこ? どこなの?」
ボクは、もう一度コーヒーミルに呼びかけた。
『ここ……。豆の袋に隠してあるんだよ……』
声が聞こえたほうにボクは、向かってみる。
確かに、麻袋がたくさん置かれているみたい。
耳をすますと、ひとつの袋から小さくミルの声がする。
急いで、その袋を開けてみる。
中には、まだ焙煎されていないベージュ色の豆がつまっていた。
その奥から、ミルの声は聞こえる。
「ミル、ミル。大丈夫?」
豆をかき分けるようにすると、水色が見える。
水色? なんでこんなところに?
やがてミルの赤色が見えてきた。
良かった! 無事だった!
誰がここに閉じ込めたんだろう?
だけど、今はミルの救出が優先だ!
なんとかミルを豆地獄から助け出す。
「大丈夫? 傷もないみたいだよ」
『タカオくん。僕はもう、ダメかも知れない』
「え? どうして?」
『お腹の中に何か入ってて、ハンドルを回せないんだ』
「ちょっと見てみるね」
ボクは、フタを開けて中を見てみる。
よくは見えないけれど、何かがくっついているみたいだ。
いろんな色の……、なんだろう?
少しだけ、キラリとしたものも見える。
『ボクは、もうダメなんだ。ごめんなさい』
「ミルは悪くないでしょ? マサさんに聞いてみるよ」
『ごめんなさい、ごめんなさい』
なぜだか理由を話さないまま、ミルは謝ってばかり。
お兄さんにミルが見つかったことを話した。
別の場所を探していたお兄さんは、すごく喜んでくれた。
『点検のため』とだけ言って、その日はミルを連れ帰った。
マサさんに連絡すると、すぐに来てくれることになったんだ。
着くとすぐに店内に入れてもらえた。
確かに、いつもの場所にコーヒーミルはいない。
(この間は、あんなに幸せそうだったのになぁ)
ボクは、ちょっとだけ、切ないような気持ちになる。
『おい、タカオ! ぼんやりしてんじゃねーぞ』
「うん。大丈夫だよ」
『オレも呼んでみるから、おまえも探せ』
「分かった」
「一緒に探してみます」って言っただけで、お兄さんは納得してくれた。
ひとりぼっちで探すのは、さみしいし辛いもんね。
「お~い! ミル~! ボクだよ。いたら、返事して~」
探す仕草をしながらも、ボクは小声でミルに話しかけた。
懐中時計の声は、今は聞こえない。
道具たちだけに聞こえる方法があるのかも?
「お~い。聞こえる? ミル~! 心配なんだよ~」
もう一度、小声で呼んでみる。
反応はない。
このお店の中にはいないのかなぁ?
だったら、どうしよう?
『タカオ、いたぞ。ミルのやつ』
今まで静かだった懐中時計が、急に声を出す。
「え? 良かった! どこにいるの?」
『それがなぁ。出てきたくないって言うんだよ』
「えぇ? どうして? ここがお家だって、言ってたのに」
『理由は言いたくないってさ』
「それは、困ったなぁ……」
コーヒーミルは、じーちゃんのお店にいた頃も優しい子だった。
ワガママも悪口も言わない。
すごく優しい子。
そんな子が出てこないってことは、きっと理由がある。
「ミル。返事はしなくていいから聞いてくれる?」
ボクは、ミルに話しかけた。
そして、懐中時計にも。
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『なにをだよ?』
「どんな理由でも、絶対助けるからって」
『そうだよな。そうじゃなくちゃ、古道具屋の主人とはいえねぇ』
「うん!」
「ミル。隠したいことは、そのままでいいよ」
『ありがとう、って言ってる』
「だけど、お兄さんは本気でキミを心配してる」
『うん、って言ってる』
「だから、出てきてくれない?」
『もうダメかも、って言ってる』
「なにがダメなの? 話してくれれば、助けられるかも」
少しの間、沈黙が続いた。
懐中時計がミルを説得してくれてるといいんだけど。
ぽつりと懐中時計の声がする。
『話してもいい、ってよ』
「ありがとう! ミル! どこ? どこなの?」
ボクは、もう一度コーヒーミルに呼びかけた。
『ここ……。豆の袋に隠してあるんだよ……』
声が聞こえたほうにボクは、向かってみる。
確かに、麻袋がたくさん置かれているみたい。
耳をすますと、ひとつの袋から小さくミルの声がする。
急いで、その袋を開けてみる。
中には、まだ焙煎されていないベージュ色の豆がつまっていた。
その奥から、ミルの声は聞こえる。
「ミル、ミル。大丈夫?」
豆をかき分けるようにすると、水色が見える。
水色? なんでこんなところに?
やがてミルの赤色が見えてきた。
良かった! 無事だった!
誰がここに閉じ込めたんだろう?
だけど、今はミルの救出が優先だ!
なんとかミルを豆地獄から助け出す。
「大丈夫? 傷もないみたいだよ」
『タカオくん。僕はもう、ダメかも知れない』
「え? どうして?」
『お腹の中に何か入ってて、ハンドルを回せないんだ』
「ちょっと見てみるね」
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『ごめんなさい、ごめんなさい』
なぜだか理由を話さないまま、ミルは謝ってばかり。
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