口入屋ササメと雪おなご

クリヤ

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(12)天狗の伝説とササメの力

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 ある時のこと。
 お山に修行に訪れて、怪我をして動けなくなっていた山伏がいた。
 そこを通りかかった梅之助は、肩車をして担いで宿場町まで連れ帰った。
 「山伏様、申し訳ございませんねぇ。
  荷の上に乗せるみたいになっちまって」
 「いやいや。ありがたいこと。
  このままでは、獣にやられるところでした。
  まるで山の神が遣わした神使だと思えましたぞ」
 夕暮れの赤い陽の中にそんな梅之助の姿の影を見た人たちがいた。
 その人たちには、七尺ばかりの山伏が山を駆けてきたように見えたという。
 その噂は、大きな町にも及んだ。
 『あのお山には、山伏姿の天狗様がおわしてな。
  詣でる人の荷を軽々と運んでくれるそうな』
 そんな天狗の伝承の元になったとか。

 そのあとも梅之助は、相変わらず暇ができれば相撲を楽しんでいた。
 山を訪れた登拝客や客待ちの駕籠かき、荷物運び人たちが相手であった。
 大きくなった梅之助に敵う者は、もちろんまったくいない。
 けれど、なぜだか梅之助に投げられると運が良くなるという噂が広まっていた。
 それで、厄除けのように挑む者がひっきりなしに続いたらしい。
 『あのお山には相撲好きの天狗様がいらっしゃってな。
  登拝客には相撲を教えてくださるらしい。
  投げられれば、厄除けになるんだと』
 という伝承になったというお話も。

 幼い頃より、その体格から年を上に見られていた梅之助だった。
 そのため、年をとっても見た目があまり変わらなかった。
 『お山の天狗様は、年を取らないらしい』
 そんな伝承も生まれたとか。


 「それで、あの三姉妹のかたがたは、兄様にお会いできたんですか?」
 「そりゃ、もちろんさ。
  この藩で一番早い飛脚に、事情を書いた便りを持たせてね。
  あっという間に、返事がきたのさぁ。
  『妹が三人もいるなら、ぜひ会いたい』ってね。
  梅之助さんは、きっぷのいい人だからね。
  きっとこれから、家族はうまくいくさ」
 「良かった……。
  悪いことにならなくて。
  秘密を話すって聞いて、揉め事になったら嫌だなって。
  そう思っていたんです」
 「だから、このササメさんに任せなって言っただろ?
  梅之助さんのことは、ちゃんと先代の残した帳面で知っていたからね」

 「そういえば、気になることがあるんです。ササメさん。
  どうして、わたしの力の使い方がもうひとつあるって分かったんです?」
 「……そりゃあね。ボタンには言ってなかったね。
  わたしの力はね。
  あらゆることを憶えていられるってもんなのさ。
  ボタンと同じ力を持つ人は、前にもいたからね。
  その力の使い方も知っていたんだよ」
 「ええ? なんでも憶えていられるって辛くはないですか?」
 「そうだねぇ。
  今は、忘れたいことは心の奥にしまい込む術を身につけたから平気さ」
 「それじゃあ、やっぱり子どもの頃は……」
 「そう。ボタンと同じだよ。
  なんでも憶えて、なんでも知っているのは気味悪いってさ」
 「ああ……、それで町に?」
 「そうさ。だけどね、今じゃ、天職にめぐり会えたって思ってるよ。
  村にいたままじゃ、できない仕事だしねぇ。
  あんたたちみたいなお仲間にも会うことができるしね」
 「わたし……、わたしも! ここに来られて良かったです。
  ようやく、わたしがいていい場所に出会えた。
  そんな気がするんです」
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