好いても厭うても

クリヤ

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第2話 秘密の恋人たち

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 階段を駆け上がる史緒の足音は、今日も軽やかに響く。
 校舎の屋上に繋がる扉をガチャリと開ける。
 いつもの場所に、雪彦の姿を見とめると史緒は、雪彦に向かって駆け出す。
 そして、そのまま飛び込む勢いで、雪彦の胸に抱きつく。

 「危ねぇって言ってるだろ?」
 「だけど、雪彦は受け止めてくれるでしょ?」
 「そりゃ、まぁ、そうだけど。おまえに怪我させたくねぇし……な」
 「ふふ。雪彦、好き。とってもとっても、大好きだよ」
 「毎日、同じこと言わなくても。……分かってる」
 「ええっ! 僕は、毎日でも言って欲しい。雪彦は? 好き?」
 「……あぁ」
 「『あぁ』だけじゃ、分かんない。好きって、言って」

 雪彦の胸の中で甘えたようにねだる史緒の唇が、ふわりとふさがれる。
 舌先でチロチロと撫でられた唇は、やがて、その合わせ目が開かれる。
 スルスルと史緒の中を泳ぐように動く雪彦の舌の感触。
 史緒の体の端から端まで、ゾクリゾクリと心地よさが走り抜ける。

 「……ンァん。ゆき、ひこ……。ズルい……。んんっ、あン!」

 かろうじて出そうとした史緒の声は、雪彦の更なる愛撫に打ち消される。
 雪彦の腕が、史緒の体に巻きついて、ぎゅっと締められる。
 頭の芯がジンジンと疼き、雪彦の舌以外、何も考えられなくなる。

 「ん、あっ……」

 それなのに、無情にも雪彦の舌は史緒から引き抜かれる。
 物足りなさに、史緒の口は、ぽっかりと開かれたまま。
 瞳は、虚空を見ているかのようにぼんやりとしている。

 スゥーッと胸に風が通る。
 雪彦が、器用にも片手で開けたシャツのボタン。
 史緒の胸は外気にさらされて、その突起がピクリと立ち上がる。
 紅く色づいた小さな膨らみは、雪彦の唇に吸い込まれていく。
 もう片方の膨らみは、雪彦の指先にすでに翻弄されている。

 「ゆき、ひこ……。ン、ンくぅ。は、恥ずか、しい。あっ!」

 雪彦の唇は、史緒の胸を縦横無尽に動き回る。
 史緒の色白の肌の上に、雪彦の唇の跡が散らばる。
 降り積もった雪の上に散らばった、紅い椿の花びらのように鮮やかに。

 雪彦の細く長い指は、史緒の髪を梳くように何度も通される。
 史緒の銀色に光るその髪を愛おしそうに、雪彦が撫でる。

 (気持ちいい……。雪彦に触れられるだけで、とろけてしまいそう)

 生まれつきだからと諦めてきた、大っ嫌いだった自分の銀の髪。
 皆とは違う深い青い色の瞳。
 男にしては、白すぎる肌。
 少年のように細いままの体つき。
 嫌いだった自分の全てが、今は愛おしく思える。
 雪彦が触れれば、それは大切なもののように感じられる。

 (雪彦さえいれば、僕は。それだけでいい)
 (この銀髪も、雪彦の目に留まるためだったなら嬉しい……)

 雪彦の体に擦りつけるように動いてしまう史緒の腰。
 もっと先に進みたい。
 史緒の体の奥が疼いて、そう伝えてくる。

 けれど、予鈴が無情にも鳴り響く。
 ぴったりとくっついて離れないふたりの間を切り裂くように。

 「雪彦……。もっと、一緒にいたい……」
 「俺も。だけど、分かるだろ?」
 「うん……。だけどっ! 僕は、別に何を言われたって! ンムゥ……」

 言い募る史緒の言葉は、雪彦の唇に再び飲み込まれる。
 史緒を黙らせると、雪彦はゆっくりと唇を離した。

 「史緒……。俺は、言葉にするのは得意じゃない。
  だけど、分かってくれるよな? 俺の気持ちは」
 「……うん」

 雪彦が身なりを優しく整えてくれると、史緒はひと足先に屋上を出る。
 名残惜しげに振り返る史緒に、雪彦は、ヒラヒラと手を振る。
 早く行かなくては、遅刻になってしまう。
 そう思いながらも、史緒はもう一度、振り返る。
 『恋人』としての雪彦を、その目に焼きつけたくて。
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