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クリヤ

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第1章 始まり

(4)フルーツケーキの失敗

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 授業が終わると、ショウゴはナオキを引きずるようにして駐輪場に向かった。
 4限で終わる人が多い金曜日。
 学校から駅へ向かう坂道は、人でごった返している。
 幸い、ふたりが自転車で帰るルートは、反対側だから空いている。

 「ショウゴ? サークルは? 今日は行かねぇの?」
 「いい。早く、帰ろう」

 (先輩たちに見つかる前に)

 心の声は口に出さないように気をつけて、駐輪場へと、ぐいぐい進む。
 ナオキは、ショウゴの隣りを淡々と歩いている。
 校舎から駐輪場までの、ほんの少しの距離。
 たった数分の間さえも、ナオキの顔をチラチラと見る人がいる。
 わざわざ、一旦、追い越してから振り返って、顔を見る人までいる。
 昨日までは、あまり気にならなかった人たち。
 それなのに、今日のショウゴは、そのすべての人たちに苛立ちを覚える。

 (じろじろ見るなよ、見せ物じゃないんだぞ!)

 そう思いつつも、どこかで確かに優越感があった。

 (ボクは、昨日、ナオキと……。本人には言えないけど……)

 そして、やはり、大きな罪悪感。

 (あのこと、言わなくてもいいのかな? いいよな?)
 (無理やりしたんじゃないし。でも、記憶がない人にしたのって)
 (いや、ナオキがしてって言ったんだし?)
 (あれ? でも、酔ってることを知ってて、ボクは……)
 (これって、犯罪とかじゃないよね……?)

 「……ショウゴ、……ショウゴってば!」
 「う、うん! あ、な、何?」
 「なんか、今日、ずっとボーッとしてねぇ?」
 「あ~、ちょっと考えごと?」
 「何? 相談乗るけど?」
 「い、いやぁ~。大丈夫」
 「オレじゃ、役に立たない?」
 「ち、違う、違う。えっと、あの整理できたら相談する」
 「オッケー、分かった」

 ナオキが自分を心配してくれているのが、嬉しい。
 ボクとナオキは仲がいいんだぞ!
 そう、誰彼構わずに言って歩きたい気持ちを抑える。
 帰りも朝と同じように、ナオキの自転車の後ろに乗せてもらう。

 (ナオキのことをナオキに相談するって、どうやって?)
 (あっ、ぼやかせばいいのか? バレない……よな?)

 また、ひとりでぐるぐると考え込んでしまったショウゴ。
 いつの間にか、ぎゅっとナオキを抱きしめるように自転車に乗っている。
 そのことには、ショウゴ本人は、まったく気づいていなかった。

 夕日のオレンジ色に照らされたナオキの髪が、キラキラと光る。
 ナオキの背中に寄せた頬があたたかい。

 (なんだか、幸せな気分。なんでだろ?)

 家に戻ると、ふたりで晩ごはんを食べて、風呂に入る。
 ショウゴは、昨日の夜を思い出して、あまり長居はできなかった。

 「あれ? 今日は、早いじゃん」
 「そう? いつも、こんなもんじゃない?」
 「いやいや。ショウゴって、1時間以上入ってるよ?」
 「そう、だったかな」

 そんなことは、自分が1番知っている。
 だけど、今日のショウゴには無理だった。
 あのまま風呂の中にいたら、ナオキの裸ばかりを思い返してしまう。

 「なぁ、今日は、そっちの部屋行っていい?」
 「いいけど」
 「サンキュ。ゲームやっていい?」
 「いいよ、もちろん」
 「じゃあさ、ショウゴの悩み? 聞くよ」
 「え? でも」
 「オレは、ゲームしてるから。横で喋るだけでいいじゃん」
 「でもさ、ゲームできなくない?」
 「大丈夫だよ。画面見てるから、話しやすいだろ?」

 (それもそっか。相談しないと信用してないみたいだし……)

 「うん。じゃあ、聞いてもらうよ」
 「じゃ、オレ。コーヒー持ってくわ」

 コーヒーを持って部屋に入ってきたナオキは、すぐに画面に向かう。
 ショウゴお気に入りのRPGに、最近、ナオキもハマっている。

 「で、何に悩んでるわけ?」

 コーヒーをひとくち飲むと、ナオキは画面に向かったまま、口を開く。
 ショウゴは、ベッドの上に座ってナオキの背中に話し出す。

 「えっと、お酒が弱い人が酔っちゃった時にね」
 「うん」
 「その人が言ったことって、本気なのかな?」
 「う~ん、よく聞くのは、酒が入った時のほうが本音だって言うよな」
 「そうなの?」
 「普段、言えないことも言っちゃうとか。あ、分かれ道。
  どっち先に行くべき?」
 「えっと、先に左に行くほうが楽かな」
 「サンキュ。で?」
 「で、酔った人としちゃったことを覚えてなかったら、言う?」
 「う~ん、聞かれたら言えば? あ!」
 「な、何?」
 「それって、オレのこと? やっぱり、なんか嫌なことした?」
 「いやいやいや! ナオキのことじゃないし、嫌なことはされてない」
 「良かった~。あせったわ」
 「じゃ、じゃあさ。ナオキだったら、知りたい?」
 「自分が酔った時にしたことを?」
 「うん。あ、そこ、サイクロプス出るよ」
 「お、やべぇ。オレだったら……、いいことなら、知りたい」

 (いいこと? あれは、いいことなのか? 人によっては、トラウマじゃ?)

 「なぁ、あれ。食べていい? 小腹減った」
 「うん、いいよ」

 (言ってどうする? っていうか、ボクは何に悩んでんだっけ?)
 (ボクは嫌じゃなかったし、どっちかというと良かったけどさ)
 (あれって、誰としても気持ちいいのかな? それとも?)
 (そもそも、ボクは、ナオキのことをどう思ってる?)
 (そうだ、ナオキも、どういうつもりでキスしたいって言ったんだ……)

 ぐるぐると頭の中で言葉が渦のようにまわる。
 目を開けてはいるものの、ショウゴの目は何も見ていない。
 と、唇に柔らかい感触を覚えて、目の焦点を合わせる。

 「ナオキ⁉︎」
 「うん? ダメ? キスしたい。ショウゴと」
 「え? ホントに?」

 いつの間にか、ナオキはショウゴのほうを向いていた。
 ゲーム機のコントローラーは、放り出されている。
 画面上では、ナオキの作ったキャラがやられていた。

 (酔ってなくても、したいって思ってるってこと?)

 ショウゴの唇は、ナオキの形の整った唇にふさがれる。
 昨日と同じようなピリピリしたしびれを感じると、すぐに舌が入ってくる。

 「んっ、……ナ、ナオキ。……んふぅ、っく……」

 初めてのキスだった昨日よりも、すぐに声が出てしまう。
 ナオキの口の中を探ると、甘く知っている味がする。

 (え? これって⁉︎)

 あわててナオキを引きはがして、サイドテーブルの上を見る。
 置いておいたはずのパウンドケーキがない。
 これも子どもの頃からのショウゴの好物だった。
 ナオキに食べさせないように、ダイニングから部屋に引き上げていた。

 (さっき、何か食べていいって聞かれた気がするけど、これ⁉︎)

 考えごとをしていて、適当に返事をしてしまっていた。
 パウンドケーキには、洋酒に漬け込んだドライフルーツがたっぷり。
 祖母が好きなそのケーキは、チョコとともに送られてきていた。
 そのケーキの味が、ナオキの口からしていた。

 (ヤバい。また酔わせちゃった!)

 「ねぇ、ショウゴ。なんでキスしちゃダメなの?」

 ショウゴのあせりにはまったく気づかない様子のナオキ。
 ナオキが甘くかわいい声で、ショウゴに近づいてくる。

 「えっと、そういうのは、好きな人としないと……」

 (昨日のことを棚に上げて、ボクは……)

 ふふふ、っと笑ったナオキは、ショウゴをベッドに押し倒す。

 「じゃあ、いいってことでしょ? オレは、ショウゴが好きだから」
 「え? ホントに?」
 「うん。好きだよ。一緒に住んでるじゃん」
 「その好きは、友だちとしての好きだよね?」
 「うん、ショウゴが好きだよ」

 自分でも驚くほどの失望感が、胸を襲う。
 『友だちとしての好き』は、ショウゴが望んでいるものではなかった。

 「そっか。えっと、じゃあ、そろそろ寝たほうがいいよ」
 「やだ。ショウゴとキスする」
 「ダメだよ」
 「なんで? ショウゴは……嫌?」
 「嫌じゃないけど……」
 「じゃあ、いいでしょ?」

 ナオキが、ショウゴに覆いかぶさる。
 唇が重ねられると、ショウゴは拒否する気力がなくなってしまう。
 ナオキの唇は心地よくて、動かされる舌は官能的に口の中を刺激する。
 ずっと、こうしていたいくらいの気持ち良さを感じていた。

 (またボクは流されて……。どうしよう……)

 ナオキの唇は、ショウゴの首筋を愛撫するように通り過ぎる。
 そのひとつひとつに、ショウゴの体と弱い決意は溶かされていく。
 早くもショウゴ自身が立ち上がって、ナオキの太ももに当たる。
 それを感じたのか、ナオキがショウゴ自身を撫で始める。

 「ナオキ! ダメだって! キスって言ったじゃん!」
 「ふふ。かわいい。ショウゴ……。キスだけでしょ、分かってる」
 「分かってないっ! そこ、さわっちゃダメ……」
 「うん……」

 ナオキは、昨日と同じように広げた手のひらをスッとのばす。
 ショウゴが履いていたものは、最初からなかったかのように。
 あっさりと脱がされてしまう。

 不安定に揺れるショウゴ自身の先端に、ナオキがチュッとキスをする。
 舌を出して、ショウゴに見せつけるように先端を舐めまわす。
 その光景が、ショウゴには信じられなかった。

 (あのキレイな顔が、ボクのを。あぁ、赤い舌がキレイすぎて……)

 「あ、あの。ナオキ……。キ、キスだけだって……」
 「ふふ。これもキスでしょ? どこにするって言ったっけ?」
 「言ってない。言って……ないけど……」

 スルリと自然に先端から、すべてにキスされていく。
 初めて感じる刺激に、ショウゴの頭の中は真っ白になってしまう。
 ちゅるん。
 気づけば、ショウゴ自身はナオキの口の中に含まれていた。
 舌でなぶられながら、ゆっくりと上下するナオキの唇を見つめる。
 赤い色がどんどん濃くなっていく。
 時折り、きゅっと吸い込まれる刺激を感じる。
 気絶してしまいそうな心地よさに、意識を保つのが辛い。
 やがて、ゾワゾワと全身があわだっていく。

 「……ナオキ、離して。出ちゃう……」

 ナオキを汚せない。
 どうにかして離そうとするものの、ショウゴの腰はナオキに掴まれて動けない。

 (もう、ダメだ……。ごめん、ナオキ……)

 フッと意識が遠のく。
 ショウゴが意識を取り戻したのは、次の朝だった。
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