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第1章 始まり
(5)焼きたてクロワッサンと二度寝
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カーテンから差し込む日の光に照らされて、ショウゴは目を覚ます。
いつものように、時間を確認する。
朝の7時。
(今日は土曜だから、もうちょっと寝ようかな……)
いつもの土曜日と同じことを考える。
二度寝に入ろうとして、うとうとした瞬間に昨日の夜のできごとを思い出す。
ガバッと起き上がると、自分の下半身を見る。
ナオキに取り去られたはずのジャージを履いている。
念のため、中を見る。
ボクサーパンツも、もちろん履いていた。
その中も、恐る恐る見てみる。
何も汚れては、いない。
あせりのせいで、毎朝お決まりの下半身のテントも鎮まっている。
ゲーム機のコントローラーは、きちんと片付けられている。
マグカップもお盆もない。
(どういうこと? 確かに、ナオキが酔って、キスを……)
(それで、キスは、下にも、されて……。それで……)
(いや、でも片付いてるってことは、ナオキは酔ってなくて?)
(そもそも、ナオキは昨日、部屋に来た?)
(そうだ、ケーキ!)
バッとサイドテーブルを見る。
ケーキは、なくなっている。
(ナオキが食べたんだよな……? あれ? ホントに?)
(ナオキの口の中が、ケーキの味で……。あれ?)
ショウゴは、自分の記憶に自信がなくなってきていた。
どうやって寝たのかも、思い出せない。
その時。
カチャン。パタン、カチャリ。
玄関のドアの鍵が開けられて、再び閉まり、鍵がかけられる音が聞こえた。
(ナオキ? もう走ってきたのか)
休みの日のナオキは、大抵、朝から走りに行っている。
ナオキの均整の取れた体つきは、こうして作られている。
ショウゴも何度か誘われたが、休日の二度寝の魔力には抗えない。
バスルームのほうから、シャワーの音が聞こえてくる。
その水音は、一昨日のナオキの裸身を、再び思い起こさせる。
ぐぐぐ。
さっき鎮まったはずの下半身のテントが、再び、立ち上がってくる。
(あっ! ナオキの裸で、こうなるのはマズいだろっ)
ショウゴは、どうにか違うことを考えようとする。
今日の予定、食べたいご飯、週明けの語学の小テストのこと。
(そういえば、ロールキャベツが食べたいって言ってたなぁ……)
(一緒にスーパーに行って、帰りは、少し散歩もいい……)
(小テスト、ナオキと一緒にやれば、教えてもらえるかなぁ)
別のことを考えようとしているのに、すべてにナオキがいる。
今のショウゴの生活は、ナオキだらけだった。
ナオキのことを考え出すと、自然に思ってしまう。
(あのすべすべの肌に、もう一回、さわりたい……)
(唇が赤くなっていくのを見たい……)
(ナオキの全部にキスしてみたい……)
鎮まりかけていたショウゴのテントが、三たび、持ち上がろうとする。
(うわっ! あおってどうする! えっと、音楽でもかければ……)
あわてて、イヤフォンを耳に突っ込む。
いつもは出さない声を出して、下手くそな歌を口ずさむ。
窓を開けて風を部屋に入れながら、ベッドを整える。
ようやく落ち着いたテントにホッとしながら、振り返る。
と、目の前に、ナオキが立っていた。
「うわぁ!」
「なんだよ? そこまで驚くかぁ?」
「ご、ごめん。な、何?」
「さっきから声かけてるのに、全然気づかないからさぁ」
「まぢで?」
「うん。朝からご機嫌じゃん。今日、なんかあんの?」
「な、ないよ。えっと、それで、なんだっけ?」
「ああ。クロワッサン買えたから、食わないかなって思って」
「あっ! 焼きたてのあれ? 食う! 嬉しい!」
ナオキのランニングルートに、クロワッサンの専門店がある。
タイミングが合えば、焼きたてクロワッサンが買える。
土曜日の朝は、ちょくちょくナオキが買ってきてくれる。
けれど、二度寝至上主義のショウゴは、焼きたてを食べたことがなかった。
「ショウゴが、二度寝してないの珍しいからさ」
「あ、うん。ちょっと、色々、考えちゃって」
「ふうん。ま、いつでも相談乗るから、抱え込むなよ?」
「ありがと。すぐ、行くよ! クロワッサン、楽しみっ」
クロワッサンは、パリパリで、中はしっとりしていて、小麦の味が強い。
レタスと生ハムとクリームチーズを挟めば、気分は外国の朝カフェ。
休みの日だけ出される、ナオキ特製の豆から挽いたコーヒー。
「あぁ、幸せすぎる。ボク、ずっと、ナオキと一緒にいたい」
「いいよ。ずっと、この部屋で一緒にいよう」
「え? それって」
「1年だけって話だったけど、別にいいだろ?」
「う、うん。そうだけど……」
「やっぱり嫌だった? 1年で引っ越したい?」
「ううん、ううん。違う! けど……」
元々、この部屋はマコトと住むはずだった。
しかも、1年限定で。
ショウゴたちの学部は、2年生からキャンパスが変わるからだ。
だから、ショウゴは、この1年だけをやり過ごして引っ越すつもりだった。
次は、ひとり暮らしの部屋を探して。
もうひとつのキャンパスに近い部屋を。
ここは、マコトと決めた部屋。
ここに住んでいたら、マコトの影が消えない気がしていた。
「この部屋って、別の友だちと決めた部屋だし……」
「ああ、前に聞いたけど」
「2年からのキャンパスには、少し遠いから」
「通えない距離じゃないだろ?」
「そう、だけど」
「ほかにも、理由があんの?」
「……えっと」
ナオキのことを、自分がどう思っているのかの整理がついていない。
本当は、そっちのほうが大きな理由だった。
初めて会った時から、惹かれていた。
こんな人が、リアルにいるんだと思ったのは初めてだった。
人に見とれる、なんてことがあることを知った。
整った顔だちのナオキといたら、緊張するかと思っていた。
それなのに、今まで会った人の中で、一番居心地がいい。
ナオキの唇と肌を知ってしまってからは、言えない気持ちが湧いていた。
(そうだ、今、分かった。あれは、独占欲だ)
あくまで普通の自分には、ナオキを独占する力なんてない。
このまま、ずっと、友だちでいたら。
ナオキには、特定の相手ができて、ショウゴにしたようなキスをする。
肌を合わせて、頬を染めて、あの赤い唇を見せる。
そのことに耐えられる自信がない。
そう、ショウゴは思った。
「ショウゴ? 聞いてる?」
「う、うん。聞いてるよ」
「最近、まぢでボォーッとしてんじゃん。大丈夫?」
(ナオキのせいだよ、って言えたらなぁ……)
(っていうか、ナオキは悪くないよな。ボクが勝手にときめいて)
(ときめいて? ボク、ナオキにときめいてんの?)
(これって、好きってことだよね?)
(いや、知り合ったばっかりで? そんなこと、ある?)
(あ、だけど。ナオキの好きは『友だちとしての好き』だった……)
(ボク、ナオキを好きか考える前に振られてんじゃん)
大きなため息を、ショウゴは無意識についてしまう。
それを聞いたナオキが、あせった様子でショウゴに問いかける。
「え? ちょっと! ごめん。傷つけちゃった?」
「ん? え? 何が?」
「すっごいショック受けたような顔してるからさ」
「あぁ……。なんか、振られちゃって」
本音がポロリと、ショウゴの口からこぼれ出していた。
ナオキが、あわてて聞いてくる。
「えっ? 誰に? ショウゴ、好きな人いたの?」
「ち、違う! 大丈夫。気にしないで。そもそも無理だったんだから」
「無理って? ショウゴが告れば、だいたいのやつはオッケーでしょ」
「はぁ? そんなわけないじゃん。ナオキじゃあるまいし」
「オレ? オレは、ダメだよ。勇気がない」
「何言ってんの? ナオキが告ってダメなら、全人類がダメでしょ」
「全人類って!」
「ホントだよ。ボクは、そう思う」
「オレもホントだって。ショウゴを振るやつなんて、いねぇよ」
ナオキの言葉は、ショウゴには嬉しかった。
自分を認めてくれている、そんな気がした。
けれど、一方で、腹立たしくもあった。
(そんな簡単に言うなよ! ボクが告ったらオッケーすんのかよ?)
(そんなわけない。長年の友だちにさえ、裏切られる。そんなボクに)
(……ボクには、ナオキに告る資格なんてない)
(酔わせてさわる、悪いやつのボクには……)
そこまで考えると、ショウゴは急に吹っ切れた気持ちになった。
逆ギレめいた意地悪な気持ちも湧いてくる。
「じゃあ、ナオキは、ボクと付き合ってくれんの?」
ショウゴの言葉に、ナオキが目を丸くしている。
心なしか、顔が赤い。
(ほらね。こうなると思った。あ~あ、やっちゃった)
(楽しかったのになぁ。次の部屋、見つかるかなぁ?)
(卒業まで何年も気まずいままかぁ。ちょっとツラいよなぁ……)
下を向いて、次の言葉をしぼり出そうとしたショウゴの顔が持ち上げられる。
至近距離にナオキの顔がある。
そう思った時には、ショウゴの唇はナオキにふさがれていた。
(えっ? 何これ? 夢、じゃない?)
ナオキは、ショウゴの顔を両方の手のひらで包んでキスをしている。
すぐに割られるショウゴの唇は、すでにナオキの舌に翻弄されている。
首筋にナオキの唇がおりてきて、ショウゴの唇が解放される。
「ナ、ナオキ。あの……、んっ、はぁっ、ちょっと、待って」
「……ショウゴ、オレとキスすんの嫌?」
「い、嫌なわけない。ボク、ナオキが好き、だと思う」
「じゃあ、待たない」
もう一度、ショウゴの唇はナオキにふさがれて、声が出せない。
「ショウゴ、オレに抱きついて」
「え? こう?」
「うん。オレの部屋、行こう」
「……うん」
ショウゴがナオキの首に腕をまわすと、ナオキはショウゴの太ももを抱える。
向かい合わせに抱きかかえられて、ショウゴはナオキの部屋に向かう。
その間も、ナオキは唇を離してはくれない。
ナオキのベッドの上に、ショウゴは優しく置かれる。
シャーッとカーテンが閉められる。
朝の日差しは、それでもカーテンを通り抜けてくる。
薄明るい部屋の中は、不思議な甘美さが漂う。
シーツからも枕からも、いや、部屋全部から官能的なナオキの匂いがする。
それを感じた時には、ショウゴ自身が持ち上がり始める。
ショウゴの上に覆いかぶさったナオキは、すぐにそれに気づく。
いつものナオキの美しい顔に、少しの淫靡さが混じる。
それが、ナオキの美しさを、さらに増している。
唇を合わせたまま、ナオキの右手はショウゴ自身を撫で始める。
「んっ、ナオキ、……はず、かしい……」
「大丈夫。誰も見てないよ」
「ナオ、キが見てる……。んぁっ、ふぅ、……声、出ちゃう……」
「ショウゴ、オレだけに見せて。声も聞きたい」
「いい、の……?」
「うん。オレもショウゴが好きだよ」
耳元でささやかれた言葉に、ショウゴ自身が完全に立ち上がってしまう。
「あぁ、ん。ナオキの声だけで、イっちゃいそう……」
「かわいい、ショウゴ。でもまだ、もう少し、ガマンして」
サラリとショウゴの下半身は、ナオキの手であらわにされる。
ナオキにさわって欲しくて、自ら腰を上げて脱がせてもらった。
手のひらで包まれたショウゴ自身は、ふるふると期待に震える。
口の中でナオキの舌を感じながら、上下に動かされる手のひら。
唇が離されるたびに見える、ナオキの艶っぽい赤色の下唇。
目の前の光景が信じられなくて、ショウゴの目がチカチカする。
ナオキの唇が、胸の突起を刺激し出すと、ショウゴは声が抑えられない。
「……んぁ、……あふぅ。んん、くぅ……んくぅ……」
胸の突起と自身への刺激が同時にされて、ショウゴは耐えられない。
「ごめん……。ナオキ、もう……」
「いいよ。イッて」
あっさりと達してしまったショウゴは、はぁはぁと荒い息を吐く。
パチン。
何かを開ける音がして、すぐにあたたかいものが窪みの周辺をさわる。
「ナオ、キ……?」
「嫌? オレ、ショウゴと繋がりたい」
「え? あ、でも、ボク、やったことないから……」
「うん。さわっていい? 嫌なら、すぐやめるから」
「嫌じゃない。ボクも、ナオキと……、したい」
ぬるぬるしたあたたかいものが、ショウゴの窪みにツプリと入ってくる。
「んっ! ……あぁ!」
「痛い?」
「……ううん、気持ちいい。なんか、恥ずかしいよ……」
「かわいいよ、ショウゴ。大丈夫、ゆっくりする……」
言葉通りに、ナオキは時間をかけてショウゴの窪みをほぐしていく。
その刺激と優しさが、ショウゴには、どちらも気持ち良すぎる。
ほぐされている間も、声が止まらない。
指が数本入れられる頃には、ナオキが欲しくてたまらなくなっていた。
「ナオキ、はや、早く、きて欲しい……」
「いいの? ホントに?」
「う、うん。もう、ダメ……」
ナオキが優しく、じわじわとショウゴの窪みに自身を沈める。
はぁぁぁと、ナオキの色っぽい吐息が聞こえる。
「ショウゴ、動きたい。いい?」
「うん……」
ゆっくりと動かされるナオキの腰。
肌と肌とが、ぶつかり合う音。
ナオキが十分にほぐしてくれたせいか、ショウゴは気持ち良さしか感じない。
クラクラするナオキの匂いに包まれて、再び、ショウゴは達してしまう。
意識を保とうと頑張ってみたが、最後の記憶は途切れてしまった。
ショウゴが次に目を覚ましたのは、その日の午後。
ナオキの腕枕で、胸にすがりつくように寝ている自分に気づいた時だった。
いつものように、時間を確認する。
朝の7時。
(今日は土曜だから、もうちょっと寝ようかな……)
いつもの土曜日と同じことを考える。
二度寝に入ろうとして、うとうとした瞬間に昨日の夜のできごとを思い出す。
ガバッと起き上がると、自分の下半身を見る。
ナオキに取り去られたはずのジャージを履いている。
念のため、中を見る。
ボクサーパンツも、もちろん履いていた。
その中も、恐る恐る見てみる。
何も汚れては、いない。
あせりのせいで、毎朝お決まりの下半身のテントも鎮まっている。
ゲーム機のコントローラーは、きちんと片付けられている。
マグカップもお盆もない。
(どういうこと? 確かに、ナオキが酔って、キスを……)
(それで、キスは、下にも、されて……。それで……)
(いや、でも片付いてるってことは、ナオキは酔ってなくて?)
(そもそも、ナオキは昨日、部屋に来た?)
(そうだ、ケーキ!)
バッとサイドテーブルを見る。
ケーキは、なくなっている。
(ナオキが食べたんだよな……? あれ? ホントに?)
(ナオキの口の中が、ケーキの味で……。あれ?)
ショウゴは、自分の記憶に自信がなくなってきていた。
どうやって寝たのかも、思い出せない。
その時。
カチャン。パタン、カチャリ。
玄関のドアの鍵が開けられて、再び閉まり、鍵がかけられる音が聞こえた。
(ナオキ? もう走ってきたのか)
休みの日のナオキは、大抵、朝から走りに行っている。
ナオキの均整の取れた体つきは、こうして作られている。
ショウゴも何度か誘われたが、休日の二度寝の魔力には抗えない。
バスルームのほうから、シャワーの音が聞こえてくる。
その水音は、一昨日のナオキの裸身を、再び思い起こさせる。
ぐぐぐ。
さっき鎮まったはずの下半身のテントが、再び、立ち上がってくる。
(あっ! ナオキの裸で、こうなるのはマズいだろっ)
ショウゴは、どうにか違うことを考えようとする。
今日の予定、食べたいご飯、週明けの語学の小テストのこと。
(そういえば、ロールキャベツが食べたいって言ってたなぁ……)
(一緒にスーパーに行って、帰りは、少し散歩もいい……)
(小テスト、ナオキと一緒にやれば、教えてもらえるかなぁ)
別のことを考えようとしているのに、すべてにナオキがいる。
今のショウゴの生活は、ナオキだらけだった。
ナオキのことを考え出すと、自然に思ってしまう。
(あのすべすべの肌に、もう一回、さわりたい……)
(唇が赤くなっていくのを見たい……)
(ナオキの全部にキスしてみたい……)
鎮まりかけていたショウゴのテントが、三たび、持ち上がろうとする。
(うわっ! あおってどうする! えっと、音楽でもかければ……)
あわてて、イヤフォンを耳に突っ込む。
いつもは出さない声を出して、下手くそな歌を口ずさむ。
窓を開けて風を部屋に入れながら、ベッドを整える。
ようやく落ち着いたテントにホッとしながら、振り返る。
と、目の前に、ナオキが立っていた。
「うわぁ!」
「なんだよ? そこまで驚くかぁ?」
「ご、ごめん。な、何?」
「さっきから声かけてるのに、全然気づかないからさぁ」
「まぢで?」
「うん。朝からご機嫌じゃん。今日、なんかあんの?」
「な、ないよ。えっと、それで、なんだっけ?」
「ああ。クロワッサン買えたから、食わないかなって思って」
「あっ! 焼きたてのあれ? 食う! 嬉しい!」
ナオキのランニングルートに、クロワッサンの専門店がある。
タイミングが合えば、焼きたてクロワッサンが買える。
土曜日の朝は、ちょくちょくナオキが買ってきてくれる。
けれど、二度寝至上主義のショウゴは、焼きたてを食べたことがなかった。
「ショウゴが、二度寝してないの珍しいからさ」
「あ、うん。ちょっと、色々、考えちゃって」
「ふうん。ま、いつでも相談乗るから、抱え込むなよ?」
「ありがと。すぐ、行くよ! クロワッサン、楽しみっ」
クロワッサンは、パリパリで、中はしっとりしていて、小麦の味が強い。
レタスと生ハムとクリームチーズを挟めば、気分は外国の朝カフェ。
休みの日だけ出される、ナオキ特製の豆から挽いたコーヒー。
「あぁ、幸せすぎる。ボク、ずっと、ナオキと一緒にいたい」
「いいよ。ずっと、この部屋で一緒にいよう」
「え? それって」
「1年だけって話だったけど、別にいいだろ?」
「う、うん。そうだけど……」
「やっぱり嫌だった? 1年で引っ越したい?」
「ううん、ううん。違う! けど……」
元々、この部屋はマコトと住むはずだった。
しかも、1年限定で。
ショウゴたちの学部は、2年生からキャンパスが変わるからだ。
だから、ショウゴは、この1年だけをやり過ごして引っ越すつもりだった。
次は、ひとり暮らしの部屋を探して。
もうひとつのキャンパスに近い部屋を。
ここは、マコトと決めた部屋。
ここに住んでいたら、マコトの影が消えない気がしていた。
「この部屋って、別の友だちと決めた部屋だし……」
「ああ、前に聞いたけど」
「2年からのキャンパスには、少し遠いから」
「通えない距離じゃないだろ?」
「そう、だけど」
「ほかにも、理由があんの?」
「……えっと」
ナオキのことを、自分がどう思っているのかの整理がついていない。
本当は、そっちのほうが大きな理由だった。
初めて会った時から、惹かれていた。
こんな人が、リアルにいるんだと思ったのは初めてだった。
人に見とれる、なんてことがあることを知った。
整った顔だちのナオキといたら、緊張するかと思っていた。
それなのに、今まで会った人の中で、一番居心地がいい。
ナオキの唇と肌を知ってしまってからは、言えない気持ちが湧いていた。
(そうだ、今、分かった。あれは、独占欲だ)
あくまで普通の自分には、ナオキを独占する力なんてない。
このまま、ずっと、友だちでいたら。
ナオキには、特定の相手ができて、ショウゴにしたようなキスをする。
肌を合わせて、頬を染めて、あの赤い唇を見せる。
そのことに耐えられる自信がない。
そう、ショウゴは思った。
「ショウゴ? 聞いてる?」
「う、うん。聞いてるよ」
「最近、まぢでボォーッとしてんじゃん。大丈夫?」
(ナオキのせいだよ、って言えたらなぁ……)
(っていうか、ナオキは悪くないよな。ボクが勝手にときめいて)
(ときめいて? ボク、ナオキにときめいてんの?)
(これって、好きってことだよね?)
(いや、知り合ったばっかりで? そんなこと、ある?)
(あ、だけど。ナオキの好きは『友だちとしての好き』だった……)
(ボク、ナオキを好きか考える前に振られてんじゃん)
大きなため息を、ショウゴは無意識についてしまう。
それを聞いたナオキが、あせった様子でショウゴに問いかける。
「え? ちょっと! ごめん。傷つけちゃった?」
「ん? え? 何が?」
「すっごいショック受けたような顔してるからさ」
「あぁ……。なんか、振られちゃって」
本音がポロリと、ショウゴの口からこぼれ出していた。
ナオキが、あわてて聞いてくる。
「えっ? 誰に? ショウゴ、好きな人いたの?」
「ち、違う! 大丈夫。気にしないで。そもそも無理だったんだから」
「無理って? ショウゴが告れば、だいたいのやつはオッケーでしょ」
「はぁ? そんなわけないじゃん。ナオキじゃあるまいし」
「オレ? オレは、ダメだよ。勇気がない」
「何言ってんの? ナオキが告ってダメなら、全人類がダメでしょ」
「全人類って!」
「ホントだよ。ボクは、そう思う」
「オレもホントだって。ショウゴを振るやつなんて、いねぇよ」
ナオキの言葉は、ショウゴには嬉しかった。
自分を認めてくれている、そんな気がした。
けれど、一方で、腹立たしくもあった。
(そんな簡単に言うなよ! ボクが告ったらオッケーすんのかよ?)
(そんなわけない。長年の友だちにさえ、裏切られる。そんなボクに)
(……ボクには、ナオキに告る資格なんてない)
(酔わせてさわる、悪いやつのボクには……)
そこまで考えると、ショウゴは急に吹っ切れた気持ちになった。
逆ギレめいた意地悪な気持ちも湧いてくる。
「じゃあ、ナオキは、ボクと付き合ってくれんの?」
ショウゴの言葉に、ナオキが目を丸くしている。
心なしか、顔が赤い。
(ほらね。こうなると思った。あ~あ、やっちゃった)
(楽しかったのになぁ。次の部屋、見つかるかなぁ?)
(卒業まで何年も気まずいままかぁ。ちょっとツラいよなぁ……)
下を向いて、次の言葉をしぼり出そうとしたショウゴの顔が持ち上げられる。
至近距離にナオキの顔がある。
そう思った時には、ショウゴの唇はナオキにふさがれていた。
(えっ? 何これ? 夢、じゃない?)
ナオキは、ショウゴの顔を両方の手のひらで包んでキスをしている。
すぐに割られるショウゴの唇は、すでにナオキの舌に翻弄されている。
首筋にナオキの唇がおりてきて、ショウゴの唇が解放される。
「ナ、ナオキ。あの……、んっ、はぁっ、ちょっと、待って」
「……ショウゴ、オレとキスすんの嫌?」
「い、嫌なわけない。ボク、ナオキが好き、だと思う」
「じゃあ、待たない」
もう一度、ショウゴの唇はナオキにふさがれて、声が出せない。
「ショウゴ、オレに抱きついて」
「え? こう?」
「うん。オレの部屋、行こう」
「……うん」
ショウゴがナオキの首に腕をまわすと、ナオキはショウゴの太ももを抱える。
向かい合わせに抱きかかえられて、ショウゴはナオキの部屋に向かう。
その間も、ナオキは唇を離してはくれない。
ナオキのベッドの上に、ショウゴは優しく置かれる。
シャーッとカーテンが閉められる。
朝の日差しは、それでもカーテンを通り抜けてくる。
薄明るい部屋の中は、不思議な甘美さが漂う。
シーツからも枕からも、いや、部屋全部から官能的なナオキの匂いがする。
それを感じた時には、ショウゴ自身が持ち上がり始める。
ショウゴの上に覆いかぶさったナオキは、すぐにそれに気づく。
いつものナオキの美しい顔に、少しの淫靡さが混じる。
それが、ナオキの美しさを、さらに増している。
唇を合わせたまま、ナオキの右手はショウゴ自身を撫で始める。
「んっ、ナオキ、……はず、かしい……」
「大丈夫。誰も見てないよ」
「ナオ、キが見てる……。んぁっ、ふぅ、……声、出ちゃう……」
「ショウゴ、オレだけに見せて。声も聞きたい」
「いい、の……?」
「うん。オレもショウゴが好きだよ」
耳元でささやかれた言葉に、ショウゴ自身が完全に立ち上がってしまう。
「あぁ、ん。ナオキの声だけで、イっちゃいそう……」
「かわいい、ショウゴ。でもまだ、もう少し、ガマンして」
サラリとショウゴの下半身は、ナオキの手であらわにされる。
ナオキにさわって欲しくて、自ら腰を上げて脱がせてもらった。
手のひらで包まれたショウゴ自身は、ふるふると期待に震える。
口の中でナオキの舌を感じながら、上下に動かされる手のひら。
唇が離されるたびに見える、ナオキの艶っぽい赤色の下唇。
目の前の光景が信じられなくて、ショウゴの目がチカチカする。
ナオキの唇が、胸の突起を刺激し出すと、ショウゴは声が抑えられない。
「……んぁ、……あふぅ。んん、くぅ……んくぅ……」
胸の突起と自身への刺激が同時にされて、ショウゴは耐えられない。
「ごめん……。ナオキ、もう……」
「いいよ。イッて」
あっさりと達してしまったショウゴは、はぁはぁと荒い息を吐く。
パチン。
何かを開ける音がして、すぐにあたたかいものが窪みの周辺をさわる。
「ナオ、キ……?」
「嫌? オレ、ショウゴと繋がりたい」
「え? あ、でも、ボク、やったことないから……」
「うん。さわっていい? 嫌なら、すぐやめるから」
「嫌じゃない。ボクも、ナオキと……、したい」
ぬるぬるしたあたたかいものが、ショウゴの窪みにツプリと入ってくる。
「んっ! ……あぁ!」
「痛い?」
「……ううん、気持ちいい。なんか、恥ずかしいよ……」
「かわいいよ、ショウゴ。大丈夫、ゆっくりする……」
言葉通りに、ナオキは時間をかけてショウゴの窪みをほぐしていく。
その刺激と優しさが、ショウゴには、どちらも気持ち良すぎる。
ほぐされている間も、声が止まらない。
指が数本入れられる頃には、ナオキが欲しくてたまらなくなっていた。
「ナオキ、はや、早く、きて欲しい……」
「いいの? ホントに?」
「う、うん。もう、ダメ……」
ナオキが優しく、じわじわとショウゴの窪みに自身を沈める。
はぁぁぁと、ナオキの色っぽい吐息が聞こえる。
「ショウゴ、動きたい。いい?」
「うん……」
ゆっくりと動かされるナオキの腰。
肌と肌とが、ぶつかり合う音。
ナオキが十分にほぐしてくれたせいか、ショウゴは気持ち良さしか感じない。
クラクラするナオキの匂いに包まれて、再び、ショウゴは達してしまう。
意識を保とうと頑張ってみたが、最後の記憶は途切れてしまった。
ショウゴが次に目を覚ましたのは、その日の午後。
ナオキの腕枕で、胸にすがりつくように寝ている自分に気づいた時だった。
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私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
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