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クリヤ

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第4章 独占欲

(1)夏夜の執着

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 ショウゴの提案に、ナオキはあっさりと乗ってくれる。
 それは、『模様替え』という名の閉じ込め作戦のひとつ。
 ふたりの部屋を一緒にして、使うものも共有にして。
 いずれは、どっちのものかなんて分からなくなるように。

 (ナオキが自分をボクのものだって、思っちゃえばいいのに)

 今は、体を重ねてくれて、好きだとも言ってくれる。
 けれど、ナオキの存在は、どこか儚げで、今にも消えてしまいそうだ。
 現れた時のように、突然、ショウゴの目の前からいなくなる。
 そんな気がしてならない。

 ナオキの話は、いつも微妙に曖昧で、掴みどころがない。
 懸命に伸ばすショウゴの指先は、大抵、サラリとかわされる。
 過去の話も、結局、よく分からなかった。

 (でも、もういいや。じわじわ閉じ込めちゃえばいい)
 (ボクといるのが、普通だと思い込むように)
 (ほかの人といたら、違和感を感じるようになればいいんだ)

 「ナオキ、夏休み、どうする?」
 「ショウゴ次第かな」
 「また、それ? ボクに合わせてばっかで、甘すぎだよ」
 「甘くしたいんだよ」
 「じゃあ、ずっと一緒にいたい」
 「地元、帰んなくていいの?」
 「うん。ナオキがいないとこなんて、行きたくない」
 「……ふふ。嬉しい。じゃあ、オレも帰らない」
 「いいの?」
 「当然。お守りの効果、切れちゃうし」
 「ふふふ。それは、マズいね」
 「じゃあ、ふたりっきりで」

 長いはずの大学の夏休みは、ナオキに見とれているうちに終わる。
 けれど、ショウゴは、満足だった。
 授業という強制される時間がない24時間は、格別。

 同じベッドで目が覚めて、すぐに抱きあう。
 毎朝、お守りをつけるという名目で、時間は気にせず抱きあえる。
 じわじわとうずく窪みは、ショウゴをご機嫌にする。

 午後の気だるい時間は、それぞれが好きなことをする。
 ゲームに夢中な時も、体のどこかは、必ずナオキにふれている。
 西日を浴びながら、汗だくになって行く買いもの。
 すぐに溶けてしまうアイスを食べながらの帰り道。
 汗を流すためのシャワーは、キスの時間に変わる。
 部屋を暗くして窓から見た遠くの花火。
 ドーン、ドーン! パパパッ!
 微かに聞こえる花火の音とふたりの肌がぶつかる音が重なる。

 ナオキのすべての時間に、ショウゴがいて。
 ショウゴのすべての時間に、ナオキがいる。

 大学が始まってしまうのが惜しいほどの時間を過ごした。

 「明日から大学なんて、信じらんない。やだなぁ」
 「でも、オレもいるでしょ?」
 「そうだけど~、好きな時にイチャイチャできないじゃん」
 「ははっ。ショウゴは、エッチになっちゃったなぁ」
 「ナオキのせいだよ? ナオキがカッコいいのが悪い」
 「ありがと」
 「褒めてないのに~」
 「オレは、嬉しいから」

 ベッドにうつ伏せで、本を読んでいたショウゴ。
 首の後ろに、今では当たり前になった、ふわりと柔らかいものを感じる。

 「んっ、ナオキの唇、気持ちいい……」
 「……唇だけ?」
 「んくぅ、……う、ううん。……ん、全部、……気持ち、いい」
 「明日から頑張れるように、シよ?」
 「う、ん」

 ナオキのほうを振り向くと、Tシャツを脱ぐナオキがショウゴの目に入る。
 キュッと締まったくびれが美しくて、目が離せない。

 「どうしたの? 初めて見るみたいな顔してる」
 「……っ、なっ、なんでもないっ」
 「あ、ヒミツ? 寂しいなぁ」
 「ちがっ! ……あっ、んん……」

 咎める代わりに、ナオキは首筋に熱い舌を這わせる。
 少しずつ動く唇は、ショウゴの耳朶を捕らえる。
 甘噛みとともに、チュッという音が響く。
 ショウゴの理性は、すぐに降参してしまいそうになる。

 (ダメだ……。ナオキに溺れてるって、バレちゃう……)
 (ボクに溺れて欲しいのに……)

 ナオキの吐息が近づくと、ショウゴの口は自然に開いてしまう。
 空腹な時に差し出されたごちそうを前にした時のように。
 ショウゴの喉は、ナオキを前にすると、ゴクリと鳴る。

 (なんで……? 全然、ガマンできない……)

 ナオキの手のひらが、ショウゴの髪の中に差し込まれる。
 ふわふわしたショウゴの髪の毛を梳くように、ナオキの指が動く。
 指の動きに合わせるように、ショウゴの肌があわだつ。
 頭皮さえも、感じてしまう。

 (気持ち、いい。ナオキの全部に反応しちゃう……)

 「……んふっ。くっ。……あっ」
 「どうしたの?」
 「な、何が?」
 「声、ガマンしてる?」
 「う、うん」
 「なんで? オレは、ショウゴの声、聞きたい」
 「だって……。あぁ! ムリ……。んぁ、……んくぅ、ふぅ、あ、ん」
 「ほら、こんなにかわいい」

 ショウゴの努力はむなしく、今日もナオキにとろけさせられてしまう。

 「今日は、最初から顔見たい」
 「は、恥ずかしい……」
 「夏休み最後のショウゴの顔、焼きつけさせて」

 そう言われて、断れるはずもない。
 後ろから抱きあえば、顔は見えない。
 恥ずかしさも半減する。
 結局、いつも最後は、顔を合わせて抱きあうことになるけど。
 その時には、トロトロの脳が麻痺して平気になる。

 ナオキの顔を正面から捉える。
 憂いを含んだような瞳に、ショウゴが映る。
 ナオキにとろけている自分の顔が恥ずかしくて、目を背ける。

 「ショウゴ……。オレを見て」
 「いや、だ。恥ずかしい顔してるから……」
 「してない。かわいい顔してる。見たい」

 ナオキと目が合う。
 交わる時のナオキの瞳には、いつも炎が宿る。
 片方の口角だけを上げるナオキの笑みに、窪みがキュンと反応する。
 指と指とが絡まりあう。
 唇を合わせるのと同時に、ショウゴの窪みはナオキでいっぱいになる。
 心も体も、すべてがナオキで満たされる。

 (ああ、捕まえたいのに、捕まってる気がする……)

 喉の奥から、淫らな声が出続けるのを止められない。

 (ナオキ、ナオキ、ナオキ。どうか、ボクだけのものでいて)

 「もちろん。好きだよ。ショウゴは、知らないけどね」

 ショウゴが眠りに落ちる瞬間、ナオキの声を聞く。
 それは、夢のようにも思えて、定かではない。

 (何を? 何をボクは、知らないの……?)

 「ヒミツだよ。愛してる、ショウゴ」

 都合のいい言葉が、ショウゴの耳に届く。
 『愛してる』なんて、ナオキは言わない。
 だから、これは、きっと夢だ。
 落ちていく意識の中で、ぼんやりとショウゴは、そんなことを思った。


 *****

 秋の気配は、まだ遠い9月中旬。
 夏の余韻は、学生たちをすんなりと学業へと戻してはくれない。
 気だるい雰囲気のキャンパスは、平穏に過ぎていく。

 『今日は、帰ったら、何を食べようか』
 学食で、いつも通りの会話をするショウゴとナオキ。
 あいかわらず、ナオキ目当てに寄ってくるやつらをサラッとかわし。
 ショウゴは、ふたりの時間を楽しむ。
 ナオキが話すたびに、唇の内側が色っぽくめくれる。
 艶めく赤色が目に入るたびに、吸いつきたいのをこらえる。

 (あと数時間のガマン。ヤバい。ボク、ナオキ中毒みたいだ)

 苦しいながらも幸せなショウゴの邪魔をしたのは、ひとりの声だった。

 「あれ⁉︎ ナオキくんじゃん! なんで、こんなとこにいんの?」

 平穏な雰囲気を破るような軽い声が、ショウゴとナオキの間に響く。
 ナオキの顔が青ざめていくのを、ショウゴは初めて見る。

 「ユウ……スケ?」

 絞り出すような声で呼ばれる知らないやつの名前。
 それなのに、ショウゴには分かっていた。
 そいつが誰なのか、ということを。
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